しあわせDiary ~僕の想いをあなたに~

翡翠ユウ

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第一章 第1話 出会い

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 あれから数日、出勤を重ねていると芹乃さんと話をしている時にちょくちょく鈴谷さんが会話に入ってくるようになった。

 休憩中に3人で話をする。というわけでもなく、それぞれで異なった話題について話す。
 だからかどっちとどんな話をしていたのかが混ざる時があって、芹乃さんの場合は上手く話を巻き戻してくれたり、『つまりね』といったように要点を伝えてくれた。
 鈴谷さんにおいては、そのまま何事もなかったかのように続きから話すので必然的にしっかりと聞いていないと訳が分からなくなってしまう。

「おぉおぉ。なんか色々話してるな」

 と欲しいタイミングで鷹谷が話に割り込んできてくれた。
 それにより2人との会話が強制的にストップされて少しの間が出来た。
 この雰囲気に便乗して離脱しようと鷹谷を連れて事務所から出た。

「助かったよ」
「モテる男は大変だな」
「それ鷹谷が1番言っちゃいけないことだからな? それに、僕はモテているわけじゃない。弄ばれているんだ」
「どうだかね」

 あぁ、すごく煙草が吸いたい。
 休憩時間はまだある。
 事務所に戻って煙草を……と思った時だった。

「高橋さん」

 事務所から鈴谷さんが出てきた。
 そして僕の前に来ると顔を俯かせた。
 何も言ってこなかったのでもう少しだけ少し待つと

「さっきはごめんなさい。高橋さんが相手だとつい話すぎてしまうみたいで。迷惑でしたよね?」
「いや別に」

 ここで迷惑だなんて言えないのが僕だ。

「そうですか。でしたらまた今度お話しましょう。そろそろ休憩時間が終わりますから一緒に戻りましょう」
「あ、いや。事務所に忘れ物をしたから取りに行かないと」
「そうなんですね。ちなみに何ですか? 私が取ってきますよ?」

 そこで煙草と言うのはどうしてか抵抗があった。
 だからといって他には何も忘れていなかったので

「いややっぱり大丈夫」

 と言うしかなかった。

「そうですか。では行きましょう」

 半ば引きずられるようにして連れて行かれる様子を鷹谷は黙って見ていた。
 歩き出そうとした時、視界に僅かに入っている事務所の入り口から芹乃さんが出てきたのが分かった。

「たか―」
「あと半分ですね。頑張りましょう」

 彼女が僕に何かを言おうとした時、まるでそれに被せるかのように鈴谷さんが僕にそう言い放った。
 そして廊下の角を曲がると芹乃さんの姿が見えなくなった。
 前を歩く鈴谷さんは焦っているのか、喜んでいるのか、はたまた怒っているのか全く分からない表情をしていた。

「さっき芹乃さんがいたけど、何か用があったのかな?」
「え、いたんですか? 全然気が付かなかったです」

 そうして僕達は長い廊下を経て持ち場に戻った。


***


「あれ? 鈴谷さんは1階だよ?」

 それから少し遅れて芹乃さんが今僕達のいる2階の担当レジにやってきてそう告げた。
 本日のレジの担当場所シフトを見ると、確かに休憩後は僕と芹乃さんが2階で鈴谷さんは1階になっていた。
 という事で2人が場所を交代した。

「高橋くん、よろしく」
「あぁはい。まぁ、気楽にですね」
「そう言ってるとすぐ混んでくるんだからね?」
「変なフラグを立てるのはやめてくださいよ」

 鈴谷さんはそんな僕と芹乃さんの会話を黙って一瞥すると、明らかに不機嫌そうに1階へ降りて行った。
 それこそ接客をしている立場ではしてはいけないような顔をして。

「鈴谷さんと何かあったの?」
「僕が聞きたいですよ。逆に何かあったんですか?」
「何も。でも最近ずっとあんな感じだよ? 高橋くんとシフトが被ってなくてレジ担当場所シフトが重なった時とか休憩時間に話しかけたりしてるんだけど、そっけないというか不愛想というか。最初はあんな感じじゃなかったのにどうしたんだろうね」

 確かに当初の鈴谷さんは物静かで大人しく、どちらかと言えば争いを好まないような、教室の隅で読書をしていそうな感じだった。
 まぁさっきみたいに気兼ねなく僕に話しかけてきてくれるようになったのはいい事だけど、ほぼ同期の芹乃さんと不仲みたいになるのはちょっとな。

「それこそ女性同士なので色々と共感出来る事とかあるんじゃないんですか?」
「女同士だから分からない事もあるのよ。なんか最近は難しいなぁ」

 芹乃さんは普段はなかなか見せる事のない困り顔をしていた。
 それからしばらく仕事をしていると1階から怒号が聞こえてきた。

「クレーマーかな?」
「そんな自然的に言わないでください」

 芹乃さんはさも慣れたことのように、怒声を何の気にも留めずに目の前に来た客の商品をレジに通していく。

 やっぱり元正社員ということもあってこういう事には慣れているんだな。
 僕もまだ聞こえるそれについて深く考える事をやめて目の前の仕事に集中した。
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