つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

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70 仏滅と大安は隣り合わせ

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 はじまりのはじまりはこうだった。
 自分で組めばおおよそ50万円程度するだろうハイスペックパソコンがタダで手に入った。そこにつくも神が封印されており、圧縮ファイルを解凍したらウイルスが如く取り憑いてしまった。
 これを皮切りに呪いが始まった……と思っていた。

「でも今考えれば、つくもがいなかったら、印刷代が用意できなかったよね」

 しかもちゃんこ料理藤原はかなりのホワイト企業。その好条件でバイトができ、時給50円アップした上に、成績もアップして、お紅茶とおケーキまでつき、更にめちゃくちゃおいしいまかないが増えた。

「そうだよ、杏花梨さんともお知り合いになれなかった!」

 それがまた大ファンの同人作家とキタ。その人がめちゃくちゃ善い人で、同人誌のノウハウを教わることもできたし、イベントの予行練習もさせてもらった上に、新刊をいただき、手伝ったお礼にとちょっとお小遣いをつけてもらい、行ったことも無いこじゃれた店でむちゃくちゃ美味しいスペイン料理をおごっていただいた。

「小さなイベントだったけど、あそこで大手サークルさんのイベントノウハウを練習できたのはでかかった……」
「むしろ小さなイベントだったからこそ、私たちでも何とかなったんだろうし……」

 そのイベントでつくも神を一日維持するだけの環境がないのにも気がつけた。スマホを使いたい放題にプラン変更した上に、モバイルバッテリーを買ったことにより、どこへ出向いてもネットが繋がらないことはなく、安心して行動できるようになったのもでかい。

「あとさあ? 女将さんと出会ったのも、そこ経由じゃんか」
「だねぃ。古のオタクが味方についたから、全方向の防御力上がったよねぃ」
「もう一つ、約束の大地も忘れたらいかん」
「確かに。約束の大地の知識と情報の攻撃力、凄まじい」

 夏休みの宿題を貸し借りするきっかけで、頭脳派から正確な予定を再確認できたし、それによって原稿を落とすのも回避できたわけだ。更に文化祭実行委員に立候補したことにより、先生のウケも良くなったし進学や就職でアピールしやすくなった。おまけにヤマカンのおかげでテスト勉強をほとんどしていなかったにも関わらず、何とかクリアできたとかいう。

 その他色々ありはしたものの、物事は万事うまくいき、悪いことなど1つもおきていなく、むしろ全てが良い方向に向いている。

 鈴は今までのことを振り返り、ぽつりと言う。

「わしら本当は、呪われてなかったのかも……」

 鈴と慧は若すぎて視野が狭く、延々と悪いところばかりに目が行っていた。この状況がご利益の何物でも無いというのは、一目瞭然なのに。

「つくもさんて……本当は、悪い妖怪じゃないのかも?」
「まあ……悪そうなヤツには見えないけどさ」

 精神が幼いというのは非常に酷なことだ。ずっと神様に助けてもらっていたのに、それに気づかずに暮らしていたのだから。

「カレンダーでさあ……仏滅の隣って、大安なんだよね」
「なんそれ博識すぐる」
「原稿カレンダー作ってる時、気づいた」

 同じ夢を見ている2人が、ようやくそこに到達した。記憶が良い方向に定着し、これは穏やかな夢だと脳が認識すると、何か月も緊張続きだった筋肉のこわばりが少しずつ解れていく。

「1秒隣が大安って、こういうことかな?」
「かもねぃ」

 時間という概念は人間が後付けしたもので、1秒と1秒の境目は明確にはない。ただ平坦に流れていくもので、その差なんてものは本来ないのだろう。今日が仏滅で明日が大安であっても、悪いことも良いことも、自分の中で昇華さえしてしまえば、極端な話みな大安ということだ。鈴と慧は、若すぎてうまく言葉にできなかったが、沢山の経験を積み重ねてきた今、何となくそこに気づけたのだろう。

 白いんだか、黒いんだか、よく分からない場所に意識が沈んでゆく。それは大量に積み上げられていた記憶の本が、海馬の本棚に整理されたということ。まあ、この2人の場合、ウスイブックスが大半なのですが。


 12月第4週、木曜日。
 目が覚めたのは、お昼も過ぎた3時頃。鈴は大きな伸びをしている最中にハッとして飛び起きる。

「あああああ!? 遅刻……!!」

 パジャマを脱いだつもりで制服のスカートに手をかけて、脳がパニックを起こした。

「あ……あり?」

 遅れてつくも神が起動してくると、その様子を見て苦笑いをする。

「おはようございます。もう午後3時ですが」

 段々と寝ぼけた頭が元に戻ってきた。それと同時に、昨晩戻ってくるなり制服のまま気絶した記憶が蘇る。

「冬休みかあ~! ビックリしたあ~!」

 そのままベッドに大の字になった。

「オーウェン様、起こしてくれてた?」
「ええ。いつもの時間に」
「全然気づかなかった……。今日何て言ってた?」
「パンケーキを焦がしたとか何とか」
「マジかよ、わしのために料理したんか。チクショー、聞きたかった」
「いえ、ご自分で食べるそうです」
「あの人そういうトコある。でも2枚焼くんよ」
「つんでるれとかいうやつですか」
「ツンデレな。予測変換おかしいぞ」

 こんな他愛のない会話をベッドに寝転がりながらできるなんて何か月ぶりだと大きく溜め息をつき、お休みの大切さを実感する。
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