つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

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58 グレードダウン付喪神

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 11月第2週、土曜日。
 鈴と慧は大地を連れて、再びオタクの町秋葉原へと馳せ参じる。
 今日の2人は目つきが違う。異様なオーラを受けて疑問に思った大地が2人に問うた。

「なんでそんな険しい顔をしている?」
「オレ達は勝つ」
「あ?」
「負ける気がしねい」

 この2人がまともな話をしている方が少ない。相手にするだけ時間の無駄だと思った大地は、電気街口から西へと歩を進めた。
 今日も上空から看板が狙撃してくるが、ヒダの深い帽子でそれをガード。店頭から流れる商品紹介の攻撃も、途切れなくくっちゃべって耳に入れない。視覚を狙ってくるポスター類は目に入れなければよいと、折れんばかりに下を向いて大地の靴を追いかける。
 防御力を上げただけではなく、仲間を窮地から救うという目的が2人を強くさせていた。
 手際の良い大地はリストアップされた商品だけを探して何件か店を回る。目玉商品でもない限りさほどの大差はなく、それが分かるとサポートの厚い店を選んで購入を決めた。
 1時間程度でパーツを買い終わると、さっさと秋葉原を後にする。鈴と慧は板タブレットを買いに来た自分たちを思い出し、滞りなく任務を達成した大地に感心してみせた。

「アキバでパンピー、最強過ぎるだろ……」
「この激戦区をいとも簡単に通り抜けるとは……」

 オタクが何を言っているか意味が分からない大地は当然無視。

「さっさと帰って組み立てるぞ」
「はーい」

 鈴と慧がついてきた意味はほぼないに等しい。彼らはこうして電車に乗って埼玉の奥地へと戻っていった。


 最寄り駅に到着すると昼になっていたので、ファストフードを買い込んで鈴宅に戻る。家で食べる選択をしたのは時間が惜しいからという理由。
 土曜までに掃除機をかけてホコリを何とかしておけと言っておいたので、この前来た時より部屋はスッキリしていたが、所詮オタク部屋だ、物の圧が凄い。

「少し物を減らせ」
「なんその父親っぽい発言!」
「エアコンの効きが悪いとパソコンが痛む」
「えー……」

 そう言われると弱い。
 大地は食事を後にして、テキパキとパーツをパソコンの内部に収めていく。食べながらそれを見ていた慧が呟いた。

「なんか意外と簡単そう?」
「組み立てるのは難しいものではない。パーツを決まった場所に差し込んでいけばいいだけだからな。初心者には設定が厄介というだけだ」

 大地は手馴れた様子で中身を詰め終わると、軽くケースの蓋を閉めてから元のラックにパソコンを置いた。

「直ったの?」
「いや、パーツをセットしただけだ。初期不良がないか確認だけ先にやる」

 電源ボタンを押すとファンが回り始める。

「ついた!」

 鈴と慧が同時に声を出し、モニターが点滅するのをじっと見つめる。6日聞いていないだけでこの騒々しい音がこうも懐かしく感じるとは。
 モニターが明るくなると鈴は首を傾げる。

「……なんか、起動遅くね?」
「主要部分のパーツがグレードダウンしているからな。コストに見合った処理速度になっていると思え」

 それがどの程度のものなのか、他のパソコンを使ったことがない鈴と慧には分からない。大人しくモニターをじっと見つめていると、彼らの背後に青白い光が浮かび上がり始めた。それは静かに発光する横線となり、ぼんやりした書生の姿を象ってから色を落ち着ける。

 つくも神は一度自分の身体に目をやってから首を傾げ、背後でパソコンのモニターを凝視する3人に気が付くと、椅子に座る大地を見て驚いた。
「どうして藤原大地さんがいるのですか?」
 背後からそう声をかけられ、鈴と慧はハッとして振り返る。

「つっ……!!」

 慌てて声を呑み込み、こちらを向く大地と視線を合わせる。

「なんだ……?」

 やはり創作者でない大地につくも神は見えていない。鈴は苦笑いしながら、何とかして言葉を絞り出す。

「いやっ! ……つー……つ、つ、疲れてない?」
「この後は設定だけだ。今のところ初期不良と思われる動作はしていないようだ。大丈夫そうなので蓋を閉めるぞ」

 大地はそう言うと、前触れもなくシャットダウンを指示する。

「あっ……!」
「なんだ……」

 うっとうしそうに鈴を見る大地の背後で、つくも神が発光する横線となって消えて行く。

「あー……あの、これ……直ったのよね?」
「まあそうだな。少し設定をいじろう。グレードダウンした歪みがどこかにあるはずだ。あとは使っていくうちにパーツの不具合が出れば、買った店で交換すればいい」

 鈴と慧が冷や汗を流しながら妙な笑顔を作ってこちらを見ているので、大地は眉間にシワを寄せる。

「なんだ、気持ち悪い」
「い、イヒッ……」
「フヒヒッ……」

 嬉しさはピークに達しているが、つくも神が見えない大地の前でそれを表せないこのもどかしさ。もう語彙力が壊れたオタクからは変な声しか出てこない。
 フヒフヒ笑いながらも、鈴と慧の目尻には、どんな感動アニメを見てもここまで美しいオタク汁にはならないだろう光が輝いていた。
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ニンスピの里
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