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18 ウスイブックス作りの超基本
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気を取り直し、杏花梨は笑いながら説明を始めた。
「私もデジタル入稿しか分からないんですが、大体の流れは同じなので大丈夫だと思います」
「アッハイ、デジタル入稿です!」
「了解です。では、まず原稿用紙のサイズから。同人誌印刷の主流はA5版とB5版で、当然ながら大きい本は印刷代が余計かかります。その辺りも踏まえて、どんな判型にしようかなというところからスタートです」
ふんふん、と鈴と慧が杏花梨の瞳を覗き込む。
「判型を決めたら、大まかなページ数を決めます。これは変更が利くのでそこまでしっかり決めておかなくてもいいのですが、まあ、やっぱり、ページ数が増えれば相対的に印刷代も増えていくのと、表紙を最初に描いてしまった場合、背表紙の厚みが関係してカッコ悪くなってしまう場合もあるので、そのあたりを注意だけしてください。増える枚数は4枚ずつ、偶数で無くてはいけません」
「どうしてですか?」
「面付けの関係上そのようになっています」
「めんつけ?」
何やら美味しそうな響きだが、ブワッと知っておけばオケ。杏花梨の説明を聞こう。
「一般的には、1枚の紙に8ページ分を配置して印刷します。これを面付け作業と言います。あんまり小難しいことを考えなくても、印刷所のマニュアルを見れば分かると思います。12~16~20~24といった枚数が上げられているので、それを目安としてください」
「あの細かい値段表か」
「そうそう。でも注意するのは、あれは総ページ数であるということ。例えば24ページの本を作ろうとしたら、そこから4ページを引いた20ページが本文になります」
「んん?」
「表紙も含んで、24ページなの」
杏花梨が机に置いてあった同人誌を手に取り、表紙をめくる。
「ほら、ここは何も印刷されていないでしょう? 表紙を平らにして見て、表1表2、表紙の裏は表3表4、これだけちょっと原稿の描き方が別になります」
「アッブネ……1ページ目から1枚ずつ描くのかと思ってた……」
「デジタルだと分からなくなるよね。でも表紙は取り外して、本文とは別にして描くのです」
場の空気が真剣になっていくのを感じ取り、壁にはさまっていた大地が興味を示し始めた。
一般的な漫画で一次創作ならまだしも、彼女達が描いているのは二次創作だ。それはグレーゾーンと呼ばれるもので、公式からお咎めなしなだけで、あまり褒められた行為ではないパターンが多い。ファンアートならセーフだが、金銭のやりとりのある同人誌という存在は厄介で、結局のところ著作権が関わってくる。
彼女達の行動は要するに、ファンが勝手に原作のキャラを使っておままごとをしているだけにすぎない。それはプロでもなく単なるアマチュアのお遊びで、大地のような『パンピー』と呼ばれる非オタに言わせれば、違法性のあるふざけた道楽にしか見えない。
なのに、今目の前で1枚の液晶ペンタブレットを取り囲んでいる3人の後ろ姿は真剣そのもので、ある意味勉強をしているようにも見えた。それは大地の心に新鮮かつ奇妙な風を運び入れ、彼の興をそそったようだ。
杏花梨の説明は続く
「じゃあ次は、原稿の描き方ね」
「私もデジタル入稿しか分からないんですが、大体の流れは同じなので大丈夫だと思います」
「アッハイ、デジタル入稿です!」
「了解です。では、まず原稿用紙のサイズから。同人誌印刷の主流はA5版とB5版で、当然ながら大きい本は印刷代が余計かかります。その辺りも踏まえて、どんな判型にしようかなというところからスタートです」
ふんふん、と鈴と慧が杏花梨の瞳を覗き込む。
「判型を決めたら、大まかなページ数を決めます。これは変更が利くのでそこまでしっかり決めておかなくてもいいのですが、まあ、やっぱり、ページ数が増えれば相対的に印刷代も増えていくのと、表紙を最初に描いてしまった場合、背表紙の厚みが関係してカッコ悪くなってしまう場合もあるので、そのあたりを注意だけしてください。増える枚数は4枚ずつ、偶数で無くてはいけません」
「どうしてですか?」
「面付けの関係上そのようになっています」
「めんつけ?」
何やら美味しそうな響きだが、ブワッと知っておけばオケ。杏花梨の説明を聞こう。
「一般的には、1枚の紙に8ページ分を配置して印刷します。これを面付け作業と言います。あんまり小難しいことを考えなくても、印刷所のマニュアルを見れば分かると思います。12~16~20~24といった枚数が上げられているので、それを目安としてください」
「あの細かい値段表か」
「そうそう。でも注意するのは、あれは総ページ数であるということ。例えば24ページの本を作ろうとしたら、そこから4ページを引いた20ページが本文になります」
「んん?」
「表紙も含んで、24ページなの」
杏花梨が机に置いてあった同人誌を手に取り、表紙をめくる。
「ほら、ここは何も印刷されていないでしょう? 表紙を平らにして見て、表1表2、表紙の裏は表3表4、これだけちょっと原稿の描き方が別になります」
「アッブネ……1ページ目から1枚ずつ描くのかと思ってた……」
「デジタルだと分からなくなるよね。でも表紙は取り外して、本文とは別にして描くのです」
場の空気が真剣になっていくのを感じ取り、壁にはさまっていた大地が興味を示し始めた。
一般的な漫画で一次創作ならまだしも、彼女達が描いているのは二次創作だ。それはグレーゾーンと呼ばれるもので、公式からお咎めなしなだけで、あまり褒められた行為ではないパターンが多い。ファンアートならセーフだが、金銭のやりとりのある同人誌という存在は厄介で、結局のところ著作権が関わってくる。
彼女達の行動は要するに、ファンが勝手に原作のキャラを使っておままごとをしているだけにすぎない。それはプロでもなく単なるアマチュアのお遊びで、大地のような『パンピー』と呼ばれる非オタに言わせれば、違法性のあるふざけた道楽にしか見えない。
なのに、今目の前で1枚の液晶ペンタブレットを取り囲んでいる3人の後ろ姿は真剣そのもので、ある意味勉強をしているようにも見えた。それは大地の心に新鮮かつ奇妙な風を運び入れ、彼の興をそそったようだ。
杏花梨の説明は続く
「じゃあ次は、原稿の描き方ね」
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