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第一章 第1話 出会い

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「思ったんだけどさ、高橋くんに合う人ってそういなくない?」
「大分失礼ですね」

 久々に芹乃さんとシフトが被った。
 さらに鈴谷さんもいて、珍しく3人揃って休憩中である。

 芹乃さんとはこの月日の間に人見知りやらぎこちなさは無くなり、今となっては普通に冗談も言える仲である。
 とは言っても、ほば僕が一方的に言われているだけなんだが。

「だってさ、YouTubeやってて動画編集に時間がかかりそうだし、絶対女の子との時間を取らないタイプでしょ?」
「そんな事ないですよ。多分」

 事実、僕は自分のやる事ややりたい事に重きを置くタイプだ。
 だからこそ、かまってちゃんタイプの人とはなかなか合わない。
 それに、そのやりたい事を邪魔されるのが尋常じゃなく嫌なのだ。

「それじゃもし、高橋くんが何かする予定の日に彼女からデートに誘われたら行く? 断る?」
「そりゃまぁ、行きますね。多分」

 いや、断るな。
 僕は元来からそういう性格だ。
 そんな嘘を見抜いた芹乃さんが

「ふーん。ちなみに前の彼女は高橋くんの都合の悪さが原因で別れたの?」

 と僕の過去を掘り返してくる。

「それは違いますよ。というか昔の彼女の事はもういいじゃないですか」
「いいや、気になるんだよねぇ。若い子のそういう事情って」
「2つしか変わらないでしょう」

 それで?という視線を向けられ、これはきっと答えるまで続くやつだと観念せざるを得なかったので仕方なく話してやることにした。

「浮気ですよ浮気。向こうが4股してたんですよ」
「えっぐ。ビッチじゃん。大学生ってやっぱりそういう子もいるんだね。よしよし、辛かったね。ほら、お姉さんが慰めてあげるからおいで」
「いらないです。もう終わった事なのでどうでもいいんですよ。というか、芹乃さんは僕の事を何だと思ってるんですか?」
「なんだろうね。話し相手?」
「要は暇つぶしと。芹乃さんこそ僕にかまってないでそろそろ新しい人でも見つけたらどうです?」
「新しい人ねぇ。いたらいいんだけどね。なかなか出会いが無くて」

 わざとらしくしょげた表情になった。
 しかし、それを見たところで僕は特に何も思わないのでさっきのお返しと言わんばかりに

「芹乃さんにも合う人ってなかなかいなさそうですよね。すぐおちょくって大事な話の時でもふざけそうですし」

 と言ってやった。

「そんな事ないよ? そういう時は真面目に聞くし話もするよ?」

 と僕の予想に反して真面目な顔で答えてきた。
 それに虚を突かれてしまって一瞬言葉が詰まる。

「まぁ今じゃ何でも自己完結出来る時代だし、それこそ恋人を作る=リスクだとか面倒事って考える人も多いからそっち方面の大事な話をしてくる人が少なくなっちゃったんだよね。あとは草食系男子ってのが増えてきてね。あ、もう死語かな?」

 そうしてけらけらと笑いだす芹乃さん。

「何話してんの?」

 そんな中で鷹谷が事務所に入って来て輪に入ろうとする。
 だが彼が来た事により僕達の休憩時間が終わりである事に気が付いた。

「まぁ何でもない話だよ。悪いな、そろそろ休憩時間が終わるんだ。また今度な」

 そう言い残すと1人で休憩に入る鷹谷を置いて僕達3人は事務所を出た。

***

「あ、私はお手洗い行ってから戻るから先に行ってて」

 ということなので芹乃さんとも一旦別れる。
 2人となった僕達はそのまま持ち場へ戻ろうとする。
 そんな時今までずっと黙っていた鈴谷さんがここにきてやっと口を開いた。

「昔の彼女さん、本当に酷かったんですね」
「まぁ、もう昔の事だから」
「少なくとも私ならそんな事はしませんけどね。同じ女として彼氏のやる事を妨げたり、それこそ別の人に手を出すようなことなんてしないですよ」

 心なしかその口調には真剣さがあった。
 そして僕はあの日にした鷹谷との会話を思い出す。

「鈴谷さんはそういうタイプじゃなさそうだもんね」

 と、返答に困りながらも出た言葉がそれだった。

「まだいたの? もしかして待っててくれた感じ?」

 お手洗いを終えた芹乃さんが追いついたので、この会話に終止符が打たれた。
 するとまた鈴谷さんが静かになった。

「待ってたわけじゃないですよ」
「そう。それじゃ行くわよ」

 そう言って僕達の前を歩く芹乃さん。
 ふと鈴谷さんの表情を見ると、どこか険しいというか強張った様子でその背中を見ていた。
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