つくも神と腐れオタク

荒雲ニンザ

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3 絶対なくすなの符

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「ああ、これだけど、絶対なくすなよ」

 そう言い、鈴父から青いビニール袋に入った書類を手渡される。
 中に何が入っているかと言えば、自作の組立てマニュアルやら、パーツごとの説明書等々の一式だ。

「見ても分からないだろうが、専門知識のある人なら分かるから、捨てないで置いとけよ」
「全然分からん」
「自作用のやつだから読まなくていい。そこに黄色い付箋ついてるだろ? マニュアル紛失しても、最悪それだけはなくすなよ」
「SNSのアドレスが書いてあるやつ?」
「そそ。それ、ドイツに帰った同僚の連絡先らしい。サポートはそこにしてくれってさ」
「ドイツ! 何やらワクワクしますな」

 日本のオタクという者はドイツというキーワードに弱いものだ。

「でも鈴ちゃ……ドイツの人と会話なんてできるの?」
「翻訳ツールが使えたとしても、ぱしょこんについての知識はゼロなので、実質ムリと言うことになります」
「だよねえ……」
「同僚は日本語ペラペラだから大丈夫だぞ」

 良かった、と思いはしたものの、父の同僚だけれど自分は知らない外国人にSNSで話しかけるというのもオタク女子高校生にはハードルが高い。
 しかしこの父の同僚のPCオタク、かなり親切だ。否、ビビるほど親切だ。
 フルセットでハイスペックのパソコンを譲ってくれた上に、自作PCのサポートまでつけてくれるPCオタクがこの世でかなり貴重な存在だというのを、この時点の鈴はまだ知らないでいた。

「まあとりあえず、マニュアルと一緒に入れておけばなくさないっしょー」

 それがどれだけ貴重なものかも今一分からず、怨霊退散バリに印を結ぶと、マニュアルの入った青いビニール袋にその付箋を貼り付けてから、何気なく机の上にそれを放り投げた。

 それから程なくして鈴父はパソコンとモニターを繋ぎ終え、電源ボタンを押す。

「さーて、動きますかね」

 軽い起動音が鳴り、ファンの回転音が室内に響き渡り始めると、モニターが一瞬黒くなってから綺麗な風景画を映し出した。

「おおーっ」

 思わず漏れた3人の声。鈴父が適当な初期ツールを開いて閉じてを繰り返す。

「大丈夫そうだな」
「ネットにはどうやって繋ぐの?」
「家にあるルーターに繋げられるから、明日中継器買ってきてやるよ」
「複合機も欲しいです父上!」
「こぉら、調子に乗るな。誕生日でもなければクリスマスでもないんだぞ? 欲しい物は小遣いで何とかするのがウチの決まりだろ」
「くっ……中継器とやらは買って頂けるので……?」
「それは買ってやろう。あとは自分で揃えなさい」
「じゃあ、それまではお父さんの複合機使ってもいい?」
「許可しよう。ただ、インクのカートリッジを湯水のように使うんじゃないぞ? 仕事で使ってるものなんだからな?」
「はーい」

 そこで一仕事終えた鈴父が立ち上がる。

「ちなみに、同僚はかなりのパソオタだったから、スペックも相当の物だと思うぞ。お前には贅沢なほどに」
「ネトゲもスイスイかな!?」
「だろうな」
「やったぜー!」
「じゃあ俺は下に行くからな。しばらく触って慣れてろ」
「わーい、ありがとお父さーん」

 父が出て行くのを見送り、鈴は慧と笑みを交わして拳を握り合う。

「やったよ慧―! ついにウチにもぱしょこん様がいらしたー!」
「やったあ! 力だよ鈴ちゃー!」

 鈴は半ば興奮に震えながら、狭いラックの隙間で黒光りして鎮座する巨大なパソコンに向き直る。

「ハイスペックピーシーというやつですよ! そんな力、社会に出て血反吐を吐かないと手に入らない代物だと思ってたのに……!」
「怖いね、鈴ちゃん……! もう戻れないね……」
「俺たちはこの力を正しく使いきれるのか……?」
「ごくり……」

 そこで急に素に戻る。

「つかさ、結構物入りじゃん? ウチお小遣いやりくりしないと欲しい物買えないシステムだし」
「だねえ。必要な物リストアップしようか」

 鈴はパソコン内にメモをしようと、椅子に座ってモニターを前に向き合った。

「……ん?」

 よく見ると、画面中央に小さな圧縮フォルダが置いてある。

READMEリードミー?」

 深く考えもせずクリックすると解凍が始まり、中身が左端に現れた。それを更に開くと、フォルダの中に無数のテキストファイルが詰め込まれているのが見える。

「何じゃろこれ?」

 その一つにカーソルをあわせると、何やらタイトルと物語がずらりとプレビューに表示された。

「小説かな? 鈴ちゃのお父さんの同僚さんが書いてた創作かも?」
「マジで。だったら読んじゃマズイよね……?」
「そうだねぃ……、黒歴史が書かれているかもしれない」
「官能小説だったら、仕事の同僚の娘とその近所に住んでる友達に読まれたとかいう最悪のシチュエーションで爆死する」
「でも待って、だったら『読んで』なんてタイトルつけないよね……」
「ああ、だね?」

 そんな不毛なやりとりをしている彼女達の背後で、青白い光の塊が四角く回転しながら浮き上がっていくのが見えた。
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