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第一章 第4話 就活と日々の中で
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「それじゃ、話を始めようか」
僕、中村さん、そして芹乃さんの三人がかの別室でテーブルを囲んだ。
そこで芹乃さんはその重い口を開いた。
「鈴谷さん、やっぱり変な人かもしれないです」
やっぱりと言っている時点で僕の真由に対する普通の子であってほしいという思いは打ち砕かれた。
「前々から私を見る目がおかしいなって思っていましたけど、流石に常軌を逸しています。だって、目が怖いんです」
「目が怖い?」
芹乃さんが頷く。
「それに見てくるだけじゃなくて、シフトが被る度に高橋くんとの関係を聞いてくるんですよ。私は何もないって言っているのに一向に信じてくれなくて。それでもう嫌になって、そんなに言うなら高橋くんに聞いてみればって言ったら、『その必要はない。いずれ分かることだから』って。もう不気味で仕方なくて」
「あぁ、なるほど。それで鈴谷さんとシフトが被る日は休んでたのね」
「そうです。もうあの人と仕事をしたくありません。怖いんです」
今までに見たことがないくらいに動揺し、怯えている芹乃さん。
その顔には必死さや怒りすらも表れていた。
「すいません。鈴谷さんのそういった行為は僕にも原因があるかもしれません」
「まさか、高橋くん。私と何かあったって本人に言ったわけじゃないよね?」
「いえ、そうではなく。そもそも実際に何もないじゃないですか。僕が謝っているのは、交際しているのにも関わらず本人の気持ちや行為を抑制出来なかったということです。前に僕と芹乃さんとの関係についてはちゃんと話をしたんですけど、やっぱり届いていなかったみたいで。本当に申し訳ないです」
僕は流石に責任を感じて二人に頭を下げた。
中村さんは仕事にこれているからまだいいものの、芹乃さんに関しては仕事を休むほどになってしまっている。
芹乃さんは社会人経験があって仕事に関してはちゃんとやる人だ。もちろん勤怠についても私情を挟むタイプではない。
にも関わらず、その芹乃さんが休んでしまうということは、真由の存在は間違いなくかなりの精神的負荷になってしまっているに違いない。
「高橋くんが謝ることではないよ。あれは本人の性格、ううん。精神的な問題。人は余程のことがない限りはそう簡単に気持ちも行動も変えることが出来ないものなのよ」
芹乃さんはそう言っているものの、やはりどうにかしてほしいような様子だ。
「解決策はあります。僕がここを去れば解決するのではないでしょうか」
「それは早計よ。店としては実務経験が長い高橋くんに抜けてもらっては困るわ。だからといって鈴谷さんを辞めさせるわけにもねぇ…… 最近あの子ミスをしていないもの。そんなことをしたら不当解雇でこっちが悪者になっちゃうわ」
中村さんが頭を抱えている。
「そういえば、高橋くんも鈴谷さんのことで悩んでたよね? 何かあったの?」
「それは……」
僕はそんな状態の中村さんに目を向けると、仕方ないといった様子で頷いた。
「驚かないでと言う方が難しいんですけど、実は―」
僕の口から今中村さんに起きている事や、僕も僕で真由と話をするためにコンタクトをとろうとしている事を話した。
「そんな……」
芹乃さんは思った通りの反応を示した。
そして元々白い顔が青ざめていった。
「本当、どうかしてる……」
「はい。その通りです。だから僕が話をしようと動いているんです」
「また話をして、もしも何も変わらなかったらどうするの?」
「その時はもう別れますよ。散々色んな人に迷惑をかけたんですから当然でしょう。なので、これは最後通告です。前にも一度そんな感じになって泣きついてきたので、本人は別れたくはないはずです。だから効くと思います」
「だったらいいわね」
人は余程のことがない限りそう簡単に気持ちも行動も変えることが出来ない。
芹乃さんはその考えの下で望みは半々だと思っているようだった。
「とにかく、店として高橋くんに抜けられるのは困るから辞めるのは無しね。芹乃さんに関しても鈴谷さんと被る度に休まれては店としても芹乃さんとしても困るだろうから、当面は芹乃さんと鈴谷さんのシフトを分けよう。それでどうかな?」
「はい、お願いします。これ以上給料が減るのは困るので」
「高橋くんは、就活とか色々と忙しいからシフトはこのまま定めない感じで。でも鈴谷さんとのコンタクトは継続してもらうわよ。今後お話が出来て、その中でどうにもならなそうだった場合は、最悪鈴谷さんに辞めてもらうから」
「でも不当解雇がって言ってませんでした?」
「その点はうまくやるわ。だから高橋くんもうまくやってちょうだい」
そこで僕は察した。
店側から解雇を言い渡すのではなく、真由から辞職を望めばいい。
そうせざるを得なくさせればどうにかなるのだ。
「分かりました。ご迷惑とお手数をおかけいたします」
僕はもう一度頭を下げた。
ということでこの話は終わりを迎えた。
この日の帰り道、もう一度真由にLINEを送ってみた。
すると
『その日だったら大丈夫』
と返信が来たのだ。
思いがけずにきた話し合いの機会。当然これを逃す手は無かった。
『それじゃその日に駅前で待ち合わせて、ファミレスに行こう』
『分かった。楽しみにしてるよ』
そこでやり取りが終了した。
当日の話し合いでどうなるか。
僕は不安と緊張で手が震えた。
僕、中村さん、そして芹乃さんの三人がかの別室でテーブルを囲んだ。
そこで芹乃さんはその重い口を開いた。
「鈴谷さん、やっぱり変な人かもしれないです」
やっぱりと言っている時点で僕の真由に対する普通の子であってほしいという思いは打ち砕かれた。
「前々から私を見る目がおかしいなって思っていましたけど、流石に常軌を逸しています。だって、目が怖いんです」
「目が怖い?」
芹乃さんが頷く。
「それに見てくるだけじゃなくて、シフトが被る度に高橋くんとの関係を聞いてくるんですよ。私は何もないって言っているのに一向に信じてくれなくて。それでもう嫌になって、そんなに言うなら高橋くんに聞いてみればって言ったら、『その必要はない。いずれ分かることだから』って。もう不気味で仕方なくて」
「あぁ、なるほど。それで鈴谷さんとシフトが被る日は休んでたのね」
「そうです。もうあの人と仕事をしたくありません。怖いんです」
今までに見たことがないくらいに動揺し、怯えている芹乃さん。
その顔には必死さや怒りすらも表れていた。
「すいません。鈴谷さんのそういった行為は僕にも原因があるかもしれません」
「まさか、高橋くん。私と何かあったって本人に言ったわけじゃないよね?」
「いえ、そうではなく。そもそも実際に何もないじゃないですか。僕が謝っているのは、交際しているのにも関わらず本人の気持ちや行為を抑制出来なかったということです。前に僕と芹乃さんとの関係についてはちゃんと話をしたんですけど、やっぱり届いていなかったみたいで。本当に申し訳ないです」
僕は流石に責任を感じて二人に頭を下げた。
中村さんは仕事にこれているからまだいいものの、芹乃さんに関しては仕事を休むほどになってしまっている。
芹乃さんは社会人経験があって仕事に関してはちゃんとやる人だ。もちろん勤怠についても私情を挟むタイプではない。
にも関わらず、その芹乃さんが休んでしまうということは、真由の存在は間違いなくかなりの精神的負荷になってしまっているに違いない。
「高橋くんが謝ることではないよ。あれは本人の性格、ううん。精神的な問題。人は余程のことがない限りはそう簡単に気持ちも行動も変えることが出来ないものなのよ」
芹乃さんはそう言っているものの、やはりどうにかしてほしいような様子だ。
「解決策はあります。僕がここを去れば解決するのではないでしょうか」
「それは早計よ。店としては実務経験が長い高橋くんに抜けてもらっては困るわ。だからといって鈴谷さんを辞めさせるわけにもねぇ…… 最近あの子ミスをしていないもの。そんなことをしたら不当解雇でこっちが悪者になっちゃうわ」
中村さんが頭を抱えている。
「そういえば、高橋くんも鈴谷さんのことで悩んでたよね? 何かあったの?」
「それは……」
僕はそんな状態の中村さんに目を向けると、仕方ないといった様子で頷いた。
「驚かないでと言う方が難しいんですけど、実は―」
僕の口から今中村さんに起きている事や、僕も僕で真由と話をするためにコンタクトをとろうとしている事を話した。
「そんな……」
芹乃さんは思った通りの反応を示した。
そして元々白い顔が青ざめていった。
「本当、どうかしてる……」
「はい。その通りです。だから僕が話をしようと動いているんです」
「また話をして、もしも何も変わらなかったらどうするの?」
「その時はもう別れますよ。散々色んな人に迷惑をかけたんですから当然でしょう。なので、これは最後通告です。前にも一度そんな感じになって泣きついてきたので、本人は別れたくはないはずです。だから効くと思います」
「だったらいいわね」
人は余程のことがない限りそう簡単に気持ちも行動も変えることが出来ない。
芹乃さんはその考えの下で望みは半々だと思っているようだった。
「とにかく、店として高橋くんに抜けられるのは困るから辞めるのは無しね。芹乃さんに関しても鈴谷さんと被る度に休まれては店としても芹乃さんとしても困るだろうから、当面は芹乃さんと鈴谷さんのシフトを分けよう。それでどうかな?」
「はい、お願いします。これ以上給料が減るのは困るので」
「高橋くんは、就活とか色々と忙しいからシフトはこのまま定めない感じで。でも鈴谷さんとのコンタクトは継続してもらうわよ。今後お話が出来て、その中でどうにもならなそうだった場合は、最悪鈴谷さんに辞めてもらうから」
「でも不当解雇がって言ってませんでした?」
「その点はうまくやるわ。だから高橋くんもうまくやってちょうだい」
そこで僕は察した。
店側から解雇を言い渡すのではなく、真由から辞職を望めばいい。
そうせざるを得なくさせればどうにかなるのだ。
「分かりました。ご迷惑とお手数をおかけいたします」
僕はもう一度頭を下げた。
ということでこの話は終わりを迎えた。
この日の帰り道、もう一度真由にLINEを送ってみた。
すると
『その日だったら大丈夫』
と返信が来たのだ。
思いがけずにきた話し合いの機会。当然これを逃す手は無かった。
『それじゃその日に駅前で待ち合わせて、ファミレスに行こう』
『分かった。楽しみにしてるよ』
そこでやり取りが終了した。
当日の話し合いでどうなるか。
僕は不安と緊張で手が震えた。
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