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21 気が付けば、何もやっていない
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帰宅して、鈴がまず最初にやったことは、部屋にあるフルタワーのパソコンの電源を光の速さで落とすという、ソレ。
少し間を置いて、勝手に起動するつくも神を前に、半泣きで憤る。
「勝手に起動すんなあ!」
「な、な!? どうしたのです、一体、急に……なにゆえ強制終了!?」
少し遅れて走り込んできた慧が、ドアに寄もたれかかりながら息を切らす。
「ひぃひぃ……鈴ちゃ、落ち着いてぇ……」
「ぬおおおお!! お前がウチに来てから、わしはどんどん金を吸われて枯れていくんじゃあぁ!!」
「何の話です!?」
「電気代!! お前がウロウロしてると電気代がやばいんじゃ!!」
つくも神はようやくそのあたりに気が付いた様子で、人差し指で顔を掻く。
「事前に分かって良かった」
「そういうことじゃねえええ!!」
「そ、そんなこと言っても、原稿やるにはパソコンをつけておかないとできないのですよ!?」
「漫画原稿なんて、すぐに仕上がるモンじゃねんだ! 長時間つけっぱにしたら……一体どれだけ電気代でもってかれると思う!?」
「まあ、月に3,000円くらい……かなあ」
「確信犯!!」
「うわあああ!! 待って待って!!」
鈴の人差し指が強制終了しようとするのを慧が止めた。
「鈴ちゃストーッピ!! つくもさんがいなかったら、我々は同人誌が出せませんよおぉお!!」
「そんな訳あるかああ!! 普通のオタクはソロで描いたりしとるわあ!!」
「普通のオタクがサークルソロデビューする時は、こんな巨大なぱしょこんを所持しておりません!! つくもさんがいなかったら、私達この力をどう扱っていいか分からないよぉ!」
しんと静まりかえる夏場の蒸し暑い室内に、はあはあと荒い呼吸音が漂う。
「……くっ、冬休みも短期バイトを入れるしかないのか……? でもそんなことしてたら、いつ原稿を描けばいいっていうんだ……」
慧がごくりと唾を飲む。
「す、鈴ちゃ……私たち、まだ何もやれてないよ……?」
「そ、そうだ……ちょっと待って、マジでオタクはいつ原稿をするの? 私まだ1ページも描いてないのに、こんな大変な思いをしているよ? どの時点で原稿を始めれば良いのこれ?」
「まだ宿題も終わってないよ……」
2人の困惑した視線がつくも神に流れる。
「あー……えーと……、藤原大地さんの姉上にはお会いできなかったのですか?」
「会ったよ。ご飯一緒に食べてきた」
「おお、ものすごい進展じゃなですか! で、成果は」
ん? と2人が首を捻る。
「イベント参加の予行練習をするために、サークルのお手伝いができるかどうかをお聞きするという話だったじゃないですか」
「そうだった」
「すっかり忘れてた」
つくも神ががっくりと項垂れる。
「オタクの先輩がいるのですから、そのあたりのこともお伺いすればいいのですよ」
「でもわしら、人と会話するの得意じゃないから、会話してるうちに相手のペースになっちゃって、話が切り出せないんじゃ……」
「しかも杏花梨さんのお話、とても感動するのよぉ……。さすがどのジャンル行っても大手壁サークルだけあって、話が面白いしうまいのぉ……」
「壁サークル!? そんなすごい人だったのですか!?」
2人がバイトと勉強に勤しんでいる間、つくも神なりに現代の同人活動について学んでいたらしい。色々と細かい事情を把握してくると分かるが、良いところまで進んでいるのに、肝心の二人がこの調子では先が見えない
「ううーん……小生がスマホでリモート通話できれば、助言を入れながらお二人の会話を誘導できるのに……」
「スマホのプランを変更したところで、適応されるのは来月からだし……」
積んでる2人の発言で、慧が顔を上げた。
「私のスマホ、まだ容量残ってるよ」
「ダミだ。私と同じことになる。2時間繋いでたらとんでもないことになるよぉ……」
「でもさ、スマホに直接つくもさんが来なかったら、そんなに容量かからなくない?」
ん? と一瞬の間。
「つくもさんにSNSのアカウント作ってもらって、そこにぱしょこんから書き込みしてもらうっていうのは?」
何故こんな単純なことに気が付かなかったんだ。鈴とつくも神は同時に慧に一歩踏み込んだ。
「それですそれ!!」
「わしらがつくもに近づくんじゃなく、つくもをわしらに近づけるんだ!!」
「使い放題できる来月になるまで、それでやりとりして節約できるよね?」
「慧ぃぃぃ!! 天才ぃぃぃ!!」
「ふっ……頭脳派だからねぃ」
慧頭脳派説は無理がある。
やっと光が見えてきたところで、鈴がキリリと眉を上げた。
「とりあえず今はバイトしてるから、やめない限りお金は確保できているのだ。杏花梨さんに話を聞いて、サークルのお手伝いさせてもらってから、自分たちが本当に同人活動をやれるか決めればいい……!」
落ち着いた鈴を見て、つくも神はほっと胸をなで下ろす。
「とは言え、電気代は確かにかかってしまいますから、今後小生は必要な時以外は眠りについておくことに致します」
「分かった。明日バイト行く前に封印を解く」
「ちょ、封印とか滾る」
こんな時でもオタク心を忘れない2人はある意味たくましい。
明日はつくも神も一緒にバイトに出勤だ。
少し間を置いて、勝手に起動するつくも神を前に、半泣きで憤る。
「勝手に起動すんなあ!」
「な、な!? どうしたのです、一体、急に……なにゆえ強制終了!?」
少し遅れて走り込んできた慧が、ドアに寄もたれかかりながら息を切らす。
「ひぃひぃ……鈴ちゃ、落ち着いてぇ……」
「ぬおおおお!! お前がウチに来てから、わしはどんどん金を吸われて枯れていくんじゃあぁ!!」
「何の話です!?」
「電気代!! お前がウロウロしてると電気代がやばいんじゃ!!」
つくも神はようやくそのあたりに気が付いた様子で、人差し指で顔を掻く。
「事前に分かって良かった」
「そういうことじゃねえええ!!」
「そ、そんなこと言っても、原稿やるにはパソコンをつけておかないとできないのですよ!?」
「漫画原稿なんて、すぐに仕上がるモンじゃねんだ! 長時間つけっぱにしたら……一体どれだけ電気代でもってかれると思う!?」
「まあ、月に3,000円くらい……かなあ」
「確信犯!!」
「うわあああ!! 待って待って!!」
鈴の人差し指が強制終了しようとするのを慧が止めた。
「鈴ちゃストーッピ!! つくもさんがいなかったら、我々は同人誌が出せませんよおぉお!!」
「そんな訳あるかああ!! 普通のオタクはソロで描いたりしとるわあ!!」
「普通のオタクがサークルソロデビューする時は、こんな巨大なぱしょこんを所持しておりません!! つくもさんがいなかったら、私達この力をどう扱っていいか分からないよぉ!」
しんと静まりかえる夏場の蒸し暑い室内に、はあはあと荒い呼吸音が漂う。
「……くっ、冬休みも短期バイトを入れるしかないのか……? でもそんなことしてたら、いつ原稿を描けばいいっていうんだ……」
慧がごくりと唾を飲む。
「す、鈴ちゃ……私たち、まだ何もやれてないよ……?」
「そ、そうだ……ちょっと待って、マジでオタクはいつ原稿をするの? 私まだ1ページも描いてないのに、こんな大変な思いをしているよ? どの時点で原稿を始めれば良いのこれ?」
「まだ宿題も終わってないよ……」
2人の困惑した視線がつくも神に流れる。
「あー……えーと……、藤原大地さんの姉上にはお会いできなかったのですか?」
「会ったよ。ご飯一緒に食べてきた」
「おお、ものすごい進展じゃなですか! で、成果は」
ん? と2人が首を捻る。
「イベント参加の予行練習をするために、サークルのお手伝いができるかどうかをお聞きするという話だったじゃないですか」
「そうだった」
「すっかり忘れてた」
つくも神ががっくりと項垂れる。
「オタクの先輩がいるのですから、そのあたりのこともお伺いすればいいのですよ」
「でもわしら、人と会話するの得意じゃないから、会話してるうちに相手のペースになっちゃって、話が切り出せないんじゃ……」
「しかも杏花梨さんのお話、とても感動するのよぉ……。さすがどのジャンル行っても大手壁サークルだけあって、話が面白いしうまいのぉ……」
「壁サークル!? そんなすごい人だったのですか!?」
2人がバイトと勉強に勤しんでいる間、つくも神なりに現代の同人活動について学んでいたらしい。色々と細かい事情を把握してくると分かるが、良いところまで進んでいるのに、肝心の二人がこの調子では先が見えない
「ううーん……小生がスマホでリモート通話できれば、助言を入れながらお二人の会話を誘導できるのに……」
「スマホのプランを変更したところで、適応されるのは来月からだし……」
積んでる2人の発言で、慧が顔を上げた。
「私のスマホ、まだ容量残ってるよ」
「ダミだ。私と同じことになる。2時間繋いでたらとんでもないことになるよぉ……」
「でもさ、スマホに直接つくもさんが来なかったら、そんなに容量かからなくない?」
ん? と一瞬の間。
「つくもさんにSNSのアカウント作ってもらって、そこにぱしょこんから書き込みしてもらうっていうのは?」
何故こんな単純なことに気が付かなかったんだ。鈴とつくも神は同時に慧に一歩踏み込んだ。
「それですそれ!!」
「わしらがつくもに近づくんじゃなく、つくもをわしらに近づけるんだ!!」
「使い放題できる来月になるまで、それでやりとりして節約できるよね?」
「慧ぃぃぃ!! 天才ぃぃぃ!!」
「ふっ……頭脳派だからねぃ」
慧頭脳派説は無理がある。
やっと光が見えてきたところで、鈴がキリリと眉を上げた。
「とりあえず今はバイトしてるから、やめない限りお金は確保できているのだ。杏花梨さんに話を聞いて、サークルのお手伝いさせてもらってから、自分たちが本当に同人活動をやれるか決めればいい……!」
落ち着いた鈴を見て、つくも神はほっと胸をなで下ろす。
「とは言え、電気代は確かにかかってしまいますから、今後小生は必要な時以外は眠りについておくことに致します」
「分かった。明日バイト行く前に封印を解く」
「ちょ、封印とか滾る」
こんな時でもオタク心を忘れない2人はある意味たくましい。
明日はつくも神も一緒にバイトに出勤だ。
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