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33 宅配搬出は大混雑
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搬出口は、宅配便を出そうというサークルで長蛇の列ができていた。
「完全に宅配が大手サークル也」
どこに並べば良いかも分からず、列の最後尾を探して遠くを見つめる4人。
「全員で行くと混雑を助長してしまうので、鈴さんか慧さん、どちらか来てください。大地、あそこの椅子で一緒に待ってて」
「力仕事は慧に向いてないから、私行ってくるよ」
「すまないねぇ」
そう二手に分かれ、荷物番と搬出組みが別行動をとる。
鈴は台車を押しながら大分先を見ていた。
「鈴さん、前の人の足、引かないように注意してあげてくださいね」
ハッとして台車の前方を確認し、車間距離を保つ。こんなところまで視野が行き届く杏花梨をしゅげえと思いつつ、注意深く荷物を前に進めていく。
横を見れば、荷造り梱包をしているサークルが大勢見える。それを見ている鈴に杏花梨は教えてあげた。
「サークル案内にも書いてあるんだけど、梱包するガムテープなんかは自分で用意してくるのが当たり前なのです。うっかり忘れたとか、テープが足りなかったとかいう人達が、宅配便の人達が用意してくれたガムテープを頂く感じですね」
「なるほどー」
「宅配所でも販売ブースでも、売ってくれている場合もあります。そういう場合は買ってしまうといいかも」
「ふんふん」
「たまに友達だからテープを貸してくれと言ってくる人もいますが、搬出に使うなら自分で用意してこないといけません。以前、みんなが貸してくれと言ってきて、断らなかったら全部使われてしまい、搬出の時に大変な目にあってしまったー! なんて話もあるくらいなので、意外と切実な問題なのです」
「完全に他人のガムテープ係ですなそれ」
たかがガムテープ、されどガムテープ。しっかり用意してきた誰かが困ることになるのを想像できないと、基本的にサークル活動を続けるのは向いていない。特に中堅から大手になるほど、箱を積み上げて移動させないといけないのに、サークルスペースで閉じられないとか、地獄でしかない。
「ぬう……こんなところまで大事なことだらけではないか。今日お手伝いできて、本当によかったです……」
「こちらこそ、お手伝いしてもらえたから、本っっ当に助かりました! 大地だけじゃどうにもならなかっただろうし、急遽入ってくれた2人にはもう頭が上がらないです。後で慧さんにも言っておかないとだわ……!」
「いやいや」
「いやいやいやいや」
「いやいやいやいやいやいや」
お互いでひとしきり感謝しあった後、宅配のお兄さんに箱を渡す。こちらが箱を台に乗せれば、お兄さんがちょっと持ち上げて重量測定。あとはもうお金を払うだけのスピーディーさに、鈴は口を開けた。
「持っただけで荷物の重さが分かるとか、職人芸すぐる……」
ここは色々な特殊技能をもった戦士が集まる場所なのだなと、改めて思った。
やることは全部終わった。待ち合わせのベンチに向かうと、慧と大地が放心気味に宙を見つめていたので、杏花梨が声をかける。
「お疲れのご様子」
「当たり前だ」
「ごめん! 本当ごめん! でも助かった!」
荷物を受け取り、帰宅しようとなった時。
「さて、ご飯食べに行きましょう。2人は何食べたいですか? ご馳走しますので、遠慮せず好きなものを言って下さい!」
「エッ!?」
「売り子さんとの打ち上げ代金は、全部サークル主持ちが当然ですよ」
「それに僕も入っているんだろうな」
「はい、弟様~」
「僕は肉が良い」
親なら当たり前だが、他人様にご飯代を出してもらうなど、鈴と慧は初めてのことで、恐縮して首を横に振った。
「いややや! さすがにそれは悪すぎますよ!」
「お昼出してもらったので十分ですし……!」
「いいんですよー、出させて下さい。働いた対価をお渡しできないのは、藤原家では恥なのです」
鈴と慧はハッとして言葉を止める。バイトを経験してここに辿り着いた2人は、その意味がよく分かるからだ。
「ええ……じゃ、じゃあ……チーズがどっさりかかったカンジのもの……?」
「私、甘い物があれば、どこでも……ウヒッ」
「オッケー! じゃあスペイン料理にしましょう。大ちゃんそれで平気?」
「スペイン料理? 食べたことないぞ」
「めっちゃうまいから。絶対みんな好きなはずだから食べさせてあげたい」
「まあ僕は肉があればどこでも良い」
フランスの近くという知識しか無い場所で、鈴と慧が震え上がった。チーズを求めたのでイタリアのファミレスあたりかなと思ったのに、変化球でスペインがキタ。
「ひぃ……わしらこんなTシャツにジーンズみたいなカッコですけど、平気なのですか……」
「しかも汗だくで、缶に閉じ込められたイワシみたいな匂いしますよぉ……」
「大丈夫大丈夫、個人でやってる小さなお店だから、家庭的でほのぼのしたトコですよ」
家庭的と聞けば印象は良いのだが、アットホームと言われるとウッと身構えてしまうのはバイトを経験した日本人だからだろう。そんな境目はあったが、杏花梨がおすすめしてくれるなら平気に違いない。
「ひゃ~、ドキドキ!」
「どんなお料理なんだろう!」
みんなでイベント帰りに打ち上げとか、夢のまた夢すぎて考えたことも無かった。
楽しみが膨らみ、疲れた足取りも軽くなる。
「完全に宅配が大手サークル也」
どこに並べば良いかも分からず、列の最後尾を探して遠くを見つめる4人。
「全員で行くと混雑を助長してしまうので、鈴さんか慧さん、どちらか来てください。大地、あそこの椅子で一緒に待ってて」
「力仕事は慧に向いてないから、私行ってくるよ」
「すまないねぇ」
そう二手に分かれ、荷物番と搬出組みが別行動をとる。
鈴は台車を押しながら大分先を見ていた。
「鈴さん、前の人の足、引かないように注意してあげてくださいね」
ハッとして台車の前方を確認し、車間距離を保つ。こんなところまで視野が行き届く杏花梨をしゅげえと思いつつ、注意深く荷物を前に進めていく。
横を見れば、荷造り梱包をしているサークルが大勢見える。それを見ている鈴に杏花梨は教えてあげた。
「サークル案内にも書いてあるんだけど、梱包するガムテープなんかは自分で用意してくるのが当たり前なのです。うっかり忘れたとか、テープが足りなかったとかいう人達が、宅配便の人達が用意してくれたガムテープを頂く感じですね」
「なるほどー」
「宅配所でも販売ブースでも、売ってくれている場合もあります。そういう場合は買ってしまうといいかも」
「ふんふん」
「たまに友達だからテープを貸してくれと言ってくる人もいますが、搬出に使うなら自分で用意してこないといけません。以前、みんなが貸してくれと言ってきて、断らなかったら全部使われてしまい、搬出の時に大変な目にあってしまったー! なんて話もあるくらいなので、意外と切実な問題なのです」
「完全に他人のガムテープ係ですなそれ」
たかがガムテープ、されどガムテープ。しっかり用意してきた誰かが困ることになるのを想像できないと、基本的にサークル活動を続けるのは向いていない。特に中堅から大手になるほど、箱を積み上げて移動させないといけないのに、サークルスペースで閉じられないとか、地獄でしかない。
「ぬう……こんなところまで大事なことだらけではないか。今日お手伝いできて、本当によかったです……」
「こちらこそ、お手伝いしてもらえたから、本っっ当に助かりました! 大地だけじゃどうにもならなかっただろうし、急遽入ってくれた2人にはもう頭が上がらないです。後で慧さんにも言っておかないとだわ……!」
「いやいや」
「いやいやいやいや」
「いやいやいやいやいやいや」
お互いでひとしきり感謝しあった後、宅配のお兄さんに箱を渡す。こちらが箱を台に乗せれば、お兄さんがちょっと持ち上げて重量測定。あとはもうお金を払うだけのスピーディーさに、鈴は口を開けた。
「持っただけで荷物の重さが分かるとか、職人芸すぐる……」
ここは色々な特殊技能をもった戦士が集まる場所なのだなと、改めて思った。
やることは全部終わった。待ち合わせのベンチに向かうと、慧と大地が放心気味に宙を見つめていたので、杏花梨が声をかける。
「お疲れのご様子」
「当たり前だ」
「ごめん! 本当ごめん! でも助かった!」
荷物を受け取り、帰宅しようとなった時。
「さて、ご飯食べに行きましょう。2人は何食べたいですか? ご馳走しますので、遠慮せず好きなものを言って下さい!」
「エッ!?」
「売り子さんとの打ち上げ代金は、全部サークル主持ちが当然ですよ」
「それに僕も入っているんだろうな」
「はい、弟様~」
「僕は肉が良い」
親なら当たり前だが、他人様にご飯代を出してもらうなど、鈴と慧は初めてのことで、恐縮して首を横に振った。
「いややや! さすがにそれは悪すぎますよ!」
「お昼出してもらったので十分ですし……!」
「いいんですよー、出させて下さい。働いた対価をお渡しできないのは、藤原家では恥なのです」
鈴と慧はハッとして言葉を止める。バイトを経験してここに辿り着いた2人は、その意味がよく分かるからだ。
「ええ……じゃ、じゃあ……チーズがどっさりかかったカンジのもの……?」
「私、甘い物があれば、どこでも……ウヒッ」
「オッケー! じゃあスペイン料理にしましょう。大ちゃんそれで平気?」
「スペイン料理? 食べたことないぞ」
「めっちゃうまいから。絶対みんな好きなはずだから食べさせてあげたい」
「まあ僕は肉があればどこでも良い」
フランスの近くという知識しか無い場所で、鈴と慧が震え上がった。チーズを求めたのでイタリアのファミレスあたりかなと思ったのに、変化球でスペインがキタ。
「ひぃ……わしらこんなTシャツにジーンズみたいなカッコですけど、平気なのですか……」
「しかも汗だくで、缶に閉じ込められたイワシみたいな匂いしますよぉ……」
「大丈夫大丈夫、個人でやってる小さなお店だから、家庭的でほのぼのしたトコですよ」
家庭的と聞けば印象は良いのだが、アットホームと言われるとウッと身構えてしまうのはバイトを経験した日本人だからだろう。そんな境目はあったが、杏花梨がおすすめしてくれるなら平気に違いない。
「ひゃ~、ドキドキ!」
「どんなお料理なんだろう!」
みんなでイベント帰りに打ち上げとか、夢のまた夢すぎて考えたことも無かった。
楽しみが膨らみ、疲れた足取りも軽くなる。
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