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第一章 第2話 交際開始

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 この日、僕と真由まゆは出かける事になった。
 出かけるといっても遊園地とかではなく、普通にショッピングモールへ買い物である。

 正直なところ、真由の趣味とかそういうものに関して僕は何も知らない。
 だからこそ今回の買い物でどういうものが好きなのかを知ろうと思ったのだ。

「なんか今日の髪はやたらサラサラじゃない?」
「うん。一昨日縮毛矯正をかけたばかりだからね。実は私、かなりの癖っ毛なの。定期的に矯正かけないと酷い事になるの」
「そうなんだ。でもあれって結構高いよね?」
「まぁ。でもどうにかなってるし、次までの期間もそれなりにあるから大丈夫だよ」

 隣を歩く真由の黒くてサラサラの髪が揺れる。
 艶もあって、かなりふわふわと柔らかそうだ。

「あ、ここ」

 真由はそう言って見かけた店に入っていく。
 そこは石屋。いわゆるパワーストーンなんかを売っている店だった。
 そして並んでいる色々な石を見ていると、その一つに目が止まった。

「パワーストーンってこんなに値段するんだね」
「うん。でもピンキリだから全部が全部こういうのじゃないよ」

 それは何かよく分からないが、透明な玉の中に細い金色の線というか筋みたいなものが細かく入っていた。
 値札には一万円と書かれていた。
 素人の僕からしてみれば数ミリサイズのこれが一粒でこの値段なのは理解が出来なかった。

 真由はしばらくそれを見て、次にその隣の石にも目を向けた。
 今度は水色の石で、それはかなり透き通っておりまるで海でも見ているかのような美しさだった。
 ちなみにそれも一粒五千円と、やはり僕には訳の分からない値段だった。

 すると店員の一人が真由に近付いて話しかけた。
 
「あら、鈴谷さん。今日はどうしたんですか?」
「今日は少し見に来たんです」

 どうやら真由はこの店員の人と顔なじみのようで、かなり親し気に話し始めた。

「そちらの方は?」
「実は彼氏なんです。ついこの間付き合い始めたんですよ」
「あら、おめでとう。彼氏欲しいって言ってましたもんね」

 するとその店員が僕のところにやってきた。

「彼氏さん。今日は何かを探しに来たんですか?」
「いえ、僕は付いてきただけで。石の事はよく分からないんです」
「そうなんですね。ではこれから鈴谷さんに教えてもらうといいですよ。彼女、結構詳しいので」
「はぁ……」

 そんな真由は店内を見て回っている。
 なるほど。真由の趣味はこういう系か。

「翔くん」

 と呼ばれたのでそこへ行くと、

「私達付き合ったんだし、記念に何か買わない?」

 真由が立っていたところの横にはアクセサリー類が並んだショーケースがあった。
 そこにはピアスや指輪、ブレスレットといったものが多く並んでいた。
 しかもここが石屋なだけあって、それぞれにはパワーストーンが付いていたり、はたまた全てパワーストーンで出来たものもあった。

「例えばどういうの?」
「これなんかどうかな?」

 それは指輪だった。
 つまりはペアリングというやつのようだ。
 でも生憎僕にはペアリングをするという趣味は無い。

「なるほどね。ちなみに他のは?」
「うーん……」

 他には何も出てこなかったので、きっとこれがいいのだろう。
 ペアリングか……
 着けたこともなければ買った事もない。そもそも僕に似合うのか?

 それから迷う素振りを見せつつ他のものでは駄目だろうかと色々と見て回ってみるも、やはり真由の気持ちが変わる事はなかった。
 そして最終的に、せっかく来たんだし何か買わないとなんか可哀そうだなと思って買う事にした。

「お支払いはどうしますか?」
「えっと」
「最初だしいいよ。僕が出すよ」

 と自分の分と真由の分を購入した。
 すると真由はとても嬉しそうに喜んだ。

「ありがとう。嬉しいよ」
「そうか。でも僕はこういうのを着けた事がないし、よく分からないから着けるか分からないぞ?」
「それでもいいよ。でもいずれは着けてくれると嬉しいな」

 真由はさっそくそれを指に着けた。
 その指輪は真由の細く白い指にぴったりのピンク色の天然石が小さくこしらえてあった。

「次はどこに行こうか」

 それからまた僕達は歩き始める。
 次に立ち寄ったのは漫画やアニメ系のグッズが多く並ぶ店だった。
 ここなら僕も知っていた。
 それからまた真由が店内を歩き回っては漫画を取っていく。

 なるほど。こういうのも好きなのか。
 バイトの時の大人しい様子からは思いもよらない趣味を二つも見つけた。
 
 僕は何も買わなかったが、真由はその手にある多くの漫画を見てはいくつかに絞って会計を済ませた。

「たくさん買ったね。そろそろお腹が空かない?」
「そうだね。どこか店に入ろうか」

 そうして入ったのはビュッフェスタイルの店だった。
 そこで夕食を済ませ、帰ろうと席を立とうとした時

「翔くん。ごめんね。手持ち足りないかも」

 と真由が困り顔を向けてきた。
 だがここでそれならお金を下ろしてきてなんて流石に言えるわけもないので

「いいよ。今回は僕が出すよ」
「本当に? ありがとう」

 と僕が出してやることにした。
 店を出て時間も時間だったので帰路についた。
 すると真由は満足そうに、それでいて少し寂しそうな顔をしていた。

「翔くん。今日は楽しかったね。また来たいな」
「そうだな。また来よう」

 そう言って別れた時に手を振った真由の手が光って見えた。
 その正体は買った指輪で、その天然石が夜の街灯を反射させたのだ。
 それから見えた真由の顔はよく笑っていた。
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