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50 時間と交換条件
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10月第一週水曜日。
鈴と慧の自由研究を読み終えた大地に呼び出され、本日も弁当片手に屋上へ。
「というわけで、大地サマにヤマを張って頂けないかとご相談している次第でございます」
鈴と慧がつくも神と作り直した予定を説明し終えると、大地はいつものように中指1本で眼鏡のブリッジを上げて一言。
「断る」
デスヨネ!
「そこを何とか!」
「お前達に協力する道理がない」
「お姉様とお友達のよしみで!」
「僕には関係ないだろう」
「頼むよ藤原クンンンンー! めっちゃ困ってるんだよおお!!」
「お姉さんを見てたら分かるでしょお……! 私たちもああなっちゃうんだよ!?」
「勝手にすればいい」
「冷酷無慈悲キャラでいいのかよォ!!」
「ギャップ萌えでしょ!?」
「意味がわからん!」
お互いの米粒が激しくコンクリートに飛び散りあい、それが収まると鈴と慧は最終手段に入った。
「もう背に腹は代えられないところまで来ているのだ……交換条件といこう」
「交換条件?」
「私たちに出せるものはもうこれしかない。藤原クンの要求を何でも1つ呑む!」
そこで大地の顔色が変わる。
「ほう……」
「ただしエッチなのは却下!」
「微塵も考えないから安心しろ」
「とにかく時間が欲しいんだよお、何でもするから中間と期末のヤマを予想してくれえ~!」
大地は何か考えがある様子で、意外にもその交換条件をあっさり引き受けた。
「よかろう。ただし、2回のヤマでは割にあわない。こちらもそれ相応の条件を呑んでもらう」
「む……致し方あるまい……」
「して、その条件とは?」
「文化祭実行委員になってもらう」
「ぎえっ!?」
「時間が欲しいって言ってんのにぃ!!」
「それは受けらんないよォ! 早く帰りたいのが前提でしょお!!」
「よく聞け」
飛んできた米粒を払いのけ、大地は続ける。
「僕も文化祭の用意などという茶番に付き合って、一ヶ月も放課後に何時間と拘束されたくない。だから僕は実行委員会に立候補して運営側にまわり、楽をさせてもらうつもりでいた」
「何だその悪の発想は」
「逆に大変じゃない?」
「僕は将来、ウチのちゃんこ料理屋をチェーンにし、その経営に回りたいんだ。文化祭実行委員はその予行練習をするのにもってこいだろう。いかにして効率よく出店を管理し、先方とのやりとりを円滑にするかで、運営にかかる労力は変わってくる」
「アナタそういうの得意そうですね……」
「現場は肉体労働が基本だ、時間がいくらあっても足りない。運営側は脳みその回転さえよければいくらでも時間を作れる。大半は机で考えることばかりなのでインドアだ。外に出るシーンをコミュニティ能力の高い他の連中に充ててしまえば、わざわざそれを苦手な僕達がやる必要はない。適材適所という名目でインドアになれる」
「なるっほど」
「そういうことかぁ……」
「そこで、僕とお前達で、その時間を作ればいい。他の実行委員がいることにより、僕1人では作れる時間に限界があったが、お前達が2人いれば3倍になる」
「呑んだアアア!!」
「さす大地ィィ!!」
こうして彼らの文化祭が、他の生徒と違った方向から始まった。
10月第1週、木曜日。
文化祭1ヶ月前になり、学校全体で企画が動き出す。彼らの目論見がギリギリセーフで間に合った形となり、誰もやりたがらない実行委員の席にわけなく3人はスッポリと収まることができた。
実行委員は基本的に3年生が主軸となって動くわけだが、1年生は暗黙の了解で学年トップの大地が核となっている。その大地はすでにプランを頭の中で立てており、他の生徒はハナクソほじってそれに従っているだけでいいという、とても楽な立ち位置だ。
他の生徒は可愛いもので、大地が1人で動いてるのを心配してくれたりもした。
「藤原君大丈夫? 手伝おうか?」
そんな健気な発言に対し、大地は。
「1人の方が行動しやすい」
斬って捨てる。
共同体として協力を学ぶ文化祭としては最悪な対応だが、おかげで鈴と慧は早く帰宅できてルンルンだ。
月日はガッと流れ、10月第3週の頭、日曜日の体育祭。
運動嫌いな鈴と慧は、朝から炎天下の屋外でゲッソリ枯れていた。
「今日さあ……目が覚めた瞬間に言ったよ……カエリタイって」
「日曜の振替休日あるのかと思ってたのに、14日が赤日だから関係ないって知った時のショックは、ダンディショックと同じくらいだったよぅ……」
「俺たちはその貴重な休みを筋肉痛で寝てるんだろう……? 拷問かよ……」
「何なの体育祭とか……誰が楽しいのこれ?」
そういう彼女達の目の前で、体操着を着て駆け回る他の生徒達は笑顔でキラキラしているし、保護者席ではお互いの両親が隣同士で喜んでいるのが見える。
またまた時はガッと流れ、10月4週目の金曜日。
宿泊研修で埼玉を更に奥に移動する。何か寒い。ここは埼玉のはず。同じ県の熊谷が23度もあるのにどうしてこんなに寒い場所があるの。
つくも神のアドバイスで、この1泊を使ってよく寝ることになっていた。鈴と慧はここのところじりじりと睡眠不足が溜まっていたので、夜中に他の生徒が先生に隠れてウキウキで夜更かししている最中、爆睡して終わった。
ここでの学びは『旅行先で寝る』。
鈴と慧の自由研究を読み終えた大地に呼び出され、本日も弁当片手に屋上へ。
「というわけで、大地サマにヤマを張って頂けないかとご相談している次第でございます」
鈴と慧がつくも神と作り直した予定を説明し終えると、大地はいつものように中指1本で眼鏡のブリッジを上げて一言。
「断る」
デスヨネ!
「そこを何とか!」
「お前達に協力する道理がない」
「お姉様とお友達のよしみで!」
「僕には関係ないだろう」
「頼むよ藤原クンンンンー! めっちゃ困ってるんだよおお!!」
「お姉さんを見てたら分かるでしょお……! 私たちもああなっちゃうんだよ!?」
「勝手にすればいい」
「冷酷無慈悲キャラでいいのかよォ!!」
「ギャップ萌えでしょ!?」
「意味がわからん!」
お互いの米粒が激しくコンクリートに飛び散りあい、それが収まると鈴と慧は最終手段に入った。
「もう背に腹は代えられないところまで来ているのだ……交換条件といこう」
「交換条件?」
「私たちに出せるものはもうこれしかない。藤原クンの要求を何でも1つ呑む!」
そこで大地の顔色が変わる。
「ほう……」
「ただしエッチなのは却下!」
「微塵も考えないから安心しろ」
「とにかく時間が欲しいんだよお、何でもするから中間と期末のヤマを予想してくれえ~!」
大地は何か考えがある様子で、意外にもその交換条件をあっさり引き受けた。
「よかろう。ただし、2回のヤマでは割にあわない。こちらもそれ相応の条件を呑んでもらう」
「む……致し方あるまい……」
「して、その条件とは?」
「文化祭実行委員になってもらう」
「ぎえっ!?」
「時間が欲しいって言ってんのにぃ!!」
「それは受けらんないよォ! 早く帰りたいのが前提でしょお!!」
「よく聞け」
飛んできた米粒を払いのけ、大地は続ける。
「僕も文化祭の用意などという茶番に付き合って、一ヶ月も放課後に何時間と拘束されたくない。だから僕は実行委員会に立候補して運営側にまわり、楽をさせてもらうつもりでいた」
「何だその悪の発想は」
「逆に大変じゃない?」
「僕は将来、ウチのちゃんこ料理屋をチェーンにし、その経営に回りたいんだ。文化祭実行委員はその予行練習をするのにもってこいだろう。いかにして効率よく出店を管理し、先方とのやりとりを円滑にするかで、運営にかかる労力は変わってくる」
「アナタそういうの得意そうですね……」
「現場は肉体労働が基本だ、時間がいくらあっても足りない。運営側は脳みその回転さえよければいくらでも時間を作れる。大半は机で考えることばかりなのでインドアだ。外に出るシーンをコミュニティ能力の高い他の連中に充ててしまえば、わざわざそれを苦手な僕達がやる必要はない。適材適所という名目でインドアになれる」
「なるっほど」
「そういうことかぁ……」
「そこで、僕とお前達で、その時間を作ればいい。他の実行委員がいることにより、僕1人では作れる時間に限界があったが、お前達が2人いれば3倍になる」
「呑んだアアア!!」
「さす大地ィィ!!」
こうして彼らの文化祭が、他の生徒と違った方向から始まった。
10月第1週、木曜日。
文化祭1ヶ月前になり、学校全体で企画が動き出す。彼らの目論見がギリギリセーフで間に合った形となり、誰もやりたがらない実行委員の席にわけなく3人はスッポリと収まることができた。
実行委員は基本的に3年生が主軸となって動くわけだが、1年生は暗黙の了解で学年トップの大地が核となっている。その大地はすでにプランを頭の中で立てており、他の生徒はハナクソほじってそれに従っているだけでいいという、とても楽な立ち位置だ。
他の生徒は可愛いもので、大地が1人で動いてるのを心配してくれたりもした。
「藤原君大丈夫? 手伝おうか?」
そんな健気な発言に対し、大地は。
「1人の方が行動しやすい」
斬って捨てる。
共同体として協力を学ぶ文化祭としては最悪な対応だが、おかげで鈴と慧は早く帰宅できてルンルンだ。
月日はガッと流れ、10月第3週の頭、日曜日の体育祭。
運動嫌いな鈴と慧は、朝から炎天下の屋外でゲッソリ枯れていた。
「今日さあ……目が覚めた瞬間に言ったよ……カエリタイって」
「日曜の振替休日あるのかと思ってたのに、14日が赤日だから関係ないって知った時のショックは、ダンディショックと同じくらいだったよぅ……」
「俺たちはその貴重な休みを筋肉痛で寝てるんだろう……? 拷問かよ……」
「何なの体育祭とか……誰が楽しいのこれ?」
そういう彼女達の目の前で、体操着を着て駆け回る他の生徒達は笑顔でキラキラしているし、保護者席ではお互いの両親が隣同士で喜んでいるのが見える。
またまた時はガッと流れ、10月4週目の金曜日。
宿泊研修で埼玉を更に奥に移動する。何か寒い。ここは埼玉のはず。同じ県の熊谷が23度もあるのにどうしてこんなに寒い場所があるの。
つくも神のアドバイスで、この1泊を使ってよく寝ることになっていた。鈴と慧はここのところじりじりと睡眠不足が溜まっていたので、夜中に他の生徒が先生に隠れてウキウキで夜更かししている最中、爆睡して終わった。
ここでの学びは『旅行先で寝る』。
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