つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

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62 デスの塊としか言えない入稿方法

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 何とか短時間バイトで印刷代を作ろうと、鈴と慧は考え込んでいる。

「平日に原稿やるとしても……あと4週間しかないのに、アンソロと自分の原稿平行しながらやるとかむりぃ……」

 つくも神が壊れた一週間、まるっと何の予定も入っていなかったのに、なーんもできなかったのだ。しかもその後、キャッキャとみんなで遊んでしまった。今更過ぎた時間は戻ってこないが、この期間が頭にこびりついてまわる。
 鈴がカッと目を見開いた。

「やるしかねえ! スペースがとれちまったからには、もう後戻りができねんだ!」

 そこでつくも神が小さな溜め息を逃し、躊躇するように口を開く。

「……小生から申し上げるのは、大変心苦しいのですが……」

 お察しパターンに鈴が目を細める。

「呪いか」
「はい……」

 もう自分でも呪いとしか思えないような流れなので、そのまま頷くつくも神。

「割り増し……料金……なら……25日が最終締め切り……です」

 かなり前に説明したのを覚えているだろうか。
 割り増し入稿……それは早割入稿と全てが逆の入稿方法。印刷所も死ぬ。自分も死ぬ。デスの塊としか言えない入稿方法で、金を払って死の契約を交わす、アレのことだ。

「クリ……スマスゥ……に、デス……?」
「それ、何割増しなのです……?」
「3」

 3割増とは、30パーセント増し、1.3倍。
 100円の3割増しは130円。算数できないオタクの愛する1,000円の3割増しなら1,300円。1万円の3割増しなら13,000円という、1.3倍。
 つくも神があえてそのあたりを口にして数字に出してやると、2人の少女は汗を拭った。

「……そのくらいなら、何とかなりそうじゃね……?」
「う、うん……。大手さんなら大変な金額になりそうだけど、わしら弱小だし。元の印刷代がしょぼいもんねぃ……」

 続けてつくも神が言う。

「試しに3割増しで印刷代を出してみましょう。鈴さんがB5で36ページなので、これを元に計算すると……大体4万円。消費税は別です」
「う~ん……ビミョ~……」
「いけなくもないねぃ……」
「小説だと、新書84ページで4万くらいですね」

 2人は唸る。

「バイト代、5万を目指すってことかぁ……」
「冬休みいつから?」
「26日ですね」
「つかえねえな!」
「本っっ当、ウチの学校オタクに厳しいな!」

 学園生活を楽しめない方のオタクなのであしからず。

「うーん……土日1日中バイトできるトコだったらすぐ貯まりそうだけど、そしたら原稿やる時間なくなっちゃうし……」
「やっぱ藤原で平日に細かく貯めるのが一番いいかも……」

 昨日か一昨日、余裕のない入稿予定を立てるのをやめようと反省したはずなのに、もうこれだ。
 そういうわけで、藤原短時間バイトコースで、3割増しクリスマスデス入稿という結論に落ち着いた。

「印刷所には泣いてもらうしか道はねぇんだ……。腹くくるしかねえ」
「デス契約ですねぃ……」
「では、予約を入れてしまいますが……よろしいですか?」
「予約なんてすんの!?」
「まあ……印刷台を確保しておかないと、本当にギリッギリ入稿ですからね……」
「ォ……オケ」
「本当にいいのですか?」
「早く入れろォ! 勢いで入れないともう色々とアレだァ!」

 2人のテンパった顔を見ていると戸惑うことも多いが、もう覚悟を決めるしかない。つくも神はネットから印刷所に予約を入れると大きく息をついた。

「入れました」
「ヒィ」
「早いよォ!」
「便利だなつくも……」
「ありがとうございます……」

 褒め言葉のハズなのに、苦しくて3人はむせび泣く。
 もう予約を入れてしまった。後戻りはできない。

「印刷すること自体をキャンセルすることは可能ですが、これ以上はもう伸ばせません。絶対に入稿しないと、コミケに本がなくなります……」
「プププププレッシャーしゅげえ……」

 全てが決まったところで、つくも神が口を開く。

「念のためお聞きしますが……予約を入れようと印刷所のマニュアルを見ていたら、オンデマンド印刷というのがあるのに気が付きました。こちらはかなりコストを抑えて作ることができますよ? こちらではだめなのでしょうか……」

 鈴と慧が口を尖らせる。

「オンデマはこの先いくらでも出せるもん」
「オフセットって、憧れがあるの」
「コミケに華々しくオフセットデビュー!」
「パアア……!」

 それを考えている時の2人が輝いて見えたので、つくも神は察して頷いてやった。

「なるほど。最初というものは、何でも1度きりです。そこを美しい思い出にしたいということですね」

 夢に向かって爆進中なのだ、やりたいこと全部やろうず。
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ニンスピの里
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