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94 冬コミ終了と共に冬期が終るのがオタク
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まもなく杏花梨がコスプレの計算を終えた。
「出ましたー。1人5,000円です。内訳の中に、衣装を作ってくれた子へご祝儀が入ってます。それでピッタリ5,000にしておきました」
「そんな安くていいのです!?」
「結構いい布使ってたのに……!」
「大勢で布を買うと、端布が少なくて安く済むのですよ。型紙も1つで済むし、糸とかも同じで良いのでムダが出ない。問屋さんとかでドカッと購入とか、レイヤーさんだとそういうの詳しいですからね、余計節約できる」
「ほえー……コスプレ衣装を作るお店とか見ると、とんでもない金額書いてあるのに」
「あれはオーダーメイドですから。1品物はそりゃ高いですよー」
「うほおおお……もっとするかと思ってたからお金全部もってきちゃった」
「ここのお会計とあわせて8,000円で大丈夫です?」
「大丈夫ですーっ!」
「両方あわせても1万行かないなんて……」
さあ、現金のやりとりはもう終わった。あとは気兼ねなく食べる飲む話す笑う!
「お鍋丁度良いみたい~」
鉄鍋の中の白菜がくにゃっと柔らかくなり、艶やかな光沢で葱がその隙間に入り込む。少量の皮がついた鳥肉もうまそうであるが、海鮮鍋の方に揺れる海老と鱈もまたヨダレをさそう。ちゃんこの出汁がそれらに染みこんでぶくぶくと泡を立て、はじけた気泡は湯気と共に良い香りで顔を撫でできた。
「はわわわわおいしそっ……!」
「キエーッ!」
「さわぐな」
「大チャンそっちのお鍋もちょっとちょうだい」
「たべよたべよー」
「あああ……スマホの前にお鍋を置くと湯気で何も見えなくなってしまいます……!」
「いただきまーす!」
個室は最高だ。何をやっていても外からは見えない。
昨日がコミケだなんて嘘のようだが、本当の話。時間の流れがおかしくなるのもオタ活特有だ。イベントに参加しているオタクの多くは、物事の節目が夏冬のコミケになってしまう。コミケが終われば、その季節が一瞬にして終わる。一般人からすればそんなバカなと思うような感覚でオタクは生活していたりするのだ。
2時間程度ゆっくりしてから、楽しい忘年会もお開きとなった。帰る頃にはもう暗くなっていたが、自転車があるのはつおい。サクッと家に到着すると、鈴と慧はとりあえず玄関前で一度解散に。
「お風呂入ったら戦利品持って行くねぃ~」
「おっけいーんじゃまた後で!」
「お2人とも、年末まで一緒なのですか?」
「年明けもずっと一緒だお」
「子供の頃からそうだから、違和感ないのである」
「仲良いというか、もう完全に姉妹ですね」
そういうつくも神も、今後この輪の中に組み込まれるのだ。それに気づかぬまま、自分もパソコンの中へと帰宅する。
冬コミのアレソレが散乱した部屋を片付けながら、大晦日の用意を始める鈴。何やかんやとオタクはバイタリティに溢れており、イベントごとに動きまくっている気がする。
しばらくすると慧が大量のお菓子を持ってやってきた。
「おかあさんが持って行けって~」
「やった!」
「今年の年末は何しよっかねぃー?」
「去年は何をしたのですか?」
「クラモの映画DVDをずっと見てた」
「いつもと変わらないような……」
「ああいうゆっくりした時間は、もう二度と訪れない気がしゅりゅ」
「創作を始めると、休むのを忘れがちになってしまいますからね。質の高いアウトプットをするためには、きちんとインプットをしないといけません」
「明治の書生さんのセリフとは思えねえ」
「小生には記憶がないですから、もう令和の怪士みたいなものですよ」
そう笑うつくも神を前に、ふと鈴は片付けていた手を止めた。
「……つくも、封印されてたフォルダ、覚えてる?」
「え……? はい、今も中にありますが……それが何か?」
「あれは読んじゃダメなもの?」
「え……」
「そう言えば、小説みたいなものが入ってたよねぃ。あれつくもさんが書いたって言ってたじゃん?」
「ええ……まあ。書いたんだなというぼやっとしたイメージだけはありますが、どんな内容だったのかまでは……」
「見ちゃダメなやつ?」
「えっちなやつ?」
「そ……それはないと思いますが、いや、生前がどういう作風なのかは分からないので……何とも言えませんが……」
「気にならない?」
ならないと言ったら嘘になる。つくも神は少し考えてから、覚悟を決めた。
「分かりました。ちょっと見てみましょう」
「冒頭見てやばかったら無理すんな!」
「だ、大丈夫だと思いますよ……そんな破廉恥なことにはならないかと……」
「素でハレンチ使ってる人初めて見た」
「いとおかし」
モニタが点滅してから、デスクトップのオーウォン様が映る。つくも神がドキュメントに移動したフォルダをクリックすると、中に大量のテキストが見えた。
「出ましたー。1人5,000円です。内訳の中に、衣装を作ってくれた子へご祝儀が入ってます。それでピッタリ5,000にしておきました」
「そんな安くていいのです!?」
「結構いい布使ってたのに……!」
「大勢で布を買うと、端布が少なくて安く済むのですよ。型紙も1つで済むし、糸とかも同じで良いのでムダが出ない。問屋さんとかでドカッと購入とか、レイヤーさんだとそういうの詳しいですからね、余計節約できる」
「ほえー……コスプレ衣装を作るお店とか見ると、とんでもない金額書いてあるのに」
「あれはオーダーメイドですから。1品物はそりゃ高いですよー」
「うほおおお……もっとするかと思ってたからお金全部もってきちゃった」
「ここのお会計とあわせて8,000円で大丈夫です?」
「大丈夫ですーっ!」
「両方あわせても1万行かないなんて……」
さあ、現金のやりとりはもう終わった。あとは気兼ねなく食べる飲む話す笑う!
「お鍋丁度良いみたい~」
鉄鍋の中の白菜がくにゃっと柔らかくなり、艶やかな光沢で葱がその隙間に入り込む。少量の皮がついた鳥肉もうまそうであるが、海鮮鍋の方に揺れる海老と鱈もまたヨダレをさそう。ちゃんこの出汁がそれらに染みこんでぶくぶくと泡を立て、はじけた気泡は湯気と共に良い香りで顔を撫でできた。
「はわわわわおいしそっ……!」
「キエーッ!」
「さわぐな」
「大チャンそっちのお鍋もちょっとちょうだい」
「たべよたべよー」
「あああ……スマホの前にお鍋を置くと湯気で何も見えなくなってしまいます……!」
「いただきまーす!」
個室は最高だ。何をやっていても外からは見えない。
昨日がコミケだなんて嘘のようだが、本当の話。時間の流れがおかしくなるのもオタ活特有だ。イベントに参加しているオタクの多くは、物事の節目が夏冬のコミケになってしまう。コミケが終われば、その季節が一瞬にして終わる。一般人からすればそんなバカなと思うような感覚でオタクは生活していたりするのだ。
2時間程度ゆっくりしてから、楽しい忘年会もお開きとなった。帰る頃にはもう暗くなっていたが、自転車があるのはつおい。サクッと家に到着すると、鈴と慧はとりあえず玄関前で一度解散に。
「お風呂入ったら戦利品持って行くねぃ~」
「おっけいーんじゃまた後で!」
「お2人とも、年末まで一緒なのですか?」
「年明けもずっと一緒だお」
「子供の頃からそうだから、違和感ないのである」
「仲良いというか、もう完全に姉妹ですね」
そういうつくも神も、今後この輪の中に組み込まれるのだ。それに気づかぬまま、自分もパソコンの中へと帰宅する。
冬コミのアレソレが散乱した部屋を片付けながら、大晦日の用意を始める鈴。何やかんやとオタクはバイタリティに溢れており、イベントごとに動きまくっている気がする。
しばらくすると慧が大量のお菓子を持ってやってきた。
「おかあさんが持って行けって~」
「やった!」
「今年の年末は何しよっかねぃー?」
「去年は何をしたのですか?」
「クラモの映画DVDをずっと見てた」
「いつもと変わらないような……」
「ああいうゆっくりした時間は、もう二度と訪れない気がしゅりゅ」
「創作を始めると、休むのを忘れがちになってしまいますからね。質の高いアウトプットをするためには、きちんとインプットをしないといけません」
「明治の書生さんのセリフとは思えねえ」
「小生には記憶がないですから、もう令和の怪士みたいなものですよ」
そう笑うつくも神を前に、ふと鈴は片付けていた手を止めた。
「……つくも、封印されてたフォルダ、覚えてる?」
「え……? はい、今も中にありますが……それが何か?」
「あれは読んじゃダメなもの?」
「え……」
「そう言えば、小説みたいなものが入ってたよねぃ。あれつくもさんが書いたって言ってたじゃん?」
「ええ……まあ。書いたんだなというぼやっとしたイメージだけはありますが、どんな内容だったのかまでは……」
「見ちゃダメなやつ?」
「えっちなやつ?」
「そ……それはないと思いますが、いや、生前がどういう作風なのかは分からないので……何とも言えませんが……」
「気にならない?」
ならないと言ったら嘘になる。つくも神は少し考えてから、覚悟を決めた。
「分かりました。ちょっと見てみましょう」
「冒頭見てやばかったら無理すんな!」
「だ、大丈夫だと思いますよ……そんな破廉恥なことにはならないかと……」
「素でハレンチ使ってる人初めて見た」
「いとおかし」
モニタが点滅してから、デスクトップのオーウォン様が映る。つくも神がドキュメントに移動したフォルダをクリックすると、中に大量のテキストが見えた。
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