つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

文字の大きさ
上 下
13 / 97

13 学業とオタ活の両立について

しおりを挟む
 解凍されたつくも神が目の前に現れた時ですら、こんな特大の悲鳴はあげなかった。大地に無理難題をふっかけられた鈴と慧は震え上がっている。

「そんなの5時間くらいかかっちゃうよおお!」
「むむむむりですうう!」

 冷酷無慈悲な大地は、床に座って寄り添う2人を見下ろして言い放つ。

「いいか、学校から出される夏休みの宿題というものは、アホほど量がある。お前達の場合、時間で動いていては間に合わない。量を基軸に考えて動かなくてはならないのだ」
「で、でも、バイト後に20ページなんてやったら、確実に魂抜ける……」
「20ページやれとは言っていない。終わらせろと言ったんだ」
「同じことやん!?」
「お前達は2人いるだろ。1人10ページやればいい。そこで僕がチェックを入れる。間違えを訂正した後、交換すれば良い」

 鈴と慧がぱちぱちと瞬きをして時を止める。

「そ……それって……」
「書き写すってこと……?」
「お前達は一緒に勉強したとすれば問題ないだろう。僕は他のクラスだから担任が知ることはない。効率化だ」

 藤原大地といえば、ガリ勉というイメージがついていたが、ここにきて会話をしてみると、意外にそうでもないように見える。

「学年トップの言うセリフとは思えないんだけど……」
「宿題や問題集を否定しているわけではない。僕は勉強は好きだが、短期間に何科目も大量のノルマを押し込まれるのを好きになれないだけだ。やりたい勉強を奥深くやりたいのに、バラついたもので量だけ増やされても邪魔で仕方がない」
「えーと……? 要するに?」
「『量が多すぎるんだクソッタレ』だ」
「わお」
「言うね」

 思わず笑ってしまったが、利害一致したということだ。

「おーし……じゃあ、10ページ、今からやるかぁ……」
「う、うん。10ページなら何とか、でき……そうな気がする」

 その『多いっちゃ多いが、何とか最後まで集中していられそうな量』のおかげで、鈴と慧のやる気が芽生えた。

「藤原クンはその間、何してんの?」
「僕は自由研究の課題を考える」
「そんなの一瞬で任務完了じゃんよ」
「む……」

 大地の顔色が変わったのを、目ざとい慧は見逃さなかった。

「何にするか決められないの?」

 図星だったようで、口をへの字にした大地に鈴が首を傾げた。

「え、何で。一番簡単な宿題じゃん。何でも好きなこと題材にしていいんだし」
「そういうのを考えるのが苦手なんだ」
「マジか。毎日1回、食事の栄養をグラフにしてみました、みたいなのでいいじゃん。カロリー計算サイトのアプリダウンロードして、そこに食べたもの入力すれば全部機械がやってくれるし、それ写せばすぐ終わるのに」

 鈴が即興で考えた『楽な自由研究のやり方』を教えてやると、大地は感心してこちらに興味を示し始めた。

「お前、頭の回転がいいな」
「勉強は苦手だよ」

 慧が続ける。

「でも、自由研究は、さっき藤原クンが言ってた好きな勉強でいいんだし、それを題材にしてみればいいんじゃない?」
「問題を解くのが好きなだけで、研究したいとまでは思わない。それは既に方程式として存在しているのだから、僕がやる必要は無いだろ」
「ほえー……何言ってるかサッパリワカンネ」

 大凡『それはやりたくない』の分類ということだろう。

「お前たちは何を題材にするんだ」
「ふふん、私と慧は共同研究にするのだ」
「日本のオタク文化について調べるんだぁー」
「私たちオタクだから、得意分野を選んで手早く終わらせてやるのさ」

 もうほぼ終わったようなものだと勝ち誇り、それすら楽しそうな2人を前に、大地は少し考えてから口を開く。

「よし、僕も混ぜろ」
「ぐええええ!?」
「何でそうなんだよ!? 学年1秀才クンがやるような研究じゃないだろこれどう考えても!!」

 大地は効率の塊だ。頭が良すぎて鈴も慧も理解が追いつくのに時間がかかり、心臓が幾つあっても足りないでいる。

「2人は漫画文化について研究すればいい。僕はそれに厚みをつけてやる」
「あ……厚みって?」
「文芸をそれに付け加えて、小説や随筆、文字全般を調べてやろう。漫画文化ではなく、『創作文化』にすれば、先生のウケはよくなるぞ」

 何という悪。だが確かに、成績は上がりそうな提案だ。

「お互い時間は貴重だ。どうする?」
「よかろう、契約だ」
「よし、では10ページ終わらせろ。終わったらノートを置いていけ、明日の朝までに20ページを仕上げておいてやる」
「ラジャ!」
「僕は今から自由研究のベースを作る。お前達が帰るまでにまとめるから邪魔はするなよ」
「はぁい」

 提案が合意された後、双方が机に向き直る。これほどカッとしたやる気を感じることも中々無い。1/3の労力で夏休みの宿題が終わるのだ、そりゃやる気も出よう。

「ここにきて凡人が秀才というブレインを手に入れてしまったというわけか……」
「恐ろしい力だよ鈴ちゃ……」
「つくも神より強大なパゥワーを感じるのは私だけか?」
「宿題手伝ってくれるもんね、藤原クン……」
「TUEEE~」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...