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59 付喪神修理完了
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夕方になり、パソコンを修理した大地が帰宅すると、鈴と慧はつくも神が待つ部屋へ飛び込んだ。
「つくもおおおおお!!」
腹の底からそう叫び、拳を握って彼の周りを落ち着かなく動き回る。相手が神様でなければ、怪士でもなければ、きっとその手を取って振り回したり、学帽を窓の外から投げたり、袴の裾を頭の上で結んで悪戯もできただろうに。その存在は空気のように触れることは叶わず、お互いを余計にもどかしくさせた。強いて言うならパソコンを殴れと言いたいが、パソコンは姫chanだと学んだ彼女達にはもうそれもできそうにない。
つくも神はバツが悪そうな表情を浮かべ、鈴と慧に謝罪する。
「どうやら故障していたようですね……ご心配お掛けしました」
「もおおお……本ッ当、どうなることかと毎日毎日……」
「大切な時期だったのに、なんたる失態を……」
「もういいよぉ~、戻ってきてくれて本当に嬉しいもん~」
「大地はホコリが原因だって言ってた。私が掃除しなかったから悪いの、ごめんは私の方だよ」
「小生が教えるべきでした。もっとしっかり管理していれば、こんな出費をさせなかったのに……」
「すんげえ呪いキチャッタもんなー」
鈴は笑っていたが、つくも神はしょぼくれている。
「どうやってお金の工面を?」
「印刷代の分。同人誌出すのやめたの。慧も出してくれたよ」
「そんな……お二人とも、せっかくここまで頑張ってきたのに……」
「いいんだよぅ、鈴ちゃとまた冬にちゃんこ料理藤原でバイトしよって言ってたの」
「そう。それで、来年の夏コミあわせ目指そうって」
「杏花梨さんのところのアンソロは12月締め切りだから間に合うし、それに参加して冬コミ参加した気分になろうね~って言ってたトコ」
締め切りを伸ばしたところで、どの道印刷代のない2人に本は出せない。つくも神は自責の念で大きな溜め息を逃した。
「つかさ、ずっと原稿やってたから、ここ何か月かあんまみんなと会話してなかったじゃんか。だから同人誌落としてちょっとほっとしてるんだよね」
「わかるぅ~、ソロ活つらい。私文字だから余計一人で悶々としてたし、いくら大好きなクラモの原稿やってても、あんまり楽しくなかった」
ちょっと過去を振り返り、2人とも反省した様子。予定は立てていたけれど、しっかり立てたとは言えないような、そんな内容であったのは確かだ。
「余裕ないのだめだね。今日は今まで喋れなかった分、たくさん話そ!?」
「私今日泊まってく~!」
「お泊りも久しぶりだね!」
「宿泊研修だっけ? あれもクッソつまんなかったね! 何やったかつくもに教えてあげるよ!」
「ずっと寝てて意味わかんなかったしねぃ!」
2人はケラケラと笑い出し、それを見ていたつくも神も口元に笑みをつける。
「そう、この何ヶ月間色々やったのに、全然共有してないじゃん!」
「本当だ」
「よくないね」
「よくない」
「話そう話そう、明日休みだから夜通し話そ!」
「ネタは沢山あるじぇ~!」
このホッとした空気も久しぶりだ。追いかけられていたものから逃れられたような、開放感に似た何か。
「その前に、杏花梨さんにお礼を伝えませんと」
「おおおおおっと、そうだった!」
「アンソロの原稿もできるって言わなきゃ!」
「藤原大地さんにも直接お礼を言えたらよかったのですが……あの方が創作者でないのが残念でなりません……」
「オタクになりたいか聞いたんだけど、嫌っぽかったよ」
それを聞いて何かを考えていた鈴が口を開く。
「直接お礼、言っちゃえば?」
「えっ……」
「どうやって?」
「つくもをAIだって言って、SNSでメッセージ送信しちゃえばよくない?」
「イイネそれ」
慧はその話に笑ったが、つくも神は困ったように眉を下げる。
「あの方の性格的に、読んで頂けないのでは」
「私にいい考えがある」
このフレーズを口にしてうまくいった登場人物はあまりいないのだが、久しぶりの開放感を味わい、ちょっと悪戯してみたくなったのだ。
「つくもおおおおお!!」
腹の底からそう叫び、拳を握って彼の周りを落ち着かなく動き回る。相手が神様でなければ、怪士でもなければ、きっとその手を取って振り回したり、学帽を窓の外から投げたり、袴の裾を頭の上で結んで悪戯もできただろうに。その存在は空気のように触れることは叶わず、お互いを余計にもどかしくさせた。強いて言うならパソコンを殴れと言いたいが、パソコンは姫chanだと学んだ彼女達にはもうそれもできそうにない。
つくも神はバツが悪そうな表情を浮かべ、鈴と慧に謝罪する。
「どうやら故障していたようですね……ご心配お掛けしました」
「もおおお……本ッ当、どうなることかと毎日毎日……」
「大切な時期だったのに、なんたる失態を……」
「もういいよぉ~、戻ってきてくれて本当に嬉しいもん~」
「大地はホコリが原因だって言ってた。私が掃除しなかったから悪いの、ごめんは私の方だよ」
「小生が教えるべきでした。もっとしっかり管理していれば、こんな出費をさせなかったのに……」
「すんげえ呪いキチャッタもんなー」
鈴は笑っていたが、つくも神はしょぼくれている。
「どうやってお金の工面を?」
「印刷代の分。同人誌出すのやめたの。慧も出してくれたよ」
「そんな……お二人とも、せっかくここまで頑張ってきたのに……」
「いいんだよぅ、鈴ちゃとまた冬にちゃんこ料理藤原でバイトしよって言ってたの」
「そう。それで、来年の夏コミあわせ目指そうって」
「杏花梨さんのところのアンソロは12月締め切りだから間に合うし、それに参加して冬コミ参加した気分になろうね~って言ってたトコ」
締め切りを伸ばしたところで、どの道印刷代のない2人に本は出せない。つくも神は自責の念で大きな溜め息を逃した。
「つかさ、ずっと原稿やってたから、ここ何か月かあんまみんなと会話してなかったじゃんか。だから同人誌落としてちょっとほっとしてるんだよね」
「わかるぅ~、ソロ活つらい。私文字だから余計一人で悶々としてたし、いくら大好きなクラモの原稿やってても、あんまり楽しくなかった」
ちょっと過去を振り返り、2人とも反省した様子。予定は立てていたけれど、しっかり立てたとは言えないような、そんな内容であったのは確かだ。
「余裕ないのだめだね。今日は今まで喋れなかった分、たくさん話そ!?」
「私今日泊まってく~!」
「お泊りも久しぶりだね!」
「宿泊研修だっけ? あれもクッソつまんなかったね! 何やったかつくもに教えてあげるよ!」
「ずっと寝てて意味わかんなかったしねぃ!」
2人はケラケラと笑い出し、それを見ていたつくも神も口元に笑みをつける。
「そう、この何ヶ月間色々やったのに、全然共有してないじゃん!」
「本当だ」
「よくないね」
「よくない」
「話そう話そう、明日休みだから夜通し話そ!」
「ネタは沢山あるじぇ~!」
このホッとした空気も久しぶりだ。追いかけられていたものから逃れられたような、開放感に似た何か。
「その前に、杏花梨さんにお礼を伝えませんと」
「おおおおおっと、そうだった!」
「アンソロの原稿もできるって言わなきゃ!」
「藤原大地さんにも直接お礼を言えたらよかったのですが……あの方が創作者でないのが残念でなりません……」
「オタクになりたいか聞いたんだけど、嫌っぽかったよ」
それを聞いて何かを考えていた鈴が口を開く。
「直接お礼、言っちゃえば?」
「えっ……」
「どうやって?」
「つくもをAIだって言って、SNSでメッセージ送信しちゃえばよくない?」
「イイネそれ」
慧はその話に笑ったが、つくも神は困ったように眉を下げる。
「あの方の性格的に、読んで頂けないのでは」
「私にいい考えがある」
このフレーズを口にしてうまくいった登場人物はあまりいないのだが、久しぶりの開放感を味わい、ちょっと悪戯してみたくなったのだ。
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