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第一章 第1話 出会い
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「初めまして。鈴谷真由っていいます。今日からよろしくお願いします」
次の日の出勤にて例の新人が17時にやってきた。
少し店長と話をしてから事務所で休憩中の僕の元にやってくる彼女。
背は僕よりも小さく童顔で色白。サラサラの黒髪は肩くらいで切り揃えられていた。
「ということでよろしくね、高橋くん」
中村さんがそう言うと、彼女、鈴谷さんが僕に改めて挨拶をしてくる。
「よろしくね。僕は高橋翔。一応教育係って事になってるけど、そんなにかしこまらなくていいからね」
「はい。よろしくお願いします」
つぶらな瞳の中には小動物を思わせるようなか弱さがあった。
それと共に雰囲気を含め全体的に清楚感を纏い、なんかこう庇護欲のようなものすらも搔き立てられる。
「まぁいきなりレジに入るのは厳しいだろうし、諸々説明しなきゃいけないから先に教えられる事を教えるね。とりあえず座ろうか」
そうして僕は座学という形で鈴谷さんに基礎的な事を教えていく。
どうやら彼女はそこまで接客の経験が無いようで、学生のバイトとして代表的なコンビニのレジでの作業を例に出してもそこまで大きな反応を示す事は無かった。
それでも僕の言う事には逐一メモを取り、時に質問を返してはしっかりと覚えていっている様子が見受けられた。
「―とまぁこんな感じかな。大体でも理解出来た?」
「はい。どうにか」
1時間程座学を行い思った以上に飲み込みが早かったので店長の許可の下、実際のレジでの業務を見せる事になった。
もちろん今回は見るだけで雰囲気を掴んでもらう事が目的である。
そんなこんなで本日のシフトが終了し、鈴谷さんは僕にお礼を言って帰っていった。
「どう? 彼女」
と中村さんが話しかけてきた。
「まだ初日じゃ分かりませんって。せめて1ヶ月は見るべきでしょう」
「だよね。それじゃ、明日は18時に別の子が来るからそっちもよろしくね」
そうだった。
当初聞いていたのは2人。これで落ち着いている場合じゃないんだった。
明日の人も普通の人であってほしいな。面倒な人だったら嫌だな。
***
「いらっしゃいませー。お預かりしますね」
昨日の心配は杞憂に終わった。
それも、今日の18時にやってきた新人が既に新人ではなかったのだ。
「中村さん。僕は必要無いのでは?」
「まぁあの子に限ってはね。でも一応ブランクがあるし、数日は付いててあげてほしいの」
本日の新人の彼女、芹乃加奈さんは現在フリーターだが、実は昔に他の店舗にて正社員として働いていたという。
つまりは経験者であり立派な社会人だったのだ。
年上の後輩であり、経験者ともなるとどうも気が引けてしまう。
もちろんここでは先輩としてあれこれ教えるつもりではあるけれど、多分知っているだろうし、本当に僕はいらないんじゃないかと思えてしまう。
店長の許可で試しにレジをやらせてみたら、見ている限りでは一切の問題もなく出来ているわけだし。
「高橋くん。これどうやってやるんですか?」
「あぁ、これは―」
年上という事もあって既にくん付けである。
「ありがとうございます。また分からない事があったお願いします」
それでも敬語とお礼は言うので、呼称くらい何でもいいかと流す。
「お疲れ様でした。高橋くんが見ていてくれたお陰でミス無く出来ました。ありがとうございました」
制服から着替えた芹乃さんは昨日の鈴谷さんとはまた違った雰囲気を纏っていた。
私服は華美ではないものの、アクセントとしてちょっとしたネックレスを着けていた。
髪形としても栗毛色のボブカットがふわりと揺れ、目が悪いのか着けている黒縁眼鏡と上手く調和をしていた。
さらに話をしている時でも目線は右往左往せずに話す人をじっと見ている。また、大袈裟な身振りやリアクションをする事も無く、その様子はまさに落ち着いた大人の女性のそれだった。
「お疲れ様でした。次回もお願いしますね」
と僕は変な緊張感をもって返答してしまった。
そうして芹乃さんは踵を返して事務所から出て行った。
その際には何の香りか分からないが、甘くも上品な香りが僅かに鼻腔をくすぐった。
「どう? 彼女」
また中村さんが聞いてきたので、昨日と同じような回答をした。
言いはしなかったが、年上の女性はみんなあんな感じなのかなと思ったけれど同じく年上の中村さんを見て、そんなことはないなと思ったのだった。
次の日の出勤にて例の新人が17時にやってきた。
少し店長と話をしてから事務所で休憩中の僕の元にやってくる彼女。
背は僕よりも小さく童顔で色白。サラサラの黒髪は肩くらいで切り揃えられていた。
「ということでよろしくね、高橋くん」
中村さんがそう言うと、彼女、鈴谷さんが僕に改めて挨拶をしてくる。
「よろしくね。僕は高橋翔。一応教育係って事になってるけど、そんなにかしこまらなくていいからね」
「はい。よろしくお願いします」
つぶらな瞳の中には小動物を思わせるようなか弱さがあった。
それと共に雰囲気を含め全体的に清楚感を纏い、なんかこう庇護欲のようなものすらも搔き立てられる。
「まぁいきなりレジに入るのは厳しいだろうし、諸々説明しなきゃいけないから先に教えられる事を教えるね。とりあえず座ろうか」
そうして僕は座学という形で鈴谷さんに基礎的な事を教えていく。
どうやら彼女はそこまで接客の経験が無いようで、学生のバイトとして代表的なコンビニのレジでの作業を例に出してもそこまで大きな反応を示す事は無かった。
それでも僕の言う事には逐一メモを取り、時に質問を返してはしっかりと覚えていっている様子が見受けられた。
「―とまぁこんな感じかな。大体でも理解出来た?」
「はい。どうにか」
1時間程座学を行い思った以上に飲み込みが早かったので店長の許可の下、実際のレジでの業務を見せる事になった。
もちろん今回は見るだけで雰囲気を掴んでもらう事が目的である。
そんなこんなで本日のシフトが終了し、鈴谷さんは僕にお礼を言って帰っていった。
「どう? 彼女」
と中村さんが話しかけてきた。
「まだ初日じゃ分かりませんって。せめて1ヶ月は見るべきでしょう」
「だよね。それじゃ、明日は18時に別の子が来るからそっちもよろしくね」
そうだった。
当初聞いていたのは2人。これで落ち着いている場合じゃないんだった。
明日の人も普通の人であってほしいな。面倒な人だったら嫌だな。
***
「いらっしゃいませー。お預かりしますね」
昨日の心配は杞憂に終わった。
それも、今日の18時にやってきた新人が既に新人ではなかったのだ。
「中村さん。僕は必要無いのでは?」
「まぁあの子に限ってはね。でも一応ブランクがあるし、数日は付いててあげてほしいの」
本日の新人の彼女、芹乃加奈さんは現在フリーターだが、実は昔に他の店舗にて正社員として働いていたという。
つまりは経験者であり立派な社会人だったのだ。
年上の後輩であり、経験者ともなるとどうも気が引けてしまう。
もちろんここでは先輩としてあれこれ教えるつもりではあるけれど、多分知っているだろうし、本当に僕はいらないんじゃないかと思えてしまう。
店長の許可で試しにレジをやらせてみたら、見ている限りでは一切の問題もなく出来ているわけだし。
「高橋くん。これどうやってやるんですか?」
「あぁ、これは―」
年上という事もあって既にくん付けである。
「ありがとうございます。また分からない事があったお願いします」
それでも敬語とお礼は言うので、呼称くらい何でもいいかと流す。
「お疲れ様でした。高橋くんが見ていてくれたお陰でミス無く出来ました。ありがとうございました」
制服から着替えた芹乃さんは昨日の鈴谷さんとはまた違った雰囲気を纏っていた。
私服は華美ではないものの、アクセントとしてちょっとしたネックレスを着けていた。
髪形としても栗毛色のボブカットがふわりと揺れ、目が悪いのか着けている黒縁眼鏡と上手く調和をしていた。
さらに話をしている時でも目線は右往左往せずに話す人をじっと見ている。また、大袈裟な身振りやリアクションをする事も無く、その様子はまさに落ち着いた大人の女性のそれだった。
「お疲れ様でした。次回もお願いしますね」
と僕は変な緊張感をもって返答してしまった。
そうして芹乃さんは踵を返して事務所から出て行った。
その際には何の香りか分からないが、甘くも上品な香りが僅かに鼻腔をくすぐった。
「どう? 彼女」
また中村さんが聞いてきたので、昨日と同じような回答をした。
言いはしなかったが、年上の女性はみんなあんな感じなのかなと思ったけれど同じく年上の中村さんを見て、そんなことはないなと思ったのだった。
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