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第一章 第4話 就活と日々の中で
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その後も僕は真由の様子を見ていく。
だが特に芹乃さんや中村さんに危害を与えている様子や、それこそ僕に変に疑いの目を向けることはなかった。
そんな中でもやはり気になることがあった。
「最近鈴谷さんと話しました?」
と、同じく休憩中の芹乃さんに聞いてみた。
「いや何も。そもそも話しかけてこないし、私からも話しかけようなんて思わないからね」
僕は真由が謝罪した以降で芹乃さんや中村さんと話をしているところを見ていないのだ。
いくら危害を加えず疑いもしないとはいっても、一切合切話をしないのは何か違う気がする。これではまだお互いに水面下で争っているような気がしてならない。
芹乃さんは芹乃さんで非常時以外では金輪際話したくないような様子だし。
中村さんはというと、表情からは分からないが自分から話しかけにいかないところから察するにやはり芹乃さんと同じ感じのような気がする。
「そうですか。まぁ、仲良くとは言いませんが、何かあったら大人として助けてやってくれるとありがたいかなと」
「そうね。何かあればね。でも最近あの人ミスらないから手を貸すような事はないんだよね。それこそ色んな意味で自己完結してるし」
「なるほど」
「あ、そろそろ休憩終わりか。最後に高橋くん、煙草、ちょうだい」
と悪戯っぽくねだってきた。
「禁煙してたのでは?」
「してたのよ。でもあの時一緒に吸ってからまた吸い始めたのよ」
「だったら自分で持ってるんじゃないんですか?」
「もしかして、高橋くんの煙草が無いの? それなら一本あげるからさ、付き合ってよ」
「結局自分のを持ってるんじゃないですか」
どうやら芹乃さんは僕と煙草が吸いたいだけのようだ。
「まぁ、それくらいならいいですけど」
「さすがはヘビースモーカー」
「そこまでヘビーというわけじゃないですよ。というかそろそろライターを返してくださいよ」
「あれはもう少し後。それまでお預けだよ」
そうして芹乃さんが持っていたポーチから煙草を取り出そうとした時
「お疲れ様です」
と真由が休憩で事務所に入ってきた。それを見た芹乃さんは
「……やっぱいいわ。それじゃ私は戻るわね」
そう言ってポーチ等々を片付けて身なりを整えると事務所を出て行ってしまった。
ふと奥のデスクで仕事をしている中村さんに目を向けると、いかにも忙しいような様子をして話しかけないでほしいオーラを出していた。
僕の対面に座った真由は
「芹乃さんと何かあったの?」
と問いかけてきた。
その目には疑いや嫉妬といったものは感じられず、純粋に気になっただけのような感じがした。
「いや別に。というか真由は中村さんや芹乃さんと最近話したの?」
「ううん、何も。あらためて特に話すことはないし、あとなんか芹乃さんには嫌われている気がしてるんだよね。謝ったけど駄目だったのかな」
「そうか。まぁそのへんはどうなんだろうね」
それは当たっている。それに相応しいことを真由はしたのだから。だが真由は謝ったことで全て清算されたと思っているようで心底疑問といった表情を浮かべていた。
それに対して僕から無理にどうにかしろとは言わないものの、真由自身からその回復のための行動を起こさないのはいかがなものか。
「翔くんは何か知らない? 私は謝ったよね? でも駄目なら何が駄目だったんだろう」
「僕は知らないけど、そう思うなら本人に聞いてみたらいいんじゃないかな?」
そこで真由は黙ってしまった。
どうやら僕に頼れば何か得られると思っていたようだ。
「中村さんとも最近話してないなぁ。いつも忙しそうにしているんだよね。新商品でも入るのかな」
と向こうにいる中村さん本人には聞こえない声で言った。
あぁ、なるほど。中村さんも話しかけてきてほしくないんだな。
「どうなんだろうね。僕がいる時でも忙しそうにしてるから何かあるのかもね」
「そっか」
「そういえば、昨日は楽しかった?」
中村さんについても色々と深掘りされる前に話題を変えた。
「そうだね。たくさん歩いて疲れたけど、たくさん買って楽しかったよ。あと夕食はね少し有名なレストランに入ったんだ。そこで食べたビーフシチューが美味しかったの」
「そうなんだね。その友達とはけっこう長いの?」
「そこそこかな。私がここに来る前にやってたバイト先で知り合ったんだ。向こうもアニメとかが好きで意気投合したんだよ」
「そうかそうか」
この前中村さんと、真由に友達がいるのか問題について話をした。そしていたとしても幼少期とか、いわゆる幼馴染だとかかなりの長い歴のある子なんじゃないかという推測にいたった。だが真由から聞く限りだとそこまで歴が長いわけではなさそうだ。
それからも僕は聞き手にまわった。
***
その日の帰りは久々に真由と帰った。
いつもの、とはいっても二人で通るのは久しぶりの暗い道路。そこには僕と真由の自転車の音しかしなかった。
「あと四日だね」
「そうだね」
僕が真由の様子を見ている残りの期間である。
そこで真由が僕や芹乃さん、中村さんに対して変な疑いをもたなくなったのかを判断し、その決断をもって僕達の今後を決定するのだ。それについては既に店長に報告していて、それ次第で何かしら動くようだ。
「今のところの私はどうかな?」
「どうだろうね。何とも言えないよ。確かに二人に謝っていたけど、それからは話していないみたいだし、僕自身が真由とそれぞれの様子を見れていないからね」
「そっか…… 休憩が被らないし、仕事前とか後は二人共忙しそうだもんね」
「まぁ、平和であってくれればいいんだけどね」
そうして話している内に分かれ道となったので、それぞれの帰路へハンドルをきった。
だが特に芹乃さんや中村さんに危害を与えている様子や、それこそ僕に変に疑いの目を向けることはなかった。
そんな中でもやはり気になることがあった。
「最近鈴谷さんと話しました?」
と、同じく休憩中の芹乃さんに聞いてみた。
「いや何も。そもそも話しかけてこないし、私からも話しかけようなんて思わないからね」
僕は真由が謝罪した以降で芹乃さんや中村さんと話をしているところを見ていないのだ。
いくら危害を加えず疑いもしないとはいっても、一切合切話をしないのは何か違う気がする。これではまだお互いに水面下で争っているような気がしてならない。
芹乃さんは芹乃さんで非常時以外では金輪際話したくないような様子だし。
中村さんはというと、表情からは分からないが自分から話しかけにいかないところから察するにやはり芹乃さんと同じ感じのような気がする。
「そうですか。まぁ、仲良くとは言いませんが、何かあったら大人として助けてやってくれるとありがたいかなと」
「そうね。何かあればね。でも最近あの人ミスらないから手を貸すような事はないんだよね。それこそ色んな意味で自己完結してるし」
「なるほど」
「あ、そろそろ休憩終わりか。最後に高橋くん、煙草、ちょうだい」
と悪戯っぽくねだってきた。
「禁煙してたのでは?」
「してたのよ。でもあの時一緒に吸ってからまた吸い始めたのよ」
「だったら自分で持ってるんじゃないんですか?」
「もしかして、高橋くんの煙草が無いの? それなら一本あげるからさ、付き合ってよ」
「結局自分のを持ってるんじゃないですか」
どうやら芹乃さんは僕と煙草が吸いたいだけのようだ。
「まぁ、それくらいならいいですけど」
「さすがはヘビースモーカー」
「そこまでヘビーというわけじゃないですよ。というかそろそろライターを返してくださいよ」
「あれはもう少し後。それまでお預けだよ」
そうして芹乃さんが持っていたポーチから煙草を取り出そうとした時
「お疲れ様です」
と真由が休憩で事務所に入ってきた。それを見た芹乃さんは
「……やっぱいいわ。それじゃ私は戻るわね」
そう言ってポーチ等々を片付けて身なりを整えると事務所を出て行ってしまった。
ふと奥のデスクで仕事をしている中村さんに目を向けると、いかにも忙しいような様子をして話しかけないでほしいオーラを出していた。
僕の対面に座った真由は
「芹乃さんと何かあったの?」
と問いかけてきた。
その目には疑いや嫉妬といったものは感じられず、純粋に気になっただけのような感じがした。
「いや別に。というか真由は中村さんや芹乃さんと最近話したの?」
「ううん、何も。あらためて特に話すことはないし、あとなんか芹乃さんには嫌われている気がしてるんだよね。謝ったけど駄目だったのかな」
「そうか。まぁそのへんはどうなんだろうね」
それは当たっている。それに相応しいことを真由はしたのだから。だが真由は謝ったことで全て清算されたと思っているようで心底疑問といった表情を浮かべていた。
それに対して僕から無理にどうにかしろとは言わないものの、真由自身からその回復のための行動を起こさないのはいかがなものか。
「翔くんは何か知らない? 私は謝ったよね? でも駄目なら何が駄目だったんだろう」
「僕は知らないけど、そう思うなら本人に聞いてみたらいいんじゃないかな?」
そこで真由は黙ってしまった。
どうやら僕に頼れば何か得られると思っていたようだ。
「中村さんとも最近話してないなぁ。いつも忙しそうにしているんだよね。新商品でも入るのかな」
と向こうにいる中村さん本人には聞こえない声で言った。
あぁ、なるほど。中村さんも話しかけてきてほしくないんだな。
「どうなんだろうね。僕がいる時でも忙しそうにしてるから何かあるのかもね」
「そっか」
「そういえば、昨日は楽しかった?」
中村さんについても色々と深掘りされる前に話題を変えた。
「そうだね。たくさん歩いて疲れたけど、たくさん買って楽しかったよ。あと夕食はね少し有名なレストランに入ったんだ。そこで食べたビーフシチューが美味しかったの」
「そうなんだね。その友達とはけっこう長いの?」
「そこそこかな。私がここに来る前にやってたバイト先で知り合ったんだ。向こうもアニメとかが好きで意気投合したんだよ」
「そうかそうか」
この前中村さんと、真由に友達がいるのか問題について話をした。そしていたとしても幼少期とか、いわゆる幼馴染だとかかなりの長い歴のある子なんじゃないかという推測にいたった。だが真由から聞く限りだとそこまで歴が長いわけではなさそうだ。
それからも僕は聞き手にまわった。
***
その日の帰りは久々に真由と帰った。
いつもの、とはいっても二人で通るのは久しぶりの暗い道路。そこには僕と真由の自転車の音しかしなかった。
「あと四日だね」
「そうだね」
僕が真由の様子を見ている残りの期間である。
そこで真由が僕や芹乃さん、中村さんに対して変な疑いをもたなくなったのかを判断し、その決断をもって僕達の今後を決定するのだ。それについては既に店長に報告していて、それ次第で何かしら動くようだ。
「今のところの私はどうかな?」
「どうだろうね。何とも言えないよ。確かに二人に謝っていたけど、それからは話していないみたいだし、僕自身が真由とそれぞれの様子を見れていないからね」
「そっか…… 休憩が被らないし、仕事前とか後は二人共忙しそうだもんね」
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