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54 オタク娘の心、父親知らず
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夜の8時を回ると、会社から帰宅した鈴父がクタクタの様子で玄関に座って靴を脱ぐいつもの姿が見えた。
「お父さん!」
「お。お出迎えなんて珍しいな。ただいまー」
娘が可愛いのだろうことは見て分かるが、喜んだ父親の心とは別のことで娘は父を求めていた。
「パソコンが動かなくなっちゃったの!」
階段の半ばから叫ぶように訴えると、鈴父は眉間に皺を寄せる。
「えっ……全く動かないの?」
「電源がつかないの……」
「ケーブル抜けたりしてない?」
「ちゃんとハマってる」
鈴父が何か考えて唸っていると、奥から鈴母が夫を出迎えに来た。
「なあに?」
「いやあ、この前もらってきたパソコン壊れちゃったみたい」
「あら」
鈴母に鞄を渡しなから奥の部屋に行こうとする鈴父を娘が止める。
「ねえ、ちょっと見てよ」
「後でな。仕事でクタクタなんだ、ちょっと休ませてくれ」
「ええっ……」
父と娘の温度差。ここでパパが娘の異変を敏感に感じ取ってスッと行動に移せたら、頼れるパパ! スーパーパパ! 将来パパみたいな人とケコーンしゅりゅ! と尊敬を勝ち取れるのだが、そんなモン普通一般の親がやるわきゃねえ。この緊急時にさっさと居間にゴロつきに行く父親の後ろ姿を鈴が絶望の顔で見送った。
そこはアルティメット幼馴染みの出番!
「おじさん~お願いぃ~!! 私心配で帰れないよぉ!!」
「あれ、慧ちゃん来てたのか」
「鈴ちゃとずっと待ってた!」
「うう~ん」
近所の子とはいえ、幼少時から家族同然で面倒見ていた慧だ、ほぼ娘みたいな感覚に近い。2人の娘からお願いされた父が、ここで不安な表情を見せる娘たちのために行動に移せないようであれば、もうこの先1つの洗濯機で洗濯物を一緒にして洗える日は一生来ないだろう。
「しょうがないなあ」
よかった。どの道洗濯物は拒否されるだろうが、使ったタオルくらいは一緒に洗ってもらえるだろう。父の威厳を見せたご褒美である。
鈴父は鈴母に食事の用意をお願いしてから、その足で階段を上っていく。例の如く娘のオタク部屋を開けると嫌な顔を見せた。
「相変わらず……」
とは言え、今までつくも神がいた部屋は小綺麗に整頓されており、いつもよりスッキリしては見える。日々鈴に整えるよう言っていたのだろう、その片鱗が窺えた。
鈴父がパソコンの電源を一度押し、起動しないのを確かめてから二度三度それを繰り返す。
「本当だ、つかない」
「昨日までついてたの」
鈴父は次に、背面を確認してケーブルをギュッと差し込む。そしてもう一度ボタンを押すが変わらない。それを背後から不安そうな面持ちで見つめる鈴と慧。
「うーん……」
「どうお……?」
「うーん……お父さんには分からないなあ」
「修理に出せる?」
「まー……できるとは思うけど、このパソコン自作パソコンだから、普通のトコじゃやってもらえないと思うよ。ていうか、保証なしでパソコンの修理をするって、ものすごいお金かかるぞ」
「別にいい、バイト代あるし」
「ヘタすると、パソコンもう一台買えるくらいかかるぞ」
「そんなに……?」
お金がかかるのは別にいい。今すぐでなくてもいい。直るか直らないかの方が、鈴と慧には重要なのだ。
そんな2人の前で、鈴父はある提案を持ちかけた。
「やっぱりお前にはちょっと難易度の高いパソコンだったな。自分でいじれる人じゃないとこういう時に対処できないし。どうだ、来月クリスマスだろ、お父さん奮発してタブレット買ってやっても良いぞ」
ちょっと得意げなのは、父として大盤振る舞いな発言をしたからだ。おそらく鈴母には内緒でが前提にあり、普通の父親なら大いに子供から感謝される光景なのだろうが、鈴と慧は今、付喪神に『呪われた』状態で、それだけは口にしてはいけないものだった。
「そんなもの、いらないよ!!」
カッとした鈴を前に、鈴父は驚いて口を開ける。
「お……ど、どうして? タブレット欲しがってたじゃないか……」
「そんなもの欲しくない!!」
「ああ、自転車の方がよかったか……?」
「何もいらない!! パソコンを直して!!」
「このパソコン直すより、新品買った方がお前には安上がりだぞ?」
鈴父、いい提案ばかりなのだが、全然ダメだ。そうじゃねんだ。ついにアルティメット慧が我慢ならず、キレた。
「もうおじさん出て行って!!」
「ええええ!? 慧ちゃんまで!? な、何なの……」
自分の持ち家なのに、他人の娘に部屋から追い出される鈴父。悪い親父じゃないのだが、空気が読めずに地雷を踏みまくる。
気の強い鈴の右目から、ほろりと雫が落ちた。それを見ている慧もつられて泣いてしまう。
「鈴ちゃ……」
「どうしよう……つくもがいないと描けないよ……」
その意味は、物理的なものではない。描こうと思えばいくらでも方法はある。現にスマホ対応の板タブレットをつくも神がチョイスしたのだ、画面は狭いがあと5日をそれで乗り切ることもできるかもしれない。
だがこれは、ダンディショックと同じだ。精神的な支えが2人の前から消えてしまった。
あれほど力が欲しいと言っていたのに。今となっては、自分たちには扱いきれないこのただの鉄の箱以外は、何もいらない。
「お父さん!」
「お。お出迎えなんて珍しいな。ただいまー」
娘が可愛いのだろうことは見て分かるが、喜んだ父親の心とは別のことで娘は父を求めていた。
「パソコンが動かなくなっちゃったの!」
階段の半ばから叫ぶように訴えると、鈴父は眉間に皺を寄せる。
「えっ……全く動かないの?」
「電源がつかないの……」
「ケーブル抜けたりしてない?」
「ちゃんとハマってる」
鈴父が何か考えて唸っていると、奥から鈴母が夫を出迎えに来た。
「なあに?」
「いやあ、この前もらってきたパソコン壊れちゃったみたい」
「あら」
鈴母に鞄を渡しなから奥の部屋に行こうとする鈴父を娘が止める。
「ねえ、ちょっと見てよ」
「後でな。仕事でクタクタなんだ、ちょっと休ませてくれ」
「ええっ……」
父と娘の温度差。ここでパパが娘の異変を敏感に感じ取ってスッと行動に移せたら、頼れるパパ! スーパーパパ! 将来パパみたいな人とケコーンしゅりゅ! と尊敬を勝ち取れるのだが、そんなモン普通一般の親がやるわきゃねえ。この緊急時にさっさと居間にゴロつきに行く父親の後ろ姿を鈴が絶望の顔で見送った。
そこはアルティメット幼馴染みの出番!
「おじさん~お願いぃ~!! 私心配で帰れないよぉ!!」
「あれ、慧ちゃん来てたのか」
「鈴ちゃとずっと待ってた!」
「うう~ん」
近所の子とはいえ、幼少時から家族同然で面倒見ていた慧だ、ほぼ娘みたいな感覚に近い。2人の娘からお願いされた父が、ここで不安な表情を見せる娘たちのために行動に移せないようであれば、もうこの先1つの洗濯機で洗濯物を一緒にして洗える日は一生来ないだろう。
「しょうがないなあ」
よかった。どの道洗濯物は拒否されるだろうが、使ったタオルくらいは一緒に洗ってもらえるだろう。父の威厳を見せたご褒美である。
鈴父は鈴母に食事の用意をお願いしてから、その足で階段を上っていく。例の如く娘のオタク部屋を開けると嫌な顔を見せた。
「相変わらず……」
とは言え、今までつくも神がいた部屋は小綺麗に整頓されており、いつもよりスッキリしては見える。日々鈴に整えるよう言っていたのだろう、その片鱗が窺えた。
鈴父がパソコンの電源を一度押し、起動しないのを確かめてから二度三度それを繰り返す。
「本当だ、つかない」
「昨日までついてたの」
鈴父は次に、背面を確認してケーブルをギュッと差し込む。そしてもう一度ボタンを押すが変わらない。それを背後から不安そうな面持ちで見つめる鈴と慧。
「うーん……」
「どうお……?」
「うーん……お父さんには分からないなあ」
「修理に出せる?」
「まー……できるとは思うけど、このパソコン自作パソコンだから、普通のトコじゃやってもらえないと思うよ。ていうか、保証なしでパソコンの修理をするって、ものすごいお金かかるぞ」
「別にいい、バイト代あるし」
「ヘタすると、パソコンもう一台買えるくらいかかるぞ」
「そんなに……?」
お金がかかるのは別にいい。今すぐでなくてもいい。直るか直らないかの方が、鈴と慧には重要なのだ。
そんな2人の前で、鈴父はある提案を持ちかけた。
「やっぱりお前にはちょっと難易度の高いパソコンだったな。自分でいじれる人じゃないとこういう時に対処できないし。どうだ、来月クリスマスだろ、お父さん奮発してタブレット買ってやっても良いぞ」
ちょっと得意げなのは、父として大盤振る舞いな発言をしたからだ。おそらく鈴母には内緒でが前提にあり、普通の父親なら大いに子供から感謝される光景なのだろうが、鈴と慧は今、付喪神に『呪われた』状態で、それだけは口にしてはいけないものだった。
「そんなもの、いらないよ!!」
カッとした鈴を前に、鈴父は驚いて口を開ける。
「お……ど、どうして? タブレット欲しがってたじゃないか……」
「そんなもの欲しくない!!」
「ああ、自転車の方がよかったか……?」
「何もいらない!! パソコンを直して!!」
「このパソコン直すより、新品買った方がお前には安上がりだぞ?」
鈴父、いい提案ばかりなのだが、全然ダメだ。そうじゃねんだ。ついにアルティメット慧が我慢ならず、キレた。
「もうおじさん出て行って!!」
「ええええ!? 慧ちゃんまで!? な、何なの……」
自分の持ち家なのに、他人の娘に部屋から追い出される鈴父。悪い親父じゃないのだが、空気が読めずに地雷を踏みまくる。
気の強い鈴の右目から、ほろりと雫が落ちた。それを見ている慧もつられて泣いてしまう。
「鈴ちゃ……」
「どうしよう……つくもがいないと描けないよ……」
その意味は、物理的なものではない。描こうと思えばいくらでも方法はある。現にスマホ対応の板タブレットをつくも神がチョイスしたのだ、画面は狭いがあと5日をそれで乗り切ることもできるかもしれない。
だがこれは、ダンディショックと同じだ。精神的な支えが2人の前から消えてしまった。
あれほど力が欲しいと言っていたのに。今となっては、自分たちには扱いきれないこのただの鉄の箱以外は、何もいらない。
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