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第一章 第4話 就活と日々の中で
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真由が帰った後、僕はその足でバイト先に向かった。
実は今日話をすることと、それが終わったら報告に行くと中村さんに伝えてあったのだ。
「あ、高橋くん。今日はバイトじゃないよね? どうしたの?」
そういえば芹乃さんにはその事を伝えていなかった。
ということで事情を説明する。
その途中で中村さんが僕を発見したので、不安そうな足取りで近づいてきた。
「向こうで話しますか」
場所を件の別室に移動して先の話を報告した。
「そう。とりあえずは一週間、鈴谷さんが私達を見てるのね」
「はい。その間は不快かと思いますが、それで潔白であれば彼女の疑いから解放されます」
そこで芹乃さんが複雑な表情を見せた。
「ということは、その間私も何事も無かったかのように鈴谷さんと会わなきゃいけないのよね」
「はい。そういうことになります」
「……でも仕方ないよね」
前に芹乃さんのシフトの変更について話をしたものの、それについては未だ調整中でとりあえず今週中は変更無しという事になっている。
つまり、真由と被る日がいくつかあるのだ。
「大丈夫よ。その日は私もいるから」
中村さんがそんな芹乃さんを励ます。
それと共に中村さんもからもまた、自分も一人ではなくて良かったという安心感のようなものを感じた。
「ところでさ、どうして高橋くんは別れないの?」
「そうよね。普通ならすぐに別れそうなものじゃない?」
「まぁ、そうですね。なんか僕って急に一方的に別れるのが嫌で。だってそんな事をしたら変な因縁をもたれそうじゃないですか? なので、段階を踏んで様子を見ていくことにしているんです。それこそ今回でいえば、一週間の期限を与えてそれ次第で別れるという宣告をすることで、向こうにも猶予というか、選択を与えてるんですよね。僕の条件によって更生するなら良し、しないならそこまで。選択したのは向こうで、そこで駄々をこねられたとしてもそれはそういう選択をしたのだから仕方がない。そういう事にしているんです」
「なんか、淡々としてるわね」
「そういうものです。まぁでも、この僕を好きでいてくれていることは嬉しいことですよ。だからこそ、こういう選択を与えることでその期間中に僕自身も心の整理をしようとしているのかもしれません」
急な別れを告げる。
それはかつて僕自身がやられて嫌だったことだ。
前の彼女の場合は複数の浮気の末に終わりを迎えたわけだが、それでもその最後の瞬間は突然だった。
猶予期間といってしまえば聞こえはいいが、それを受けた人は必死に考えるだろう。
そういう考える時間を与える事が僕なりの優しさだと思っている。
「高橋くんは本当に大学生?」
「これでも大学生ですよ」
その時中村さんがふと時計を見た。
「まぁ、分かったわ。この一週間のどこかで高橋くんはバイトに来るの?」
「多分一回か二回は行くかと思いますが、まだなんとも」
「そう。それじゃいない間は鈴谷さんの事は任せて。見られているだけじゃ嫌だからこっちも見ておくわ」
「ありがとうございます」
そういうことで報告が終了して部屋を出た。
「高橋くん」
「はい」
帰りがけに芹乃さんが話しかけてきた。
「もしも仮に鈴谷さんが私と中村さんの疑いを晴らさなかったら、その時は別れるの?」
「そうですね。そう伝えてあるので」
「そう。多分だけど、鈴谷さんは考えを変えないと思うよ。だってそこまで疑いが深い人はそうそう考えを改めるものではないから」
「まぁ、そうなればその時ですよ。それに以前に中村さんが言っていましたけど、最悪の場合は鈴谷さんに店を辞めてもらうと。きっと僕と別れた鈴谷さんはこの店にいづらくなると思います。それを見越しての言葉だったんじゃないかなと思うんですよね」
「そうよね。少なくとも本当の事を知っている人が二人いて、その二人が被害者なんだから気まずくもなるよね」
「まぁそうですね」
そこで僕が一拍置いて続ける。
「芹乃さん。もう少しご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「急にかしこまらなくていいわよ。もう迷惑はかけられてるんだし、あと一週間我慢すればいいんだから」
芹乃さんが少しだけ微笑んだ。
「それじゃ、僕はこれで帰ります」
「あ、高橋くん」
「はい?」
呼び止められた僕は芹乃さんにじっと見つめられた。
その瞳はいつものいじらしいというか、今からからかおうなんていうそれではなく、いつになく真剣だった。
「もしこのまま鈴谷さんと別れたらさ……」
そこでその唇の動きが止まった。
「ううん。なんでもない」
「なんですか? 芹乃さんらしくないですよ」
「いや、単にここは平和になるのかなって思っただけよ。ほら、そろそろ帰りな」
「よく分からないですね。それじゃ、本当に帰りますね。お疲れ様でした」
そうして僕は店を出た。
最後に見た芹乃さんの顔は寂しそうというか、哀しそうだったな。
本当は何かを言いたかったんじゃないか?
まぁ、それは無理に聞くことでもないか。
***
そういえば、明日は本命の面接だな。
帰宅してからその対策にと先に提出していたエントリーシートのコピーを見ていた。
実は先日に受けるはずだった本命の面接。
これは企業側の手違いで当初の予定の人数よりも多くの人をその日に集中させてしまったことにより、急遽日を分けることにされたのだ。
まぁ、その分対策も心構えも出来るからいいんだけど。
ということで僕の受験日は明日である。
四社中三社が筆記試験の結果待ち。
残る一社のここはいきなり面接。
その分第一関門だったエントリーシートで落とされる人がかなりいたらしい。
それにしても、最近は色々な事があったせいで明日は大丈夫だろうかという不安がよぎる。
でも第一志望なのだから、とにかく一生懸命にやるしかない。
準備を整え終えると、なんとなく落ち着かなかったのでベランダに出て煙草に火を点けた。
頭上に吹き上げた煙は風に乗ってすぐにどこかに行ってしまった。
そのまま視線をずらすと、月が輝いていた。
だが気のせいか少し欠けているような、雲がかかっているように見えた。
雲であれば風でどこかに行ってしまうだろう。
そうして一本を吸い終えると部屋に戻った。
それからもう一度準備を確認するとそのままベッドに入った。
眠りにつく直前にスマホがバイブしたが、そのまま放っておいた。
実は今日話をすることと、それが終わったら報告に行くと中村さんに伝えてあったのだ。
「あ、高橋くん。今日はバイトじゃないよね? どうしたの?」
そういえば芹乃さんにはその事を伝えていなかった。
ということで事情を説明する。
その途中で中村さんが僕を発見したので、不安そうな足取りで近づいてきた。
「向こうで話しますか」
場所を件の別室に移動して先の話を報告した。
「そう。とりあえずは一週間、鈴谷さんが私達を見てるのね」
「はい。その間は不快かと思いますが、それで潔白であれば彼女の疑いから解放されます」
そこで芹乃さんが複雑な表情を見せた。
「ということは、その間私も何事も無かったかのように鈴谷さんと会わなきゃいけないのよね」
「はい。そういうことになります」
「……でも仕方ないよね」
前に芹乃さんのシフトの変更について話をしたものの、それについては未だ調整中でとりあえず今週中は変更無しという事になっている。
つまり、真由と被る日がいくつかあるのだ。
「大丈夫よ。その日は私もいるから」
中村さんがそんな芹乃さんを励ます。
それと共に中村さんもからもまた、自分も一人ではなくて良かったという安心感のようなものを感じた。
「ところでさ、どうして高橋くんは別れないの?」
「そうよね。普通ならすぐに別れそうなものじゃない?」
「まぁ、そうですね。なんか僕って急に一方的に別れるのが嫌で。だってそんな事をしたら変な因縁をもたれそうじゃないですか? なので、段階を踏んで様子を見ていくことにしているんです。それこそ今回でいえば、一週間の期限を与えてそれ次第で別れるという宣告をすることで、向こうにも猶予というか、選択を与えてるんですよね。僕の条件によって更生するなら良し、しないならそこまで。選択したのは向こうで、そこで駄々をこねられたとしてもそれはそういう選択をしたのだから仕方がない。そういう事にしているんです」
「なんか、淡々としてるわね」
「そういうものです。まぁでも、この僕を好きでいてくれていることは嬉しいことですよ。だからこそ、こういう選択を与えることでその期間中に僕自身も心の整理をしようとしているのかもしれません」
急な別れを告げる。
それはかつて僕自身がやられて嫌だったことだ。
前の彼女の場合は複数の浮気の末に終わりを迎えたわけだが、それでもその最後の瞬間は突然だった。
猶予期間といってしまえば聞こえはいいが、それを受けた人は必死に考えるだろう。
そういう考える時間を与える事が僕なりの優しさだと思っている。
「高橋くんは本当に大学生?」
「これでも大学生ですよ」
その時中村さんがふと時計を見た。
「まぁ、分かったわ。この一週間のどこかで高橋くんはバイトに来るの?」
「多分一回か二回は行くかと思いますが、まだなんとも」
「そう。それじゃいない間は鈴谷さんの事は任せて。見られているだけじゃ嫌だからこっちも見ておくわ」
「ありがとうございます」
そういうことで報告が終了して部屋を出た。
「高橋くん」
「はい」
帰りがけに芹乃さんが話しかけてきた。
「もしも仮に鈴谷さんが私と中村さんの疑いを晴らさなかったら、その時は別れるの?」
「そうですね。そう伝えてあるので」
「そう。多分だけど、鈴谷さんは考えを変えないと思うよ。だってそこまで疑いが深い人はそうそう考えを改めるものではないから」
「まぁ、そうなればその時ですよ。それに以前に中村さんが言っていましたけど、最悪の場合は鈴谷さんに店を辞めてもらうと。きっと僕と別れた鈴谷さんはこの店にいづらくなると思います。それを見越しての言葉だったんじゃないかなと思うんですよね」
「そうよね。少なくとも本当の事を知っている人が二人いて、その二人が被害者なんだから気まずくもなるよね」
「まぁそうですね」
そこで僕が一拍置いて続ける。
「芹乃さん。もう少しご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
「急にかしこまらなくていいわよ。もう迷惑はかけられてるんだし、あと一週間我慢すればいいんだから」
芹乃さんが少しだけ微笑んだ。
「それじゃ、僕はこれで帰ります」
「あ、高橋くん」
「はい?」
呼び止められた僕は芹乃さんにじっと見つめられた。
その瞳はいつものいじらしいというか、今からからかおうなんていうそれではなく、いつになく真剣だった。
「もしこのまま鈴谷さんと別れたらさ……」
そこでその唇の動きが止まった。
「ううん。なんでもない」
「なんですか? 芹乃さんらしくないですよ」
「いや、単にここは平和になるのかなって思っただけよ。ほら、そろそろ帰りな」
「よく分からないですね。それじゃ、本当に帰りますね。お疲れ様でした」
そうして僕は店を出た。
最後に見た芹乃さんの顔は寂しそうというか、哀しそうだったな。
本当は何かを言いたかったんじゃないか?
まぁ、それは無理に聞くことでもないか。
***
そういえば、明日は本命の面接だな。
帰宅してからその対策にと先に提出していたエントリーシートのコピーを見ていた。
実は先日に受けるはずだった本命の面接。
これは企業側の手違いで当初の予定の人数よりも多くの人をその日に集中させてしまったことにより、急遽日を分けることにされたのだ。
まぁ、その分対策も心構えも出来るからいいんだけど。
ということで僕の受験日は明日である。
四社中三社が筆記試験の結果待ち。
残る一社のここはいきなり面接。
その分第一関門だったエントリーシートで落とされる人がかなりいたらしい。
それにしても、最近は色々な事があったせいで明日は大丈夫だろうかという不安がよぎる。
でも第一志望なのだから、とにかく一生懸命にやるしかない。
準備を整え終えると、なんとなく落ち着かなかったのでベランダに出て煙草に火を点けた。
頭上に吹き上げた煙は風に乗ってすぐにどこかに行ってしまった。
そのまま視線をずらすと、月が輝いていた。
だが気のせいか少し欠けているような、雲がかかっているように見えた。
雲であれば風でどこかに行ってしまうだろう。
そうして一本を吸い終えると部屋に戻った。
それからもう一度準備を確認するとそのままベッドに入った。
眠りにつく直前にスマホがバイブしたが、そのまま放っておいた。
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