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第一章 第1話 出会い
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「鈴谷さん。流石に連続でクレームをもらっちゃ困るよ」
1回目のクレーム、その後日に再びクレーム、さらに日が経たずして3回目のクレームを受けた鈴谷さんは事務所で中村さんに指導を受けていた。
「何かあるなら言ってみなさい? 仕事の事とかプライベートの事とか。最近は特に集中出来てないみたいだから何かあるんじゃないの?」
「……」
先の会話で鈴谷さんに何かある事を知っている中村さんだが、あえて何も知らない体で話している。
対して何も答えずにうつむくばかりの鈴谷さん。
休憩中の僕はそんな様子を横目に見ながらも少し離れたところでカップラーメンをすする。
「あれ? 高橋くんは今日もカップ麺? たまにはお弁当でも買ったらどう?」
「カップ麺の方が安いですし、そこまでこだわりは無いんで。そう言う芹乃さんはサラダと春雨スープですか。弁当でも買ったらどうです?」
「私はいいのよ。今はダイエット中だし」
ふと鈴谷さんの方を見ると、そんな僕達の会話が聞こえたのか一瞬だけこちらに目を向けてすぐに視線を下に戻した。
その時に見えた目は以前に芹乃さんが言っていた、まるで睨んでいるかのようなそれに見えた。
きっとその視線に中村さんも気づいたのだろう。
鈴谷さんを連れて事務所を出て行ってしまった。
「行っちゃったね」
「そうですね」
事務所には僕と芹乃さんの他には事務作業をしている社員の人達がいる。
そして時折聞こえてくる会話。
売り場からの質問に対して的確に答える社員の人達はミスをしたり、それこそクレームをもらったりなんてする雰囲気すらない。
まもなく休憩が終わろうという時になってようやく中村さんと鈴谷さんが戻ってきた。
「芹乃さん、高橋くん。ちょっといい?」
と鈴谷さんと入れ替えるように今度は僕らを事務所の外へ呼び出した。
そして別室に通される。
「この後は芹乃さんと鈴谷さんの担当場所を交換ね」
「別にいいですけど、やっぱり何かあったんですね」
「まぁね。正直これ以上クレームを出されても困るしね」
「なるほど」
僕はその方針に特に意を唱えなかった。
「ちなみに、鈴谷さんは何か言ってたんですか?」
「そうだね。まぁ、色々とね。それから店長もこの件について鈴谷さんと話をしたよ。立て続けに3回もクレームってなったから当然といえば当然だけど」
ということで、と中村さんが壁に掛けてある時計を見るやいなや話をまとめる。
「一旦様子を見るけど、もしまた何か気づいたことがあれば教えてね。それと、店長は高橋くんがなんとかしてくれるんじゃないかって期待してたから、頑張ってみて」
「また変な期待を」
「確かに、この件をどうにか出来るのは高橋くんでしょうね。私が何か言っても駄目だと思いますし」
「芹乃さんまで。……分かりましたよ。確認なんですけど、鈴谷さんがもしこの件を重く受け止めすぎて辞めるなんて事を言い出したら止めた方がいいですか?」
「そうだね。人数も限られてるし、減るのは困るかな」
「分かりました」
だからといって僕に何が出来るのだろう。
まぁとにかく、芹乃さんと鈴谷さんの担当場所が変わって僕と被るわけだから少し見てみるか。
それから別室を出た僕らはそれぞれが担当する場所へ向かう。
すると既に鈴谷さんが2階レジで準備を済ませていた。
「まぁ、頑張ってね」
芹乃さんはそんな無責任な事を言って1階へと降りて行った。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
軽く挨拶を交わした時に見えた鈴谷さんの目は少し腫れていた。
しかし次の瞬間には笑顔に変わった。
1回目のクレーム、その後日に再びクレーム、さらに日が経たずして3回目のクレームを受けた鈴谷さんは事務所で中村さんに指導を受けていた。
「何かあるなら言ってみなさい? 仕事の事とかプライベートの事とか。最近は特に集中出来てないみたいだから何かあるんじゃないの?」
「……」
先の会話で鈴谷さんに何かある事を知っている中村さんだが、あえて何も知らない体で話している。
対して何も答えずにうつむくばかりの鈴谷さん。
休憩中の僕はそんな様子を横目に見ながらも少し離れたところでカップラーメンをすする。
「あれ? 高橋くんは今日もカップ麺? たまにはお弁当でも買ったらどう?」
「カップ麺の方が安いですし、そこまでこだわりは無いんで。そう言う芹乃さんはサラダと春雨スープですか。弁当でも買ったらどうです?」
「私はいいのよ。今はダイエット中だし」
ふと鈴谷さんの方を見ると、そんな僕達の会話が聞こえたのか一瞬だけこちらに目を向けてすぐに視線を下に戻した。
その時に見えた目は以前に芹乃さんが言っていた、まるで睨んでいるかのようなそれに見えた。
きっとその視線に中村さんも気づいたのだろう。
鈴谷さんを連れて事務所を出て行ってしまった。
「行っちゃったね」
「そうですね」
事務所には僕と芹乃さんの他には事務作業をしている社員の人達がいる。
そして時折聞こえてくる会話。
売り場からの質問に対して的確に答える社員の人達はミスをしたり、それこそクレームをもらったりなんてする雰囲気すらない。
まもなく休憩が終わろうという時になってようやく中村さんと鈴谷さんが戻ってきた。
「芹乃さん、高橋くん。ちょっといい?」
と鈴谷さんと入れ替えるように今度は僕らを事務所の外へ呼び出した。
そして別室に通される。
「この後は芹乃さんと鈴谷さんの担当場所を交換ね」
「別にいいですけど、やっぱり何かあったんですね」
「まぁね。正直これ以上クレームを出されても困るしね」
「なるほど」
僕はその方針に特に意を唱えなかった。
「ちなみに、鈴谷さんは何か言ってたんですか?」
「そうだね。まぁ、色々とね。それから店長もこの件について鈴谷さんと話をしたよ。立て続けに3回もクレームってなったから当然といえば当然だけど」
ということで、と中村さんが壁に掛けてある時計を見るやいなや話をまとめる。
「一旦様子を見るけど、もしまた何か気づいたことがあれば教えてね。それと、店長は高橋くんがなんとかしてくれるんじゃないかって期待してたから、頑張ってみて」
「また変な期待を」
「確かに、この件をどうにか出来るのは高橋くんでしょうね。私が何か言っても駄目だと思いますし」
「芹乃さんまで。……分かりましたよ。確認なんですけど、鈴谷さんがもしこの件を重く受け止めすぎて辞めるなんて事を言い出したら止めた方がいいですか?」
「そうだね。人数も限られてるし、減るのは困るかな」
「分かりました」
だからといって僕に何が出来るのだろう。
まぁとにかく、芹乃さんと鈴谷さんの担当場所が変わって僕と被るわけだから少し見てみるか。
それから別室を出た僕らはそれぞれが担当する場所へ向かう。
すると既に鈴谷さんが2階レジで準備を済ませていた。
「まぁ、頑張ってね」
芹乃さんはそんな無責任な事を言って1階へと降りて行った。
「お疲れ様です」
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しかし次の瞬間には笑顔に変わった。
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