つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

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66 コスプレもまた一つの表現

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 シュポッ。

『それで、コミケでクラモ併せができないかな~と思ったのです。とはいえ、コミケまで2週間切ってしまっているので、コスプレイヤーさんはもう予定が立ってらっしゃるかなと思い、お伺いだけでもしておこうとご連絡したのがイマココです』

 なーるーほーどー、となったところで、つくも神がしみじみ頷いた。

「杏花梨さんらしいですね。いきなりすごいことを思いつく。でもこればかりはむりなご相談で……」
「ちょっと待って」
「諦めるのはまだ早くねぃ?」

 光の速さで逆の発言をし始めた二人に、つくも神は目を点にして顔を上げる。

「……え? は?」
「コスプレはできるんじゃね?」
「は? へ? どういう方向に向かっているのですか、この話……?」
「コスプレはさァ!?」
「できるんじゃねぃ!?」
「なんでそういう話になったのです!?」
「ちょっと待って、杏花梨さんにメッセージ入れる」
「ななななな!! なに入れるつもりですか!?」
「説得中」

 送信。

「ちょっとおおお!!」

 シュポッ。

『正座待機』

「むりですよ!? 小生は外に出られないのですよ!? この部屋から出られません!! どうやってコミケに行けというのです!?」

 鈴と慧が流し目で擦り寄ってくる。

「モバイルバッテリーも買ったのですよ?」
「私たち、ずっと繋がってられる」
「ズッオタだよ」
「私たちだけに見えればいいわけじゃん?」
「つくもさんは画面のこっち側でコミケに参加しようず」
「ええええ……!? 小生……コミケの最中、ずっとあんな突拍子もない格好していなくちゃならないのですか……!?」
「突拍子もないとか言うな!」
「失礼だろ!」
「そうだぞ、みんな楽しんでやってんだ!」
「す……すみません……失言でした」
「本人達も分かってやってんだ! その辺りはそっとしとけ!」
「ええ~……?」

 だからコスチュームプレイというのだ。普段着ではない、仮装認識で現実世界を闊歩するのが楽しい表現方法がそれだ。
 鈴と慧は、つくも神を上から下までじっと眺めて言った。

「正直な話、その袴姿からは着替えられないの?」
「まあ……衣装の変更は利くとは思いますが……」
「アバターくさい発言」
「ちょっと試しにニルの格好にチェンジしてみてよ」

 その鈴の発言を慧が慌てて止める。

「鈴ちゃ!! 今はダミだ!!」
「お、おお? なして?」
「一度見てしまったら、満足してしまうかもしれん」
「ハッ! 当日のお楽しみというやつ!?」
「いや、やりませんよ! 小生あんな恥ずかしい格好、嫌ですし……!」
「恥ずかしい格好とか言うな! 王子に対して失礼だろ!」
「これも一つの表現なんだよつくもさん!」
「おおっ……!?」

 その一言でつくも神の脳天に稲妻が落ちる。
 近年、コスプレ界隈も商業化が激しく、世界的にも広く楽しまれるようになった。別の自分を表現する、キャラクターをリアルの次元で表現する、メイクもさることながら裁縫や造型を駆使して表現する等、新しい分野でそれらは人々の中に娯楽として浸透してきているのだ。

「こ、これもまた表現……」

 つくも神は処理速度の遅い脳みそで考え、しばらく目を閉じて天井を仰いで唸っていたが、ついにその結論を出した。

「……分かりました。どうせ小生を見ることができるのはお二人と杏花梨さんだけですし、SNSでやりとりしてる分なら支障ないでしょう……」
「イャッタア!」
「さっそく杏花梨さんに報告だあ!」

 少々呆れて諦め気味のつくも神を横に、ウキウキの鈴と慧が杏花梨に良いお返事を投げると、すぐ様いつもの音が。

 シュポッ。

『きゃああああああ!! めっちゃ嬉しい……ありがとうー!!』
「へへっ」

 だろうよ、だろうともよ、わしらもワクワクだぜ、という心境で満足していると……。

 シュポッ。

『では、鈴さんと慧さんはどのキャラをやりたいか教えて下さい~』

 ん?

「えっ……」
「わ、わしらもやるんです……?」
『そうですよおー、クラモ“あわせ”ですからー』

 背後でつくも神が笑いを堪えている。

「むりだよおおおおおお!?」

 シュポッ。

『今回、友人のコスプレイヤーさん達が協力してくれることになってまして、一括で全員分の衣装を作ってくれることになっております。無駄なく布を購入できるので、コストもかなりお安くできるかと。なので、参加の皆様には、自分がやるキャラごとのパーツを揃えていただく形になります』
「むりむりむりむりむりむり」
「冬休みは26日からで、25日入稿の後はコミケまで4日もあります。その間に装飾を作ってしまえば可能ですよ」
「つくもぉぉ!! テメエー!!」
「小生がコスプレして杏花梨さんとお会いするより、余程現実的に済む話ではないですか」
「あんな恥ずかしい格好できるか!」
「表現者の方々に失礼ですよ」
「うおおおお!!」
「シュラバ明けでコスプレなんてボロボロしゅぎる……」

 そんなわけで、流れでコミケにコスプレをするハメになってしまった鈴と慧。付喪神に悪巧みをしようとすると呪いがはねかえるというのに、懲りずに毎回何かしらしようとするからこうなるのだ。
 もう断れない。
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