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84 サークル撤収
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在庫はない。よって、搬入されてきた時の箱を潰して完了。宅配搬出がある場合、ここに色々と大変な要素がついてまわる。前回杏花梨のスペースを手伝った流れをコミケでやらなければならないと思ったら、鈴と慧は背筋がゾッとした。コミケは一般のイベントと空気もルールも違いすぎるので、できるなら搬出はスムーズにしたいところ。
片付けに入り、つくも神はてきぱきと指示を出していく。
「最終的に、スペース内を朝来た時と同じ状況にしてくださいとのことです」
「朝……ということは、机の上に、畳んだ椅子をのっける?」
「はい」
「置いてあったチラシはどうするの?」
「まとめてゴミ箱に持って行くと、紙ゴミ専用のワゴンがあるそうです」
「じゃあこれを持って……」
「あとは荷物」
「忘れ物がないか確認してください。このまま帰宅しますので、落とし物のないように」
机ヨシ、チラシ持った、ゴミナシ、落とし物ナシ、忘れ物ナシ、チェック完了。
「ヨシッ!」
大地が遠目から姉のスペースを窺っている。まあ、眼鏡がなくて見えないのだが。
「杏花梨のスペースに一度行っていいか」
「そだね」
「ていうか、藤原クン、眼鏡ないから1人でウロウロするの危ない」
「コミケは大勢の人が行き来するので、移動中は眼鏡があった方がよいかと思います」
「そうだな」
「つくもの言うことは素直に受け入れるんだな」
「彼はマトモだからな」
「どゆこと」
「そのまんまだが」
さあ、スペースを移動しなくては。ここでウ15b一泊三日サークルは撤収となるので、当然やることは1つ。
鈴と慧はお互い顔を見合わせ、頷いた。右と左に別れ、双方同時に声を出す。
「お先に失礼しますっ。お疲れ様でした!」
隣がどんな相手であろうと、礼を尽くす。パイセンオタクたちから学んだことを実行したまでだが、筋を通したところで、相手が通すとは限らない。
バンバンは例の如く小さく頷いてくれたが、5コ1はどうだ。
「……お疲れ様です」
消え入りそうな声が戻ってきたので驚いたが、おそらくスペース内に1人だったからだろう。多分5人いたら嘲笑されて返事はなかったとみる。
まあそれもこれも終わった! 嫌なことはもう考えないですむ! 帰りは両隣から挨拶してもらえたからもういいや! 良い疲労感からそんな気持ちが湧き上がり、サッパリしてスペースを後にした。
「本当に忘れ物ないかなあ」
「心配になっちゃうよねぃ」
幾度か振り返ったが、人の波がスペースを隠していく。
「ハア~、販売も面白かったね、サトちゃん」
「うんっ、バイトやったから、なんか慣れてたもんねぃ」
「そーそー、バイトみたいなお客様とは違うんだけど、確実にバイトを思い出していた」
「つくもさんが接客業をチョイスしてくれたのは大正解だったよぉ」
それを聞いた大地が呆れてみせる。
「何だ、仕事まで彼に探させたのか。どうしようもないなお前たちは……」
「一般庶民にしてはがんばったと褒めてください」
子供達のじゃれあいを聞きながらつくも神が微笑んでいると、大通りを挟んだ壁サークルに筧ぽんたの絵で特大ディスプレイが見えてきた。
「うほお! ダンディアンソロのポスターや!」
まだ列はひけていない様子。さすが大手といったところだが、弟の大地はパンピーなこともあり、神絵師を敬うことを知らずにサークルの中にいる姉に声をかけた。
「杏花梨、僕の鞄はどこだ」
偉そうな態度がオーウェン・モーガンのそれなのだろう。並んでいる腐り乙女たちの顔が一斉にニヤけた。杏花梨はというと、ダンディのコスプレをしている。
「お、大ちゃんおかえり。向こうのスペース出てきたの?」
その背後から鈴と慧がショーとサニーのコスプレをしているのが見え、杏花梨の表情がパッと明るくなった。
「がわいいいい……!!」
「えっへっへえ」
「パーツちゃんとセットしましたよぉ」
それからハッとして。
「ごめんねえ、大地ジャマじゃなかったです? 私が延長でご迷惑かけてるようなものだったので、気になって派遣したのですが……気が付いたのが昨日だったので、慌ただしさにお伝えするのが当日本番になってしまったのです……」
「いやいやいやいやいやいや、マジ助かりました……!」
「大ちゃんいなからったら、わしらスペースにいられなかったかも……」
鞄から眼鏡を救出した大地がその話を聞いて首を傾げている。
「特別何もしなかったぞ」
そこでつくも神が話を変えてやった。
「そろそろ1時になりますが」
片付けに入り、つくも神はてきぱきと指示を出していく。
「最終的に、スペース内を朝来た時と同じ状況にしてくださいとのことです」
「朝……ということは、机の上に、畳んだ椅子をのっける?」
「はい」
「置いてあったチラシはどうするの?」
「まとめてゴミ箱に持って行くと、紙ゴミ専用のワゴンがあるそうです」
「じゃあこれを持って……」
「あとは荷物」
「忘れ物がないか確認してください。このまま帰宅しますので、落とし物のないように」
机ヨシ、チラシ持った、ゴミナシ、落とし物ナシ、忘れ物ナシ、チェック完了。
「ヨシッ!」
大地が遠目から姉のスペースを窺っている。まあ、眼鏡がなくて見えないのだが。
「杏花梨のスペースに一度行っていいか」
「そだね」
「ていうか、藤原クン、眼鏡ないから1人でウロウロするの危ない」
「コミケは大勢の人が行き来するので、移動中は眼鏡があった方がよいかと思います」
「そうだな」
「つくもの言うことは素直に受け入れるんだな」
「彼はマトモだからな」
「どゆこと」
「そのまんまだが」
さあ、スペースを移動しなくては。ここでウ15b一泊三日サークルは撤収となるので、当然やることは1つ。
鈴と慧はお互い顔を見合わせ、頷いた。右と左に別れ、双方同時に声を出す。
「お先に失礼しますっ。お疲れ様でした!」
隣がどんな相手であろうと、礼を尽くす。パイセンオタクたちから学んだことを実行したまでだが、筋を通したところで、相手が通すとは限らない。
バンバンは例の如く小さく頷いてくれたが、5コ1はどうだ。
「……お疲れ様です」
消え入りそうな声が戻ってきたので驚いたが、おそらくスペース内に1人だったからだろう。多分5人いたら嘲笑されて返事はなかったとみる。
まあそれもこれも終わった! 嫌なことはもう考えないですむ! 帰りは両隣から挨拶してもらえたからもういいや! 良い疲労感からそんな気持ちが湧き上がり、サッパリしてスペースを後にした。
「本当に忘れ物ないかなあ」
「心配になっちゃうよねぃ」
幾度か振り返ったが、人の波がスペースを隠していく。
「ハア~、販売も面白かったね、サトちゃん」
「うんっ、バイトやったから、なんか慣れてたもんねぃ」
「そーそー、バイトみたいなお客様とは違うんだけど、確実にバイトを思い出していた」
「つくもさんが接客業をチョイスしてくれたのは大正解だったよぉ」
それを聞いた大地が呆れてみせる。
「何だ、仕事まで彼に探させたのか。どうしようもないなお前たちは……」
「一般庶民にしてはがんばったと褒めてください」
子供達のじゃれあいを聞きながらつくも神が微笑んでいると、大通りを挟んだ壁サークルに筧ぽんたの絵で特大ディスプレイが見えてきた。
「うほお! ダンディアンソロのポスターや!」
まだ列はひけていない様子。さすが大手といったところだが、弟の大地はパンピーなこともあり、神絵師を敬うことを知らずにサークルの中にいる姉に声をかけた。
「杏花梨、僕の鞄はどこだ」
偉そうな態度がオーウェン・モーガンのそれなのだろう。並んでいる腐り乙女たちの顔が一斉にニヤけた。杏花梨はというと、ダンディのコスプレをしている。
「お、大ちゃんおかえり。向こうのスペース出てきたの?」
その背後から鈴と慧がショーとサニーのコスプレをしているのが見え、杏花梨の表情がパッと明るくなった。
「がわいいいい……!!」
「えっへっへえ」
「パーツちゃんとセットしましたよぉ」
それからハッとして。
「ごめんねえ、大地ジャマじゃなかったです? 私が延長でご迷惑かけてるようなものだったので、気になって派遣したのですが……気が付いたのが昨日だったので、慌ただしさにお伝えするのが当日本番になってしまったのです……」
「いやいやいやいやいやいや、マジ助かりました……!」
「大ちゃんいなからったら、わしらスペースにいられなかったかも……」
鞄から眼鏡を救出した大地がその話を聞いて首を傾げている。
「特別何もしなかったぞ」
そこでつくも神が話を変えてやった。
「そろそろ1時になりますが」
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