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40 太古から伝わるオタク術
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何ということだ。杏花梨と大地の母、藤原女将は古の同人オタクだった。鈴と慧はちゃんこ料理藤原で短期のバイトをしていた時にお世話になったオーナーということもあり、パニックですでに脳から質問事項を放り投げて忘れてしまっている。
そこは年の功。
「実はね、二人がバイトに来た時から気が付いていたんです」
「やはり」
「オタクはオタクを察知する能力がありますからね、ピーンときましたよ」
「分かります……イベント会場行く時、道に迷ったらオタクを探します……」
「ひええ……オタ活するのにバイトしてたのバレてたのかぁ……恥ずかしい……」
「何をおっしゃいます、何も恥ずかしいことなんかないですよ。自分の好きなことを自分の力で切り開く姿は美しいのです」
何となくこの姿勢がつくも神に似ている気がする。年を取ると人はそうなっていくのだろうか、積み重ねられた経験と年月が言葉に厚みを持たせてくるようにも思える。
「お母さん、慧さんは文字書きなんだって。基本的なこと教えてあげて」
「はいはい、任して頂戴」
「ひええ……しゅみません……お手数お掛けしますうぅ……」
画面の端に杏花梨が寄り、藤原女将が中央に座る。
「以前、杏花梨から漫画の描き方を伝授されたそうですね」
「伝授」
「はい師父!」
年は取っても藤原女将もオタクなのだ、彼女にもオタクスイッチがある。それがちゃんこからオタクに切り替わると、言葉の選びも様子がおかしくなる様子。
「じゃあ、核はもう分かっているかと思います。パッション、全ては自由に、その思いの丈をぶつければ良い。これはオーケーですか?」
「オーケーであります!」
「よろしい。ではまず最初に……小説の書き方に、正解はないということを覚えておいて下さい。どんな文字を使ってもいいし、設定も好きでいい」
「えっ!」
「小説の場合は、読者となる人達が『読みやすいか』で、設定を考えます」
藤原女将が杏花梨のパソコンを操作し始める。さすが古のオタク、パソコンの操作もお手の物だ。パッと画面が切り替わり、文書作成ソフトの1ページが表示される。
「基本的には、漫画原稿と同じようなものです。外枠があり、裁ち切りがある。その内側に約束の大地」
「約束の大地キタ」
「ただ、文字は内側を大きく空けなければいけません。小説は厚みがでるものですから、ノド側に文字が入り込みやすい。内枠からノド側の余白を更に5ミリから1センチ多くつけるのが、読みやすく美しく見せる方法です」
「ふんふん」
「私はこれにプラスして、下に余白を多くつけます」
「その理由は」
「人の目線は上にあるからです。下が広い方が文字が上に印刷されるので、多少読みやすくなるからですね」
「確かに、お腹の上に本を置いて読んだりします」
そして藤原女将は『あ』の文字を画面いっぱいに入力していく。
「あとは文字の大きさであるポイント数、行間、文字数、このバランスを目で見て、自分が読みやすいと思うものを設定すればいいのですが、ここは完全にお好みです」
9pt、10pt、11ptと文字の設定を変えてくれたが、慧には何が良いのかよく分からない。
「目安の数字はないのでしょうか……」
「書籍になっているものから文字数を割り出してあるサイトなどがあるので、そちらを参考にするのがいいと思いますよ。そこには画像で余白の大きさなんかも載っていたりしますので、把握しやすいかと思います」
「はい!」
画面は杏花梨の部屋に戻る。
「でもね、田辺さん。現代の小説書きは色々と優遇されているのですよ」
「どのように?」
「投稿サイトから、印刷所に入稿できちゃうのですよ」
「なん……だと」
「レイアウトもやってくれて、好きな画像をテンプレートとして使えたり、至れり尽くせり」
「にゃにぃぃ!!」
「完全自分でレイアウトを含めてやってしまってもいいのだけれど、こうやって便利なものを使っても創作ができますよ、というお話でした」
文字は漫画ほど難しいお約束はない。設定さえできれば後は勝手に文章作成ソフトがやってくれる。慧はそれが分かってほっと胸をなで下ろす。
「ありがとうございます! そんな便利な機能があるの、全然知らなかったです!」
「文字はね、いくらでも変更が利くので、後から気が変わったらバンバン変えちゃって大丈夫ですよ。いじり倒しながら自分の気の済む形に持って行く、これが文字の本を出す醍醐味でもあるのです」
そこまで聞いて、慧に本を出す実感が湧いてきた様子。
「そっか……最初から形を決めてなくても、文字ならコピペして移動もできるから、大体の形を決めておいて、書き始めちゃえばいいんだ」
「そう、昔のような紙の執筆ではなくなりましたからね。デジタルは創作者たちの苦労を大きく減らしてくれた」
そこでふと、慧は昔のオタ活に興味が湧いた。
「女将さんが同人誌をやってた頃って、どういうカンジだったのですか?」
そこは年の功。
「実はね、二人がバイトに来た時から気が付いていたんです」
「やはり」
「オタクはオタクを察知する能力がありますからね、ピーンときましたよ」
「分かります……イベント会場行く時、道に迷ったらオタクを探します……」
「ひええ……オタ活するのにバイトしてたのバレてたのかぁ……恥ずかしい……」
「何をおっしゃいます、何も恥ずかしいことなんかないですよ。自分の好きなことを自分の力で切り開く姿は美しいのです」
何となくこの姿勢がつくも神に似ている気がする。年を取ると人はそうなっていくのだろうか、積み重ねられた経験と年月が言葉に厚みを持たせてくるようにも思える。
「お母さん、慧さんは文字書きなんだって。基本的なこと教えてあげて」
「はいはい、任して頂戴」
「ひええ……しゅみません……お手数お掛けしますうぅ……」
画面の端に杏花梨が寄り、藤原女将が中央に座る。
「以前、杏花梨から漫画の描き方を伝授されたそうですね」
「伝授」
「はい師父!」
年は取っても藤原女将もオタクなのだ、彼女にもオタクスイッチがある。それがちゃんこからオタクに切り替わると、言葉の選びも様子がおかしくなる様子。
「じゃあ、核はもう分かっているかと思います。パッション、全ては自由に、その思いの丈をぶつければ良い。これはオーケーですか?」
「オーケーであります!」
「よろしい。ではまず最初に……小説の書き方に、正解はないということを覚えておいて下さい。どんな文字を使ってもいいし、設定も好きでいい」
「えっ!」
「小説の場合は、読者となる人達が『読みやすいか』で、設定を考えます」
藤原女将が杏花梨のパソコンを操作し始める。さすが古のオタク、パソコンの操作もお手の物だ。パッと画面が切り替わり、文書作成ソフトの1ページが表示される。
「基本的には、漫画原稿と同じようなものです。外枠があり、裁ち切りがある。その内側に約束の大地」
「約束の大地キタ」
「ただ、文字は内側を大きく空けなければいけません。小説は厚みがでるものですから、ノド側に文字が入り込みやすい。内枠からノド側の余白を更に5ミリから1センチ多くつけるのが、読みやすく美しく見せる方法です」
「ふんふん」
「私はこれにプラスして、下に余白を多くつけます」
「その理由は」
「人の目線は上にあるからです。下が広い方が文字が上に印刷されるので、多少読みやすくなるからですね」
「確かに、お腹の上に本を置いて読んだりします」
そして藤原女将は『あ』の文字を画面いっぱいに入力していく。
「あとは文字の大きさであるポイント数、行間、文字数、このバランスを目で見て、自分が読みやすいと思うものを設定すればいいのですが、ここは完全にお好みです」
9pt、10pt、11ptと文字の設定を変えてくれたが、慧には何が良いのかよく分からない。
「目安の数字はないのでしょうか……」
「書籍になっているものから文字数を割り出してあるサイトなどがあるので、そちらを参考にするのがいいと思いますよ。そこには画像で余白の大きさなんかも載っていたりしますので、把握しやすいかと思います」
「はい!」
画面は杏花梨の部屋に戻る。
「でもね、田辺さん。現代の小説書きは色々と優遇されているのですよ」
「どのように?」
「投稿サイトから、印刷所に入稿できちゃうのですよ」
「なん……だと」
「レイアウトもやってくれて、好きな画像をテンプレートとして使えたり、至れり尽くせり」
「にゃにぃぃ!!」
「完全自分でレイアウトを含めてやってしまってもいいのだけれど、こうやって便利なものを使っても創作ができますよ、というお話でした」
文字は漫画ほど難しいお約束はない。設定さえできれば後は勝手に文章作成ソフトがやってくれる。慧はそれが分かってほっと胸をなで下ろす。
「ありがとうございます! そんな便利な機能があるの、全然知らなかったです!」
「文字はね、いくらでも変更が利くので、後から気が変わったらバンバン変えちゃって大丈夫ですよ。いじり倒しながら自分の気の済む形に持って行く、これが文字の本を出す醍醐味でもあるのです」
そこまで聞いて、慧に本を出す実感が湧いてきた様子。
「そっか……最初から形を決めてなくても、文字ならコピペして移動もできるから、大体の形を決めておいて、書き始めちゃえばいいんだ」
「そう、昔のような紙の執筆ではなくなりましたからね。デジタルは創作者たちの苦労を大きく減らしてくれた」
そこでふと、慧は昔のオタ活に興味が湧いた。
「女将さんが同人誌をやってた頃って、どういうカンジだったのですか?」
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