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4 付喪神解凍
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次の一瞬で室内に波が起きたように透き通った青が広がり、光の塊が崩れて発光した後、横に筋を引きながら人の形を作り出していく。
「ふえ……!?」
電光で光るモニターを見ていたせいで気づくのが遅れた鈴と慧が、一瞬間を置いた後に驚いて振り返り、その光景を目の当たりにする。
「ひ、ひえええ!?」
「な、ナニナニナニナニ!?」
見る見る形作られていく人のシルエットは、次第に光を収めていくと、随分古めかしい姿をした青年となって落ち着いた。
上から学生帽に、白地に十字絣の着物、下は浜辺の砂のように柔らかい色の袴を身につけた青年は、まるで明治から飛び出してきた書生のようで、明るい焦げ茶の髪を揺らして目を開く様は、オタク娘2人の心を軽くときめかせる。
「えっ、萌え、何!?」
「ちょっ、慧……こんな状況なのに萌えはねえ」
「鈴ちゃんもオタクなら分かるでしょお!?」
「くっ……言い返せない!」
状況が飲み込めていない2人の前で、更に状況が飲み込めない書生らしき人物が音の出るほどハッとして口を開いた。
「えっ!?」
そして勢いよく左右を見回し、目の前の少女2人で視線を止める。
「だっ、誰!?」
「こっちの台詞だよお!?」
「どどどど、どこですかここは……!? えっ!? なななな何!?」
双方で警戒してドン引いていたが、この状況から察するに、どちらも害にならないと思ったのだろう、慧にしがみつかれたままの鈴が、まず相手の心の窓をそっと覗き込む。
「コスプレイヤーにしか見えねえが……何かとんでもないものを目の当たりにしてしまったので敢えて聞きます。……誰?」
質問された後、書生は視線を宙に流し、何かを思い出した後、絶望感溢れる様子で大きく溜め息を逃した。
「あのぉ……小生、つくも神なる者でして……」
「ホワッ!?」
オタク2人が同時に奇声を発し、お互い身を寄せ合う。
「うそつけ! どう見てもぱしょこんから出てきたじゃん!」
「そそそうだよ! つくも神って言ったら、イメージ的に……キツネ耳に狩衣ーっみたいな……」
「ちょ……慧! フェチがすぎる! 嫌いじゃない!」
カッとなる娘を前に、その独特な勢いで書生が目を点にしている。
「いや、マジで何? ホログラム?」
「AIとか……?」
「えーと……つくも神なので、怪士の類いですかね……」
「あやかしってジャンルじゃん」
「いやもう何から説明したらいいのか……」
話が通じない以前、この2人の女子の勢いに困り果てた書生は、学帽を取って胸に当てると天を仰ぐ。するとワッと音を立てて頭に様々な情報が流れ込み、目を見開いてラックの隙間にあるパソコンに向き直った。
「ここっ、これっ! このパソコンなる箱。小生はこれに取り憑いております!」
鈴と慧が眉間にシワを寄せて首を傾げる。
「つくも神、すごい近代化してんじゃん」
「でも格好は古いよねえ……?」
「古いというか、中途半端に古いというか」
「それについては、このフォルダーの中身」
モニターを差す指が、例のREADMEフォルダをつつく。
「このパソコンを組み立てた御仁が、小生の書いた小説をここに閉じ込めたのが原因のようなのです」
「あの小説、あんたのなんだ」
「へえー……神様とかあやかしみたいな存在も創作ってするんだ……」
「いや、これは小生が生前に書いたもので……」
驚いた鈴が聞く。
「えっ!? 元は人間だったの!?」
「ええ。そのようです」
「そのようですって」
「考えれば情報が波のように押し寄せてくるのですが、自分のことはよく思い出せないのです……。ただ、ここに小生の書いたものが閉じ込められていたので、そのことだけは思い出せるみたいで」
慧がふぅんと鼻を鳴らす。
「それって、ぱしょこんに取り憑いたからかな? データが流れ込んでくるから、沢山の情報が分かるみたいな?」
「でも何でぱしょこんなんだろう……? つくも神って古い道具に取り憑くもんだと思ってた」
「詳細については、今ネットに繋がっていないので何とも」
「ネットに繋がれるんだ!」
「すごいね!」
目の前の怪異について、この2人の対応が現実と境目のないあたりさすがオタクと言える。適応力の高さというか危機感のなさというか、話が早くて助かりはした。
突然鈴が立ち上がる。
「こ、これはもしや、とんでもない力を手に入れたのでは!?」
「鈴ちゃ、ぱしょこんが手に入った時点で、もうすでにとんでもない力を手に入れてるよ!」
「でもこのぱしょこんは、このままでは我々にとって扱いきれない力でしかなかった! 何故なら、私も慧も、どうやって操作していいか分からないからっ!」
「確かに!」
「スマホが限界の我々にとって、ぱしょこん様が具現化されたわけだ!」
「これはもう、AIの上を行っちゃうね!」
「神様だし!」
そこで書生が引きつった笑顔で言葉を返す。
「あ、あのぉ……期待を持って頂いているところ大変申し訳ないのですが……小生、どうして自分がつくも神になっているのか、さっぱり分かっていないのです……」
「そんなんどうでもいいよっ! とにかく我々には今、ぱしょこんを動かす知識が緊急で必要なんだ!」
「急募急募!」
ぐいと近づく少女2人の勢いに、つくも神はよからぬ圧を感じて身を引いた。
「ぱしょこんに取り憑いてるっていうんだから、当然動かせるんでしょう!?」
「ふえ……!?」
電光で光るモニターを見ていたせいで気づくのが遅れた鈴と慧が、一瞬間を置いた後に驚いて振り返り、その光景を目の当たりにする。
「ひ、ひえええ!?」
「な、ナニナニナニナニ!?」
見る見る形作られていく人のシルエットは、次第に光を収めていくと、随分古めかしい姿をした青年となって落ち着いた。
上から学生帽に、白地に十字絣の着物、下は浜辺の砂のように柔らかい色の袴を身につけた青年は、まるで明治から飛び出してきた書生のようで、明るい焦げ茶の髪を揺らして目を開く様は、オタク娘2人の心を軽くときめかせる。
「えっ、萌え、何!?」
「ちょっ、慧……こんな状況なのに萌えはねえ」
「鈴ちゃんもオタクなら分かるでしょお!?」
「くっ……言い返せない!」
状況が飲み込めていない2人の前で、更に状況が飲み込めない書生らしき人物が音の出るほどハッとして口を開いた。
「えっ!?」
そして勢いよく左右を見回し、目の前の少女2人で視線を止める。
「だっ、誰!?」
「こっちの台詞だよお!?」
「どどどど、どこですかここは……!? えっ!? なななな何!?」
双方で警戒してドン引いていたが、この状況から察するに、どちらも害にならないと思ったのだろう、慧にしがみつかれたままの鈴が、まず相手の心の窓をそっと覗き込む。
「コスプレイヤーにしか見えねえが……何かとんでもないものを目の当たりにしてしまったので敢えて聞きます。……誰?」
質問された後、書生は視線を宙に流し、何かを思い出した後、絶望感溢れる様子で大きく溜め息を逃した。
「あのぉ……小生、つくも神なる者でして……」
「ホワッ!?」
オタク2人が同時に奇声を発し、お互い身を寄せ合う。
「うそつけ! どう見てもぱしょこんから出てきたじゃん!」
「そそそうだよ! つくも神って言ったら、イメージ的に……キツネ耳に狩衣ーっみたいな……」
「ちょ……慧! フェチがすぎる! 嫌いじゃない!」
カッとなる娘を前に、その独特な勢いで書生が目を点にしている。
「いや、マジで何? ホログラム?」
「AIとか……?」
「えーと……つくも神なので、怪士の類いですかね……」
「あやかしってジャンルじゃん」
「いやもう何から説明したらいいのか……」
話が通じない以前、この2人の女子の勢いに困り果てた書生は、学帽を取って胸に当てると天を仰ぐ。するとワッと音を立てて頭に様々な情報が流れ込み、目を見開いてラックの隙間にあるパソコンに向き直った。
「ここっ、これっ! このパソコンなる箱。小生はこれに取り憑いております!」
鈴と慧が眉間にシワを寄せて首を傾げる。
「つくも神、すごい近代化してんじゃん」
「でも格好は古いよねえ……?」
「古いというか、中途半端に古いというか」
「それについては、このフォルダーの中身」
モニターを差す指が、例のREADMEフォルダをつつく。
「このパソコンを組み立てた御仁が、小生の書いた小説をここに閉じ込めたのが原因のようなのです」
「あの小説、あんたのなんだ」
「へえー……神様とかあやかしみたいな存在も創作ってするんだ……」
「いや、これは小生が生前に書いたもので……」
驚いた鈴が聞く。
「えっ!? 元は人間だったの!?」
「ええ。そのようです」
「そのようですって」
「考えれば情報が波のように押し寄せてくるのですが、自分のことはよく思い出せないのです……。ただ、ここに小生の書いたものが閉じ込められていたので、そのことだけは思い出せるみたいで」
慧がふぅんと鼻を鳴らす。
「それって、ぱしょこんに取り憑いたからかな? データが流れ込んでくるから、沢山の情報が分かるみたいな?」
「でも何でぱしょこんなんだろう……? つくも神って古い道具に取り憑くもんだと思ってた」
「詳細については、今ネットに繋がっていないので何とも」
「ネットに繋がれるんだ!」
「すごいね!」
目の前の怪異について、この2人の対応が現実と境目のないあたりさすがオタクと言える。適応力の高さというか危機感のなさというか、話が早くて助かりはした。
突然鈴が立ち上がる。
「こ、これはもしや、とんでもない力を手に入れたのでは!?」
「鈴ちゃ、ぱしょこんが手に入った時点で、もうすでにとんでもない力を手に入れてるよ!」
「でもこのぱしょこんは、このままでは我々にとって扱いきれない力でしかなかった! 何故なら、私も慧も、どうやって操作していいか分からないからっ!」
「確かに!」
「スマホが限界の我々にとって、ぱしょこん様が具現化されたわけだ!」
「これはもう、AIの上を行っちゃうね!」
「神様だし!」
そこで書生が引きつった笑顔で言葉を返す。
「あ、あのぉ……期待を持って頂いているところ大変申し訳ないのですが……小生、どうして自分がつくも神になっているのか、さっぱり分かっていないのです……」
「そんなんどうでもいいよっ! とにかく我々には今、ぱしょこんを動かす知識が緊急で必要なんだ!」
「急募急募!」
ぐいと近づく少女2人の勢いに、つくも神はよからぬ圧を感じて身を引いた。
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