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19 漫画の描き方
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「同人誌は、パッションさえあれば、どんな作り方してもオケ! 一般向けと成人向けという枠があって、見る側に制限は設けてあっても、表現にルールなんてものはありません。でも、印刷するなら印刷所のルールを守らないと印刷ができません。それを今から説明します」
液晶ペンタブレットに視線が移動する。
「本は製本するのが大前提です。製本ということは、ちょん切って整える部分があるということ。ちょん切る部分に絵を描いたら、ちょん切られてなくなっちゃうのは分かるよね?」
「うん」
「それが裁ち切り、っていう部分。裁断すると、A5の本になったり、B5の本になったり、サイズ通りに仕上がるの」
杏花梨は手元にある自分の同人誌を開く。
「この同人誌のデータ原稿を開くね。10ページ目を見ると……」
「あっ、何という広大な面積」
「余白がしゅごいある」
杏花梨のマウスが動き、ポインターの矢印が1つずつ指し示す。
「一番外側がグレー。その境界線から内側の白い部分が「原稿用紙」と思ってください」
「原稿用紙」
「その1つ内側に、外枠があります」
「外枠」
「その至近距離に、裁ち切り線があります。ここはマンツーマン。友達」
「裁ち切り、さっき出てきた」
「裁断するっていう意味の線ですね」
「ちょっと隙間が広く空いて、これ。この水色の線は、内枠」
「内枠」
「この内枠は約束された大地です」
「大地」
一斉に背後の大地に視線が向く。気が付けば大地は彼女達3人のすぐ真後ろにいてモニターを覗き込んでおり、間近で顔を合わせて鈴と慧と共に身構えた。
「な、何だ……!」
「めっちゃ近いな!」
姉の杏花梨がにやけ顔で弟を見る。
「大ちゃん、オタク姉のやることに興味なかったのに、どういう風の吹き回しなの」
「大ちゃん!?」
「あだ名で呼ぶな!」
「藤原クン、家族には大ちゃんて呼ばれてるんだねぃ……」
鈴と慧に知られては、もう後が無い。大地は憤りつつも、姉に先を促す。
「早く続きを説明しろ」
「はいはい。えーと……」
約束の大地、と鈴と慧が答えると、杏花梨は説明を続ける。
「この1番内側にある枠の中に、フキダシの文字を収めると、印刷所と共に、読む人皆が幸せになります」
「なにゆえ」
同人誌を開いて、鳥が羽ばたくような形で止める。
「本を開いた時、閉じ側をノドといいます。見えにくい部分。こちら側はブラックホールと思ってください。この内枠の中なら、吸い込まれない」
「おおっ」
「本当だ! そういえば漫画読んでても、内側に文字が入り込んで読めないと思ったことない! こういうことだったのかぁ!」
「逆に、閉じ側じゃなければ広く使えるので、裁ち切りを利用して無限大の可能性を表現するのに使ったりするよ」
「おおーっ!」
「内枠は約束の大地だけど、閉じ側以外なら裁ち切りが効果的に使えるので、よく見せたいシーンなんかは枠を飛び出して描かれたりします」
「なるほどー! 余白はそうやって使うのか」
「まあそのへんもお好みなんだけどね。どんな形でも好きに描いていいのが同人誌の良いところだし。そうやって自分に合うスタイルを研究していくの」
姉の言葉に、大地が呟いた。
「研究……」
「同人誌は好きなものの延長で、遊んでいるようにしか見えないかもだけど、好きなことをやりつつ、色々な要素を学んでいけるんだよ」
杏花梨は続ける。
「漫画を描く一つをとっても、シナリオ、イラスト、構図、パース、人体解剖学、タブーの認識、共感性、表現力、構成力……私がパッと思い浮かぶのはこれくらいだけど、分析していったらまだまだあると思う」
姉と弟の視線が絡み、ちょっとした間が空いた。
「どう? 姉ちゃんのやってること、少しは理解できた?」
「ふん……」
その話を聞いていた鈴が、小刻みに震えながら慧に言った。
「……今の話、つくもに聞かせてやりたかった」
「うん……」
「わしらじゃ難しくて、ちゃんと説明できないもん」
「だねぃ」
お互い顔を見合わせ、しばらく経ってから口元がにやける。
「……今月のお小遣い、スマホのプラン変更に回すよ」
「呪いだねぃ、鈴ちゃ」
「へへっ、物入りじゃあ」
「バイト代が出るまで、私がダッシュ買って貸してあげる」
「友よぉ~!」
そこで丁度、大地のスマホに着信が入った。
「母さんがまかないを食べに来いと言ってる」
「え、もうそんな時間かあ」
杏花梨が椅子を180度回転させてこちらを向いた。
「私も一緒に食べていい?」
「もちろんですよーっ!」
「大地も一緒に行こ」
彼は少し唸っていたが、観念したように頷いた。
液晶ペンタブレットに視線が移動する。
「本は製本するのが大前提です。製本ということは、ちょん切って整える部分があるということ。ちょん切る部分に絵を描いたら、ちょん切られてなくなっちゃうのは分かるよね?」
「うん」
「それが裁ち切り、っていう部分。裁断すると、A5の本になったり、B5の本になったり、サイズ通りに仕上がるの」
杏花梨は手元にある自分の同人誌を開く。
「この同人誌のデータ原稿を開くね。10ページ目を見ると……」
「あっ、何という広大な面積」
「余白がしゅごいある」
杏花梨のマウスが動き、ポインターの矢印が1つずつ指し示す。
「一番外側がグレー。その境界線から内側の白い部分が「原稿用紙」と思ってください」
「原稿用紙」
「その1つ内側に、外枠があります」
「外枠」
「その至近距離に、裁ち切り線があります。ここはマンツーマン。友達」
「裁ち切り、さっき出てきた」
「裁断するっていう意味の線ですね」
「ちょっと隙間が広く空いて、これ。この水色の線は、内枠」
「内枠」
「この内枠は約束された大地です」
「大地」
一斉に背後の大地に視線が向く。気が付けば大地は彼女達3人のすぐ真後ろにいてモニターを覗き込んでおり、間近で顔を合わせて鈴と慧と共に身構えた。
「な、何だ……!」
「めっちゃ近いな!」
姉の杏花梨がにやけ顔で弟を見る。
「大ちゃん、オタク姉のやることに興味なかったのに、どういう風の吹き回しなの」
「大ちゃん!?」
「あだ名で呼ぶな!」
「藤原クン、家族には大ちゃんて呼ばれてるんだねぃ……」
鈴と慧に知られては、もう後が無い。大地は憤りつつも、姉に先を促す。
「早く続きを説明しろ」
「はいはい。えーと……」
約束の大地、と鈴と慧が答えると、杏花梨は説明を続ける。
「この1番内側にある枠の中に、フキダシの文字を収めると、印刷所と共に、読む人皆が幸せになります」
「なにゆえ」
同人誌を開いて、鳥が羽ばたくような形で止める。
「本を開いた時、閉じ側をノドといいます。見えにくい部分。こちら側はブラックホールと思ってください。この内枠の中なら、吸い込まれない」
「おおっ」
「本当だ! そういえば漫画読んでても、内側に文字が入り込んで読めないと思ったことない! こういうことだったのかぁ!」
「逆に、閉じ側じゃなければ広く使えるので、裁ち切りを利用して無限大の可能性を表現するのに使ったりするよ」
「おおーっ!」
「内枠は約束の大地だけど、閉じ側以外なら裁ち切りが効果的に使えるので、よく見せたいシーンなんかは枠を飛び出して描かれたりします」
「なるほどー! 余白はそうやって使うのか」
「まあそのへんもお好みなんだけどね。どんな形でも好きに描いていいのが同人誌の良いところだし。そうやって自分に合うスタイルを研究していくの」
姉の言葉に、大地が呟いた。
「研究……」
「同人誌は好きなものの延長で、遊んでいるようにしか見えないかもだけど、好きなことをやりつつ、色々な要素を学んでいけるんだよ」
杏花梨は続ける。
「漫画を描く一つをとっても、シナリオ、イラスト、構図、パース、人体解剖学、タブーの認識、共感性、表現力、構成力……私がパッと思い浮かぶのはこれくらいだけど、分析していったらまだまだあると思う」
姉と弟の視線が絡み、ちょっとした間が空いた。
「どう? 姉ちゃんのやってること、少しは理解できた?」
「ふん……」
その話を聞いていた鈴が、小刻みに震えながら慧に言った。
「……今の話、つくもに聞かせてやりたかった」
「うん……」
「わしらじゃ難しくて、ちゃんと説明できないもん」
「だねぃ」
お互い顔を見合わせ、しばらく経ってから口元がにやける。
「……今月のお小遣い、スマホのプラン変更に回すよ」
「呪いだねぃ、鈴ちゃ」
「へへっ、物入りじゃあ」
「バイト代が出るまで、私がダッシュ買って貸してあげる」
「友よぉ~!」
そこで丁度、大地のスマホに着信が入った。
「母さんがまかないを食べに来いと言ってる」
「え、もうそんな時間かあ」
杏花梨が椅子を180度回転させてこちらを向いた。
「私も一緒に食べていい?」
「もちろんですよーっ!」
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彼は少し唸っていたが、観念したように頷いた。
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