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8 働きたくないでござる
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鈴と慧は床に転がったまま身動きをしない。
「……とんでもない災難が舞い降りてきたよ……」
「冬コミまで4ヶ月あるし、2人活動で折半だから、お小遣いだけで本は出せると思ってたのに……」
先見が甘いのは、つい最近まで中学生の子供だったので仕方がない。
「働きたくないでござる!!」
「働きたくないでござる!!」
「私たち、まだ高校生! 親のスネ肉美味しい年齢なのに!」
つくも神は半ば呆れて溜め息を吐いたが、ネットに落ちていた情報を教えてやる。
「今が夏休みだったのはついていました。高校生でも応募ができて割の良い短期のバイトが沢山出ていますよ」
「パソコンの憑きものにツイてるとか言われてモヤッ」
「道楽の金額が大きいので、親御さんのスネをかじるのは避けないといけません。選択肢は2つしかありませんよ。同人誌を出すためにバイトをするか、同人誌を出すために節約をするか。どちらを選びますか?」
「くっ……!! 正論かましてから、究極の二択がすぎる!!」
鈴は床に転がって散々悩んだ挙げ句、最後の足掻きに出た。
「つくも……第三の道を試そう」
「第三の道?」
「ああ……マウスで描けば、ペンタブ代が浮く!!」
慧が悲鳴をあげた。
「鈴ちゃあああ!? いくら何でもそれは自殺行為すぎるよおお!?」
「俺はマウスの神絵師になる!」
「ムリだって!!」
「やってみないと分からないだろお!!」
「そんな人、聞いたことないよ!」
「いるにはいますね」
「マジで!?」
つくも神の返答に、鈴も慧も思わず素に戻る。ムチャぶりして言ってみたものの、本当にそんな器用な絵描きが存在しているとは思わなかったのだろう。
「マウスでも絵が描けるんや! やればできるって証明してくれてる人達が世界にいる! つくも!! 用意だ!!」
「はいはい……」
すると、テーブルの上に置いてあるマウスがスーッと横に移動したのを目に入れた2人は、思わず前のめりで感嘆の叫びを上げた。
「うおおお!? 周辺機器も動かせるのつくも!?」
「ケーブルで繋がっているものなら可能です。おそらくは、Wi-Fiなんかの電波を使ってもいけるかと」
「何か、つくも神のイメージ変わってくるね!」
「ロボットジャンルじゃん、もおこれ!」
「あやかしだよ鈴ちゃ!」
「SFじゃね!?」
「めっちゃリモート操作じゃんー」
初期から入っているペイントソフトが開いたところで、マウスの動きが止まった。
「はい、どうぞ」
「よーっしゃ、マウス神絵師爆誕の瞬間を見やがれ!」
鈴はマウスを握り、初期設定のままのほっっっそいペンの幅で、ヨレヨレの線を何とか人の形に近づけようとしていく。
頼りない線に慧が首を傾げた。
「誰描いてるの?」
「オーウェン様」
ちなみにオーウェン様とは、ダッシュ(週刊誌)で連載中の漫画『クランケモーテル』のキャラで、鈴の推しキャラである。厨二心をグサグサ刺しまくった挙げ句、顔面偏差値の高い男子たちの群れが乙女達を腐った沼の中に突き落としていくような分かりやすい内容だが、一応少年向けの漫画だ。
輪郭を描き……眉毛を描き……鼻を描き……右目を入れたところで、突然鈴が発狂した。
「ムリだああ!! マウスで絵なんか描けるわきゃねんだあああ!! 止めろよお前ら!!」
「だから言ったのに!!」
鈴の心が壊れるまでそう時間はかからなかった。大好きなキャラが作画崩壊していく様に耐えきれず、少女は崩れると机にデンと額を打ち付ける。
「2人羽織で、後ろの人が左手で描いたのかってくらいひどいよ鈴ちゃ……」
無情なる慧の評価に、鈴は歯を食いしばって顔を上げた。
「くっ……ペンタブは必須だ!」
はなから分かっていたことを、足掻きまくった結論がこれだ。
悲惨な絵で推しを描くと精神が崩壊すると学んだ2人は、崖の先端に追い詰められているのをようやく悟る。
いつも元気でむちゃくちゃな鈴から、はかなげな声が漏れた。
「つくもぉぉ……」
「位置情報から、近所にあるバイト先を応募しておきました。夏休みの2週間、お二人で通ってください」
「ふえええん」
「……とんでもない災難が舞い降りてきたよ……」
「冬コミまで4ヶ月あるし、2人活動で折半だから、お小遣いだけで本は出せると思ってたのに……」
先見が甘いのは、つい最近まで中学生の子供だったので仕方がない。
「働きたくないでござる!!」
「働きたくないでござる!!」
「私たち、まだ高校生! 親のスネ肉美味しい年齢なのに!」
つくも神は半ば呆れて溜め息を吐いたが、ネットに落ちていた情報を教えてやる。
「今が夏休みだったのはついていました。高校生でも応募ができて割の良い短期のバイトが沢山出ていますよ」
「パソコンの憑きものにツイてるとか言われてモヤッ」
「道楽の金額が大きいので、親御さんのスネをかじるのは避けないといけません。選択肢は2つしかありませんよ。同人誌を出すためにバイトをするか、同人誌を出すために節約をするか。どちらを選びますか?」
「くっ……!! 正論かましてから、究極の二択がすぎる!!」
鈴は床に転がって散々悩んだ挙げ句、最後の足掻きに出た。
「つくも……第三の道を試そう」
「第三の道?」
「ああ……マウスで描けば、ペンタブ代が浮く!!」
慧が悲鳴をあげた。
「鈴ちゃあああ!? いくら何でもそれは自殺行為すぎるよおお!?」
「俺はマウスの神絵師になる!」
「ムリだって!!」
「やってみないと分からないだろお!!」
「そんな人、聞いたことないよ!」
「いるにはいますね」
「マジで!?」
つくも神の返答に、鈴も慧も思わず素に戻る。ムチャぶりして言ってみたものの、本当にそんな器用な絵描きが存在しているとは思わなかったのだろう。
「マウスでも絵が描けるんや! やればできるって証明してくれてる人達が世界にいる! つくも!! 用意だ!!」
「はいはい……」
すると、テーブルの上に置いてあるマウスがスーッと横に移動したのを目に入れた2人は、思わず前のめりで感嘆の叫びを上げた。
「うおおお!? 周辺機器も動かせるのつくも!?」
「ケーブルで繋がっているものなら可能です。おそらくは、Wi-Fiなんかの電波を使ってもいけるかと」
「何か、つくも神のイメージ変わってくるね!」
「ロボットジャンルじゃん、もおこれ!」
「あやかしだよ鈴ちゃ!」
「SFじゃね!?」
「めっちゃリモート操作じゃんー」
初期から入っているペイントソフトが開いたところで、マウスの動きが止まった。
「はい、どうぞ」
「よーっしゃ、マウス神絵師爆誕の瞬間を見やがれ!」
鈴はマウスを握り、初期設定のままのほっっっそいペンの幅で、ヨレヨレの線を何とか人の形に近づけようとしていく。
頼りない線に慧が首を傾げた。
「誰描いてるの?」
「オーウェン様」
ちなみにオーウェン様とは、ダッシュ(週刊誌)で連載中の漫画『クランケモーテル』のキャラで、鈴の推しキャラである。厨二心をグサグサ刺しまくった挙げ句、顔面偏差値の高い男子たちの群れが乙女達を腐った沼の中に突き落としていくような分かりやすい内容だが、一応少年向けの漫画だ。
輪郭を描き……眉毛を描き……鼻を描き……右目を入れたところで、突然鈴が発狂した。
「ムリだああ!! マウスで絵なんか描けるわきゃねんだあああ!! 止めろよお前ら!!」
「だから言ったのに!!」
鈴の心が壊れるまでそう時間はかからなかった。大好きなキャラが作画崩壊していく様に耐えきれず、少女は崩れると机にデンと額を打ち付ける。
「2人羽織で、後ろの人が左手で描いたのかってくらいひどいよ鈴ちゃ……」
無情なる慧の評価に、鈴は歯を食いしばって顔を上げた。
「くっ……ペンタブは必須だ!」
はなから分かっていたことを、足掻きまくった結論がこれだ。
悲惨な絵で推しを描くと精神が崩壊すると学んだ2人は、崖の先端に追い詰められているのをようやく悟る。
いつも元気でむちゃくちゃな鈴から、はかなげな声が漏れた。
「つくもぉぉ……」
「位置情報から、近所にあるバイト先を応募しておきました。夏休みの2週間、お二人で通ってください」
「ふえええん」
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