つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

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86 大好きジャンルのコスプレ併せ

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 エントランスへ抜ける通路も、人の流れは大分スムーズになってきていた。とは言え大ホールが幾つも連なっているのだ、それだけ加算された距離があるので移動には時間がかかる。
 ようやく待ち合わせのベージュ玉が見えたところで、その前にたむろするクランケモーテル併せのメンバーの光景に、杏花梨を含む鈴と慧は肺に空気を入れるのを忘れた。

「ちょま……! な!? ナニアレ!?」
「はいぃい!? え!? や……は!?」
「眼……福……!!」

 感涙やら嬉々やら悦やらの類いの文字が一斉に脳内を横切り、武者震い……否、オタク震いが身体を細かく揺れ動かした。
 こちらのメンバーを目に入れるなり、その場にいた全員が手を降ってくる。

「ナニこの光景ぃい……」
「実写……?」
「デッサンしてえ……」

 ついていけない男子2人の内、1人が呆れて溜め息を逃す。その手前で杏花梨が挨拶を入れ、写真撮影をしようと屋外に出ることになった。

 併せメンバーのうち何名かはつくも神が見えている様子。中にコスプレイヤーもいることから、彼女らもまた創作者のようであった。コスプレ制作の話をしているうち、鈴が頷いて言う。

「でも何か分かりまする。コスプレのパーツを作ってた時、どうやったらキャラに近い造型になるかって考えながら作ってましたけど、そういう時の気持ちって、絵を描いてる時と同じだった気がするです」

 慧も同意のようだ。

「うんうん。今みなさんのメイクしてるの見て、なるほどって思ったりしてます。顔、マンガになってるもの! すごい研究されたんだなって思って」

 それを聞いていたつくも神も深く頷いた。

「確かに。彼女達コスプレイヤーも、何かを表現するために物作りをするという意味では、創作者で間違いありませんね」

 パンピーの大地もその話を聞いてようやく納得したようで、周囲に溢れるコスプレイヤーの群れをまじまじ見ながら口を開く。

「今まで、コスプレイヤーというものたちは、奇妙な格好をして1つ所に集合してポーズをとって、一体何をしているのか疑問だったが……根底にあるものはお前たちと同じということか」
「だねぃ」
「写真を求める側は、その創作物を、本を買うようにフレームに収めているということになるな」
「なーるへそ、そういやそうだな?」
「大ちゃんがオタクを理解する日がこようとは……」

 感激している姉の言葉につくも神が微笑んだ。

 西ホールの外は、すし詰め状態のコスプレイヤーが所狭しとポーズをキメて写真を撮り合っている。ある意味圧巻の光景ではあるが、オタクは皆これ以上ない程の笑顔で寿司になっている。

「みなさん本当に楽しそうですね」

 つくも神の呟きに、鈴が頷く。

「大変なことばっかりなのに、何かそれが楽しいよ」
「鈴ちゃ、バッテリー買えてよかったねぃ」
「ね! つくもにコミケ見せてあげれて良かった!」

 それを聞いたつくも神が、嗚呼と情熱に胸を熱くする。
 データの渦の中で移動すれば、世界中見て回れる。行こうと思えば宇宙に漂う衛星まで行けるのに、来ている場所はオタクの集まるコミケときた。だが取り憑いている怪士は思うのだ。

「小生も、こんなにたくさんの創作者に囲まれて……創作者たちにとって、とてもいい時代になったのを見せていただけて、大変嬉しく思っております」

 コミケはオタクの祭典というが、明治時代に同人誌が生まれた時、こんなとんでもない祭りになるとか、誰が想像できただろう?

「ここ、スペースとれそうなので、並んで写真とりましょー!」
「わーい!」

 杏花梨の声で皆が肩を並べていき、何とか横長フレームに収まったところで、つくも神が写真を構える杏花梨に声をかけた。

「杏花梨さん、貴女も入らなければ」
「そうですよーっ」
「誰かにとってもらいましょうー」
「えっ、そんな……フヒッ、いやっ、でも一緒に撮りたくないかと言われると嘘になる」

 それを聞いていた見知らぬオタクが、撮りますよと声をかけてくれる。こういう咄嗟の連携プレイもコスプレオタクのよきところ。その代わり自分も写真撮らせてくれという交換条件が成り立ち、藤原一家の家訓もクリア。

「じゃあこっち見てくださーい。3でシャッター押しますねー。いーち、にー」

 さん。
 パシャッ。

 嗚呼、これはこれでなんとも言えない気持ちが沸き起こる。記録を残した、記念になった、完成した、そんな思いをごちゃ混ぜにしたものが心の中で膨らむのだ。
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