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第一章 第1話 出会い
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「高橋君。どう思うかな?」
僕は後日店長に呼ばれて別室で話をすることになった。
議題はもちろん鈴谷さんについてだ。
「どう思うもなにも。今回でクレームが4回目で、いずれも僕と芹乃さんが一緒にいる時でした。それ以外に特出すべきことはないと思いますが」
「ふむ。まぁそうなんだが……」
店長は考える素振りを見せ、鈴谷さんが連日クレームを受けてしまっている事の原因というか、本人がどういう心境なのかを話に出し、それと共に何か聞いてないかと問われる。
なので僕は先日聞いた鈴谷さんの昔の彼氏の事を話してみることにした。
「なるほど。いわゆるフラッシュバックというやつだね」
「おそらくは」
「フラッシュバックは精神的な問題だからこれでは高橋君でもどうにも出来なさそうか……」
「前々から言ってますけど、店長は僕の事を買いかぶりすぎなんですよ。僕は普通の大学生です。確かに教育係という立場ではありますが、なんでも出来るというわけではないですよ」
そうして店長は少し困った顔をする。
それを見て僕は違和感を抱いた。
「ところでなんですけど、なぜ店長はそこまで鈴谷さんの事で悩むんですか? 実際問題として既に4回もクレームを受けているのですし、3回目の時に本人とお話をしたのでしょう? その時に今後の処遇とかのお話をしたのではないでしょうか?」
「したにはしたんだが……」
さらに店長は判断に迷っている表情を見せ、その心の内を明かした。
「今うちの店は人手不足でな、いくらあの状態の鈴谷さんとはいえ簡単に切るわけにはいかないのだよ。もちろん辞められても困るし。一応はここまで育ったのだから戦力と言って問題ないはずだ。だからまぁ、つまるところ勿体ないんだ」
「そうですか」
確かに店長の言う事も一理ある。
現に鈴谷さんと芹乃さん、それに鷹谷が入ってきてくれてからは幾分かシフトに余裕が生まれている。
今その内の1人を削るとなればきつくなってしまうのは明らかだ。
「つまりは、店長は鈴谷さんをどうにかさせたいと」
「そうだ。現に高橋君と芹乃さんのレジシフトは所々別にしてもらうように頼んである。だが、昨日のあれを見るとそれだけじゃ駄目なのかもしれないと思ったよ」
ならばそれこそ店長として然るべき判断を下すべきなのではないか。
そう言おうと思ったが、確かに人員不足という事は否めないし、このご時世簡単に契約を切るわけにはいかないのだろう。
「ちなみになんですけど、鈴谷さん本人から辞めたいとかは言ってないんですか?」
「それは聞いてないな。でもいつそう言ってくるか分からない状態ではあるかな」
「もしそう言われたら、どうするつもりなんです?」
「止めるさ。さっきも言った通り人手不足だからな。それでも辞めたいって言うなら仕方ないわな」
店長は渋い顔をする。
「まぁ、分かりました。とりあえずは僕に出来る事をやってみます。それで駄目ならその時はご判断をお願いします」
「そうだな。助かるよ」
それから僕はレジに戻ると、そこには既に鈴谷さんがいた。
今日は芹乃さんが休みだけど、彼女には元気が無かった。
業務中のそれは変わらず、ミスやクレームに繋がるようなことをしなかったのは救いだった。
***
業務が終わると僕は鈴谷さんに呼ばれて一緒に帰ることとなった。
しかし今日はすぐに自転車を走らせるわけではなく、そのまま他に誰もいない駐輪場で話をする。
「もう疲れましたね……」
とそんな言葉が漏れ出した。
「最近は色々あったからね」
クレームの事は明言せずに返答すると、鈴谷さんはうつむいてしまった。
肩にかかるくらいのセミロングヘアによりその表情が隠される。そのため今どんな顔をしているのか分からなくなってしまった。
沈黙の時間が過ぎていく。
真夜中の静けさや肌寒さが一層強く感じ、それでいてやけに時間が長く感じた。
遠くで鳴る救急車のサイレンの音や、飲み会の帰りなのか陽気に話す人の声が耳に入り、それは遠くになっていってもなお聞こえていた。
「バイト……辞めようかな……」
すると鈴谷さんがつぶやいた。
そして僕の脳裏には店長がと話した内容が想起された。
「まぁ確かに今は辛い時期だよね。でもまだこれからだとも思うし、もう少し続けてみたら?」
「でも私……」
鈴谷さんは迷っているような様子だ。
「でももし本当に辞めたいなら、僕にこれ以上止める権利は無いから最後は自分で決めるしかないよ?」
「そうですよね…… でも私、やっぱり……」
どのようなことで迷い悩んでいるのか僕には分からなかった。
それでもやはり何か引っかかりがあるというか、何かを話そうとしているものの戸惑っているようなそんな感じがした。
だから僕はその言葉の続きを待つことにした。
「……高橋さん。もし仮に私がここを辞めたらどう思いますか?」
「どうって。まぁ初めて僕が仕事を教えた人だったし、少なからず一緒にやってきた仲間でもあるから寂しいかな」
「そうなんですね。寂しいんですね。そう言ってくれるんですね」
「鈴谷さん?」
すると急に鈴谷さんが顔を上げて僕の目を見た。
「高橋さん。私はここを辞めたくありません。さっきあんな事を言ったのは、高橋さんが止めてくれると思ったからです。それで止めてくれました。でも止めたのはどうしてだろうって思いました。だからどう思うかなんて聞きました。それで寂しいと言ってくれました。だから私はそれが聞けて嬉しかったです」
そう語る彼女の目はいつになく真剣だった。
次の言葉を発する直前、彼女は少しだけ迷い、そしてようやくその唇が動いた。
「私は高橋さんの事が好きです。だから高橋さんが他の人、芹乃さんなんかと一緒にいるともやもやしてこんなことになってしまうんです」
と真っすぐと告げてきた。
僕への好意を噂で知っていたとはいえ、面と向かって言われたことにより僕の頭の中は真っ白になった。
僕は後日店長に呼ばれて別室で話をすることになった。
議題はもちろん鈴谷さんについてだ。
「どう思うもなにも。今回でクレームが4回目で、いずれも僕と芹乃さんが一緒にいる時でした。それ以外に特出すべきことはないと思いますが」
「ふむ。まぁそうなんだが……」
店長は考える素振りを見せ、鈴谷さんが連日クレームを受けてしまっている事の原因というか、本人がどういう心境なのかを話に出し、それと共に何か聞いてないかと問われる。
なので僕は先日聞いた鈴谷さんの昔の彼氏の事を話してみることにした。
「なるほど。いわゆるフラッシュバックというやつだね」
「おそらくは」
「フラッシュバックは精神的な問題だからこれでは高橋君でもどうにも出来なさそうか……」
「前々から言ってますけど、店長は僕の事を買いかぶりすぎなんですよ。僕は普通の大学生です。確かに教育係という立場ではありますが、なんでも出来るというわけではないですよ」
そうして店長は少し困った顔をする。
それを見て僕は違和感を抱いた。
「ところでなんですけど、なぜ店長はそこまで鈴谷さんの事で悩むんですか? 実際問題として既に4回もクレームを受けているのですし、3回目の時に本人とお話をしたのでしょう? その時に今後の処遇とかのお話をしたのではないでしょうか?」
「したにはしたんだが……」
さらに店長は判断に迷っている表情を見せ、その心の内を明かした。
「今うちの店は人手不足でな、いくらあの状態の鈴谷さんとはいえ簡単に切るわけにはいかないのだよ。もちろん辞められても困るし。一応はここまで育ったのだから戦力と言って問題ないはずだ。だからまぁ、つまるところ勿体ないんだ」
「そうですか」
確かに店長の言う事も一理ある。
現に鈴谷さんと芹乃さん、それに鷹谷が入ってきてくれてからは幾分かシフトに余裕が生まれている。
今その内の1人を削るとなればきつくなってしまうのは明らかだ。
「つまりは、店長は鈴谷さんをどうにかさせたいと」
「そうだ。現に高橋君と芹乃さんのレジシフトは所々別にしてもらうように頼んである。だが、昨日のあれを見るとそれだけじゃ駄目なのかもしれないと思ったよ」
ならばそれこそ店長として然るべき判断を下すべきなのではないか。
そう言おうと思ったが、確かに人員不足という事は否めないし、このご時世簡単に契約を切るわけにはいかないのだろう。
「ちなみになんですけど、鈴谷さん本人から辞めたいとかは言ってないんですか?」
「それは聞いてないな。でもいつそう言ってくるか分からない状態ではあるかな」
「もしそう言われたら、どうするつもりなんです?」
「止めるさ。さっきも言った通り人手不足だからな。それでも辞めたいって言うなら仕方ないわな」
店長は渋い顔をする。
「まぁ、分かりました。とりあえずは僕に出来る事をやってみます。それで駄目ならその時はご判断をお願いします」
「そうだな。助かるよ」
それから僕はレジに戻ると、そこには既に鈴谷さんがいた。
今日は芹乃さんが休みだけど、彼女には元気が無かった。
業務中のそれは変わらず、ミスやクレームに繋がるようなことをしなかったのは救いだった。
***
業務が終わると僕は鈴谷さんに呼ばれて一緒に帰ることとなった。
しかし今日はすぐに自転車を走らせるわけではなく、そのまま他に誰もいない駐輪場で話をする。
「もう疲れましたね……」
とそんな言葉が漏れ出した。
「最近は色々あったからね」
クレームの事は明言せずに返答すると、鈴谷さんはうつむいてしまった。
肩にかかるくらいのセミロングヘアによりその表情が隠される。そのため今どんな顔をしているのか分からなくなってしまった。
沈黙の時間が過ぎていく。
真夜中の静けさや肌寒さが一層強く感じ、それでいてやけに時間が長く感じた。
遠くで鳴る救急車のサイレンの音や、飲み会の帰りなのか陽気に話す人の声が耳に入り、それは遠くになっていってもなお聞こえていた。
「バイト……辞めようかな……」
すると鈴谷さんがつぶやいた。
そして僕の脳裏には店長がと話した内容が想起された。
「まぁ確かに今は辛い時期だよね。でもまだこれからだとも思うし、もう少し続けてみたら?」
「でも私……」
鈴谷さんは迷っているような様子だ。
「でももし本当に辞めたいなら、僕にこれ以上止める権利は無いから最後は自分で決めるしかないよ?」
「そうですよね…… でも私、やっぱり……」
どのようなことで迷い悩んでいるのか僕には分からなかった。
それでもやはり何か引っかかりがあるというか、何かを話そうとしているものの戸惑っているようなそんな感じがした。
だから僕はその言葉の続きを待つことにした。
「……高橋さん。もし仮に私がここを辞めたらどう思いますか?」
「どうって。まぁ初めて僕が仕事を教えた人だったし、少なからず一緒にやってきた仲間でもあるから寂しいかな」
「そうなんですね。寂しいんですね。そう言ってくれるんですね」
「鈴谷さん?」
すると急に鈴谷さんが顔を上げて僕の目を見た。
「高橋さん。私はここを辞めたくありません。さっきあんな事を言ったのは、高橋さんが止めてくれると思ったからです。それで止めてくれました。でも止めたのはどうしてだろうって思いました。だからどう思うかなんて聞きました。それで寂しいと言ってくれました。だから私はそれが聞けて嬉しかったです」
そう語る彼女の目はいつになく真剣だった。
次の言葉を発する直前、彼女は少しだけ迷い、そしてようやくその唇が動いた。
「私は高橋さんの事が好きです。だから高橋さんが他の人、芹乃さんなんかと一緒にいるともやもやしてこんなことになってしまうんです」
と真っすぐと告げてきた。
僕への好意を噂で知っていたとはいえ、面と向かって言われたことにより僕の頭の中は真っ白になった。
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