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52 気圧が悪くて身体が重い
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何はともあれ、秋の学校行事は全てクリアした。
「あんだけ台風来たのに1つも行事に当たらないってどゆこと?」
「ウチの先生たちは予言者かよ……」
何とか乗り切ったが、いざ原稿をやろうと机の前に座っても、気ばかり焦って進まない。
首も肩も腰も尻もパンパンで息をするのも苦しいくらい。血行が悪くなった足は冷えまくり、ついでに心臓に血を押し上げてくれないので脳に酸素が回らず、ぼんやりしたまま焦燥感だけ持っているというしんどい状態。
鈴は絵描きなので長時間不安定な態勢で体を支える必要があり、慧より幾分ハードであった。
「体力ゲージがどんどん減っていくよぉ……デバフついてるよぉ……」
雨で気圧が悪いせいもあるのだろう、板タブの上に頭を置いて唸っているだけで1本も線が描けていないような有様。肩甲骨あたりに刺し込む痛みで彼女はペンを置いた。
「首と背中の付け根が痛い~……」
「負担のかかっている部分が炎症になっているのかもしれませんね」
「ストレッチ全然きかねえんだもんー……」
「身体への無理の方が大きいのですよ。痛みがあるのならストレッチは程々にして、貼り薬でまず炎症をとってからでないと」
「湿布は高いから呪われたくない~! あと6日だからこのまま乗り切るしかねえ……」
鈴の無茶をつくも神は心配していた。
「腱鞘炎は悪化させるといつまでも痛いですよ。お薬をつけてテーピングした方が楽に描けるのでは」
「テーピングテープなんていくらすると思ってんだよ! そんなことで出費をするわけにはいかないんだ」
「でも見るからにお体はボロボロですよ」
「そう思うなら手伝ってくれよお」
たわいない愚痴を言った後、鈴はハッと顔を上げる。
「そうだよ! 手伝ってよ! AIとか背景描いてくれるじゃん! ああゆう感じのことはできないの?」
「できることはできますが、小生はAIではありませんし、それ以前に怪士は人のやることに手を出すべきではないかと思います」
「なんでよー。確かに付喪神だけど、やってることAIとあんまり変わりないじゃん」
「小生は妖怪と大差ないと言ったではありませんか。人が怪士の力を借りて何かを成し遂げたとしても、必ずどこかでほころびが出ます。ご自分の力でやるのが賢明かと」
「ケチ~」
「そのかわり応援や助言はいたします。精神的な支えになるのが神様というものですからね」
「今、自分で妖怪だって言ってたくせに」
付喪神はいたずら小僧のように笑ったが、物理的な力を貸そうとは決してしなかった。
鈴は泣き言を言ったことにより少し気が軽くなったのだろう、再びペンをとると原稿に向かう。
一方の慧は、スマホで入力ということもあり、楽な体勢で執筆できてはいたが、スマホが故に画面が小さく、目にかかる負担に悩んでいた。画面を見ればライトに刺激され、目を閉じても目の裏に四角い残像がいつまでもチラついて回る。頼んでもいないのに眼精疲労は頭痛を持ってきて、鈍い痛みを脳に置いていく。
「目薬だけじゃどうにもなんないよぉ……」
3行前と10行前を見比べて考えたいのに、スマホの画面にそれが入りきらない。文字を小さくすれば読めなくなるし、大きくすればそれはそれで読めない。
毎日、繰り返し文字の流れを追っているせいで、頭の中は文字がいっぱい。何もしていない時でも言葉を考えてしまい、疲労した脳がヒリヒリと痛むような感覚に悩まされ続けていた。
それらの小さなフラストレーションは長期の執筆で大きなストレスとなり、締め切り6日前だというのに開放感を望んで執筆環境を改善したいと思ってしまう。
「ノ……ノートパソコン欲しい……」
そう言ってみたものの、付喪神に呪われるのだけは勘弁だと思い、その考えを改める。
「タブレットなら取り憑かないかな……?」
どの道買えば出費になるのだ、とにかく今は余計なことを考えずに書き切ってしまえ。
その日は丸一日執筆時間をとれたのに、2人とも効率は良くなかった。あまり進まずといった様子で就寝時間となり、休めない神経にピリピリしながら溜め息を吐いて布団に入る。
布団に入ってぐったりしている鈴に気を使いながら、つくも神は念のため断りを入れた。
「鈴さん、夜にメンテナンスをしますので、ボタンに触ったりケーブルを抜いたりしないようにして下さいね」
寝入りばなで返事がない。
「分かりましたか?」
「んあ?」
「これから朝に言っていたメンテナンスをします」
「ああ……オケ……よろしく……」
明日も6時30分に始まるオーウェン様の目覚ましコールの後、起こしてあげないとなと思いつつ、つくも神は横に広がる光の線となってパソコンの中に戻っていった。
「あんだけ台風来たのに1つも行事に当たらないってどゆこと?」
「ウチの先生たちは予言者かよ……」
何とか乗り切ったが、いざ原稿をやろうと机の前に座っても、気ばかり焦って進まない。
首も肩も腰も尻もパンパンで息をするのも苦しいくらい。血行が悪くなった足は冷えまくり、ついでに心臓に血を押し上げてくれないので脳に酸素が回らず、ぼんやりしたまま焦燥感だけ持っているというしんどい状態。
鈴は絵描きなので長時間不安定な態勢で体を支える必要があり、慧より幾分ハードであった。
「体力ゲージがどんどん減っていくよぉ……デバフついてるよぉ……」
雨で気圧が悪いせいもあるのだろう、板タブの上に頭を置いて唸っているだけで1本も線が描けていないような有様。肩甲骨あたりに刺し込む痛みで彼女はペンを置いた。
「首と背中の付け根が痛い~……」
「負担のかかっている部分が炎症になっているのかもしれませんね」
「ストレッチ全然きかねえんだもんー……」
「身体への無理の方が大きいのですよ。痛みがあるのならストレッチは程々にして、貼り薬でまず炎症をとってからでないと」
「湿布は高いから呪われたくない~! あと6日だからこのまま乗り切るしかねえ……」
鈴の無茶をつくも神は心配していた。
「腱鞘炎は悪化させるといつまでも痛いですよ。お薬をつけてテーピングした方が楽に描けるのでは」
「テーピングテープなんていくらすると思ってんだよ! そんなことで出費をするわけにはいかないんだ」
「でも見るからにお体はボロボロですよ」
「そう思うなら手伝ってくれよお」
たわいない愚痴を言った後、鈴はハッと顔を上げる。
「そうだよ! 手伝ってよ! AIとか背景描いてくれるじゃん! ああゆう感じのことはできないの?」
「できることはできますが、小生はAIではありませんし、それ以前に怪士は人のやることに手を出すべきではないかと思います」
「なんでよー。確かに付喪神だけど、やってることAIとあんまり変わりないじゃん」
「小生は妖怪と大差ないと言ったではありませんか。人が怪士の力を借りて何かを成し遂げたとしても、必ずどこかでほころびが出ます。ご自分の力でやるのが賢明かと」
「ケチ~」
「そのかわり応援や助言はいたします。精神的な支えになるのが神様というものですからね」
「今、自分で妖怪だって言ってたくせに」
付喪神はいたずら小僧のように笑ったが、物理的な力を貸そうとは決してしなかった。
鈴は泣き言を言ったことにより少し気が軽くなったのだろう、再びペンをとると原稿に向かう。
一方の慧は、スマホで入力ということもあり、楽な体勢で執筆できてはいたが、スマホが故に画面が小さく、目にかかる負担に悩んでいた。画面を見ればライトに刺激され、目を閉じても目の裏に四角い残像がいつまでもチラついて回る。頼んでもいないのに眼精疲労は頭痛を持ってきて、鈍い痛みを脳に置いていく。
「目薬だけじゃどうにもなんないよぉ……」
3行前と10行前を見比べて考えたいのに、スマホの画面にそれが入りきらない。文字を小さくすれば読めなくなるし、大きくすればそれはそれで読めない。
毎日、繰り返し文字の流れを追っているせいで、頭の中は文字がいっぱい。何もしていない時でも言葉を考えてしまい、疲労した脳がヒリヒリと痛むような感覚に悩まされ続けていた。
それらの小さなフラストレーションは長期の執筆で大きなストレスとなり、締め切り6日前だというのに開放感を望んで執筆環境を改善したいと思ってしまう。
「ノ……ノートパソコン欲しい……」
そう言ってみたものの、付喪神に呪われるのだけは勘弁だと思い、その考えを改める。
「タブレットなら取り憑かないかな……?」
どの道買えば出費になるのだ、とにかく今は余計なことを考えずに書き切ってしまえ。
その日は丸一日執筆時間をとれたのに、2人とも効率は良くなかった。あまり進まずといった様子で就寝時間となり、休めない神経にピリピリしながら溜め息を吐いて布団に入る。
布団に入ってぐったりしている鈴に気を使いながら、つくも神は念のため断りを入れた。
「鈴さん、夜にメンテナンスをしますので、ボタンに触ったりケーブルを抜いたりしないようにして下さいね」
寝入りばなで返事がない。
「分かりましたか?」
「んあ?」
「これから朝に言っていたメンテナンスをします」
「ああ……オケ……よろしく……」
明日も6時30分に始まるオーウェン様の目覚ましコールの後、起こしてあげないとなと思いつつ、つくも神は横に広がる光の線となってパソコンの中に戻っていった。
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