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95 ドイツのパソコンオタク
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「たくさん入ってるのう」
「日付が一番古い物で並べてみましょう」
表示を変更し、一番上にきたテキストファイルにカーソルを当てる。
「待てつくも、本当にいいのか」
「大丈夫ですって」
多分。
「他の怪士が召喚されたらどする?」
「これ以上呪われるのはごめんじゃぃ」
「呪ってませんよ、取り憑いただけです」
「同じじゃね?」
クリックすると、軽く読み込んだ後、ずらりと文字が横に並ぶ。タイトルと本文が見えるので、やはり小説のようだ。
「至って普通の小説のように見えますね……?」
「渋かっこいいタイトルやで」
「わー、『たまへ』とか『けり』とかだ」
「国語の授業でしか見ないやつ」
自分で書いたのだろうが、記憶にない以上、他人の作品を読んでいる気持ちが拭えない。
「恥ずかしいとはまた別の感情に支配されてます……」
「すごい、なんかつくも、文豪さんみたい」
「ねっ」
「はは、文体が堅苦しいからそう思うだけで、小生も鈴さんや慧さんと同じ、好きで書いていた素人ですよ」
「記憶がないのに、そこは覚えてるんや?」
「そう思うのです。この半年、ずっと皆さんと一緒にいて、同じ情熱を感じてきましたから」
それだけで、他に説明がいらないようにさえ思う。
「そうだ!」
そこで徐に鈴が立ち上がり、本棚の隙間に詰め込んだ青いビニール袋を引っ張り出す。
「あったー!」
「ナニソレ?」
すっかり忘れ去られていたが、つくも神が封印されていたパソコンの組み立てマニュアル一式だ。一番手前に『絶対なくすなの札』である付箋が張られている。
「これ、このSNSのアドレス、このパソコンくれた人のやつなの」
「パソオタのドイツ人!」
「そう。おパパ上の元同僚さん」
「え……ど、どうするのです、それを」
「つくもはこの人、知ってるの?」
「いえ、存じ上げませんが……」
「どんな人か、気にならない?」
「なる! つくもさんをここに封印した理由も聞きたい」
「ええ~っ……」
そんな今更、原点に返ると言われても、些か相手に悪い気持ちさえする。
「日本語できるって言ってたから、SNSにメッセージ入れておけば返事くれるかもしれないし。この人、自分のパソコンがどうなってるか気になってるかもしれない」
何故鈴が突然そう思ったか、慧は理解ができる。つくも神は戸惑っている様子だが、代わりにマウスを握って検索をかけ始めた。
「オタクアカウントからのメッセージですまんドイツ人」
「ブロックされたら即終わる」
「失礼のないように話しかけて下さいよー?」
検索にヒットした人物のハンドルネームを読み上げようとしたが、ドイツ語なんぞ読めるはずもなく。
「この人っぽいよ。ブ……ぶりつ……」
「読めねえ」
「Blitzschlag、落雷という意味のようですよ」
「落雷さん」
「間違いねえ、パソコン好きっぽいハンドルネームだわ」
「パソコンに雷は天敵なのでは……」
「書き込みが全部ドイツ語っぽいけど、日本語で大丈夫かなあ?」
「まあとりあえず書き込みしてみよう。読めなかったら返事こないだろうし、そこで判断」
「オケ」
はらはらするつくも神を横に、鈴が自分のアカウントからSNSに書き込みをしてみた。
『初めまして。父経由でパソコンを譲っていただいた者です。その節は貴重な物をありがとうございました。パソコンの中に入っていたデータについてお聞きしたくてご連絡差し上げました。よければお返事いただけると嬉しいです』
「めっちゃしっかりした問い合せ」
「ドイツ人に敬語って伝わるの?」
「日本にいたから大丈夫でしょう」
ではまあ、返事がくるまで他のことをして遊んでいようとなった時、リロードと共にレスが表示される。相手は日本語で返してくれていた。
『もしかして、中に入っていたデータって、README?』
『そうです! 小説が入っていました』
『おお、本人だ! 話しかけてくれてありがとう!』
「日付が一番古い物で並べてみましょう」
表示を変更し、一番上にきたテキストファイルにカーソルを当てる。
「待てつくも、本当にいいのか」
「大丈夫ですって」
多分。
「他の怪士が召喚されたらどする?」
「これ以上呪われるのはごめんじゃぃ」
「呪ってませんよ、取り憑いただけです」
「同じじゃね?」
クリックすると、軽く読み込んだ後、ずらりと文字が横に並ぶ。タイトルと本文が見えるので、やはり小説のようだ。
「至って普通の小説のように見えますね……?」
「渋かっこいいタイトルやで」
「わー、『たまへ』とか『けり』とかだ」
「国語の授業でしか見ないやつ」
自分で書いたのだろうが、記憶にない以上、他人の作品を読んでいる気持ちが拭えない。
「恥ずかしいとはまた別の感情に支配されてます……」
「すごい、なんかつくも、文豪さんみたい」
「ねっ」
「はは、文体が堅苦しいからそう思うだけで、小生も鈴さんや慧さんと同じ、好きで書いていた素人ですよ」
「記憶がないのに、そこは覚えてるんや?」
「そう思うのです。この半年、ずっと皆さんと一緒にいて、同じ情熱を感じてきましたから」
それだけで、他に説明がいらないようにさえ思う。
「そうだ!」
そこで徐に鈴が立ち上がり、本棚の隙間に詰め込んだ青いビニール袋を引っ張り出す。
「あったー!」
「ナニソレ?」
すっかり忘れ去られていたが、つくも神が封印されていたパソコンの組み立てマニュアル一式だ。一番手前に『絶対なくすなの札』である付箋が張られている。
「これ、このSNSのアドレス、このパソコンくれた人のやつなの」
「パソオタのドイツ人!」
「そう。おパパ上の元同僚さん」
「え……ど、どうするのです、それを」
「つくもはこの人、知ってるの?」
「いえ、存じ上げませんが……」
「どんな人か、気にならない?」
「なる! つくもさんをここに封印した理由も聞きたい」
「ええ~っ……」
そんな今更、原点に返ると言われても、些か相手に悪い気持ちさえする。
「日本語できるって言ってたから、SNSにメッセージ入れておけば返事くれるかもしれないし。この人、自分のパソコンがどうなってるか気になってるかもしれない」
何故鈴が突然そう思ったか、慧は理解ができる。つくも神は戸惑っている様子だが、代わりにマウスを握って検索をかけ始めた。
「オタクアカウントからのメッセージですまんドイツ人」
「ブロックされたら即終わる」
「失礼のないように話しかけて下さいよー?」
検索にヒットした人物のハンドルネームを読み上げようとしたが、ドイツ語なんぞ読めるはずもなく。
「この人っぽいよ。ブ……ぶりつ……」
「読めねえ」
「Blitzschlag、落雷という意味のようですよ」
「落雷さん」
「間違いねえ、パソコン好きっぽいハンドルネームだわ」
「パソコンに雷は天敵なのでは……」
「書き込みが全部ドイツ語っぽいけど、日本語で大丈夫かなあ?」
「まあとりあえず書き込みしてみよう。読めなかったら返事こないだろうし、そこで判断」
「オケ」
はらはらするつくも神を横に、鈴が自分のアカウントからSNSに書き込みをしてみた。
『初めまして。父経由でパソコンを譲っていただいた者です。その節は貴重な物をありがとうございました。パソコンの中に入っていたデータについてお聞きしたくてご連絡差し上げました。よければお返事いただけると嬉しいです』
「めっちゃしっかりした問い合せ」
「ドイツ人に敬語って伝わるの?」
「日本にいたから大丈夫でしょう」
ではまあ、返事がくるまで他のことをして遊んでいようとなった時、リロードと共にレスが表示される。相手は日本語で返してくれていた。
『もしかして、中に入っていたデータって、README?』
『そうです! 小説が入っていました』
『おお、本人だ! 話しかけてくれてありがとう!』
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