しあわせDiary ~僕の想いをあなたに~

翡翠ユウ

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第一章 第3話 感情が渦巻く日々

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「よぉ、高橋。久しぶりだな」

 そう言って話しかけてきたのは友人の鷹谷たかやだった。
 最近自分の周りのことで精一杯だったせいもあってその存在をすっかり忘れていた。
 そもそも鷹谷をバイト先で見ていなかった。

「最近何してたんだよ。全然見ないから辞めたのかと思ってたよ」
「まぁ色々とな。俺らももう大学三年生だろ? もう少しで就活が解禁になるわけだしさ。その準備をな」
「長い準備だな。ということは、かなりの数の面接に行く予定なのか?」
「それもあるかな。ただ俺の場合は並行して公務員の試験も受けるからな」
「なるほど。それなら忙しいな」

 バイトの休憩時間に事務所で話していると、真由が事務所に入ってきて僕達の様子を見るやいなやまた外へ出て行ってしまった。
 その様子に気づいた鷹谷は少し声を低くして言った。

「他から話は聞いてるけど、鈴谷さんと何かあったのか? 二人は付き合ってるんだろ?」
「確かに付き合ってるけど、特に何もないよ」
「そうか。なんとなくなんだが、さっきの鈴谷さんは何かを心配して来たような気がしたんでな」

 何かを心配。
 その言葉が僕の心に引っかかった。
 そして先日の芹乃さんとの件による真由の様子が脳裏を過った。

「気のせいじゃないかな」
「そうか? まぁ……いいか」

 鷹谷がいくら友人だからとはいえ、僕達の最近の事の話して余計な心配をかけさせるわけにはいかない。
 それでも鷹谷は勘の鋭い故に何かが気になっている様子だ。

「そろそろ戻る時間だわ」
「俺もだ」

 ふと見た時計は休憩時間の終わりを示していた。
 それにより僕はさらなる追究を免れた。

 事務所を出ると、僕と入れ替わりなのか芹乃さんが廊下の向こうからやってきた。

「これから戻り?」
「はい。芹乃さんは休憩ですか?」
「うん。鷹谷くんも戻りみたいね」
「そうですね」

 と何気ない会話をしていると、売り場とバックヤードを隔てる扉から真由が出てきた。
 それにいち早く気づいたのは僕と芹乃さんで、まるで示し合わせたかのように自然に別れた。
 特にやましいことは無い。ただ二人とも何とも言えない勘のようなものを感じたのだ。
 ただそれだけなのだ。

「翔くんと鷹谷さん」

 今度は真由が話しかけてきた。
 その時には既に芹乃さんは事務所の中に入っていたので、その姿を真由が捉えることはなかった。

「これから休憩?」
「うん。ところで、芹乃さんを知らない?」
「いや、知らないけど。何かあった?」
「何もないけど、知らないならいいや。それじゃあね」

 真由はそう言うと僕と鷹谷の横を通り過ぎて行った。

「やっぱり何かあっただろ? しかも三人の間に」

 真由が事務所の中に消えた途端に鷹谷が聞いてきた。
 その神妙な様子に観念した僕は

「……芹乃さんは直接関りは無いんだけどー」

 と事の次第を話すことにした。

「なるほどな。それは嫉妬だな。恋愛中の女性なら誰にでもあることだ」
「いやそれは分かってるんだけど、なんかこう、普通の嫉妬とは何かが違うような気がして。きっとそれを芹乃さんも気づいてるような気かするんだよね」
「普通の嫉妬ね…… ちなみに聞くが、高橋は今までに年上の女性と付き合ったことはあるのか?」
「いや、今回が初めてだけど」
「なるほど。ならそれが答えかもしれないな」

 僕はその言葉の意味が分からずに首を傾げた。

「つまり、女性は年齢によって嫉妬の仕方も程度も変わってくるんだ。鈴谷さんは高橋よりも年上で、なんなら芹乃さんよりも年上だろ? だから高橋が自分よりも若い芹乃さんといるのが本能的に不安なのさ」
「本能的?」
「あぁ。こればかりは俺達男には理解し難いことだが、女性にとってはそういうものなんだ。だから高橋の言う、ってのはそういうことなんだよ」
「分かったような分からないような……」
「そうだよな。俺でも完全には分からない」

 中高と僕よりもはるかにモテていた鷹谷が理解出来ていないのだ。
 僕にはなおさら理解が難しい。
 でも、きっと真由はそういう不安を抱えているという事は分かった。

「まぁ、そうだな。結局は二人の価値観というか、周りに対してどうしていくか、接し方の程度によるんだろうなぁ」

 鷹谷は少しばかり難しい顔をする。
 それを見て僕も一層難しく感じた。

 その時僕はすっかりと忘れていた仕事の事を思い出し、鷹谷にも思い出させると話を切り上げて急いで持ち場に戻った。
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