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第一章 第4話 就活と日々の中で

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「好きなものを頼んでいいぞ」

 店長に連れられてやってきたのは近くのファミレスだった。
 窓の外を見ればバイト先の看板が僅かに見える。

「高級焼き肉店でもと思ったのだが、遠慮してしまうと思ってな。こっちの方が気楽だろ?」
「はい。そうですね。ありがとうございます」

 そうして僕は店長のお言葉に甘えて好きな物を注文する。
 注文し終えると店長が席を立ってコーヒーを持って戻ってきた。

「こういうドリンクバーってのはいくつになってもわくわくするものだな。噂ではコーラに紅茶を入れて飲む人もいるそうじゃないか」
「はぁそうですね。それじゃ僕も取ってきます」

 そうしてテーブルに飲み物が揃うと

「それじゃ面談をしよう」
「結局面談なんですね」
「そういう建前だ。こうでもしていないと仕事っぽくないだろ? これでも高橋君の業務時間内なんだ。まぁ俺は時間外だけどな」

 基本的に店長は気さくで話しやすい。それでも鈴谷さんと芹乃さんが入った時にはほぼ強引に教育担当にしてきたけども。それはそれで、前々から僕のことはもちろん、全スタッフの事をよく見ている。

 それからはあくまで建前として最近の仕事はどうだとか、就活や卒研はどうだとかそういう近況報告的な話をした。そして冗談かは定かではないが、ウチも新卒募集をしているから受けてみてはどうだなんて事を聞かれた。
 どうしても駄目だった時はという感じで社交辞令的に返答すると、店長も同じ感じでそうかそうかと言った。

 料理が到着するとお互いに舌鼓を打つ。
 僕はビーフシチューオムライス。店長はスパゲティだった。

「なんだ、高橋君は案外小食なんだな。もっと食え。肉を食え肉を。大きくなれないぞ」
「既に成長期は止まってますよ。あとは太るだけです」
「いいじゃないか。痩せ細っているよりかは断然いい」

 すると店長は唐揚げを追加注文してきた。

「さっき唐揚げを注文しようとして迷ってやめていただろう? 遠慮をするな。気にせず頼め」
「あ、ありがとうございます」

 確かに遠慮して注文していなかった。
 本当、店長はよく見ている。

***

「それで、最近は鈴谷さんとはどうなんだ?」

 食器が片付けられてお互いに飲み物を飲みながら落ち着いた時だった。
 きっとこの話が本来の目的なのだろうと察した。

「どうと言われましても、最近は就活に卒研と遊ぶ機会なんてほとんどありませんよ。それに、バイトでも今日久々に会ったくらいで」
「なるほど。まぁそうだよな。でも少し前にちゃんと話をしたんだろ?」
「はい、まぁ。店長」

 そこで僕は頭を下げた。

「店長が言おうとしている事は分かります。ご迷惑をおかけしてすいませんでした。僕がちゃんとしていれば皆さんにご迷惑をおかけすることもなかったはずです」

 そこで店長はコーヒーを一口飲んで喉を潤わせた。

「別に俺が店長としてその件で高橋君を責めようなんてことは思っていないよ。ただ、まぁ店としては見過ごせない域にきていることは確かだ。中村さんか芹乃さんあたりから聞いたかもしれないが、今回高橋君が出した選択とその答えによっては鈴谷さんには店を辞めてもらおうかと思っている。ちなみにこれは不当解雇ではない」

 店長はバイト採用時に誰にでも書いてもらう業務規則の用紙を出した。

「ここに、店舗もしくは周囲環境において著しく迷惑もしくは損害を与えた場合における解雇に関しては異議申し立てをすることなく受け入れる。と書いてある。そしてこの書類に関してもちろん鈴谷さんはしっかりと読んで直筆でサインまでしている。つまり今回の件はこれに該当するわけで、改めなければこれを行使する権限が店長の俺にはあるんだ。もちろん、それを受け入れる義務は鈴谷さんにある」
「なるほどです」
「そうなった場合、高橋君は彼女と別れるのだろう?」
「はい。そうするつもりです」
「であれば、鈴谷さんがもう店に関わる理由も無くなる。これは残酷だと思うかな?」
「いえそんなことは。店長として当然の事かと思います」

 それを聞いて店長は少し安堵の表情をみせた。

「俺は店長として店の利益はもちろん、他スタッフも守らなければならない。せっかくみんなが働いてくれているんだ。嫌な職場だったら嫌だろ? 俺はそう思われることが嫌なんだ。それを守るために、まぁそうだな。少しかっこよく言うなら、大多数の安全と幸福を守るために少数の異端を取り除かなければならない。もちろんそれによって生じる責任や不利益は全て俺が負うと決めているよ。まぁそんな事は起こらないと思うがね」

 確かに真由の件は本人が一番悪い。
 中村さんや芹乃さんは実際何もしていないのだから。
 全て真由の妄想と勘違いが生んだ結果なのだ。

「もしも改めた場合は?」
「その時は解雇はしない。ただ厳重注意はするよ。もちろん高橋君や中村さんと芹乃さんの潔白の事実を交えてね。流石に俺が話して信じないわけはないと思うが、それでもどうしても信じなかったり、一時は信じても時間が経った時に繰り返しになるようだったら、その時は然るべき手段を取るしかなくなってくるよね」
「そうですね。本当、ご迷惑をおかけします」
「いいさ。これは一人の学生の手には余る事だ。そういう時は大人の手を借りるものだよ」
「ありがとうございます」

 すると店内に数名の大学生とも思える人がやってきた。
 サークルや部活の帰りなのだろう、大きな鞄を持っていた。

「話しこんでしまったな。それじゃ今日の面談はここまでだ。引き続きよろしく頼むよ」

 そうして僕と店長はファミレスを出た。
 僕はそのまま帰る事になったのだが、店長は店に忘れものをしたとのことで一度戻るようだ。

 一人帰路に立った僕は時計を見ると、普段のバイトの終わり時間にしてはかなり早かった。
 どこかで時間を潰そうにもさっき食事を済ませたばかりだし、図書館といってもそろそろ閉館の時間だ。

 帰るか。

 無駄に時間を消費するのも嫌なので、素直に帰ることにした。
 当然親には早い事を聞かれたが、シフト調整と言って自分の部屋にこもった。
 そして久々にゲームをしようとパソコンを開いた。すると、メールが来ていた。そのメールはスマホでも確認が出来るので見てみると、結果待ちをしていた企業の筆記試験の結果だった。
 一社だけだったものの、それを開くと

「そうか……」

 不合格の文字とお祈りメッセージがつづられていた。
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