5 / 97
5 情熱の創作魂
しおりを挟む
「ま、まあ……今の小生は言わばパソコンそのものですので、動かせるか否かの質問ならば、動かせますが……。一体パソコンで何をするおつもりですか?」
首を傾げたつくも神に、鈴が不敵な笑みを見せた。
「我々は若き創作魂を薄い本に注ぎ込みたいのだ!」
「薄い本」
ネットに繋がっていないので、パソコンに取り憑いているつくも神はおそらく誤解しているが話は進む。
「現代人は、このぱしょこんで絵を描き、文字を綴る。だがそれには相応のテクニックが必要なのだが、我々はまだ若い」
「なるほど、技術を身につけていないというわけですね」
「そういうことなのであります」
鈴と慧の真剣な瞳の輝きを目に入れ、つくも神は胸が熱くなって目をつむった。
「むむむ……この湧き上がるような熱さ……これはおそらく、生前の小生が物書きをしていたからでしょう。清らかな乙女2人の熱意に胸打たれ、生きている頃の記憶がないながら、その情熱だけを思い出している……」
2人とも腐っているので、清らかかどうかと言われると怪しいが、子供という意味合いならば間違えてはいない。
鈴と慧が身を乗り出す。
「つくも神様! 手伝っては頂けまいか!」
「貴方の力が必要なの!」
ブワッと音すら聞こえそうな熱気がつくも神に降りかかり、遠いさざ波が胸の高まりを身近に運んでくる。
「いいでしょう! これも何かのご縁。小生はつくも神となりましたので、その役割を全うしなくてはなりませんし。貴女がた2人といれば、おのずその方法に近づけるやもしれない」
「やったあ!!」
鈴と慧が両手を合わせてパンと音を鳴らす。
「私、鈴っていうんだ。こっちは親友の慧」
「よろしくぅ~! つくも神様は何とお呼びすればいいのかな?」
神様相手にこの2人、軽すぎる。
つくも神は一瞬間を空け、分からないといった様子で首を横に振った。
「生前自分が何者であったかは記憶にありません。ただ、このパソコンに取り憑いた八百万のつくも神の一人となった。そのパソコンの持ち主である貴女が、小生の名前を決めてくれればよいかと」
「えっ」
つくも神と慧が鈴に視線を送る。
「鈴ちゃ、ここはオタクの腕の見せ所だよ」
「うーん、私二次創作しかやったことないからなあ。さすがに神様にキャラ名つけたら申し訳ないし」
「推しになっちゃうもんね」
どういう原理だ。
「そのまんま『つくも』でいいんじゃない?」
「つくもさん」
「ではコンピューター名『TUKUMO』で登録します」
「え、そういうことなの」
つくも、と名をつけられた書生のつくも神は人なつこい笑顔を向けてくる。鈴が『まあいいか』と気を取り直したところで、突然鈴父がドアを開けた。
一瞬、部屋の中にいた3人が白く固まる。
「廊下に保証書落としてたわ」
「ちょっと!! ノックくらいしてよ!!」
「おおお……何だよ、今さっき出て行ったばっかりなんだから、このくらいいいだろ」
鈴と慧は慌てたが、鈴父は部屋の中を見ても何も変わらない様子で、目の前にいた慧に拾った保証書を渡してすぐに退出してしまった。
「え……? どゆこと」
少女2人がポカンと口を開けている横で、つくもが言った。
「どうやら小生が見えなかった様子」
「神様だから?」
「でも私ら、つくものこと見えてんじゃん」
「ふーむ? 何でしょうねえ? 霊感? 童子だから? 何れにしても好都合かと」
「まあいいよ! 私と慧だけ知ってればいい話なら説明不要だし!」
「鈴ちゃ割り切るの早い!」
鈴は立ち上がると顎を上げ、片手を前に出してつくもの前へ歩み出る。それを真似した慧も前へ出て頭を垂れた。その圧でつくも神が後方に一歩退く羽目に。
「さて、じゃあさっそく血の契約を交わすとするか……」
「ないですよ!? 何でそんな物騒な話になるんです!?」
「ちえっ」
慌てるつくも神に対し、露骨に鈴がガッカリした様子で口をへの字に結ぶ。それに慧が頷いた。
「分かる。特別な契約のシチュとか憧れてた」
「ね、リアルはロマンがなくてダメだ。やっぱ二次元だわ」
「二次元最高」
この2人の考えること全てがオタクに繋がっていく。
「ていうか、つくも神って何するためにいんの?」
「そいや擬人化みたいな楽しみしか知らないよね?」
刺さるほど興味津々な視線を受けたつくも神は、若干焦りはしたが、スッと目をつむるとこう答えた。
「ネットに……繋がってないと何とも……」
「使えねえ箱だな!!」
「がっかりだよ!!」
パソコンが壊れて、パソコンの不具合の原因を調べたいのに、パソコンが壊れていてネットに繋げない因果関係が成立しているのが現在。
諦めた鈴は椅子の背もたれに身体を預けた。
「仕方ない。とりあえず明日父上がネットに繋げてくれるのを待とう。じゃないとつくもはただの箱だ」
「うう……面目ない」
ハイスペックマシンを捕まえてこの言い草である。
何だかとんでもない所にやって来てしまったなと、今更ながらつくも神は思ったとか。
首を傾げたつくも神に、鈴が不敵な笑みを見せた。
「我々は若き創作魂を薄い本に注ぎ込みたいのだ!」
「薄い本」
ネットに繋がっていないので、パソコンに取り憑いているつくも神はおそらく誤解しているが話は進む。
「現代人は、このぱしょこんで絵を描き、文字を綴る。だがそれには相応のテクニックが必要なのだが、我々はまだ若い」
「なるほど、技術を身につけていないというわけですね」
「そういうことなのであります」
鈴と慧の真剣な瞳の輝きを目に入れ、つくも神は胸が熱くなって目をつむった。
「むむむ……この湧き上がるような熱さ……これはおそらく、生前の小生が物書きをしていたからでしょう。清らかな乙女2人の熱意に胸打たれ、生きている頃の記憶がないながら、その情熱だけを思い出している……」
2人とも腐っているので、清らかかどうかと言われると怪しいが、子供という意味合いならば間違えてはいない。
鈴と慧が身を乗り出す。
「つくも神様! 手伝っては頂けまいか!」
「貴方の力が必要なの!」
ブワッと音すら聞こえそうな熱気がつくも神に降りかかり、遠いさざ波が胸の高まりを身近に運んでくる。
「いいでしょう! これも何かのご縁。小生はつくも神となりましたので、その役割を全うしなくてはなりませんし。貴女がた2人といれば、おのずその方法に近づけるやもしれない」
「やったあ!!」
鈴と慧が両手を合わせてパンと音を鳴らす。
「私、鈴っていうんだ。こっちは親友の慧」
「よろしくぅ~! つくも神様は何とお呼びすればいいのかな?」
神様相手にこの2人、軽すぎる。
つくも神は一瞬間を空け、分からないといった様子で首を横に振った。
「生前自分が何者であったかは記憶にありません。ただ、このパソコンに取り憑いた八百万のつくも神の一人となった。そのパソコンの持ち主である貴女が、小生の名前を決めてくれればよいかと」
「えっ」
つくも神と慧が鈴に視線を送る。
「鈴ちゃ、ここはオタクの腕の見せ所だよ」
「うーん、私二次創作しかやったことないからなあ。さすがに神様にキャラ名つけたら申し訳ないし」
「推しになっちゃうもんね」
どういう原理だ。
「そのまんま『つくも』でいいんじゃない?」
「つくもさん」
「ではコンピューター名『TUKUMO』で登録します」
「え、そういうことなの」
つくも、と名をつけられた書生のつくも神は人なつこい笑顔を向けてくる。鈴が『まあいいか』と気を取り直したところで、突然鈴父がドアを開けた。
一瞬、部屋の中にいた3人が白く固まる。
「廊下に保証書落としてたわ」
「ちょっと!! ノックくらいしてよ!!」
「おおお……何だよ、今さっき出て行ったばっかりなんだから、このくらいいいだろ」
鈴と慧は慌てたが、鈴父は部屋の中を見ても何も変わらない様子で、目の前にいた慧に拾った保証書を渡してすぐに退出してしまった。
「え……? どゆこと」
少女2人がポカンと口を開けている横で、つくもが言った。
「どうやら小生が見えなかった様子」
「神様だから?」
「でも私ら、つくものこと見えてんじゃん」
「ふーむ? 何でしょうねえ? 霊感? 童子だから? 何れにしても好都合かと」
「まあいいよ! 私と慧だけ知ってればいい話なら説明不要だし!」
「鈴ちゃ割り切るの早い!」
鈴は立ち上がると顎を上げ、片手を前に出してつくもの前へ歩み出る。それを真似した慧も前へ出て頭を垂れた。その圧でつくも神が後方に一歩退く羽目に。
「さて、じゃあさっそく血の契約を交わすとするか……」
「ないですよ!? 何でそんな物騒な話になるんです!?」
「ちえっ」
慌てるつくも神に対し、露骨に鈴がガッカリした様子で口をへの字に結ぶ。それに慧が頷いた。
「分かる。特別な契約のシチュとか憧れてた」
「ね、リアルはロマンがなくてダメだ。やっぱ二次元だわ」
「二次元最高」
この2人の考えること全てがオタクに繋がっていく。
「ていうか、つくも神って何するためにいんの?」
「そいや擬人化みたいな楽しみしか知らないよね?」
刺さるほど興味津々な視線を受けたつくも神は、若干焦りはしたが、スッと目をつむるとこう答えた。
「ネットに……繋がってないと何とも……」
「使えねえ箱だな!!」
「がっかりだよ!!」
パソコンが壊れて、パソコンの不具合の原因を調べたいのに、パソコンが壊れていてネットに繋げない因果関係が成立しているのが現在。
諦めた鈴は椅子の背もたれに身体を預けた。
「仕方ない。とりあえず明日父上がネットに繋げてくれるのを待とう。じゃないとつくもはただの箱だ」
「うう……面目ない」
ハイスペックマシンを捕まえてこの言い草である。
何だかとんでもない所にやって来てしまったなと、今更ながらつくも神は思ったとか。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる