しあわせDiary ~僕の想いをあなたに~

翡翠ユウ

文字の大きさ
上 下
75 / 82
第一章 第1話 出会い

1-13

しおりを挟む
「鈴谷さん。流石に連続でクレームをもらっちゃ困るよ」

 1回目のクレーム、その後日に再びクレーム、さらに日が経たずして3回目のクレームを受けた鈴谷さんは事務所で中村さんに指導を受けていた。

「何かあるなら言ってみなさい? 仕事の事とかプライベートの事とか。最近は特に集中出来てないみたいだから何かあるんじゃないの?」
「……」

 先の会話で鈴谷さんに何かある事を知っている中村さんだが、あえて何も知らない体で話している。
 対して何も答えずにうつむくばかりの鈴谷さん。
 休憩中の僕はそんな様子を横目に見ながらも少し離れたところでカップラーメンをすする。

「あれ? 高橋くんは今日もカップ麺? たまにはお弁当でも買ったらどう?」
「カップ麺の方が安いですし、そこまでこだわりは無いんで。そう言う芹乃さんはサラダと春雨スープですか。弁当でも買ったらどうです?」
「私はいいのよ。今はダイエット中だし」

 ふと鈴谷さんの方を見ると、そんな僕達の会話が聞こえたのか一瞬だけこちらに目を向けてすぐに視線を下に戻した。
 その時に見えた目は以前に芹乃さんが言っていた、まるで睨んでいるかのようなそれに見えた。
 
 きっとその視線に中村さんも気づいたのだろう。
 鈴谷さんを連れて事務所を出て行ってしまった。

「行っちゃったね」
「そうですね」

 事務所には僕と芹乃さんの他には事務作業をしている社員の人達がいる。
 そして時折聞こえてくる会話。
 売り場からの質問に対して的確に答える社員の人達はミスをしたり、それこそクレームをもらったりなんてする雰囲気すらない。

 まもなく休憩が終わろうという時になってようやく中村さんと鈴谷さんが戻ってきた。

「芹乃さん、高橋くん。ちょっといい?」

 と鈴谷さんと入れ替えるように今度は僕らを事務所の外へ呼び出した。
 そして別室に通される。

「この後は芹乃さんと鈴谷さんの担当場所を交換ね」
「別にいいですけど、やっぱり何かあったんですね」
「まぁね。正直これ以上クレームを出されても困るしね」
「なるほど」

 僕はその方針に特に意を唱えなかった。

「ちなみに、鈴谷さんは何か言ってたんですか?」
「そうだね。まぁ、色々とね。それから店長もこの件について鈴谷さんと話をしたよ。立て続けに3回もクレームってなったから当然といえば当然だけど」

 ということで、と中村さんが壁に掛けてある時計を見るやいなや話をまとめる。

「一旦様子を見るけど、もしまた何か気づいたことがあれば教えてね。それと、店長は高橋くんがなんとかしてくれるんじゃないかって期待してたから、頑張ってみて」
「また変な期待を」
「確かに、この件をどうにか出来るのは高橋くんでしょうね。私が何か言っても駄目だと思いますし」
「芹乃さんまで。……分かりましたよ。確認なんですけど、鈴谷さんがもしこの件を重く受け止めすぎて辞めるなんて事を言い出したら止めた方がいいですか?」
「そうだね。人数も限られてるし、減るのは困るかな」
「分かりました」

 だからといって僕に何が出来るのだろう。
 まぁとにかく、芹乃さんと鈴谷さんの担当場所が変わって僕と被るわけだから少し見てみるか。

 それから別室を出た僕らはそれぞれが担当する場所へ向かう。
 すると既に鈴谷さんが2階レジで準備を済ませていた。

「まぁ、頑張ってね」

 芹乃さんはそんな無責任な事を言って1階へと降りて行った。

「お疲れ様です」
「お疲れ」

 軽く挨拶を交わした時に見えた鈴谷さんの目は少し腫れていた。
 しかし次の瞬間には笑顔に変わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...