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第一章 第1話 出会い
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「あれ? 鈴谷さんはどうしたんですか?」
僕が仕事を終えて芹乃さんと事務所に戻ってきた時、鈴谷さんの荷物が無くなっていた。
「あぁ、早退したよ」
と奥から中村さんが教えてくれた。
そしてコーヒー片手にやってくると事の次第を話し始めた。
「3人が休憩から戻った後にね、1階のレジでクレームをもらっちゃって大変だったのよ。店長までとはいかなかったけど上を出せ!って聞かなくてね。それで私が行ってどうにか収めたの」
「あぁ、やっぱりあれは鈴谷さんだったんですね」
隣にいる芹乃さんが納得といった顔をしていた。
「私もちょいちょい鈴谷さんの事は見ていたつもりだったけど、見きれていなかったみたいね。芹乃さん、最近鈴谷さんの体調が悪そうとか、今回の事に繋がるような兆候だったり思い当たる事ってあったの?」
「そうですね。体調ではないんですけど、なぜかは知りませんが私に対して無愛想というか、何か変な感じだったんですよね。私にだけならまだしも、仕事に支障を出さないか心配ではありました」
「そう…… 高橋くんは何か気付いてた事はある?」
「いえ、僕は特に」
さっき芹乃さんに聞いた情報しか持っていなかったのでそう言うしかなかった。
「でも僕と話している時は普通に見えましたよ? 今日の休憩時間の時も普通に話してましたし」
「3人で話したりはした?」
「いえ、僕が2人とそれぞれ別の話をしました」
「なるほどね」
そして中村さんは少し考えてある仮説を出した。
「もしかして鈴谷さんは芹乃さんに嫉妬してるんじゃない? それこそ男女なんだし、そういう話題とか聞いた事ない?」
芹乃さんは首を横に振る。
だが僕には色々と思い当たる事、というか聞いていた事があったのでこの際話すことにした。
「まぁ、あくまで噂だと思いますけどね」
「うーん…… 芹乃さん、どう思う?」
「黒ですね」
「私もそう思った」
「言われてみれば私が高橋くんと話したり何かをしてた時は特に視線というか、当たりが強かった気がします。それに、高橋くんがいない時に高橋くんの話題を出すと妙に食いつきがいいですし、その反面やっぱり私の事を睨んでいるようなそんな目をするんです」
「あら、そう」
見事に2人の意見が一致すると、次の瞬間には質問の矛先が僕に向く。
「実際どうなの? 高橋くんは既に鈴谷さんと付き合ってたりとかそういう関係になってたりするの? もしなってるんだとしたら、芹乃さんに対する当たりの強さとか諸々に合点がいくんだけど?」
「いやまさか。それに僕は噂だと思ってますし、本当かどうかは知らないんですって」
「でも、その嫉妬めいた事が暴走しちゃって今日の事に飛び火したのだとしたら、これも納得なんだよね。だって鈴谷さんが1階でレジをしてた時って2人は2階で一緒だったでしょ?」
「まぁそうですけど」
その時、僕は芹乃さんが2階のレジに来て鈴谷さんと交換してから、彼女が見せた不機嫌そうな顔を思い出した。
「ちなみに、芹乃さんは鈴谷さんに何か変な事を言ったとかはある?」
「いえ、今日の休憩中は話しませんでしたし、1日で思い返してもレジの担当場所が違うという事を教えたくらいでした。それも要点だけ伝えるくらいで長くは話しませんでした」
「そう。まぁ何にしてもクレームをもらっちゃった事には注意をしてあるし、もし本当に嫉妬的な事が原因なら今後は少し考えていかないといけないわね。だからといっても仕事は仕事。公私混同は避けてもらわないといけないわ」
「当然ですね。僕としてもそれは賛成なので、シフトだったり色んな場面で変に気を遣う必要は無いと思います」
ちなみに、と中村さんが改めて僕と芹乃さんを見る。
「2人にそういう関係性は?」
「ないですよ」
「ないです。高橋くんは仕事上の先輩でプライベートや個人的にでも想う事はありません」
それを聞くとなんだか少し悲しい気持ちにならないわけでもないが事実そうだ。
「今後も?」
「ないですね。確かに芹乃さんは話しやすいですが、付き合う気になれません」
「それはなんか酷くない? 私に魅力が無いってこと?」
「そういうことではなくて、ただ、僕には勿体無いですし芹乃さんにはもっと良い方がいると思ったというだけです」
「それって男からの告白を断る女がよく使う言い訳よね? まぁいいわ。中村さん、そういう事なので私達にはそういう事はありませんし、今後もありません。ですので心配しないでください」
それを聞いた中村さんは少しほっとした様子だった。
「良かった。これで地獄の泥沼関係は回避出来たわ。でも鈴谷さんについてはしばらく見ておいてもらって、何かあったら教えてね?」
「分かりました」
全ての話が終わると僕達は帰路に着いた。
後日、再び3人のシフトが被り、鈴谷さんはまたクレームを受けてしまった。
その時は僕と芹乃さんが1階、鈴谷さんは2階にいた。
僕が仕事を終えて芹乃さんと事務所に戻ってきた時、鈴谷さんの荷物が無くなっていた。
「あぁ、早退したよ」
と奥から中村さんが教えてくれた。
そしてコーヒー片手にやってくると事の次第を話し始めた。
「3人が休憩から戻った後にね、1階のレジでクレームをもらっちゃって大変だったのよ。店長までとはいかなかったけど上を出せ!って聞かなくてね。それで私が行ってどうにか収めたの」
「あぁ、やっぱりあれは鈴谷さんだったんですね」
隣にいる芹乃さんが納得といった顔をしていた。
「私もちょいちょい鈴谷さんの事は見ていたつもりだったけど、見きれていなかったみたいね。芹乃さん、最近鈴谷さんの体調が悪そうとか、今回の事に繋がるような兆候だったり思い当たる事ってあったの?」
「そうですね。体調ではないんですけど、なぜかは知りませんが私に対して無愛想というか、何か変な感じだったんですよね。私にだけならまだしも、仕事に支障を出さないか心配ではありました」
「そう…… 高橋くんは何か気付いてた事はある?」
「いえ、僕は特に」
さっき芹乃さんに聞いた情報しか持っていなかったのでそう言うしかなかった。
「でも僕と話している時は普通に見えましたよ? 今日の休憩時間の時も普通に話してましたし」
「3人で話したりはした?」
「いえ、僕が2人とそれぞれ別の話をしました」
「なるほどね」
そして中村さんは少し考えてある仮説を出した。
「もしかして鈴谷さんは芹乃さんに嫉妬してるんじゃない? それこそ男女なんだし、そういう話題とか聞いた事ない?」
芹乃さんは首を横に振る。
だが僕には色々と思い当たる事、というか聞いていた事があったのでこの際話すことにした。
「まぁ、あくまで噂だと思いますけどね」
「うーん…… 芹乃さん、どう思う?」
「黒ですね」
「私もそう思った」
「言われてみれば私が高橋くんと話したり何かをしてた時は特に視線というか、当たりが強かった気がします。それに、高橋くんがいない時に高橋くんの話題を出すと妙に食いつきがいいですし、その反面やっぱり私の事を睨んでいるようなそんな目をするんです」
「あら、そう」
見事に2人の意見が一致すると、次の瞬間には質問の矛先が僕に向く。
「実際どうなの? 高橋くんは既に鈴谷さんと付き合ってたりとかそういう関係になってたりするの? もしなってるんだとしたら、芹乃さんに対する当たりの強さとか諸々に合点がいくんだけど?」
「いやまさか。それに僕は噂だと思ってますし、本当かどうかは知らないんですって」
「でも、その嫉妬めいた事が暴走しちゃって今日の事に飛び火したのだとしたら、これも納得なんだよね。だって鈴谷さんが1階でレジをしてた時って2人は2階で一緒だったでしょ?」
「まぁそうですけど」
その時、僕は芹乃さんが2階のレジに来て鈴谷さんと交換してから、彼女が見せた不機嫌そうな顔を思い出した。
「ちなみに、芹乃さんは鈴谷さんに何か変な事を言ったとかはある?」
「いえ、今日の休憩中は話しませんでしたし、1日で思い返してもレジの担当場所が違うという事を教えたくらいでした。それも要点だけ伝えるくらいで長くは話しませんでした」
「そう。まぁ何にしてもクレームをもらっちゃった事には注意をしてあるし、もし本当に嫉妬的な事が原因なら今後は少し考えていかないといけないわね。だからといっても仕事は仕事。公私混同は避けてもらわないといけないわ」
「当然ですね。僕としてもそれは賛成なので、シフトだったり色んな場面で変に気を遣う必要は無いと思います」
ちなみに、と中村さんが改めて僕と芹乃さんを見る。
「2人にそういう関係性は?」
「ないですよ」
「ないです。高橋くんは仕事上の先輩でプライベートや個人的にでも想う事はありません」
それを聞くとなんだか少し悲しい気持ちにならないわけでもないが事実そうだ。
「今後も?」
「ないですね。確かに芹乃さんは話しやすいですが、付き合う気になれません」
「それはなんか酷くない? 私に魅力が無いってこと?」
「そういうことではなくて、ただ、僕には勿体無いですし芹乃さんにはもっと良い方がいると思ったというだけです」
「それって男からの告白を断る女がよく使う言い訳よね? まぁいいわ。中村さん、そういう事なので私達にはそういう事はありませんし、今後もありません。ですので心配しないでください」
それを聞いた中村さんは少しほっとした様子だった。
「良かった。これで地獄の泥沼関係は回避出来たわ。でも鈴谷さんについてはしばらく見ておいてもらって、何かあったら教えてね?」
「分かりました」
全ての話が終わると僕達は帰路に着いた。
後日、再び3人のシフトが被り、鈴谷さんはまたクレームを受けてしまった。
その時は僕と芹乃さんが1階、鈴谷さんは2階にいた。
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