45 / 97
45 公式がやらかした!
しおりを挟む
3週間目、月曜日。
ダッシュの発売日である。
下校して自宅に戻ってから、帰り際に買った週刊誌をウッキウキで読んでいた慧であったが、読み終える頃には顔面蒼白となって震えていた。おおよそ彼女達が大好きなクランケモーテルの連載に何かあったのは分かるが、良くない知らせのようである。
まあ、それを当然、鈴に貸すわけだ。
「鈴ちゃ、ヤバイ」
「キャッ! ナニナニ~! ヤバイの!?」
「そうじゃねい。気をしっかり持ちながら読むのですよ」
「えっ……何だその衣替えで自分だけ夏服着て登校しましたよみたいな顔」
「まずは読むのだ。私は原稿に向き合わなくてはならない。行かねば」
そう言い残し、慧は哀愁の後ろ姿を鈴に見せつけながら自宅に戻っていく。
部屋に戻った慧はスマホを握り、ベッドの上に腰掛ける。投稿サイトにアクセスした後、書きかけの原稿を前に自分の文章を眺め始めた。
「……ダンディが女だったなんて……」
どうやら週刊誌の方で、ダンディとやらの性別が判明したらしい。おそらく今までずっと男性だと思っていた女性ファンは、あちらにからめたりこちらにからめたりして妄想に励んでいたに違いない。今頃世の中の腐女子たちは大混乱となっているだろう。
「ニルと異母兄妹とかまずいよぉ……これじゃ話が繋がらなくなる」
慧は文章を遡り、オーウェンとダンディがニルを巡って火花を散らすシーンを読み返していく。いくつか読んだところで、天を仰いだ。
「ダミだ……言葉の言い変えもできない……。設定自体変えないとおかしくなる……」
ベッドに沈んで悩んでいると、窓の外で鈴の悲鳴が聞こえた。鈴が原作最新話を読み終えたところだろう、状況を把握していないつくも神の慌てた声も聞こえる。
程なくして、鈴の部屋の窓が勢いよく開けられた。
「慧いぃぃ!!」
起き上がり、こちらも窓を開けると、鈴が声を張り上げる。
「なんこれ!!」
「公式がやらかしましたよ!」
「冬コミ二ヶ月前とかないわー!」
「くぅ……原稿にダンディ沢山出しちゃってるよぉ」
「公式これ、めっちゃニルがダンディ隠してんじゃん。ずっと前からアラステアだって知ってたんじゃんこれーっ!」
「だからこの前勘違いして、オーウェン様のこと置いてっちゃったんだよ!」
「そうか! アラステアだと思ったんだあれ! そういうことかよおお!」
「まんまと公式に踊らされてぬか喜びしちゃった訳だねぃ、わしらは……」
「筧ぽんた神なんて命削って突発本出したのに……!!」
鈴の部屋では、背後で狼狽えるつくも神が見える。
「お、お二人とも、ご近所迷惑になりますから落ち着いて……」
「どうやって落ち着けろっていうんだこれでぇ!!」
「私、二段組で70ページくらい書いちゃってるよお……!!」
「ま、まだ締め切りまで1ヶ月とちょっとあります。よく考察すれば十分修正対応できる期間ですし、何なら締め切りを通常入稿に延ばしてもいいのですよ」
そこで鈴が悲鳴を上げる。
「ぐあああ……!! 呪いか!? これもキサマの呪いか!? 原作者の心までも操れるというのか付喪神めええ!!」
「何もしてませんよ小生は! いいから窓を閉めて、部屋に行くなりスマホで会話するなりして下さい!」
つくも神によってピシャリと窓が閉められ、鈴と慧の間が遮断される。
そのすぐ後、慧のスマホからクランケモーテルのイメージミュージックが。着信に出ると鈴の声が聞こえた。
「どうすんの慧、そっち量がハンパないじゃん?」
「うーん……でも文字だから、何とかしようとすれば何とかなると思うし……ちょっともう一度、公式設定を考え直してみるよ。つか、鈴ちゃ絵だから、そっちの方が大変じゃない? 平気そう?」
「んにゃー、こっちはギャグとコメディだから何とでもなるよ。今回のコレすら昇華させて笑いに変えられるし」
「ギャグコメつおい」
「じゃあ一応、早割りのままで進めよう……。ムリならつくもも言ってた通り、通常締め切りに延長ってことで」
「オケ」
「じゃあ健闘を祈る」
通話が切れると、慧はその手でネットの渦を閲覧し始める。
「きっとSNSは大混乱だぞぅ」
この前必死にコピー本を出した杏花梨が気になり、筧ぽんたのSNSへ足を運ぶ。最新投稿が1件。
『ダンディおじたまがああああああああああああああ!!!!!!』
嗚呼……と思っていると、大賑わいのコメントの中で妙なレスに目が行った。
『総集編終了wwwwwwwwwww』
『コピー本買った奴乙』
『公 式 は 我 に 味 方 し た』
あれっ? と思い、先日のイベントで後ろにいた両隣が脳裏を過る。まさかなと思いはしたものの、その可能性も捨てきれない。大手サークルのSNSだ、色んな人が来よう。そう考え直し、嫌な思いに使っている時間はないとSNSを閉じる。
「うぬぬぅ……オーウェン様がああ見えて奥手だからいけないんだ……! ニルのこと大事にしすぎなんだよぉ! もうとっととくっつけよお前ら!!」
当然、そんな公式設定はない。
ダッシュの発売日である。
下校して自宅に戻ってから、帰り際に買った週刊誌をウッキウキで読んでいた慧であったが、読み終える頃には顔面蒼白となって震えていた。おおよそ彼女達が大好きなクランケモーテルの連載に何かあったのは分かるが、良くない知らせのようである。
まあ、それを当然、鈴に貸すわけだ。
「鈴ちゃ、ヤバイ」
「キャッ! ナニナニ~! ヤバイの!?」
「そうじゃねい。気をしっかり持ちながら読むのですよ」
「えっ……何だその衣替えで自分だけ夏服着て登校しましたよみたいな顔」
「まずは読むのだ。私は原稿に向き合わなくてはならない。行かねば」
そう言い残し、慧は哀愁の後ろ姿を鈴に見せつけながら自宅に戻っていく。
部屋に戻った慧はスマホを握り、ベッドの上に腰掛ける。投稿サイトにアクセスした後、書きかけの原稿を前に自分の文章を眺め始めた。
「……ダンディが女だったなんて……」
どうやら週刊誌の方で、ダンディとやらの性別が判明したらしい。おそらく今までずっと男性だと思っていた女性ファンは、あちらにからめたりこちらにからめたりして妄想に励んでいたに違いない。今頃世の中の腐女子たちは大混乱となっているだろう。
「ニルと異母兄妹とかまずいよぉ……これじゃ話が繋がらなくなる」
慧は文章を遡り、オーウェンとダンディがニルを巡って火花を散らすシーンを読み返していく。いくつか読んだところで、天を仰いだ。
「ダミだ……言葉の言い変えもできない……。設定自体変えないとおかしくなる……」
ベッドに沈んで悩んでいると、窓の外で鈴の悲鳴が聞こえた。鈴が原作最新話を読み終えたところだろう、状況を把握していないつくも神の慌てた声も聞こえる。
程なくして、鈴の部屋の窓が勢いよく開けられた。
「慧いぃぃ!!」
起き上がり、こちらも窓を開けると、鈴が声を張り上げる。
「なんこれ!!」
「公式がやらかしましたよ!」
「冬コミ二ヶ月前とかないわー!」
「くぅ……原稿にダンディ沢山出しちゃってるよぉ」
「公式これ、めっちゃニルがダンディ隠してんじゃん。ずっと前からアラステアだって知ってたんじゃんこれーっ!」
「だからこの前勘違いして、オーウェン様のこと置いてっちゃったんだよ!」
「そうか! アラステアだと思ったんだあれ! そういうことかよおお!」
「まんまと公式に踊らされてぬか喜びしちゃった訳だねぃ、わしらは……」
「筧ぽんた神なんて命削って突発本出したのに……!!」
鈴の部屋では、背後で狼狽えるつくも神が見える。
「お、お二人とも、ご近所迷惑になりますから落ち着いて……」
「どうやって落ち着けろっていうんだこれでぇ!!」
「私、二段組で70ページくらい書いちゃってるよお……!!」
「ま、まだ締め切りまで1ヶ月とちょっとあります。よく考察すれば十分修正対応できる期間ですし、何なら締め切りを通常入稿に延ばしてもいいのですよ」
そこで鈴が悲鳴を上げる。
「ぐあああ……!! 呪いか!? これもキサマの呪いか!? 原作者の心までも操れるというのか付喪神めええ!!」
「何もしてませんよ小生は! いいから窓を閉めて、部屋に行くなりスマホで会話するなりして下さい!」
つくも神によってピシャリと窓が閉められ、鈴と慧の間が遮断される。
そのすぐ後、慧のスマホからクランケモーテルのイメージミュージックが。着信に出ると鈴の声が聞こえた。
「どうすんの慧、そっち量がハンパないじゃん?」
「うーん……でも文字だから、何とかしようとすれば何とかなると思うし……ちょっともう一度、公式設定を考え直してみるよ。つか、鈴ちゃ絵だから、そっちの方が大変じゃない? 平気そう?」
「んにゃー、こっちはギャグとコメディだから何とでもなるよ。今回のコレすら昇華させて笑いに変えられるし」
「ギャグコメつおい」
「じゃあ一応、早割りのままで進めよう……。ムリならつくもも言ってた通り、通常締め切りに延長ってことで」
「オケ」
「じゃあ健闘を祈る」
通話が切れると、慧はその手でネットの渦を閲覧し始める。
「きっとSNSは大混乱だぞぅ」
この前必死にコピー本を出した杏花梨が気になり、筧ぽんたのSNSへ足を運ぶ。最新投稿が1件。
『ダンディおじたまがああああああああああああああ!!!!!!』
嗚呼……と思っていると、大賑わいのコメントの中で妙なレスに目が行った。
『総集編終了wwwwwwwwwww』
『コピー本買った奴乙』
『公 式 は 我 に 味 方 し た』
あれっ? と思い、先日のイベントで後ろにいた両隣が脳裏を過る。まさかなと思いはしたものの、その可能性も捨てきれない。大手サークルのSNSだ、色んな人が来よう。そう考え直し、嫌な思いに使っている時間はないとSNSを閉じる。
「うぬぬぅ……オーウェン様がああ見えて奥手だからいけないんだ……! ニルのこと大事にしすぎなんだよぉ! もうとっととくっつけよお前ら!!」
当然、そんな公式設定はない。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
赤毛の行商人
ひぐらしゆうき
大衆娯楽
赤茶の髪をした散切り頭、珍品を集めて回る行商人カミノマ。かつて父の持ち帰った幻の一品「虚空の器」を求めて国中を巡り回る。
現実とは少し異なる19世紀末の日本を舞台とした冒険物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる