つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

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 鈴がデジタル原稿の最初のとっかかりをやり始めた頃、ベッドの上で筋肉痛にやられて固まっている慧が呟いた。

「デジタルマンガの描き方は杏花梨さんから教わったけど、小説も同じかなあ?」
「む、そういやそうだね。杏花梨さんの説明を聞いてた時は、ぶわっとした感覚だけで聞いてたから気づかなかったや」
「つくもさん、ネットに何かいい情報落ちてなあい?」

 つくも神は少し考え、顎に手を持って行く。

「こういう場合、小生ではなく、場数を踏んでいる杏花梨さんに聞いてみるのがよろしいのでは」
「でも杏花梨さんは神絵師だよ、文字書きじゃないもん」
「オタク方面の交友関係が広いとお聞きしましたよ。そこに文字書き様がいらっしゃるか聞いてみるのは如何でしょう」
「にゃるほど」

 時計を見ると17時あたり。

「お仕事してる人は、まだ会社だよなあ」
「じゃあ私からチャットツールにメッセージ入れとくねぃ」

 慧が杏花梨に連絡を入れてから1時間後、シュポッという音と共に返事が来た。それを慧が読み上げる。

「何かねぃ、文字書きのお友達はいるみたいなんだけど、すごいお仕事が忙しいらしくて、中々お休みがとれないんだって」
「あっちは社会人だもんなあ……むりぽ?」
「いや、夜の22時くらいには自由になってるらしいのねぃ。だから、リモートじゃダメですか? って」
 それを聞いた鈴がキラキラと輝き始めた。
「憧れのリモート通話!? わしら二人でしかやったことない、あのリモート通話!?」
「ついに私たち以外の第三者が画面に入るよ鈴ちゃ!」
「やったあ!」

 二人のはしゃぎように、つくも神はそんなに友達が少ないのかと心配になる。

「明日の22時頃は如何ですか? だって!」
「どんとこーい!」

 知らない人とビデオ会話するというのに、人見知りの激しいオタク二人は元気のままだ。

「前回と随分違いますね?」
「なにが」
「知らない方とお話するのですよ?」
「杏花梨さんのお友達でしょお?」
「絶対善い人の自信ある!」

 なるほどと、納得。

「つくもさん、私、聞いててもよく分からないと思うから、一緒にいてねぃ」
「はい」

 まだ幼さが残る慧の心配そうな表情を受けて、つくも神は穏やかに微笑んでやる。
 何やかんやと、この二人はつくも神を頼りにしているのだろう。お互いでその辺りを意識もしておらず、よく分かっていないとは思うが、奇妙なご縁ができているようだ。


 翌日の夜。
 22時を回ると、慧のスマホに杏花梨からメッセージが届く。

「鈴ちゃー、杏花梨さんが用意できたってー」
「何やら緊張しますな」

 今更である。
 メッセージアプリを起動してしばらく待っていると、杏花梨が慧を召喚。その状態で、グループマスターの杏花梨が鈴を召喚合体! すると、3つの顔がスマホ画面に現れる。

「こんばんは!」
「こんばんはー! 一昨日はありがとうねー!」
「いえ、こちらこそ! 今日は急なお話なのに対応して下さってありがとうございますぅ~」

 つくも神は、少し遠目で慧の斜め後ろからその光景を見守っている状態。スマホの画面は見えるが、角度的に映り込まない位置だ。
 杏花梨はパソコンのからリモート通話のようで、視野角の広いお高いカメラが部屋の半分くらいを映し出していた。さすがお金持ちの家に生まれたお嬢さんオタクと関心して見ていると、その画面内に見慣れた人物がもう一人写り込む。
 すっぴんではあったが、見覚えのある顔パーツ。

「女将さん!?」
「こんばんはー! うふふふ」
「ウチのお母さん、古のオタクなんだよー」
「ぎえええええ!?」

 どうりで杏花梨が同人誌のノウハウに詳しいはずだ。分からないことの大半は一番身近な存在から学べたのだから、つおいはずである。

「うわああ! そんな……えええ」
「貴腐人です」
「お腐り様だったんです!?」
「ちなみに、最近リメイクで話題のスポーツ漫画です」
「うわああああ!! リメイク映画から愛蔵版買って読みましたあああ!! むちゃくちゃ面白かったですううう!!」
「お気に入りキャラは!」
「他校でずっと笑ってる人」
「すぐコンタクト落として買い換える人」
「ああっ……マニアックすぎる……どうしてそこ……」

 一瞬にして時を超えてしまうオタク。どんな人見知りでも、同じ作品を見ていればもう会話ができると思い込む。
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