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10 ご利益無縁の付喪神
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バイト初日は無事終わった。
無事かどうか些か怪しいが、とにかく怪我も無く終わったという意味では無事だ。
ただ、例の話が2人の気を重くしている。
吉田家のオタク部屋に戻ってきた鈴と慧は、気疲れしてクタクタの身体を床に投げ出した。
「もうむり……」
慣れればマシになってくるが、仕事を覚えるまではしんどいものだ。初日の仕事量などたかが知れているが、働いたことのない高校生には色々と重く感じるのだろう。
転がる少女たちの耳に、スリープから目覚めたパソコンのモーター音が聞こえ始める。その後、青白い電光が部屋の中に転がり、白く発光する横線がつくも神の形を作り上げていく。
「おかえりなさい。どうでしたか」
「どうもこうもねえよ……16歳の美少女2人のバイトでちゃんこ屋紹介するておまぇ……」
「まかないがすごく美味しかったよお」
慧ののんきな声に、鈴が脱力して溜め息を逃す。
「何かとんでもないことになっちゃったんだよお」
「とんでもないこと?」
「あそこのバイト先、ウチの学校の学年トップの実家だったの」
「ほお。何か不都合でも?」
「その子と宿題やるハメになっちゃったの」
慧の言葉につくも神は喜んだが、当然飛び起きて反論するのは鈴である。
「良かったじゃないですか」
「よくないわ!」
「お二方とも、宿題どうしようって言ってたじゃないですか。学年トップに教えてもらえる機会が舞い込むなんて、普段中々ないことですよ」
「何でその、普段中々ないことがこうも頻繁におきるんです!?」
「悪いことと言えば気疲れするくらいなもので、他はよい条件ばかりじゃないですか」
ついに鈴がキレた。飛び上がる程の勢いで身体を起こすと、こちらを見ているつくも神に歯を剥く。
「おかしいよ!」
「何がですか」
「このパソコンをもらってから、厄介なことばっかり重なってるじゃん!」
慧もようやくそこに気が付いたようで、『ああ』とのんきな声を出す。鈴は更に食い込んだ。
「一体つくも神って何する神様なのさ!? 全然ご利益ないじゃんか!」
「いや……だから、つくも神は神様というよりも、怪士です。妖怪の類いだと言っているじゃないですか」
「つくもさん妖怪なの!?」
「家に妖怪住んでんのウチ!? 何もいいことねえじゃんよおお!!」
「そ、それで……つくもさんは、何ができるんです?」
一瞬間が空き。
「さ……さあ?」
「さあて!! さあっっっっってえええ!!」
発狂しながら再び床に転がる鈴を見下ろしながら、つくも神は冷や汗をかきながら苦笑いを返す。
「と、とにかく、明日もバイトです。夏休みの宿題もやらないといけませんし、もう今日はお疲れでしょうから、早めにお休みに……」
「お前も来てもらうぞ、つくもぉ……」
地の底から響く鈴の声につくも神は首を傾げる。
「え?」
「明日から、お前も、一緒に、バイトに、行ってもらうからなぁあ!」
「えっ!?」
慧とつくも神、両方から思わず声が漏れた。
「しょ、小生はこのパソコンから離れられませんよ」
「マウス動したじゃん! ネットに繋がってんだから、スマホとやりとりすれば外出可能じゃろ!?」
はたと気が付き。
「ああ、なるほど……。できますね」
「で、でも鈴ちゃ……つくもさんに来てもらっても、バイトできるわけじゃないし……?」
「こうなったら意地でも何かの役に立ってもらう。わしらだけ大変な思いをするのは割にあわないんじゃあ!」
鈴の無茶ぶりはいつものことだ。慧はおっとりしている風でも、それを面白いと思えるだけの度胸があり、さすが幼馴染みと言った様子で笑った。
「ていうか、それってスマホの中に妖怪が入るってことだよね! ゲームっぽい!」
「い、いや……スマホにアクセスするだけなので、リモート通話ですよ」
「ふひひ……覚悟しろつくもぉ……」
鈴は不敵な笑みを浮かべていたが、そもそもこの少女2人は付喪神というものをよく知らない。
付喪神は古くからふわっとした存在として書かれているので、厳密に『これが付喪神である』という定義はないようだが、そこにもちょっとした共通点はある。
『もの』に取り憑いた妖怪や精霊の類いがそれで、中にはちょいちょい厄介ごとをやらかしたりする奴もおるそうな。
このつくも神がそれなのかはさておき、触らぬ神に祟りなし。これ以上不用意なことをしない方が身のためなのだが……それをやってしまうのがこのコンビ、鈴と慧なのである。
明日はどうなることやら。
無事かどうか些か怪しいが、とにかく怪我も無く終わったという意味では無事だ。
ただ、例の話が2人の気を重くしている。
吉田家のオタク部屋に戻ってきた鈴と慧は、気疲れしてクタクタの身体を床に投げ出した。
「もうむり……」
慣れればマシになってくるが、仕事を覚えるまではしんどいものだ。初日の仕事量などたかが知れているが、働いたことのない高校生には色々と重く感じるのだろう。
転がる少女たちの耳に、スリープから目覚めたパソコンのモーター音が聞こえ始める。その後、青白い電光が部屋の中に転がり、白く発光する横線がつくも神の形を作り上げていく。
「おかえりなさい。どうでしたか」
「どうもこうもねえよ……16歳の美少女2人のバイトでちゃんこ屋紹介するておまぇ……」
「まかないがすごく美味しかったよお」
慧ののんきな声に、鈴が脱力して溜め息を逃す。
「何かとんでもないことになっちゃったんだよお」
「とんでもないこと?」
「あそこのバイト先、ウチの学校の学年トップの実家だったの」
「ほお。何か不都合でも?」
「その子と宿題やるハメになっちゃったの」
慧の言葉につくも神は喜んだが、当然飛び起きて反論するのは鈴である。
「良かったじゃないですか」
「よくないわ!」
「お二方とも、宿題どうしようって言ってたじゃないですか。学年トップに教えてもらえる機会が舞い込むなんて、普段中々ないことですよ」
「何でその、普段中々ないことがこうも頻繁におきるんです!?」
「悪いことと言えば気疲れするくらいなもので、他はよい条件ばかりじゃないですか」
ついに鈴がキレた。飛び上がる程の勢いで身体を起こすと、こちらを見ているつくも神に歯を剥く。
「おかしいよ!」
「何がですか」
「このパソコンをもらってから、厄介なことばっかり重なってるじゃん!」
慧もようやくそこに気が付いたようで、『ああ』とのんきな声を出す。鈴は更に食い込んだ。
「一体つくも神って何する神様なのさ!? 全然ご利益ないじゃんか!」
「いや……だから、つくも神は神様というよりも、怪士です。妖怪の類いだと言っているじゃないですか」
「つくもさん妖怪なの!?」
「家に妖怪住んでんのウチ!? 何もいいことねえじゃんよおお!!」
「そ、それで……つくもさんは、何ができるんです?」
一瞬間が空き。
「さ……さあ?」
「さあて!! さあっっっっってえええ!!」
発狂しながら再び床に転がる鈴を見下ろしながら、つくも神は冷や汗をかきながら苦笑いを返す。
「と、とにかく、明日もバイトです。夏休みの宿題もやらないといけませんし、もう今日はお疲れでしょうから、早めにお休みに……」
「お前も来てもらうぞ、つくもぉ……」
地の底から響く鈴の声につくも神は首を傾げる。
「え?」
「明日から、お前も、一緒に、バイトに、行ってもらうからなぁあ!」
「えっ!?」
慧とつくも神、両方から思わず声が漏れた。
「しょ、小生はこのパソコンから離れられませんよ」
「マウス動したじゃん! ネットに繋がってんだから、スマホとやりとりすれば外出可能じゃろ!?」
はたと気が付き。
「ああ、なるほど……。できますね」
「で、でも鈴ちゃ……つくもさんに来てもらっても、バイトできるわけじゃないし……?」
「こうなったら意地でも何かの役に立ってもらう。わしらだけ大変な思いをするのは割にあわないんじゃあ!」
鈴の無茶ぶりはいつものことだ。慧はおっとりしている風でも、それを面白いと思えるだけの度胸があり、さすが幼馴染みと言った様子で笑った。
「ていうか、それってスマホの中に妖怪が入るってことだよね! ゲームっぽい!」
「い、いや……スマホにアクセスするだけなので、リモート通話ですよ」
「ふひひ……覚悟しろつくもぉ……」
鈴は不敵な笑みを浮かべていたが、そもそもこの少女2人は付喪神というものをよく知らない。
付喪神は古くからふわっとした存在として書かれているので、厳密に『これが付喪神である』という定義はないようだが、そこにもちょっとした共通点はある。
『もの』に取り憑いた妖怪や精霊の類いがそれで、中にはちょいちょい厄介ごとをやらかしたりする奴もおるそうな。
このつくも神がそれなのかはさておき、触らぬ神に祟りなし。これ以上不用意なことをしない方が身のためなのだが……それをやってしまうのがこのコンビ、鈴と慧なのである。
明日はどうなることやら。
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