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23 オタ活は命を削るもの
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呆然とする鈴と慧を前に、杏花梨は続ける。
「学校通ってた頃は、授業中寝て、夜にお絵かきしてネットにアップしてました。受験はあったけど、今振り返れば学生時代が一番ゆっくりできてたかもしれないなあ。だからそういう意味で、鈴さんと慧さんは、いいタイミングなのかも」
「え」
「学生には、夏休みも冬休みもありますからね。勉強中寝てても、成績が下がるだけで死にゃしないし。その辺りもうまくやりくりすれば、卒業はできるし。ただ、大学受験だけはネックなので、それくらいかなあーとか」
このあたり、大地の姉である片鱗がチラ見えしている。
シュポッという音が耳に入り、慧がスマホの画面に視線を落とす。そこにはつくも神からのメッセージが書かれてあり、彼女は鈴の腕をつついた。
『大丈夫ですか? どうなってますか?』
杏花梨は温かい鍋で満腹になってくると、大きなあくびを放出した。
「あふぁ~……ごめ、お腹いっぱいになってくると眠くなっちゃうんですよー……」
完全に睡眠不足で胃が弱り、消化に力を吸い取られている。
余談ではあったが、まとめられなかった慧の返信に、光の速さでつくも神の返事が入った。
『睡眠するようにすすめてください!!』
ものすごい慌てようだなと思ったが、つくも神のアドバイスの通りだと思ったので、慧はそのままを杏花梨に伝えた。
「寝た方がいいですよぅ」
「むりい~ぃ……今修羅場の真っ最中なの……」
「新刊ですか!」
「来月頭のイベント!?」
「そうなのです、先々週のダッシュ読んで、カッとなって突発本の原稿を始めちゃいまして……」
「あああ……分かります! ニルが勘違いして、オーウェン様を置いて行っちゃうアレですね!?」
「それ!!」
「ギエエ!!」
「じゃあ仕方ねぇ……それは命削るしかないですねぃ……」
「仕方ねえな……」
「でしょお……?」
つくも神のアドバイスを放り投げ、欲望のまま突き進む3人。
「今回かなり命削ってて……当日どうしてもムリってなったら最悪大地に朝のスペース任せて、お昼から行って机で製本しようと思ってるくらい切羽詰まってるのです……」
まあ、イベント会場では、たまに見かける連係プレイだ。
だから、鈴と慧は首を捻った。
「売り子さんは?」
「つまらなかったのー。今月有給で夏コミで出てもらったから、来月頭に休みとれないらしくって……」
脳の集中力が一気に高まり、全てがここに集約された瞬間。つくも神ののほほんとした笑顔が二人の脳天に浮かび上がり、破裂したと同時に声を上げた。
「売り子させて下さいぃいいぃぃぃい!!」
あまりの剣幕に杏花梨は個室の壁に追い詰められ、口に入っていた白菜をごくりと飲み込む。
「えっ……い、いいの!?」
「コミケ前に一度、サークルの練習できたらいいなーって……言ってたんですっ!!」
「でも、バイトあるんじゃ……」
「月末には終わってます!」
それを聞いた杏花梨は大喜び。
「助かりますー!! もももももう足し算できればオッケーなんで!! なんなら電卓があるのでできなくても平気です!」
どんな天才でも、イベント会場では突発的に足し算ができなくなるはず。そんな大人、大勢いる。
「はああー! よかった! 一番心配してたことがクリアになりました!」
「こっちもですぅうう!!」
お互い良い塩梅に歯車がかみ合えたところで、再びシュポッという音が聞こえた。
『どうなりましたか?』
慧がつくも神に返信しようとスマホ画面に目を移すと、現在時間が14時50分。
「やばいよ鈴ちゃ!! あと10分で休憩時間終わっちゃう!!」
「やばい!! ご飯食べてない!!」
「うわああごめん!! 話しすぎた!! 二人とも急いで食べて!! 私空いたお皿まとめるから!!」
味わって食べたいくらい美味しいまかない飯を流し込むだけの作業。この背徳感ったらない。
「学校通ってた頃は、授業中寝て、夜にお絵かきしてネットにアップしてました。受験はあったけど、今振り返れば学生時代が一番ゆっくりできてたかもしれないなあ。だからそういう意味で、鈴さんと慧さんは、いいタイミングなのかも」
「え」
「学生には、夏休みも冬休みもありますからね。勉強中寝てても、成績が下がるだけで死にゃしないし。その辺りもうまくやりくりすれば、卒業はできるし。ただ、大学受験だけはネックなので、それくらいかなあーとか」
このあたり、大地の姉である片鱗がチラ見えしている。
シュポッという音が耳に入り、慧がスマホの画面に視線を落とす。そこにはつくも神からのメッセージが書かれてあり、彼女は鈴の腕をつついた。
『大丈夫ですか? どうなってますか?』
杏花梨は温かい鍋で満腹になってくると、大きなあくびを放出した。
「あふぁ~……ごめ、お腹いっぱいになってくると眠くなっちゃうんですよー……」
完全に睡眠不足で胃が弱り、消化に力を吸い取られている。
余談ではあったが、まとめられなかった慧の返信に、光の速さでつくも神の返事が入った。
『睡眠するようにすすめてください!!』
ものすごい慌てようだなと思ったが、つくも神のアドバイスの通りだと思ったので、慧はそのままを杏花梨に伝えた。
「寝た方がいいですよぅ」
「むりい~ぃ……今修羅場の真っ最中なの……」
「新刊ですか!」
「来月頭のイベント!?」
「そうなのです、先々週のダッシュ読んで、カッとなって突発本の原稿を始めちゃいまして……」
「あああ……分かります! ニルが勘違いして、オーウェン様を置いて行っちゃうアレですね!?」
「それ!!」
「ギエエ!!」
「じゃあ仕方ねぇ……それは命削るしかないですねぃ……」
「仕方ねえな……」
「でしょお……?」
つくも神のアドバイスを放り投げ、欲望のまま突き進む3人。
「今回かなり命削ってて……当日どうしてもムリってなったら最悪大地に朝のスペース任せて、お昼から行って机で製本しようと思ってるくらい切羽詰まってるのです……」
まあ、イベント会場では、たまに見かける連係プレイだ。
だから、鈴と慧は首を捻った。
「売り子さんは?」
「つまらなかったのー。今月有給で夏コミで出てもらったから、来月頭に休みとれないらしくって……」
脳の集中力が一気に高まり、全てがここに集約された瞬間。つくも神ののほほんとした笑顔が二人の脳天に浮かび上がり、破裂したと同時に声を上げた。
「売り子させて下さいぃいいぃぃぃい!!」
あまりの剣幕に杏花梨は個室の壁に追い詰められ、口に入っていた白菜をごくりと飲み込む。
「えっ……い、いいの!?」
「コミケ前に一度、サークルの練習できたらいいなーって……言ってたんですっ!!」
「でも、バイトあるんじゃ……」
「月末には終わってます!」
それを聞いた杏花梨は大喜び。
「助かりますー!! もももももう足し算できればオッケーなんで!! なんなら電卓があるのでできなくても平気です!」
どんな天才でも、イベント会場では突発的に足し算ができなくなるはず。そんな大人、大勢いる。
「はああー! よかった! 一番心配してたことがクリアになりました!」
「こっちもですぅうう!!」
お互い良い塩梅に歯車がかみ合えたところで、再びシュポッという音が聞こえた。
『どうなりましたか?』
慧がつくも神に返信しようとスマホ画面に目を移すと、現在時間が14時50分。
「やばいよ鈴ちゃ!! あと10分で休憩時間終わっちゃう!!」
「やばい!! ご飯食べてない!!」
「うわああごめん!! 話しすぎた!! 二人とも急いで食べて!! 私空いたお皿まとめるから!!」
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