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32 搬出で分かる意外に大事なアレソレ
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1時を過ぎた頃には館内の人もまばらになってきた。2時になると杏花梨が片付けに入る。
「そろそろ片付けましょう。机の上にある本の数を数えて、ここにメモして下さい」
「はーい」
「大ちゃん、下から台車出して」
すっかり最初から最後まで手伝わされた大地であるが、文句も言わず付き合ってくれている。
「本の大きさ違うから、箱3つになるかな?」
鈴がそう言うと、杏花梨はキッと眉を上げる。
「大丈夫、2箱でイケる」
そう言い、てきぱきと在庫を箱にしまいはじめる光景は、まるでどこぞの落ちるブロックゲーム。きっちり2箱になったので、鈴と慧は手を叩く。
「しゅげえ……!」
「ふふん」
こうして工夫して経費を少しでも抑えていくのかと、参考になった。
紙ゴミをまとめ、平たく畳んでから台車の隙間に差し込んで、あとは荷物を背負った後、忘れ物がないかスペースの周りを再点検。最後に折畳み椅子を畳んで朝と同じ状態にして、片付けは終了した。
「宅配便の搬送方法も見に来ますか?」
「行きます!」
それを確認した杏花梨は、両隣後ろのスペースに挨拶をしに行った。
「お疲れ様でした。今日は一日ありがとうございました。お先に失礼致します」
朝の挨拶を無視した5人組は当然帰りも無視。机を叩いていたサークルはかろうじて小声で会釈はしてくれた。
どんなに嫌なことをされても、最後まで理想のサークルとして筋を通した杏花梨に後光が差して見える。
杏花梨がかっこよく見える一方で、鈴と慧は心配にもなった。
本来なら受ける必要の無い暴力を受けて、当然彼女は傷ついているだろう。若い二人はつくも神の話していた内容があまりよく理解できなかったが、おそらくこの話はこの先オタ活を続けてサークルをやっている間も、何なら棺桶に入る時まで記憶にこびりついて回るだろう。
だからなのかは分からなかったが、鈴と慧は、杏花梨に親切にしてあげたくなった。
「杏花梨さん! 台車押させて下さい!」
「え、重いよー?」
「やってみたいー!」
「じゃあ、台車を押す時のコツも伝授しちゃいますね!」
「そんなものが……!?」
「あるある、めちゃくちゃだいじ」
そう言って鈴にハンドルを渡すと、杏花梨は横につく。出だしグッとした力がかかったが、後は良い台車だったおかげでタイヤが自然と持って行ってくれた。
「2箱でこの重さかあ。結構ありそう……」
「1箱大体20キロくらいかなあ。再生紙使うともうちょっと軽くなると思います」
「紙ってそんな重さがあるんだ」
「やべえー……部屋の同人誌で床抜けるってお父さんがよく言ってるのはこれかあ……」
「1冊の同人誌は薄いから、意外に気にしないで作っちゃうと思うんだけど、こうして箱にまとめるととんでもない重さになっちゃうから注意なんです。厚みがあるとその分かさが増すし、でもカッコイイ紙を使って本を出してみたいとか思っちゃうのもオタクの性なのですよ……」
「オタクのSaga……」
「分かる……ピカピカテカテカした紙とか使ってみたい……」
「重いよ」
「やはり……」
次は小柄な慧が交代してハンドルを押し、意外に余裕だなと思ったあたりで段差が出現。
「ぐおっ!?」
その声と共に台車がガクンと揺れて止められる。
「はい問題です」
そう言って杏花梨が人差し指を立てた。
「この段差を抜けるにはどうすればいいでしょう」
慧は力一杯前に押しているが、先に進めない。
「うぐうううう……こんな小さな段差なのに……乗り上げてくれにゃいぃ……」
「これでも今は、スロープできたりして楽になってるんですよー」
「慧、オレに変わるのだ!」
体格の良い鈴にバトンタッチして、台車が押される。それでもびくともせず、逆に荷台に積んだ荷物が大きく揺れてみんなでそれを支える始末。
「ダミか」
少し後ろで見ていた大地が口を開く。
「総重量が下に向いている。前方に力をかけてその段差を乗り上げるには、上の荷物の重さも考慮しなくてはならない。非力なお前達では無理だ」
「いや手伝えよ。一番簡単な方法だろ男手」
「僕がいる時はそれでいい。一人になった時どうする」
「ぐうの音もでねえ」
大地は眼鏡のブリッジを中指でクイと上げて続ける。
「今の状態は力が遠くにかかっている。その分ハンドルに重力がかかるため、余計な力を使うことになる」
「力を近くに持ってくればいいってこと?」
「何かオタクっぽい発言だねぃ」
「お前達と一緒にするな」
大地はオタク姉に散々コキ使われているので、オタクに対して良い印象を持っていないということもあり、この発言は仕方がない。
「よーし、じゃあ、我に力を与えよ……」
鈴が台車を一回転し、ハンドル側のタイヤを段差に当てた。
「よっ」
上に引きながら段差を利用して持ち上げるように台車を進めると、タイヤがそれを乗り上げてくれた。
「やったー!」
「正解ー!」
杏花梨が手を叩く。
「今の方法が一番楽です。荷崩れもしない。あとは、このダンボールを敷いて、そこを通るとか」
「ほほお」
「大体どこもスロープがある場所と繋がってるので、そこを通れば苦労することもないと思います。台車によってタイヤが違うので、乗り上げてくれない場合もあったりする時は、今の方法を覚えておくと何とかなるかもー」
「だいじぃぃ!!」
「ね!? だいじだったでしょ!?」
「だいじ!! 知らないでコミケで立ち往生したら確実に泣いてた……!」
ちょっとした親切心から、知識が広がった。
若い2人は、分からないなりに行動に移した。つくも神が語った言葉の意味を、ぼんやり理解できた結果だろう。
「そろそろ片付けましょう。机の上にある本の数を数えて、ここにメモして下さい」
「はーい」
「大ちゃん、下から台車出して」
すっかり最初から最後まで手伝わされた大地であるが、文句も言わず付き合ってくれている。
「本の大きさ違うから、箱3つになるかな?」
鈴がそう言うと、杏花梨はキッと眉を上げる。
「大丈夫、2箱でイケる」
そう言い、てきぱきと在庫を箱にしまいはじめる光景は、まるでどこぞの落ちるブロックゲーム。きっちり2箱になったので、鈴と慧は手を叩く。
「しゅげえ……!」
「ふふん」
こうして工夫して経費を少しでも抑えていくのかと、参考になった。
紙ゴミをまとめ、平たく畳んでから台車の隙間に差し込んで、あとは荷物を背負った後、忘れ物がないかスペースの周りを再点検。最後に折畳み椅子を畳んで朝と同じ状態にして、片付けは終了した。
「宅配便の搬送方法も見に来ますか?」
「行きます!」
それを確認した杏花梨は、両隣後ろのスペースに挨拶をしに行った。
「お疲れ様でした。今日は一日ありがとうございました。お先に失礼致します」
朝の挨拶を無視した5人組は当然帰りも無視。机を叩いていたサークルはかろうじて小声で会釈はしてくれた。
どんなに嫌なことをされても、最後まで理想のサークルとして筋を通した杏花梨に後光が差して見える。
杏花梨がかっこよく見える一方で、鈴と慧は心配にもなった。
本来なら受ける必要の無い暴力を受けて、当然彼女は傷ついているだろう。若い二人はつくも神の話していた内容があまりよく理解できなかったが、おそらくこの話はこの先オタ活を続けてサークルをやっている間も、何なら棺桶に入る時まで記憶にこびりついて回るだろう。
だからなのかは分からなかったが、鈴と慧は、杏花梨に親切にしてあげたくなった。
「杏花梨さん! 台車押させて下さい!」
「え、重いよー?」
「やってみたいー!」
「じゃあ、台車を押す時のコツも伝授しちゃいますね!」
「そんなものが……!?」
「あるある、めちゃくちゃだいじ」
そう言って鈴にハンドルを渡すと、杏花梨は横につく。出だしグッとした力がかかったが、後は良い台車だったおかげでタイヤが自然と持って行ってくれた。
「2箱でこの重さかあ。結構ありそう……」
「1箱大体20キロくらいかなあ。再生紙使うともうちょっと軽くなると思います」
「紙ってそんな重さがあるんだ」
「やべえー……部屋の同人誌で床抜けるってお父さんがよく言ってるのはこれかあ……」
「1冊の同人誌は薄いから、意外に気にしないで作っちゃうと思うんだけど、こうして箱にまとめるととんでもない重さになっちゃうから注意なんです。厚みがあるとその分かさが増すし、でもカッコイイ紙を使って本を出してみたいとか思っちゃうのもオタクの性なのですよ……」
「オタクのSaga……」
「分かる……ピカピカテカテカした紙とか使ってみたい……」
「重いよ」
「やはり……」
次は小柄な慧が交代してハンドルを押し、意外に余裕だなと思ったあたりで段差が出現。
「ぐおっ!?」
その声と共に台車がガクンと揺れて止められる。
「はい問題です」
そう言って杏花梨が人差し指を立てた。
「この段差を抜けるにはどうすればいいでしょう」
慧は力一杯前に押しているが、先に進めない。
「うぐうううう……こんな小さな段差なのに……乗り上げてくれにゃいぃ……」
「これでも今は、スロープできたりして楽になってるんですよー」
「慧、オレに変わるのだ!」
体格の良い鈴にバトンタッチして、台車が押される。それでもびくともせず、逆に荷台に積んだ荷物が大きく揺れてみんなでそれを支える始末。
「ダミか」
少し後ろで見ていた大地が口を開く。
「総重量が下に向いている。前方に力をかけてその段差を乗り上げるには、上の荷物の重さも考慮しなくてはならない。非力なお前達では無理だ」
「いや手伝えよ。一番簡単な方法だろ男手」
「僕がいる時はそれでいい。一人になった時どうする」
「ぐうの音もでねえ」
大地は眼鏡のブリッジを中指でクイと上げて続ける。
「今の状態は力が遠くにかかっている。その分ハンドルに重力がかかるため、余計な力を使うことになる」
「力を近くに持ってくればいいってこと?」
「何かオタクっぽい発言だねぃ」
「お前達と一緒にするな」
大地はオタク姉に散々コキ使われているので、オタクに対して良い印象を持っていないということもあり、この発言は仕方がない。
「よーし、じゃあ、我に力を与えよ……」
鈴が台車を一回転し、ハンドル側のタイヤを段差に当てた。
「よっ」
上に引きながら段差を利用して持ち上げるように台車を進めると、タイヤがそれを乗り上げてくれた。
「やったー!」
「正解ー!」
杏花梨が手を叩く。
「今の方法が一番楽です。荷崩れもしない。あとは、このダンボールを敷いて、そこを通るとか」
「ほほお」
「大体どこもスロープがある場所と繋がってるので、そこを通れば苦労することもないと思います。台車によってタイヤが違うので、乗り上げてくれない場合もあったりする時は、今の方法を覚えておくと何とかなるかもー」
「だいじぃぃ!!」
「ね!? だいじだったでしょ!?」
「だいじ!! 知らないでコミケで立ち往生したら確実に泣いてた……!」
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