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24 生まれて初めてのバイト代
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それから順調に月日が流れた。
宿題もお互いのノートが自分の手元に返ってきたのでそれを写し、無事終了。
自由研究がまだ少し残っているが、これは1日のイベント参加で締められる予定。
その1日は明日である。
今日はバイト最終日。何やかんやとあっという間に過ぎてしまい、働いたというより、慌てていたという感覚に近い余韻で脳がぼんやりしている。
2週間の最終日に働いた分の給料が支払われるのだが、鈴と慧は銀行口座を持っていなったので、手渡しを希望していた。
事務所に入ると、椅子に座っていたオーナーの藤原女将がこちらを向いて挨拶をしてきたので、二人でかしこまって会釈をして返す。
「ど、どうも。お世話になりました……」
「短い間だったけど、一生懸命働いてくれて、二人ともありがとうございました。ちゃんと宿題も終わったみたいだし、大地とも、杏花梨とも友達になってくれて、母としても嬉しいわ」
「フヒ……そ、そんな。こちらこそむちゃくちゃお世話になっちって……」
本人達はちゃんと話しているつもりだが、言葉づかいは怪しい。二人が16歳ということもあり、大人は微笑ましくそれを見守ってくれているが。
「はい、時給に加算50円が2週間分です。領収書を確認して、間違いなかったらサインをお願いします」
初めてのことでよく分からない。白い封筒を手渡され、領収書を探してその中を覗いた時、見たこともない枚数の1万円の新札が入っているのを目に入れて、脳液が一瞬で満ち溢れた。
自然に今までの苦労が喜びに変換され、笑顔がつく。
働いたお賃金。初めての対価。給料手渡しの醍醐味をダイレクトに受け、鈴と慧は達成感のまま、藤原女将に笑みを向ける。
「ありがとうございますっ!」
「ちゃんと数えて」
「はっ、はいっ!」
その初々しい子供を二人見ていて、藤原女将が微笑んでいる。
「私も初めてバイトでお給料もらった時、手渡しだったの。今でも思い出すわよ。よっぽど嬉しかったんでしょうね」
興奮で色々とテンパっている二人は、笑顔のままその話の続きを促す。
「本の流通でね、大きな倉庫に大勢のバイトの人達が詰め込まれて、真夏で、もおー暑いなんてもんじゃなかったわ。クーラーなんて全然利かないの。水分も摂らせてもらえなくて。死ぬ思いしてやってるのに、女性の給料は求人に書いてある半額って、現地入ってから言われるのよ。クソったれ! って今でも恨んでやってるわ」
「えっ!?」
藤原女将は笑っていたが、若い鈴と慧はそんな環境を知らない。
「大丈夫よ! 女の子であろうがなかろうが、働いただけの対価はきちんと払います。そんな思いはさせないから心配しないで。ちゃんと入っているでしょう?」
「は……はい」
数え終わった慧が頷いた。
「さあ、じゃあ、ここにサインね。はい、お疲れ様でした」
お給料を手に、鈴と慧は言葉を失ってしまった。
何だか、ちょっと寂しいのだ。
働くって、もっとしんどいことかと思っていたのに、大事だと思うことのために汗水流していると、そうでもなくなってくる。毎日続けていた2週間、やっと慣れてきたかなというあたりでぱたっと終了。もう明日からはやらなくていいのが違和感に思えてくる。
藤原女将は苦労して死にそうな思いをしたけれど、負けることなく、今こうしてお店のオーナーになって、それを見返して立派に働いている。
苦労と苦痛の境目はとてもあやふやだけれど、手の中の封筒にあるお賃金の熱さは計り知れない。
「あ……ありがとうございました」
なんと返していいか、情熱が膨らみすぎて言葉を止めてしまう。もうお礼しか言えそうにない。
「こちらこそありがとうございました。また冬も短期で募集するから、よかったら来て下さいね。経験者優遇します」
「はいっ!」
スッとそう答えてしまった。口にした後、二人とも『あれっ?』と思いはしたが、冬場にまた二人でバイトしたら楽しそうだなと、思えたのだ。
事務所を出るなり、鈴と慧は封筒を天高く掲げる。
「すごい大金をゲットしたぜぇぇー!!」
「やったよ鈴ちゃああ!! これでペンタブが買えるよぉ!!」
「ぱしょこんの電気代も払える!! つくも召喚のスマホ代も確保した!!」
「本も買える!!」
「グッズも買える!!」
「舞台も行こうよ!!」
「だだだだ! 家に帰って、つくもと経費を出そう!」
「そうだった! テンション上がりすぎて普通に使うところだった……!」
「早く帰ろう!」
「わあい!」
事務所の中で、それを一部始終聞いていた藤原女将がクスリと笑った。
宿題もお互いのノートが自分の手元に返ってきたのでそれを写し、無事終了。
自由研究がまだ少し残っているが、これは1日のイベント参加で締められる予定。
その1日は明日である。
今日はバイト最終日。何やかんやとあっという間に過ぎてしまい、働いたというより、慌てていたという感覚に近い余韻で脳がぼんやりしている。
2週間の最終日に働いた分の給料が支払われるのだが、鈴と慧は銀行口座を持っていなったので、手渡しを希望していた。
事務所に入ると、椅子に座っていたオーナーの藤原女将がこちらを向いて挨拶をしてきたので、二人でかしこまって会釈をして返す。
「ど、どうも。お世話になりました……」
「短い間だったけど、一生懸命働いてくれて、二人ともありがとうございました。ちゃんと宿題も終わったみたいだし、大地とも、杏花梨とも友達になってくれて、母としても嬉しいわ」
「フヒ……そ、そんな。こちらこそむちゃくちゃお世話になっちって……」
本人達はちゃんと話しているつもりだが、言葉づかいは怪しい。二人が16歳ということもあり、大人は微笑ましくそれを見守ってくれているが。
「はい、時給に加算50円が2週間分です。領収書を確認して、間違いなかったらサインをお願いします」
初めてのことでよく分からない。白い封筒を手渡され、領収書を探してその中を覗いた時、見たこともない枚数の1万円の新札が入っているのを目に入れて、脳液が一瞬で満ち溢れた。
自然に今までの苦労が喜びに変換され、笑顔がつく。
働いたお賃金。初めての対価。給料手渡しの醍醐味をダイレクトに受け、鈴と慧は達成感のまま、藤原女将に笑みを向ける。
「ありがとうございますっ!」
「ちゃんと数えて」
「はっ、はいっ!」
その初々しい子供を二人見ていて、藤原女将が微笑んでいる。
「私も初めてバイトでお給料もらった時、手渡しだったの。今でも思い出すわよ。よっぽど嬉しかったんでしょうね」
興奮で色々とテンパっている二人は、笑顔のままその話の続きを促す。
「本の流通でね、大きな倉庫に大勢のバイトの人達が詰め込まれて、真夏で、もおー暑いなんてもんじゃなかったわ。クーラーなんて全然利かないの。水分も摂らせてもらえなくて。死ぬ思いしてやってるのに、女性の給料は求人に書いてある半額って、現地入ってから言われるのよ。クソったれ! って今でも恨んでやってるわ」
「えっ!?」
藤原女将は笑っていたが、若い鈴と慧はそんな環境を知らない。
「大丈夫よ! 女の子であろうがなかろうが、働いただけの対価はきちんと払います。そんな思いはさせないから心配しないで。ちゃんと入っているでしょう?」
「は……はい」
数え終わった慧が頷いた。
「さあ、じゃあ、ここにサインね。はい、お疲れ様でした」
お給料を手に、鈴と慧は言葉を失ってしまった。
何だか、ちょっと寂しいのだ。
働くって、もっとしんどいことかと思っていたのに、大事だと思うことのために汗水流していると、そうでもなくなってくる。毎日続けていた2週間、やっと慣れてきたかなというあたりでぱたっと終了。もう明日からはやらなくていいのが違和感に思えてくる。
藤原女将は苦労して死にそうな思いをしたけれど、負けることなく、今こうしてお店のオーナーになって、それを見返して立派に働いている。
苦労と苦痛の境目はとてもあやふやだけれど、手の中の封筒にあるお賃金の熱さは計り知れない。
「あ……ありがとうございました」
なんと返していいか、情熱が膨らみすぎて言葉を止めてしまう。もうお礼しか言えそうにない。
「こちらこそありがとうございました。また冬も短期で募集するから、よかったら来て下さいね。経験者優遇します」
「はいっ!」
スッとそう答えてしまった。口にした後、二人とも『あれっ?』と思いはしたが、冬場にまた二人でバイトしたら楽しそうだなと、思えたのだ。
事務所を出るなり、鈴と慧は封筒を天高く掲げる。
「すごい大金をゲットしたぜぇぇー!!」
「やったよ鈴ちゃああ!! これでペンタブが買えるよぉ!!」
「ぱしょこんの電気代も払える!! つくも召喚のスマホ代も確保した!!」
「本も買える!!」
「グッズも買える!!」
「舞台も行こうよ!!」
「だだだだ! 家に帰って、つくもと経費を出そう!」
「そうだった! テンション上がりすぎて普通に使うところだった……!」
「早く帰ろう!」
「わあい!」
事務所の中で、それを一部始終聞いていた藤原女将がクスリと笑った。
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