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第一章 第3話 感情が渦巻く日々
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「翔くん、次はあっちに行こう」
今日は二人で動物園に来ていた。
先日の一件は真由がLINEで謝罪してきたので特に責め立てるようなことはせずに、ただ、気にしないでと送って治まった。
それがあってから初の外出だ。
真由は明るく振舞っているものの、時折僕の顔色を気にしているようだった。
「動物園っていいね。しかもここは遊園地もあるから一度で二度楽しめるね」
「うん、そうだね」
正直僕は真由の行動に疑問というか、不信感を抱いていた。
何せ芹乃さんと僕の関係を疑われているからだ。
それに対して僕が何も無いと言ったのは先日だけではなく、その前にも言っていた。それを未だに信じてくれていないようなのだ。
疑われるような事をする方が悪いなんて世間では言われるけれど、否定しているのにも関わらず疑う方も疑う方である。
今日の僕は口数が少ない。
それは真由が一番よく分かっている。だからこうして気丈に振舞っているのだろう。
「やっぱり、まだ怒ってるよね……」
日が傾き始め、そろそろ帰ろうという時に真由が言った。
僕の丁度後ろに太陽があり、真由から見れば逆光。表情等に影が入っているのか、真由は一度僕の目を見た後は視線を下へ向けた。
「怒っているというか、どうして信じてくれないんだろうって」
「それは……翔くんと芹乃さんの仲が良すぎるから不安になっちゃって……」
「僕と芹乃さんは同僚。職場だけの関係で、そこで話すくらいは別に普通でしょ?」
「そうだけど…… でも不安なの。芹乃さんが私の翔くんを取っていっちゃうんじゃないかって」
「仮にそんなことが起きたとして、僕が拒絶すればいいだけじゃない? 真由は僕を信じられないのかな?」
「そんなことはないけど……」
それから真由は黙りこんでしまった。
「信じられないならそれでいい。……もう帰ろう。日が暮れる」
僕は真由に背を向けて歩き出そうとした時
「ごめん。私は翔くんを信じられるよ。信じるから、だから、私から離れていかないで」
「……」
振り返ると真由は必死に僕の事を見ていた。
その視線はまるで、自分を捨てないでと乞うているかのようだった。
その目には次第に涙が溜まっていき、僕の次の言葉を待っていた。
「翔くん!」
僕は再び帰り道の方を見た。
「信じてくれるならそれでいいよ。あの日、僕は真由のことが好きなんだって知ることが出来た。その気持ちは真由が僕を信じ続けてくれている限り消えないから。仮に芹乃さんに何かを言われたとしてもね」
「翔くん……」
後ろの真由は今どんな顔をしているのだろう。
でも僕は振り返らない。
男女が、好き同士が付き合うということは時にはぶつかる事もある。それ故に気持ちを譲ってばかりでは駄目なんだ。
真由が僕を信じてくれていなかったに対して、僕は自分で思っている以上にショックを受けてしまっているようだ。だからこそ、信じてくれなかったことは悲しかったのだと伝える必要があるのだ。
真由は心を痛めているだろう。今まさに辛いだろう。
でも恋愛とはお互いがお互いを信じられなくなったら終わりなのだ。
それを真由には知っていて欲しい。この日の痛みをもって実感してほしいのだ。
「ごめんね。私は心配性だからこれからもこういうことがあるかもしれない。でも、本当は翔くんのことを信じているんだよ。だから、私の事を嫌いにならないで……」
鼻をすする音が聞こえた。
そして目線の先にある太陽が間もなく地平線へと沈もうとしていた。
そこで僕は振り返った。
案の定真由は泣いていたので、ゆっくりと近づいてその視線に合わせるようにして真由の目を見た。
「嫌いにならないよ。だから大丈夫。もう日が落ちたから今日は帰ろう。また明日からも僕達は変わらず恋人同士なんだから今日が終わっても心配に思うことはないよ」
「うん……」
それから僕は真由の手を引いて帰路を歩いた。
芹乃さんとの距離感、はたから見たら近すぎるのかな。
もちろんそんなつもりは無いけれど、真由がそう感じていたということは僕も僕で真由に心配をかけないように適切な距離感を保っておかなければならないな。
真由に手を強く握られた僕はそう思った。
今日は二人で動物園に来ていた。
先日の一件は真由がLINEで謝罪してきたので特に責め立てるようなことはせずに、ただ、気にしないでと送って治まった。
それがあってから初の外出だ。
真由は明るく振舞っているものの、時折僕の顔色を気にしているようだった。
「動物園っていいね。しかもここは遊園地もあるから一度で二度楽しめるね」
「うん、そうだね」
正直僕は真由の行動に疑問というか、不信感を抱いていた。
何せ芹乃さんと僕の関係を疑われているからだ。
それに対して僕が何も無いと言ったのは先日だけではなく、その前にも言っていた。それを未だに信じてくれていないようなのだ。
疑われるような事をする方が悪いなんて世間では言われるけれど、否定しているのにも関わらず疑う方も疑う方である。
今日の僕は口数が少ない。
それは真由が一番よく分かっている。だからこうして気丈に振舞っているのだろう。
「やっぱり、まだ怒ってるよね……」
日が傾き始め、そろそろ帰ろうという時に真由が言った。
僕の丁度後ろに太陽があり、真由から見れば逆光。表情等に影が入っているのか、真由は一度僕の目を見た後は視線を下へ向けた。
「怒っているというか、どうして信じてくれないんだろうって」
「それは……翔くんと芹乃さんの仲が良すぎるから不安になっちゃって……」
「僕と芹乃さんは同僚。職場だけの関係で、そこで話すくらいは別に普通でしょ?」
「そうだけど…… でも不安なの。芹乃さんが私の翔くんを取っていっちゃうんじゃないかって」
「仮にそんなことが起きたとして、僕が拒絶すればいいだけじゃない? 真由は僕を信じられないのかな?」
「そんなことはないけど……」
それから真由は黙りこんでしまった。
「信じられないならそれでいい。……もう帰ろう。日が暮れる」
僕は真由に背を向けて歩き出そうとした時
「ごめん。私は翔くんを信じられるよ。信じるから、だから、私から離れていかないで」
「……」
振り返ると真由は必死に僕の事を見ていた。
その視線はまるで、自分を捨てないでと乞うているかのようだった。
その目には次第に涙が溜まっていき、僕の次の言葉を待っていた。
「翔くん!」
僕は再び帰り道の方を見た。
「信じてくれるならそれでいいよ。あの日、僕は真由のことが好きなんだって知ることが出来た。その気持ちは真由が僕を信じ続けてくれている限り消えないから。仮に芹乃さんに何かを言われたとしてもね」
「翔くん……」
後ろの真由は今どんな顔をしているのだろう。
でも僕は振り返らない。
男女が、好き同士が付き合うということは時にはぶつかる事もある。それ故に気持ちを譲ってばかりでは駄目なんだ。
真由が僕を信じてくれていなかったに対して、僕は自分で思っている以上にショックを受けてしまっているようだ。だからこそ、信じてくれなかったことは悲しかったのだと伝える必要があるのだ。
真由は心を痛めているだろう。今まさに辛いだろう。
でも恋愛とはお互いがお互いを信じられなくなったら終わりなのだ。
それを真由には知っていて欲しい。この日の痛みをもって実感してほしいのだ。
「ごめんね。私は心配性だからこれからもこういうことがあるかもしれない。でも、本当は翔くんのことを信じているんだよ。だから、私の事を嫌いにならないで……」
鼻をすする音が聞こえた。
そして目線の先にある太陽が間もなく地平線へと沈もうとしていた。
そこで僕は振り返った。
案の定真由は泣いていたので、ゆっくりと近づいてその視線に合わせるようにして真由の目を見た。
「嫌いにならないよ。だから大丈夫。もう日が落ちたから今日は帰ろう。また明日からも僕達は変わらず恋人同士なんだから今日が終わっても心配に思うことはないよ」
「うん……」
それから僕は真由の手を引いて帰路を歩いた。
芹乃さんとの距離感、はたから見たら近すぎるのかな。
もちろんそんなつもりは無いけれど、真由がそう感じていたということは僕も僕で真由に心配をかけないように適切な距離感を保っておかなければならないな。
真由に手を強く握られた僕はそう思った。
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