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2 オタクの部屋だ
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サイズで言うと『フルタワー』というやつだ。高さにして650mm程度、横は300mmという超大物である。
「で……でけええ! 小1の慧なら確実に入るサイズある!」
「サイズ比較に出すのやめれぇー!」
玄関で鈴父がそれを箱から持ち上げ出し、2人の少女が受け取って廊下にそっと置いた。
「重っ……」
「ていうか鈴ちゃ……こんな大きいぱしょこん、置く場所がないんじゃ……」
「それだ」
オタクの部屋だ、お察しの通りだ。
まだ齢16とは言え、イベント会場に行き始めたあたりのオタクだ、ある物はある。
「さ、慧ぃ! ダッシュ(少年誌)は後だ! 部屋に隙間を空けるミッションに移行する!」
「ララララジャー!!」
2人でパソコンを持ち上げ、よろよろと階段を上っていく鈴と慧を見送りながら、箱の中を漁っている鈴父が声をかけた。
「気をつけろよー、どこかに強く当てたら終わるぞ。それ作った同僚、海外にいるからな、今」
「ひい」
「箱片付け終わったら、マニュアル一式持って行くわ。繋いでやるから何かとかして隙間を空けて、配置場所を決めておくように」
「は……はい」
何度も言うが、オタクの部屋だ。そのミッションがいかに過酷なものかは、お察しの通りだ。
16ちゃいの少女の部屋。文字だけ見ればドキドキワードだが、そんな楽しいものではない。入る前からいきなりドアにもう何らかの片鱗が取り付けてある。レベル的にはまだセーフな、万人も所持可能なアイテムが揺れて彼女達を迎え入れた。
ご開帳。
「ウッ……」
昨日も来たであろうに、長年の付き合いである慧が思わず声を漏らす程の眺め。おそらく『ここを片付けないといけないんだ』と思ったのだろう。
鈴の沽券に関わるため先に申しておくが、汚部屋なわけではない。オタクグッズとウスイブックスが多いだけである。
入っていきなり目につく巨大な本棚が向かい合わせで3枚、彼女達の行く手を遮ってきた。
「今が夏休みで良かった……」
「と、とりあえず、片付けるっていうか、置く場所を決めて、そこを空けて、おじさんに繋いでもらお?」
「う……うむ」
静かにパソコンを床に置き、2人で腰に手を置く。
「ぱしょこんは、ホコリに弱いと聞く」
「じゃあ……本棚にしてるラックの一部を開けて、床から遠くしよう」
「待て!」
「な、何……?」
慧の案を鋭く止めて鈴が言う。
「本棚にある……すなわち、『よく読む本』ということだ……」
「なる……ほど……」
物理的には可能だが、精神的に移動が困難だ。
「じゃあ、机は……?」
「普通の机だから、パソコンを置いてしまうと、原稿を床でやるはめになる……」
「ダメだ!」
くっ、と歯を食いしばり、2人が部屋の中を見回す。
「商業のマンガ本を移動させるしかねえ……」
「推しを隠すの?」
「いや……『より近くに置く』のさ……」
鈴の視線が流れるのを追い、慧が震えた。
「ベッドの下!? 何か急にいかがわしくなる!」
「俺たちには他に道がねえんだ!」
「同人誌の方がよくない!? いかがわしいのが大半だし……」
「やめろ! 私はそこまでアレなものは買ってない! ……けど、ベッドの下に置くと急にいかがわしいものに転じてしまうからダメだ!」
「たっ、確かに……! 大したことなくても、親に見つかったらすごい気まずい気分になる……!」
話し合いの結果、ベッドの下を魔境と断定し、そこに神聖なものである『推し』を奉納することで、浄化となすことにした。
ひたすら延々と本を箱に移動させる作業を繰り返し、コンセントの位置と机との距離を測りながら隙間を空けていく。途中何度か脱線してお宝ブックスを読んだりしたが、2人いる強みでパソコン1台をラックの端に収めることに成功した。
「とりあえず今はこれでオッケーと見なそう。お父さん呼んでくる」
ベッドの上には移動したキャラぬいが散乱しているが、最悪この上でも眠れるだろうと慧はそっと目を伏せる。
階下から階段を上ってくる軽快な足音が近づいて来た後、モニターを持った鈴の父親がドアから中に入ってきた。
部屋の本とグッズを見るなり一言。
「相変わらず……床抜けるぞ。少しは減らせよ」
「『ジャンルに転ぶ』は、すなわち『墓まで持って行く』なのです、父上」
「意味が分からん」
ベッドに腰掛けた少女2人が背後からじっと見守る中、鈴父がパソコンとモニターを繋ぎ始めた。
「で……でけええ! 小1の慧なら確実に入るサイズある!」
「サイズ比較に出すのやめれぇー!」
玄関で鈴父がそれを箱から持ち上げ出し、2人の少女が受け取って廊下にそっと置いた。
「重っ……」
「ていうか鈴ちゃ……こんな大きいぱしょこん、置く場所がないんじゃ……」
「それだ」
オタクの部屋だ、お察しの通りだ。
まだ齢16とは言え、イベント会場に行き始めたあたりのオタクだ、ある物はある。
「さ、慧ぃ! ダッシュ(少年誌)は後だ! 部屋に隙間を空けるミッションに移行する!」
「ララララジャー!!」
2人でパソコンを持ち上げ、よろよろと階段を上っていく鈴と慧を見送りながら、箱の中を漁っている鈴父が声をかけた。
「気をつけろよー、どこかに強く当てたら終わるぞ。それ作った同僚、海外にいるからな、今」
「ひい」
「箱片付け終わったら、マニュアル一式持って行くわ。繋いでやるから何かとかして隙間を空けて、配置場所を決めておくように」
「は……はい」
何度も言うが、オタクの部屋だ。そのミッションがいかに過酷なものかは、お察しの通りだ。
16ちゃいの少女の部屋。文字だけ見ればドキドキワードだが、そんな楽しいものではない。入る前からいきなりドアにもう何らかの片鱗が取り付けてある。レベル的にはまだセーフな、万人も所持可能なアイテムが揺れて彼女達を迎え入れた。
ご開帳。
「ウッ……」
昨日も来たであろうに、長年の付き合いである慧が思わず声を漏らす程の眺め。おそらく『ここを片付けないといけないんだ』と思ったのだろう。
鈴の沽券に関わるため先に申しておくが、汚部屋なわけではない。オタクグッズとウスイブックスが多いだけである。
入っていきなり目につく巨大な本棚が向かい合わせで3枚、彼女達の行く手を遮ってきた。
「今が夏休みで良かった……」
「と、とりあえず、片付けるっていうか、置く場所を決めて、そこを空けて、おじさんに繋いでもらお?」
「う……うむ」
静かにパソコンを床に置き、2人で腰に手を置く。
「ぱしょこんは、ホコリに弱いと聞く」
「じゃあ……本棚にしてるラックの一部を開けて、床から遠くしよう」
「待て!」
「な、何……?」
慧の案を鋭く止めて鈴が言う。
「本棚にある……すなわち、『よく読む本』ということだ……」
「なる……ほど……」
物理的には可能だが、精神的に移動が困難だ。
「じゃあ、机は……?」
「普通の机だから、パソコンを置いてしまうと、原稿を床でやるはめになる……」
「ダメだ!」
くっ、と歯を食いしばり、2人が部屋の中を見回す。
「商業のマンガ本を移動させるしかねえ……」
「推しを隠すの?」
「いや……『より近くに置く』のさ……」
鈴の視線が流れるのを追い、慧が震えた。
「ベッドの下!? 何か急にいかがわしくなる!」
「俺たちには他に道がねえんだ!」
「同人誌の方がよくない!? いかがわしいのが大半だし……」
「やめろ! 私はそこまでアレなものは買ってない! ……けど、ベッドの下に置くと急にいかがわしいものに転じてしまうからダメだ!」
「たっ、確かに……! 大したことなくても、親に見つかったらすごい気まずい気分になる……!」
話し合いの結果、ベッドの下を魔境と断定し、そこに神聖なものである『推し』を奉納することで、浄化となすことにした。
ひたすら延々と本を箱に移動させる作業を繰り返し、コンセントの位置と机との距離を測りながら隙間を空けていく。途中何度か脱線してお宝ブックスを読んだりしたが、2人いる強みでパソコン1台をラックの端に収めることに成功した。
「とりあえず今はこれでオッケーと見なそう。お父さん呼んでくる」
ベッドの上には移動したキャラぬいが散乱しているが、最悪この上でも眠れるだろうと慧はそっと目を伏せる。
階下から階段を上ってくる軽快な足音が近づいて来た後、モニターを持った鈴の父親がドアから中に入ってきた。
部屋の本とグッズを見るなり一言。
「相変わらず……床抜けるぞ。少しは減らせよ」
「『ジャンルに転ぶ』は、すなわち『墓まで持って行く』なのです、父上」
「意味が分からん」
ベッドに腰掛けた少女2人が背後からじっと見守る中、鈴父がパソコンとモニターを繋ぎ始めた。
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