つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

文字の大きさ
上 下
60 / 97

60 AIからパソオタへのメッセージ

しおりを挟む
 パソコンを直して帰宅途中、大地のスマホが着信に震えた。歩きながらであったが、周囲に誰もいないのでそのままアプリを開く。
 メッセージアプリの画面では、鈴と慧が交互にいらん話を投げて遊んでいるのが延々と流れている。

『藤原クン、今日はありがとうー!』
『ちゃんこちゃんこちゃんこ』
『ぱしょこんちゃんと動いてるYO』
『・*・:≡( ε:)』
『それでさあ、お願いがあるんだけど』
『2人で育てたAIがちゃんと動くか確認してほしいんだ』

 大地は一度首を傾げたが、返事を入れる。

「よかろう」

 OKを出した理由は『2人で育てたAI』と『ちゃんと動くか確認』、この2つのワードだろう。大地は彼女たちの創作活動に向ける情熱のようなものに少なからず感銘を受けているし、鈴もそのあたりの言葉使いを意識して上手くチョイスしたとみる。

 しばらく待っていたが、中々返答が来ない。

「どうした? 何も入ってこないぞ」

 大地は横断歩道で歩みを止め、信号が青に変わるのをじっと見つめていた。

 ピロン。

 その音でスマホに視線を戻すと、SNSのフレンド認証を催促する画面に『つくも』の名前が表示されているのが映る。その名はここ何か月か鈴と慧からよく飛び出していたので、これがAIかと認証を受け入れた。

 シュポッ。

『こんばんは。小生は、貴方に助けられたつくもと申します』

 妙な感覚に、大地は眉間に皺を寄せる。おかしな実験に付き合わされている気分だったが、返事を入れた。

「見えている」

 それは鈴と慧に対して向けた言葉だったが、返事が入ったのはつくも神からだ。

 シュポッ。

『貴方にお礼を言うのは叶わぬ願いかと思っていましたが、鈴さんと慧さんが協力を申し出て下さいました。こうして場を設けていただきましたが、貴方を付き合わせてしまっていることに対して、少々気が咎めております』

 信号が青になり、大地はスマホから視線を外して歩き始める。

 シュポッ。

『貴方が特殊技能を持っていらっしゃる方で本当によかった。第二の人生を救われたと申しますか、余生を楽しんでいると申しますか、何ともおかしな気分ではありますが……もう一度目を開いて世界が動いているのを見た時、鈴さんと慧さんが小生を見つめながら不安な面持ちをしているのを目に入れて……自分はつくも神として昇華されたのだと気が付きました』

 大地は横目でそれを読んでいたが、渡っていた橋の中央まで歩くと欄干に背をつけて立ち止まる。

 シュポッ。

『小生は今、この家に辿り着いた時に持っていた元の身体に比べれば、遙かにグレードを落としたパーツに交換され、それこそ彼女達によくからかわれた『ぽんこつ』という言葉にふさわしい機体となりました』

 シュポッ。

『起動も遅い、読み込んだらしばらく動けず、考えるのも数秒かかるような、まるで初心者が初めて買うような低スペックのパソコンそのものです』

 シュポッ。

『しかしながら小生、物として“大切にされた”という実感を持ちました』

 いつしか大地は、そのAIの言葉がスマホに届くのをじっと待っていた。まるで生きているかのようなAIに魅了され、不思議な感情を心に抱く。

 シュポッ。

『ありがとうございました。この言葉を貴方に直接伝えられて、本当によかったです』

 続きを待っていたが、ここで終わりのようだ。鈴と慧が忙しないメッセージを入れ始める。

『おわりだって~!』
『大チャンちゃんと聞いてるぅ?』

 大地は一度視線を外し、小さくため息を漏らす。泳いだ視線が埼玉の小田舎を流れる川に留まった。

 シュポシュポッ。

『大チャーン』
『大チャーン』

 今度は呆れたため息を吐いてから、大地はスマホに返信を入れる。

「妙な性格にしたな」
『元々の性格なんだよぉ』
『読んでくれてサンキューッ!』
「動作に問題があったとは思えない。もののあはれを取り入れた良いプログラムだ」
『なにそれー?』
『いつでもオープンになってるから、たまにつくもに話しかけてあげてね』
「何故だ」
『つくもが藤原大地は命の恩人とか言ってます』

 それをAIが言ったと思うと、思わず興をそそられて大地は笑ってしまう。にやけた口元をすぐに戻し、周囲を視線だけ動かして確認する。

『また壊れた時にお世話になるし』
『愛着持ってる方が直しやすくない?』
「いいだろう。プログラム相手に、中々不思議な感情が芽生えたのは確かだ」
『どんな?』
「いとをかし」

 シュポシュポッ。

『いとおかし使ってる人発見!!』
『いとおかしキタ!!』

 シュポシュポッシュポシュポッシュポシュポッ。

『キターッ』
『こうやって使うんだーっ!!』
『平安貴族かよお前!!』
『さす大地ィィィ!!』
『しかも“を”だよ!!』
『つくも何か言ってやれ!!』
『ローディング中です』

 大地はスマホの電源を切った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

主記の雑多な短編集

丘多主記
大衆娯楽
私、丘多主記の短編集作品を集めた作品集になります 各お話前に大まかなあらすじ等を入れて、その後にお話が始まると言った感じです。イントロダクションになっている作品はお題小説かワンライ、もしくはその両方です ジャンルはスポーツ、友情、恋愛と雑多ではありますがご覧ください 表紙:私が2024年の秋頃にキリンのビール工場で撮ってきた写真

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...