つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

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5 情熱の創作魂

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「ま、まあ……今の小生は言わばパソコンそのものですので、動かせるか否かの質問ならば、動かせますが……。一体パソコンで何をするおつもりですか?」

 首を傾げたつくも神に、鈴が不敵な笑みを見せた。

「我々は若き創作魂を薄い本に注ぎ込みたいのだ!」
「薄い本」

 ネットに繋がっていないので、パソコンに取り憑いているつくも神はおそらく誤解しているが話は進む。

「現代人は、このぱしょこんで絵を描き、文字を綴る。だがそれには相応のテクニックが必要なのだが、我々はまだ若い」
「なるほど、技術を身につけていないというわけですね」
「そういうことなのであります」

 鈴と慧の真剣な瞳の輝きを目に入れ、つくも神は胸が熱くなって目をつむった。

「むむむ……この湧き上がるような熱さ……これはおそらく、生前の小生が物書きをしていたからでしょう。清らかな乙女2人の熱意に胸打たれ、生きている頃の記憶がないながら、その情熱だけを思い出している……」

 2人とも腐っているので、清らかかどうかと言われると怪しいが、子供という意味合いならば間違えてはいない。
 鈴と慧が身を乗り出す。

「つくも神様! 手伝っては頂けまいか!」
「貴方の力が必要なの!」

 ブワッと音すら聞こえそうな熱気がつくも神に降りかかり、遠いさざ波が胸の高まりを身近に運んでくる。

「いいでしょう! これも何かのご縁。小生はつくも神となりましたので、その役割を全うしなくてはなりませんし。貴女がた2人といれば、おのずその方法に近づけるやもしれない」
「やったあ!!」

 鈴と慧が両手を合わせてパンと音を鳴らす。

「私、鈴っていうんだ。こっちは親友の慧」
「よろしくぅ~! つくも神様は何とお呼びすればいいのかな?」

 神様相手にこの2人、軽すぎる。
 つくも神は一瞬間を空け、分からないといった様子で首を横に振った。

「生前自分が何者であったかは記憶にありません。ただ、このパソコンに取り憑いた八百万のつくも神の一人となった。そのパソコンの持ち主である貴女が、小生の名前を決めてくれればよいかと」
「えっ」

 つくも神と慧が鈴に視線を送る。

「鈴ちゃ、ここはオタクの腕の見せ所だよ」
「うーん、私二次創作しかやったことないからなあ。さすがに神様にキャラ名つけたら申し訳ないし」
「推しになっちゃうもんね」

 どういう原理だ。

「そのまんま『つくも』でいいんじゃない?」
「つくもさん」
「ではコンピューター名『TUKUMO』で登録します」
「え、そういうことなの」

 つくも、と名をつけられた書生のつくも神は人なつこい笑顔を向けてくる。鈴が『まあいいか』と気を取り直したところで、突然鈴父がドアを開けた。

 一瞬、部屋の中にいた3人が白く固まる。

「廊下に保証書落としてたわ」
「ちょっと!! ノックくらいしてよ!!」
「おおお……何だよ、今さっき出て行ったばっかりなんだから、このくらいいいだろ」

 鈴と慧は慌てたが、鈴父は部屋の中を見ても何も変わらない様子で、目の前にいた慧に拾った保証書を渡してすぐに退出してしまった。

「え……? どゆこと」

 少女2人がポカンと口を開けている横で、つくもが言った。

「どうやら小生が見えなかった様子」
「神様だから?」
「でも私ら、つくものこと見えてんじゃん」
「ふーむ? 何でしょうねえ? 霊感? 童子だから? 何れにしても好都合かと」
「まあいいよ! 私と慧だけ知ってればいい話なら説明不要だし!」
「鈴ちゃ割り切るの早い!」

 鈴は立ち上がると顎を上げ、片手を前に出してつくもの前へ歩み出る。それを真似した慧も前へ出て頭を垂れた。その圧でつくも神が後方に一歩退く羽目に。

「さて、じゃあさっそく血の契約を交わすとするか……」
「ないですよ!? 何でそんな物騒な話になるんです!?」
「ちえっ」

 慌てるつくも神に対し、露骨に鈴がガッカリした様子で口をへの字に結ぶ。それに慧が頷いた。

「分かる。特別な契約のシチュとか憧れてた」
「ね、リアルはロマンがなくてダメだ。やっぱ二次元だわ」
「二次元最高」

 この2人の考えること全てがオタクに繋がっていく。

「ていうか、つくも神って何するためにいんの?」
「そいや擬人化みたいな楽しみしか知らないよね?」

 刺さるほど興味津々な視線を受けたつくも神は、若干焦りはしたが、スッと目をつむるとこう答えた。

「ネットに……繋がってないと何とも……」
「使えねえ箱だな!!」
「がっかりだよ!!」

 パソコンが壊れて、パソコンの不具合の原因を調べたいのに、パソコンが壊れていてネットに繋げない因果関係が成立しているのが現在。
 諦めた鈴は椅子の背もたれに身体を預けた。

「仕方ない。とりあえず明日父上がネットに繋げてくれるのを待とう。じゃないとつくもはただの箱だ」
「うう……面目ない」

 ハイスペックマシンを捕まえてこの言い草である。
 何だかとんでもない所にやって来てしまったなと、今更ながらつくも神は思ったとか。
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