つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

文字の大きさ
上 下
4 / 97

4 付喪神解凍

しおりを挟む
 次の一瞬で室内に波が起きたように透き通った青が広がり、光の塊が崩れて発光した後、横に筋を引きながら人の形を作り出していく。

「ふえ……!?」

 電光で光るモニターを見ていたせいで気づくのが遅れた鈴と慧が、一瞬間を置いた後に驚いて振り返り、その光景を目の当たりにする。

「ひ、ひえええ!?」
「な、ナニナニナニナニ!?」

 見る見る形作られていく人のシルエットは、次第に光を収めていくと、随分古めかしい姿をした青年となって落ち着いた。
 上から学生帽に、白地に十字絣の着物、下は浜辺の砂のように柔らかい色の袴を身につけた青年は、まるで明治から飛び出してきた書生のようで、明るい焦げ茶の髪を揺らして目を開く様は、オタク娘2人の心を軽くときめかせる。

「えっ、萌え、何!?」
「ちょっ、慧……こんな状況なのに萌えはねえ」
「鈴ちゃんもオタクなら分かるでしょお!?」
「くっ……言い返せない!」

 状況が飲み込めていない2人の前で、更に状況が飲み込めない書生らしき人物が音の出るほどハッとして口を開いた。

「えっ!?」

 そして勢いよく左右を見回し、目の前の少女2人で視線を止める。

「だっ、誰!?」
「こっちの台詞だよお!?」
「どどどど、どこですかここは……!? えっ!? なななな何!?」

 双方で警戒してドン引いていたが、この状況から察するに、どちらも害にならないと思ったのだろう、慧にしがみつかれたままの鈴が、まず相手の心の窓をそっと覗き込む。

「コスプレイヤーにしか見えねえが……何かとんでもないものを目の当たりにしてしまったので敢えて聞きます。……誰?」

 質問された後、書生は視線を宙に流し、何かを思い出した後、絶望感溢れる様子で大きく溜め息を逃した。

「あのぉ……小生、つくも神なる者でして……」
「ホワッ!?」

 オタク2人が同時に奇声を発し、お互い身を寄せ合う。

「うそつけ! どう見てもぱしょこんから出てきたじゃん!」
「そそそうだよ! つくも神って言ったら、イメージ的に……キツネ耳に狩衣ーっみたいな……」
「ちょ……慧! フェチがすぎる! 嫌いじゃない!」

 カッとなる娘を前に、その独特な勢いで書生が目を点にしている。

「いや、マジで何? ホログラム?」
「AIとか……?」
「えーと……つくも神なので、怪士の類いですかね……」
「あやかしってジャンルじゃん」
「いやもう何から説明したらいいのか……」

 話が通じない以前、この2人の女子の勢いに困り果てた書生は、学帽を取って胸に当てると天を仰ぐ。するとワッと音を立てて頭に様々な情報が流れ込み、目を見開いてラックの隙間にあるパソコンに向き直った。

「ここっ、これっ! このパソコンなる箱。小生はこれに取り憑いております!」

 鈴と慧が眉間にシワを寄せて首を傾げる。

「つくも神、すごい近代化してんじゃん」
「でも格好は古いよねえ……?」
「古いというか、中途半端に古いというか」
「それについては、このフォルダーの中身」

 モニターを差す指が、例のREADMEフォルダをつつく。

「このパソコンを組み立てた御仁が、小生の書いた小説をここに閉じ込めたのが原因のようなのです」
「あの小説、あんたのなんだ」
「へえー……神様とかあやかしみたいな存在も創作ってするんだ……」
「いや、これは小生が生前に書いたもので……」

 驚いた鈴が聞く。

「えっ!? 元は人間だったの!?」
「ええ。そのようです」
「そのようですって」
「考えれば情報が波のように押し寄せてくるのですが、自分のことはよく思い出せないのです……。ただ、ここに小生の書いたものが閉じ込められていたので、そのことだけは思い出せるみたいで」

 慧がふぅんと鼻を鳴らす。

「それって、ぱしょこんに取り憑いたからかな? データが流れ込んでくるから、沢山の情報が分かるみたいな?」
「でも何でぱしょこんなんだろう……? つくも神って古い道具に取り憑くもんだと思ってた」
「詳細については、今ネットに繋がっていないので何とも」
「ネットに繋がれるんだ!」
「すごいね!」

 目の前の怪異について、この2人の対応が現実と境目のないあたりさすがオタクと言える。適応力の高さというか危機感のなさというか、話が早くて助かりはした。

 突然鈴が立ち上がる。

「こ、これはもしや、とんでもない力を手に入れたのでは!?」
「鈴ちゃ、ぱしょこんが手に入った時点で、もうすでにとんでもない力を手に入れてるよ!」
「でもこのぱしょこんは、このままでは我々にとって扱いきれない力でしかなかった! 何故なら、私も慧も、どうやって操作していいか分からないからっ!」
「確かに!」
「スマホが限界の我々にとって、ぱしょこん様が具現化されたわけだ!」
「これはもう、AIの上を行っちゃうね!」
「神様だし!」

 そこで書生が引きつった笑顔で言葉を返す。

「あ、あのぉ……期待を持って頂いているところ大変申し訳ないのですが……小生、どうして自分がつくも神になっているのか、さっぱり分かっていないのです……」
「そんなんどうでもいいよっ! とにかく我々には今、ぱしょこんを動かす知識が緊急で必要なんだ!」
「急募急募!」

 ぐいと近づく少女2人の勢いに、つくも神はよからぬ圧を感じて身を引いた。

「ぱしょこんに取り憑いてるっていうんだから、当然動かせるんでしょう!?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...