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第一章 第1話 出会い
1-19 (終)
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仕事が終わって店を出た僕と鈴谷さんは、たった二人しかいない暗い道で自電車を漕ぐ。
僕はあの日、鈴谷さんに好きだと言われて散々答えを悩んだ。
なんならゲーム配信でも普段はしない変なミスをするくらい悩んだ。
結果、友人に相談し、芹乃さんにも相談した。
「少しだけ止まってもいいかな?」
そして僕は答えを出した。
だから今こうして他に誰もいない公園で止まって伝えるのだ。
たった一つだけ置かれたベンチに並んで座ると、僕は買ってきてあった飲み物を渡した。
公園を照らしているのは一本の外灯のみで、その光は特に今いるベンチを優先的に照らしているかのようにこの場所だけが明るく感じた。
だからこそ、ありがとうございますと受け取った鈴谷さんの表情がどこか不安そうというか、落ち着かないといった様子がしっかりと見えてしまった。
「鈴谷さん」
僕の呼びかけに対して鈴谷さんの薄幸さすらも思わせる瞳がこちらを向いた。
これ以上この気持ちのままでいさせてはいけない。
そう思ってさっそく話を始めた。
「あの日の事だけど、僕は鈴谷さんが僕の事を好きだと言ってくれて嬉しかった。あの時はどうしようかと思って答えを出せなくてごめん。でもそれから僕はたくさん悩んだんだ。鈴谷さんも知っている通り、僕の昔の彼女は相当酷い人で、だからといって全ての人が同じではないという事は分かっているけどやっぱり心配になっていたんだ」
鈴谷さんは真剣に僕の話を聞いてくれていた。
しかしそれでも瞳の奥には未だに不安の色が見えた。
「それでも僕は考えて悩んで、それで自分なりに答えを出したんだ」
この数日で飯菜と芹乃さんからもらったアドバイスをふと思い出した。
それと同時に、安易にその言葉を言ってはいけないという思いも生まれた。しかし、こうして決断した事ゆえに、さらには鈴谷さんがちゃんと聞いてくれている事ゆえに僕の正直な気持ちを伝えようと思った。
「鈴谷さん。実のところ、僕はまだ鈴谷さんがどういう人でどういう性格の人なのか分からない。だから今の僕の気持ちが好きのものなのかどうかも分からない。でもそれはいずれ分かる事なのかもしれないし、それこそ鈴谷さんの近くにいたら分かるかもしれない。だから、もしも今のこの状態の僕でもよければお付き合いしましょう」
すると鈴谷さんは一瞬目を見開き、次の瞬間には俯いてしまった。
それもそうだろう。正直な気持ちとはいえ、僕は好きかどうかの答えを明確にしていないのだから。それでも嘘でその言葉を言ってしまうのは僕を好きだと言ってくれた鈴谷さんに失礼な事だと思ったんだ。
それなら正直に話してしまった方がお互いにいいに違いない。
これで受け入れられないのならばそれはそれでいいのだ。
そうすればお互いに今後は職場での仲という括りでいられるのだ。
俯いたままの鈴谷さんの姿はたった一つの外灯に照らされ、下へ垂れた髪のせいで表情こそ見えないが先の薄幸さが増長したように思えた。
すると一瞬頭が左右に揺れた気がした。そして何かを呟くと顔を上げた。
その目には涙が溜まり、僕の方を向くと同時に頬を伝って落ちていった。
「はい。お付き合い…しましょう」
そう言った鈴谷さんは微笑んだ。
光る涙は次第に数を増していき、その表情はここに到着した時と比べて明らかに安心したようになっていった。
その答えに僕は思わず驚いてしまった。
正直なところ、受け入れられるとは思っていなかったのだから。
僕は面食らって暫く黙ってしまうが、鈴谷さんが答えてくれた以上はここで黙り続けるわけにもいかないので
「ほ、本当にいいの?」
何か話すべきだと思って出た言葉がそれだった。
「はい。私は高橋さんの事が好きですから、これから一緒にいる中で私を知ってもらって好きになっていってください。なので、今はそれが、その形で嬉しいです」
「そ、そっか」
動揺しているのは僕だけだった。
鈴谷さんは年上ということもあってどこか落ち着いているというか、本当に受け入れてくれているようだ。
「それじゃ、お付き合いするということで」
「はい。よろしくお願いしますね。高橋さん」
ということで、僕は虚を突かれる形となったが鈴谷さんと交際をする事となったのだった。
僕はあの日、鈴谷さんに好きだと言われて散々答えを悩んだ。
なんならゲーム配信でも普段はしない変なミスをするくらい悩んだ。
結果、友人に相談し、芹乃さんにも相談した。
「少しだけ止まってもいいかな?」
そして僕は答えを出した。
だから今こうして他に誰もいない公園で止まって伝えるのだ。
たった一つだけ置かれたベンチに並んで座ると、僕は買ってきてあった飲み物を渡した。
公園を照らしているのは一本の外灯のみで、その光は特に今いるベンチを優先的に照らしているかのようにこの場所だけが明るく感じた。
だからこそ、ありがとうございますと受け取った鈴谷さんの表情がどこか不安そうというか、落ち着かないといった様子がしっかりと見えてしまった。
「鈴谷さん」
僕の呼びかけに対して鈴谷さんの薄幸さすらも思わせる瞳がこちらを向いた。
これ以上この気持ちのままでいさせてはいけない。
そう思ってさっそく話を始めた。
「あの日の事だけど、僕は鈴谷さんが僕の事を好きだと言ってくれて嬉しかった。あの時はどうしようかと思って答えを出せなくてごめん。でもそれから僕はたくさん悩んだんだ。鈴谷さんも知っている通り、僕の昔の彼女は相当酷い人で、だからといって全ての人が同じではないという事は分かっているけどやっぱり心配になっていたんだ」
鈴谷さんは真剣に僕の話を聞いてくれていた。
しかしそれでも瞳の奥には未だに不安の色が見えた。
「それでも僕は考えて悩んで、それで自分なりに答えを出したんだ」
この数日で飯菜と芹乃さんからもらったアドバイスをふと思い出した。
それと同時に、安易にその言葉を言ってはいけないという思いも生まれた。しかし、こうして決断した事ゆえに、さらには鈴谷さんがちゃんと聞いてくれている事ゆえに僕の正直な気持ちを伝えようと思った。
「鈴谷さん。実のところ、僕はまだ鈴谷さんがどういう人でどういう性格の人なのか分からない。だから今の僕の気持ちが好きのものなのかどうかも分からない。でもそれはいずれ分かる事なのかもしれないし、それこそ鈴谷さんの近くにいたら分かるかもしれない。だから、もしも今のこの状態の僕でもよければお付き合いしましょう」
すると鈴谷さんは一瞬目を見開き、次の瞬間には俯いてしまった。
それもそうだろう。正直な気持ちとはいえ、僕は好きかどうかの答えを明確にしていないのだから。それでも嘘でその言葉を言ってしまうのは僕を好きだと言ってくれた鈴谷さんに失礼な事だと思ったんだ。
それなら正直に話してしまった方がお互いにいいに違いない。
これで受け入れられないのならばそれはそれでいいのだ。
そうすればお互いに今後は職場での仲という括りでいられるのだ。
俯いたままの鈴谷さんの姿はたった一つの外灯に照らされ、下へ垂れた髪のせいで表情こそ見えないが先の薄幸さが増長したように思えた。
すると一瞬頭が左右に揺れた気がした。そして何かを呟くと顔を上げた。
その目には涙が溜まり、僕の方を向くと同時に頬を伝って落ちていった。
「はい。お付き合い…しましょう」
そう言った鈴谷さんは微笑んだ。
光る涙は次第に数を増していき、その表情はここに到着した時と比べて明らかに安心したようになっていった。
その答えに僕は思わず驚いてしまった。
正直なところ、受け入れられるとは思っていなかったのだから。
僕は面食らって暫く黙ってしまうが、鈴谷さんが答えてくれた以上はここで黙り続けるわけにもいかないので
「ほ、本当にいいの?」
何か話すべきだと思って出た言葉がそれだった。
「はい。私は高橋さんの事が好きですから、これから一緒にいる中で私を知ってもらって好きになっていってください。なので、今はそれが、その形で嬉しいです」
「そ、そっか」
動揺しているのは僕だけだった。
鈴谷さんは年上ということもあってどこか落ち着いているというか、本当に受け入れてくれているようだ。
「それじゃ、お付き合いするということで」
「はい。よろしくお願いしますね。高橋さん」
ということで、僕は虚を突かれる形となったが鈴谷さんと交際をする事となったのだった。
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