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第一章 第1話 出会い

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 煙草に火を点けた。

 近くに誰もいないせいかじりじりと燃えていく音がよく聞こえる。
 一息吸うとその火が少しだけ近付いてはその音を奏でる。
 そうして煙を堪能した後、一息に煙を吐く。
 それはこの校舎の合間に見える遥か虚空へ吸い込まれては消えていった。
 とんとんと先の燃え尽きた灰を落とし、またそれを繰り返す。

「煙草、止めたんじゃなかったっけ?」

 視界の外からそんな声が聞こえたのでそこへ目を向けると、同じ部活の友人が立っていた。

「止めてたよ。ついこの間までは」
「そっか」

 彼女は僕の隣に座るとそのまま煙草に火を点けて気持ちよさそうに煙を吐き出した。
 白いニットワンピースを着て膝くらいまである黒いブーツを履いていた。
 首には黒いチョーカーを巻き、それらの黒とは対照的に肌は白く、それでいてやせ型なので華奢な中にどこか不思議な雰囲気を纏っていた。
 それだけでなく、顎くらいで切り揃えられた髪も一部緑色がかっており、髪が揺れる度にそれが自然と目に入る。

 服装は女の子らしいのにアクセサリーや髪形で近寄って来る人を選んでしまっている気がする。
 人によってはそんな彼女を怖そうとか近寄りがたいとか思うのは当然といえば当然だろう。

「いいなって思った?」
「別に。ただ、どうしてそんなに美味そうに吸えるのか気になっただけだよ」
「そうだね」

 そうして彼女は煙を吸ってはまた美味しそうに煙を吐く。

「今が楽しいからじゃないかな」
 
 その言葉に僕は半信半疑だったが、再び煙を味わうと妙に納得してしまった。

「不味いなら吸わなきゃいいのに」
「そうなんだけどな。でも僕は早く忘れたいんだ。これを止めた時の事を。それで吸ってた時の頃に戻りたいんだ」
「あぁ……そういうことね」

 彼女は1本吸い終わると2本目を取り出して咥えた。火を点けようとした時、ライターの燃料がさっきので切れたのかなかなか点かないようだ。
 痺れを切らした彼女は僕に火をねだってきたのでそのまま点けてやった。

「彼女と別れたんだってね。同じ部活のあの子」
「耳が早いな」
「まぁね。これでも周りの事はよく見てる方だから。あ、私のを吸ってみる?」

 僕が吸い終わりそうなのを横目に見た彼女は1本差し出してくる。
 彼女が吸っているのは銘柄は違えど、ニコチンやタールの量はほとんど同じだ。
 僕が吸っているのはそれらの量が多め、所謂『重い』やつなんだがそれをよく吸えるものだと感心する。

「やっぱ不味いな」
「貰っておいて酷くない? まぁいいや。その内またいい人が現れるって」
「いい人ね……」

 僕は数日前に彼女と別れた。
 交際期間は2ヶ月くらいだったと思う。別に僕に原因があったわけではなく、選んだ人が悪かったというだけだ。

「あいつ、何で普通の顔して部活に来れるんだろうな。確か3股? いや未遂を含めると4股か。 余程器用なのか、単に気にしてないだけなのか」
「まぁそういう子だから。確かに顔は可愛いし、スタイルも良い。清楚系で男子受けもいい。でも本性はアレだから。正直ここで別れられて良かったって思うよ。それこそまだ傷は浅かったんだよ」

 彼女はそんな外見でも僕を優しく励ましてくれた。
 本当に人は外見じゃないんだなと思う。

「まぁ、そうだな」

 僕はすっかり短くなった煙草を灰皿の水へ落とした。

「それで、これからはどうするの? 新しい子での探すの?」
「どうだろうな。そういう子は余程運が無い限りは自然と現れるものだしな。それまでは気長に過ごすよ」
「そう。でも私達ももう大学3年生の半ばだし、遊んでいられるのもあと少しだね」
「そんな格好していられるのもな。来年にはちゃんとした黒髪にリクルートスーツだ。さぞや違和感たっぷりなんだろうな」
「酷い事言うなぁ。これでも就活の時期になったらしっかりするから」

 彼女もまた煙草を灰皿へ落とした。

「少しはマシになった?」

 そう言った彼女は少しいじらしい顔をしていた。
 悔しいが実際少しだけ楽になっていた。だからこそその顔が余計にいじらしかった。

「全くだよ。本当、お前には敵わないよ。今日の部活は出るのか?」
「まぁね。これでも幹部だし。翔くんは? 同じく幹部でしょ?」
「そうだな。後輩にこの役職を継ぐまでは休むわけにはいかないな」

 時計を見ると、まだ早いが部活までの時間が着々と迫っていた。

「僕は部室に寄ってから会場に行くけど、どうする?」
「私も行くわ。持ってくものあるし」

 そうして僕達は部室に向かった。
 その道中でさっき話題に上がっていた元彼女と鉢合わせてしまい、僕は終始視線を反らしていたが、隣の彼女が何気ない話をして万が一にも僕に話が振られないようにしてくれていた。

「露骨すぎ」
「仕方ないだろ。まだそんなに日が経ってないんだから」

 元彼女が去るとそんな事を言ってきたが、やはり露骨過ぎたのだろうか。
 そんな事を思っていると、さっき感じた煙草の不味さがこみ上げてきた。
 早く慣れる、いや、元に戻るといいんだがな。
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