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13 学業とオタ活の両立について
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解凍されたつくも神が目の前に現れた時ですら、こんな特大の悲鳴はあげなかった。大地に無理難題をふっかけられた鈴と慧は震え上がっている。
「そんなの5時間くらいかかっちゃうよおお!」
「むむむむりですうう!」
冷酷無慈悲な大地は、床に座って寄り添う2人を見下ろして言い放つ。
「いいか、学校から出される夏休みの宿題というものは、アホほど量がある。お前達の場合、時間で動いていては間に合わない。量を基軸に考えて動かなくてはならないのだ」
「で、でも、バイト後に20ページなんてやったら、確実に魂抜ける……」
「20ページやれとは言っていない。終わらせろと言ったんだ」
「同じことやん!?」
「お前達は2人いるだろ。1人10ページやればいい。そこで僕がチェックを入れる。間違えを訂正した後、交換すれば良い」
鈴と慧がぱちぱちと瞬きをして時を止める。
「そ……それって……」
「書き写すってこと……?」
「お前達は一緒に勉強したとすれば問題ないだろう。僕は他のクラスだから担任が知ることはない。効率化だ」
藤原大地といえば、ガリ勉というイメージがついていたが、ここにきて会話をしてみると、意外にそうでもないように見える。
「学年トップの言うセリフとは思えないんだけど……」
「宿題や問題集を否定しているわけではない。僕は勉強は好きだが、短期間に何科目も大量のノルマを押し込まれるのを好きになれないだけだ。やりたい勉強を奥深くやりたいのに、バラついたもので量だけ増やされても邪魔で仕方がない」
「えーと……? 要するに?」
「『量が多すぎるんだクソッタレ』だ」
「わお」
「言うね」
思わず笑ってしまったが、利害一致したということだ。
「おーし……じゃあ、10ページ、今からやるかぁ……」
「う、うん。10ページなら何とか、でき……そうな気がする」
その『多いっちゃ多いが、何とか最後まで集中していられそうな量』のおかげで、鈴と慧のやる気が芽生えた。
「藤原クンはその間、何してんの?」
「僕は自由研究の課題を考える」
「そんなの一瞬で任務完了じゃんよ」
「む……」
大地の顔色が変わったのを、目ざとい慧は見逃さなかった。
「何にするか決められないの?」
図星だったようで、口をへの字にした大地に鈴が首を傾げた。
「え、何で。一番簡単な宿題じゃん。何でも好きなこと題材にしていいんだし」
「そういうのを考えるのが苦手なんだ」
「マジか。毎日1回、食事の栄養をグラフにしてみました、みたいなのでいいじゃん。カロリー計算サイトのアプリダウンロードして、そこに食べたもの入力すれば全部機械がやってくれるし、それ写せばすぐ終わるのに」
鈴が即興で考えた『楽な自由研究のやり方』を教えてやると、大地は感心してこちらに興味を示し始めた。
「お前、頭の回転がいいな」
「勉強は苦手だよ」
慧が続ける。
「でも、自由研究は、さっき藤原クンが言ってた好きな勉強でいいんだし、それを題材にしてみればいいんじゃない?」
「問題を解くのが好きなだけで、研究したいとまでは思わない。それは既に方程式として存在しているのだから、僕がやる必要は無いだろ」
「ほえー……何言ってるかサッパリワカンネ」
大凡『それはやりたくない』の分類ということだろう。
「お前たちは何を題材にするんだ」
「ふふん、私と慧は共同研究にするのだ」
「日本のオタク文化について調べるんだぁー」
「私たちオタクだから、得意分野を選んで手早く終わらせてやるのさ」
もうほぼ終わったようなものだと勝ち誇り、それすら楽しそうな2人を前に、大地は少し考えてから口を開く。
「よし、僕も混ぜろ」
「ぐええええ!?」
「何でそうなんだよ!? 学年1秀才クンがやるような研究じゃないだろこれどう考えても!!」
大地は効率の塊だ。頭が良すぎて鈴も慧も理解が追いつくのに時間がかかり、心臓が幾つあっても足りないでいる。
「2人は漫画文化について研究すればいい。僕はそれに厚みをつけてやる」
「あ……厚みって?」
「文芸をそれに付け加えて、小説や随筆、文字全般を調べてやろう。漫画文化ではなく、『創作文化』にすれば、先生のウケはよくなるぞ」
何という悪。だが確かに、成績は上がりそうな提案だ。
「お互い時間は貴重だ。どうする?」
「よかろう、契約だ」
「よし、では10ページ終わらせろ。終わったらノートを置いていけ、明日の朝までに20ページを仕上げておいてやる」
「ラジャ!」
「僕は今から自由研究のベースを作る。お前達が帰るまでにまとめるから邪魔はするなよ」
「はぁい」
提案が合意された後、双方が机に向き直る。これほどカッとしたやる気を感じることも中々無い。1/3の労力で夏休みの宿題が終わるのだ、そりゃやる気も出よう。
「ここにきて凡人が秀才というブレインを手に入れてしまったというわけか……」
「恐ろしい力だよ鈴ちゃ……」
「つくも神より強大なパゥワーを感じるのは私だけか?」
「宿題手伝ってくれるもんね、藤原クン……」
「TUEEE~」
「そんなの5時間くらいかかっちゃうよおお!」
「むむむむりですうう!」
冷酷無慈悲な大地は、床に座って寄り添う2人を見下ろして言い放つ。
「いいか、学校から出される夏休みの宿題というものは、アホほど量がある。お前達の場合、時間で動いていては間に合わない。量を基軸に考えて動かなくてはならないのだ」
「で、でも、バイト後に20ページなんてやったら、確実に魂抜ける……」
「20ページやれとは言っていない。終わらせろと言ったんだ」
「同じことやん!?」
「お前達は2人いるだろ。1人10ページやればいい。そこで僕がチェックを入れる。間違えを訂正した後、交換すれば良い」
鈴と慧がぱちぱちと瞬きをして時を止める。
「そ……それって……」
「書き写すってこと……?」
「お前達は一緒に勉強したとすれば問題ないだろう。僕は他のクラスだから担任が知ることはない。効率化だ」
藤原大地といえば、ガリ勉というイメージがついていたが、ここにきて会話をしてみると、意外にそうでもないように見える。
「学年トップの言うセリフとは思えないんだけど……」
「宿題や問題集を否定しているわけではない。僕は勉強は好きだが、短期間に何科目も大量のノルマを押し込まれるのを好きになれないだけだ。やりたい勉強を奥深くやりたいのに、バラついたもので量だけ増やされても邪魔で仕方がない」
「えーと……? 要するに?」
「『量が多すぎるんだクソッタレ』だ」
「わお」
「言うね」
思わず笑ってしまったが、利害一致したということだ。
「おーし……じゃあ、10ページ、今からやるかぁ……」
「う、うん。10ページなら何とか、でき……そうな気がする」
その『多いっちゃ多いが、何とか最後まで集中していられそうな量』のおかげで、鈴と慧のやる気が芽生えた。
「藤原クンはその間、何してんの?」
「僕は自由研究の課題を考える」
「そんなの一瞬で任務完了じゃんよ」
「む……」
大地の顔色が変わったのを、目ざとい慧は見逃さなかった。
「何にするか決められないの?」
図星だったようで、口をへの字にした大地に鈴が首を傾げた。
「え、何で。一番簡単な宿題じゃん。何でも好きなこと題材にしていいんだし」
「そういうのを考えるのが苦手なんだ」
「マジか。毎日1回、食事の栄養をグラフにしてみました、みたいなのでいいじゃん。カロリー計算サイトのアプリダウンロードして、そこに食べたもの入力すれば全部機械がやってくれるし、それ写せばすぐ終わるのに」
鈴が即興で考えた『楽な自由研究のやり方』を教えてやると、大地は感心してこちらに興味を示し始めた。
「お前、頭の回転がいいな」
「勉強は苦手だよ」
慧が続ける。
「でも、自由研究は、さっき藤原クンが言ってた好きな勉強でいいんだし、それを題材にしてみればいいんじゃない?」
「問題を解くのが好きなだけで、研究したいとまでは思わない。それは既に方程式として存在しているのだから、僕がやる必要は無いだろ」
「ほえー……何言ってるかサッパリワカンネ」
大凡『それはやりたくない』の分類ということだろう。
「お前たちは何を題材にするんだ」
「ふふん、私と慧は共同研究にするのだ」
「日本のオタク文化について調べるんだぁー」
「私たちオタクだから、得意分野を選んで手早く終わらせてやるのさ」
もうほぼ終わったようなものだと勝ち誇り、それすら楽しそうな2人を前に、大地は少し考えてから口を開く。
「よし、僕も混ぜろ」
「ぐええええ!?」
「何でそうなんだよ!? 学年1秀才クンがやるような研究じゃないだろこれどう考えても!!」
大地は効率の塊だ。頭が良すぎて鈴も慧も理解が追いつくのに時間がかかり、心臓が幾つあっても足りないでいる。
「2人は漫画文化について研究すればいい。僕はそれに厚みをつけてやる」
「あ……厚みって?」
「文芸をそれに付け加えて、小説や随筆、文字全般を調べてやろう。漫画文化ではなく、『創作文化』にすれば、先生のウケはよくなるぞ」
何という悪。だが確かに、成績は上がりそうな提案だ。
「お互い時間は貴重だ。どうする?」
「よかろう、契約だ」
「よし、では10ページ終わらせろ。終わったらノートを置いていけ、明日の朝までに20ページを仕上げておいてやる」
「ラジャ!」
「僕は今から自由研究のベースを作る。お前達が帰るまでにまとめるから邪魔はするなよ」
「はぁい」
提案が合意された後、双方が机に向き直る。これほどカッとしたやる気を感じることも中々無い。1/3の労力で夏休みの宿題が終わるのだ、そりゃやる気も出よう。
「ここにきて凡人が秀才というブレインを手に入れてしまったというわけか……」
「恐ろしい力だよ鈴ちゃ……」
「つくも神より強大なパゥワーを感じるのは私だけか?」
「宿題手伝ってくれるもんね、藤原クン……」
「TUEEE~」
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