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38 原!稿!開!始!
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筋肉痛でバキバキの身体のまま新学期一日目を終えた鈴と慧。
いつもの如く鈴の部屋に集まっているが、慧は制服のままベッドで平たくなって動かない。
「サトチャン、制服シワになるお」
「むり」
その一言に全てが集約されていた。鈴は着替え終わると、慧を放置でつくも神を呼ぶ。
「よし、みんなそろったな」
「慧さんはどうするのですかあれ……」
「脳が動いていればいい。ベッドには今、巨大な慧の脳が横たわっていると思え」
「え、超カッコイイ設定じゃん……」
「気持ち悪いですよ!?」
気を取り直し、鈴は続ける。
「9月に入った。いよいよ本腰を入れて取りかかろうと思う。つくも、カレンダーを出してくれ」
言われるまま、つくも神はデスクトップにカレンダーを表示する。
「慧さんからは見えませんが」
「問題ない。今から説明する」
鈴はマウスでスクロールし、11月と12月のカレンダーを2枚並べた。
「冬コミの合否まで2ヶ月。印刷所の締め切りもここに設定する。11月の10日だ!」
ベッドに横になった脳がゴクリと喉を鳴らす。
「そ……それは、早割入稿ということでしょうか」
「いかにも」
早割入稿とは、通常締め切りよりも早い入稿をすることによって、印刷所の負担を減らし、なおかつ、印刷代が割引かれて自分たちのお財布にも優しいという、win-winな入稿方法だ。大体一ヶ月前に締め切りが設定されているので、計画性のある御仁しかできないということから、中々のハードルとされる。よい子ちゃん入稿などと評されるなど、印刷所からの信頼も厚い。
逆に、割り増し入稿というのもあって、これはその名の通り、早割入稿と全てが逆の入稿方法だ。印刷所も死ぬ。自分も死ぬ。デスの塊としか言えない方法なので一般的には推奨されていない。だが印刷所の料金設定が存在するので、金を払って死の契約を交わす人達もいる。
通常入稿というのは、早割でもなく、割り増しでもなく、印刷所がナチュラルに印刷できる期間に入稿する締め切りを指す。ここまでに入れられれば、色々な意味で人として合格のラインだ。
「わしらは今、つくもの呪いにかかっている。早割で動いて丁度いいと思うんじゃ」
「呪いだなんて心外な」
「そうだねぃ……今までのパターンを考えると、慎重になるのがベストだねぃ……」
不服なつくも神をスルーし、話を進める。
「ということで、早割の締め切りまで2ヶ月ある。今はお休みの期間じゃないから、学校に行きながらの活動だ。どのくらいのページ数にするかだが……」
「先生、一般的な同人誌の平均が36ページと聞きました」
慧がそう言うと、つくも神が話に割り込む。
「合同誌なのですよね?」
「うむ」
「では表紙を抜いた32ページ、トビラと奥付も抜いて30ページ。これを2分割したら、1人15ページになってしまいます。2人で出すとしたら、少ないのでは」
「うーん……そうか」
「あと、お二人は絵描きと文字書きなのですよね?」
「うん。私はマンガ。慧は小説」
「マンガの15枚と、小説の15枚は、かなり違うのでは」
あ、と思い、鈴と慧の視線が合う。
「そういやそうだね。どうしよう」
「鈴ちゃは絵だから、B5が良いよねぃ。私小説だから、2段組みしてもB5は広すぎるし……」
「今までは二人ともネットに投げてただけだから、そんなこと気にしなかった……」
二人の脳内で、B5のマンガ本と、文庫サイズの小説本が浮かび上がる。どちらかにこれを組み込もうとしてこんがらがり、どちらも美しくないと気が付いて絶句した。
そこでつくも神が言ってやる。
「個人誌に分けてみては?」
「ええっ!?」
二人同時に悲鳴が上がり、動きが止まる。
「抱き合わせ、という販売方法があるようですよ」
一般的に合同誌は1冊になっているものが多いが、判型の違うものを合同誌にしたい場合、この方法がとれる。
「読みやすさ見やすさで言えば、それが最も美しいかと」
「で……でも、私たちまだ1冊も出したことないし、いきなり個人誌を印刷とか、ハードル高くない……?」
「何を言ってらっしゃるのですか、杏花梨さんに基礎は教えて頂いているのですよ? 最初のハードルはもう越えているじゃないですか」
「でもでも……本当に基本的なことしか分からないしぃ……。いざ原稿が終わったら、どうやって印刷所に入れればいいのかとか、よく分かってないしぃ……」
「大丈夫です。小生がいるではないですか。一緒に一つずつ考えていきましょう。小生にその手伝いをしてくれと言ったのは、貴女たちお二人だというのをお忘れですか?」
そういやそうだった。つくも神が現れた時、力が手に入ったと大喜びしていたではないか。AIとは違う役割で、二人のサークル活動をサポートし、同人誌を出しましょうと。
「お……おお……ほ、本当に、イケるかな……?」
「大丈夫です。無理はせず、平均を目標としましょう。鈴さんがB5で36ページ、慧さんが文庫サイズの一段組み40ページあたりでどうでしょう」
「ヒッ……! よ、よく分からないけど、そんな書けるかな!?」
「鈴さんが1ヶ月15ページ、慧さんが17ページですよ」
「おおっ、イケそう……!?」
「た、大したことない……!?」
「何だ、実はちょろいのでは」
「二ヶ月あるもんねぃ!」
「そうだ! オレたちは早めにとりかかっている!」
「よいこ!」
「よっしゃあー!! さっそく原稿にとりかかるぞおぉぉ!!」
「むり」
慧は筋肉痛で、ベッドに横になった脳から、ちゃんとした人間になるのにはしばらくかかりそうだ。
いつもの如く鈴の部屋に集まっているが、慧は制服のままベッドで平たくなって動かない。
「サトチャン、制服シワになるお」
「むり」
その一言に全てが集約されていた。鈴は着替え終わると、慧を放置でつくも神を呼ぶ。
「よし、みんなそろったな」
「慧さんはどうするのですかあれ……」
「脳が動いていればいい。ベッドには今、巨大な慧の脳が横たわっていると思え」
「え、超カッコイイ設定じゃん……」
「気持ち悪いですよ!?」
気を取り直し、鈴は続ける。
「9月に入った。いよいよ本腰を入れて取りかかろうと思う。つくも、カレンダーを出してくれ」
言われるまま、つくも神はデスクトップにカレンダーを表示する。
「慧さんからは見えませんが」
「問題ない。今から説明する」
鈴はマウスでスクロールし、11月と12月のカレンダーを2枚並べた。
「冬コミの合否まで2ヶ月。印刷所の締め切りもここに設定する。11月の10日だ!」
ベッドに横になった脳がゴクリと喉を鳴らす。
「そ……それは、早割入稿ということでしょうか」
「いかにも」
早割入稿とは、通常締め切りよりも早い入稿をすることによって、印刷所の負担を減らし、なおかつ、印刷代が割引かれて自分たちのお財布にも優しいという、win-winな入稿方法だ。大体一ヶ月前に締め切りが設定されているので、計画性のある御仁しかできないということから、中々のハードルとされる。よい子ちゃん入稿などと評されるなど、印刷所からの信頼も厚い。
逆に、割り増し入稿というのもあって、これはその名の通り、早割入稿と全てが逆の入稿方法だ。印刷所も死ぬ。自分も死ぬ。デスの塊としか言えない方法なので一般的には推奨されていない。だが印刷所の料金設定が存在するので、金を払って死の契約を交わす人達もいる。
通常入稿というのは、早割でもなく、割り増しでもなく、印刷所がナチュラルに印刷できる期間に入稿する締め切りを指す。ここまでに入れられれば、色々な意味で人として合格のラインだ。
「わしらは今、つくもの呪いにかかっている。早割で動いて丁度いいと思うんじゃ」
「呪いだなんて心外な」
「そうだねぃ……今までのパターンを考えると、慎重になるのがベストだねぃ……」
不服なつくも神をスルーし、話を進める。
「ということで、早割の締め切りまで2ヶ月ある。今はお休みの期間じゃないから、学校に行きながらの活動だ。どのくらいのページ数にするかだが……」
「先生、一般的な同人誌の平均が36ページと聞きました」
慧がそう言うと、つくも神が話に割り込む。
「合同誌なのですよね?」
「うむ」
「では表紙を抜いた32ページ、トビラと奥付も抜いて30ページ。これを2分割したら、1人15ページになってしまいます。2人で出すとしたら、少ないのでは」
「うーん……そうか」
「あと、お二人は絵描きと文字書きなのですよね?」
「うん。私はマンガ。慧は小説」
「マンガの15枚と、小説の15枚は、かなり違うのでは」
あ、と思い、鈴と慧の視線が合う。
「そういやそうだね。どうしよう」
「鈴ちゃは絵だから、B5が良いよねぃ。私小説だから、2段組みしてもB5は広すぎるし……」
「今までは二人ともネットに投げてただけだから、そんなこと気にしなかった……」
二人の脳内で、B5のマンガ本と、文庫サイズの小説本が浮かび上がる。どちらかにこれを組み込もうとしてこんがらがり、どちらも美しくないと気が付いて絶句した。
そこでつくも神が言ってやる。
「個人誌に分けてみては?」
「ええっ!?」
二人同時に悲鳴が上がり、動きが止まる。
「抱き合わせ、という販売方法があるようですよ」
一般的に合同誌は1冊になっているものが多いが、判型の違うものを合同誌にしたい場合、この方法がとれる。
「読みやすさ見やすさで言えば、それが最も美しいかと」
「で……でも、私たちまだ1冊も出したことないし、いきなり個人誌を印刷とか、ハードル高くない……?」
「何を言ってらっしゃるのですか、杏花梨さんに基礎は教えて頂いているのですよ? 最初のハードルはもう越えているじゃないですか」
「でもでも……本当に基本的なことしか分からないしぃ……。いざ原稿が終わったら、どうやって印刷所に入れればいいのかとか、よく分かってないしぃ……」
「大丈夫です。小生がいるではないですか。一緒に一つずつ考えていきましょう。小生にその手伝いをしてくれと言ったのは、貴女たちお二人だというのをお忘れですか?」
そういやそうだった。つくも神が現れた時、力が手に入ったと大喜びしていたではないか。AIとは違う役割で、二人のサークル活動をサポートし、同人誌を出しましょうと。
「お……おお……ほ、本当に、イケるかな……?」
「大丈夫です。無理はせず、平均を目標としましょう。鈴さんがB5で36ページ、慧さんが文庫サイズの一段組み40ページあたりでどうでしょう」
「ヒッ……! よ、よく分からないけど、そんな書けるかな!?」
「鈴さんが1ヶ月15ページ、慧さんが17ページですよ」
「おおっ、イケそう……!?」
「た、大したことない……!?」
「何だ、実はちょろいのでは」
「二ヶ月あるもんねぃ!」
「そうだ! オレたちは早めにとりかかっている!」
「よいこ!」
「よっしゃあー!! さっそく原稿にとりかかるぞおぉぉ!!」
「むり」
慧は筋肉痛で、ベッドに横になった脳から、ちゃんとした人間になるのにはしばらくかかりそうだ。
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