つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

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12 学年トップは冷酷無慈悲キャラ

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 白い壁がまず目に入り、薄いグレーのブラインドが2つ大きな窓に見えた。黒いベッド、大きな棚、勉強机、横長のコーヒーテーブル、L字型のソファ……。
 裕福層、まさにその一言。ものの少ない部屋だが、インテリアがお金をもっている人のそれだ。
 ちゃんこ料理屋でこんな家が建つのか。そう感心している庶民2人の視線が最後に行き着いた場所は、その部屋の住人。椅子に腰掛け、背もたれに寄りかかり、両掌を足の隙間で組んでこちらを睨み付けているその人。
 艶やかな前髪の隙間から覗く冷たい視線の藤原大地が、薄い唇をゆっくり開いた。

「そこのテーブルを使ってくれ。僕は勝手に勉強してるから邪魔をしないように」

 感じ悪っ! と思いはしたが、親が勝手に決めてマッチングさせた勉強会なのだから、そら怒りたくもなろう。むしろ同情する。
 どう返せばいいか分からないので返答はしなかったが、鈴と慧は怖ず怖ずと横長のコーヒーテーブルについた。そして教科書を立てて防御壁を作る。

「……オタクの部屋じゃないと落ち着かないよぉ……」
「耐えろ慧……1時間の辛抱で時給50円増えるんだ」

 2人でひそひそやっていると、ドアがノックされて藤原女将がお茶と菓子を持ってやって来た。

「はい、がんばってね。じゃあ私もがんばって来ます」

 そう言ってコーヒーテーブルの上に置いたお茶菓子が、四角くてキラキラのフルーツのケーキだったのを見て、鈴と慧が感動に打ち震えた。

「うあああ……たかが子供の勉強会にケーキだとぉぉ……」
「これ、お店で出してるケーキじゃないよ……ちゃんと別に用意したやつや……」

 藤原女将にひれ伏しながらお見送りし、ありがたいありがたいと香りの良い紅茶と光るケーキを拝み倒す。
 親が退出した後、大地は机に向かったまま勉強する手を休めずに口を開く。

「僕の分も食べていい」
「えっ」
「邪魔はするな」
「は、はひ……」

 やったぜ! とは素直に喜べないが、ケーキの分け前が増えたのは確かだ。
 甘い物を食べて温かい飲み物を身体に入れているうち、バイトの疲労感も薄くなり、鈴と慧の緊張がとれてきた。

「いつもならここで、マンガ読んでゲームやってオタクートして終わるのに……」
「宿題やらないとねぃ……」

 渋々問題集を広げてやり始めたあたりで、鈴がスマホを出した。そして音量1ほどの声で話かける。

「つくも、宿題手伝ってよ」

 スマホの画面がチラついた後、バックグラウンドにつくも神の顔が写り込む。

「アプリのアイコンが邪魔で何も見えないのですが……」
「しししし、もっと音量下げて喋ってよ。すぐ後ろに大地がいんの」
「私に宿題をやらせようとせずとも、同じ部屋に学年トップの方がいるじゃないですか。教えて頂いたらよろしいのに」
「むり、冷酷キャラすぎる」
「何のために勉強会に行っているのです」
「時給50円もらうために決まってんだろぉ」
「ケーキ出してもらったよぉ。すんごい美味しいトコのだったぁ」

 割り込んできた慧の話に、つくも神が時刻表示を見る。

「お茶菓子を出してもらって食べていたのですか。では大分ゆっくりしたのでは」
「バイトの休憩も兼ねてだから、何やかんや30分くらい経ったかなあ」
「あと30分で帰れる~」
「そんな無茶な。そこまで行って30分しか宿題やらないのですか?」
「ここでやっても家でやっても変わらないし」
「静かすぎて眠いよぉ」

 そんなやりとりをしていると、椅子がきしむ音の後に大地が席を立った。

「何ページできた?」

 突然話しかけられ、慌ててスマホを机に伏せて置く。

「えっ……いや、まだ、1問目」
「何だと!」
「ひぃ!」

 大地の剣幕に、向かい合わせで座っていた慧が鈴の影へ滑り込む。おそらくつくも神もこのやりとりを聞いているはず。

「40分近くあっただろう、茶を飲みに来たのか!?」
「そ、そんなこと言っても……バイトで疲れてたし……」
「休憩ほしいもん~……」

 学年トップの秀才が大きな溜め息を吐いて目をつむった。

「お前達の宿題を見てやってくれと言われているんだ。無論見るつもりはなかったが、1問しかできてないのでは僕が困ることになる」
「な……なんで」
「お互い無関心なのがバレるからだ。君たちも母さんの提案ができてないのが知れるぞ」

 それはマズイ。時給50円が必要なのだ。

「うう……じゃあ、明日から休憩なしでやるよぉ」
「ダメだ。集中できないだろそれじゃ。時間に囚われるな。20ページ終わるまでいろ」
「ぎええええ!?」
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