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二章 天満月くんの秘密
4.不機嫌なお隣さん
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昼休みが終わった。
一年三組の教室に戻ったけれど、私の意識は平常にならない。
呼び出してからのことは全部全部夢じゃないかって思ってる。
怖く…、なんかないっ。だって認めてないんだもん。
だけど学級委員長の声が耳に飛び込んでくる。
「あのー、だれか天満月くんどこ行ったか知らない?」
ざわざわっ。
クラスメイトの大半が後ろをチラ見する。
そこは見ないようにしていたのに。私も見てしまった。
右隣の席は、空っぽ。
いない。
…いないんだ。
……じゃあ、天満月くんは、本当に——。
「う~ん、保健室? 欠席扱いでいいと思うか?」
委員長は困ったように、前列の男子に意見を求めている。
私は今さら、先生がまだ来ていないことに気づいた。
話を聞いていなかったけれど、どうやら五限目は自習になって、委員長が出席確認しているみたい。
周囲から「帰った?」「珍しいね」と話し声が聞こえる。
以前鈴ちゃんが言っていた、『天満月くんは、やる気なさそうなのに無遅刻無欠席なんだ』って。
私は……どうしたらいいんだろう。
『天満月くんは光になって消えた』…そんなこと、言えるはずがない。
みんな彼を人形みたいだと思っていたかもしれないけれど、本当に人間じゃなかったなんて誰が信じるの。
そういえば、かぐや姫が主人公の『竹取物語』に、姫が光に変わって地上の人じゃないってわかるシーンがあった。
天満月くんは月に行ったのかな…、なんて…。
——ガラガラガラッ!
突然。
乱暴な音に意識を奪われた。
反射的に入口を見ると、そこには——
「天満月くん……!」
私の心の声と同時に、委員長が叫んだ。
遅刻に恥ずかしがる様子をちっとも見せずに、消えたはずの彼がずかずか教室に入ってくる。
…ええっと、これはどういうこと⁇
消えて元に戻った…?
もう、何が何だか……。
「…先生は?」
「ご、五限は自習になった…天満月くんは普通に出席にしておくから」
「ん…、どうも」
短い委員長とのやり取り。
そこに私は大きな違和感を抱く——雑な言い方だったけど、いつもの棒読みじゃない!
不機嫌そうだ…あの天満月くんが、何事にも無感情で無関心な天満月くんが!
瞬きも忘れて驚いているうちに、彼は最後列に移動してくる。
見れば見るほど、昼休み前とは違った。
まぶたを伏せがちなのは同じでも、目つきはギロギロ。
まるでクラスのみんなを警戒しているみたいで、眉間にしわまで寄っている。
そっくりさん…じゃないよね…?
美形なのは変わらない。けど、最近毎日見ていた横顔とは印象が別物すぎる。
隣が気になって気になって、全然自習は進まなかった。
授業が終わって早速、私は清華ちゃんのところに行く。
「あのさ…変だよね?」
「…天満月くんのこと?」
こそっと言う清華ちゃん。
やっぱり、中学から一緒の人は気づくよね。
「まあ、いつもが変なんだけどさ」
そして毒舌炸裂。
「なんで不機嫌だと思う?」
「さあ…あの人謎だらけだもん。好きな子にフラれたとか…は、あり得ないか」
「う、うん…」
清華ちゃん、どちらかというと天満月くんは告白された側なのです…。
その後も観察したところ、天満月くんの懐かない猫のような警戒は続いた。
今までとは別の意味で、みんな話しかけづらくなっている。
でも相変わらず、授業であてられた時の回答は的確。
感情がむき出しのところ以外はそのままみたい。
それなら、悪い変化ではないんだと思う。
清華ちゃんも言っていたけれど、今までのふるまいがあまりに奇妙だったから。
私もそんなに気にしなかった——目の前で消えた一件さえなければね!
そのことを本人には尋ねられそうになくて、放課後再び空き教室に来た。
天満月くんが座っていた席に向かうと、鮮明に光景が浮かんでくる。
大きく開いた両目も、弾け降る光の雨も。
認めるしかない…あれは現実だ。
「どういうことか教えてよ…天満月くん」
ぽつりと本音が声に出た。
その直後、廊下に誰かの気配を感じる。
まさかっ…⁉
一年三組の教室に戻ったけれど、私の意識は平常にならない。
呼び出してからのことは全部全部夢じゃないかって思ってる。
怖く…、なんかないっ。だって認めてないんだもん。
だけど学級委員長の声が耳に飛び込んでくる。
「あのー、だれか天満月くんどこ行ったか知らない?」
ざわざわっ。
クラスメイトの大半が後ろをチラ見する。
そこは見ないようにしていたのに。私も見てしまった。
右隣の席は、空っぽ。
いない。
…いないんだ。
……じゃあ、天満月くんは、本当に——。
「う~ん、保健室? 欠席扱いでいいと思うか?」
委員長は困ったように、前列の男子に意見を求めている。
私は今さら、先生がまだ来ていないことに気づいた。
話を聞いていなかったけれど、どうやら五限目は自習になって、委員長が出席確認しているみたい。
周囲から「帰った?」「珍しいね」と話し声が聞こえる。
以前鈴ちゃんが言っていた、『天満月くんは、やる気なさそうなのに無遅刻無欠席なんだ』って。
私は……どうしたらいいんだろう。
『天満月くんは光になって消えた』…そんなこと、言えるはずがない。
みんな彼を人形みたいだと思っていたかもしれないけれど、本当に人間じゃなかったなんて誰が信じるの。
そういえば、かぐや姫が主人公の『竹取物語』に、姫が光に変わって地上の人じゃないってわかるシーンがあった。
天満月くんは月に行ったのかな…、なんて…。
——ガラガラガラッ!
突然。
乱暴な音に意識を奪われた。
反射的に入口を見ると、そこには——
「天満月くん……!」
私の心の声と同時に、委員長が叫んだ。
遅刻に恥ずかしがる様子をちっとも見せずに、消えたはずの彼がずかずか教室に入ってくる。
…ええっと、これはどういうこと⁇
消えて元に戻った…?
もう、何が何だか……。
「…先生は?」
「ご、五限は自習になった…天満月くんは普通に出席にしておくから」
「ん…、どうも」
短い委員長とのやり取り。
そこに私は大きな違和感を抱く——雑な言い方だったけど、いつもの棒読みじゃない!
不機嫌そうだ…あの天満月くんが、何事にも無感情で無関心な天満月くんが!
瞬きも忘れて驚いているうちに、彼は最後列に移動してくる。
見れば見るほど、昼休み前とは違った。
まぶたを伏せがちなのは同じでも、目つきはギロギロ。
まるでクラスのみんなを警戒しているみたいで、眉間にしわまで寄っている。
そっくりさん…じゃないよね…?
美形なのは変わらない。けど、最近毎日見ていた横顔とは印象が別物すぎる。
隣が気になって気になって、全然自習は進まなかった。
授業が終わって早速、私は清華ちゃんのところに行く。
「あのさ…変だよね?」
「…天満月くんのこと?」
こそっと言う清華ちゃん。
やっぱり、中学から一緒の人は気づくよね。
「まあ、いつもが変なんだけどさ」
そして毒舌炸裂。
「なんで不機嫌だと思う?」
「さあ…あの人謎だらけだもん。好きな子にフラれたとか…は、あり得ないか」
「う、うん…」
清華ちゃん、どちらかというと天満月くんは告白された側なのです…。
その後も観察したところ、天満月くんの懐かない猫のような警戒は続いた。
今までとは別の意味で、みんな話しかけづらくなっている。
でも相変わらず、授業であてられた時の回答は的確。
感情がむき出しのところ以外はそのままみたい。
それなら、悪い変化ではないんだと思う。
清華ちゃんも言っていたけれど、今までのふるまいがあまりに奇妙だったから。
私もそんなに気にしなかった——目の前で消えた一件さえなければね!
そのことを本人には尋ねられそうになくて、放課後再び空き教室に来た。
天満月くんが座っていた席に向かうと、鮮明に光景が浮かんでくる。
大きく開いた両目も、弾け降る光の雨も。
認めるしかない…あれは現実だ。
「どういうことか教えてよ…天満月くん」
ぽつりと本音が声に出た。
その直後、廊下に誰かの気配を感じる。
まさかっ…⁉
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