吸血鬼と棘荊

弥架祇

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少女A

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「本当によかったのですか。
あの子供を生かして」

赤毛に深い緑の瞳をもつ少女は煙草の煙を燻らしているヴィクトールに問いかけた。
「嗚呼、いいんだよ。
あれは貴重な"駒"だ。
精々吸血鬼を滅ぼすために役に立ってもらおうじゃないか。」

少女は目を伏せた。
「あの子供は哀れですね。
今殺されたほうがきっとマシだったはず。
少なくとも、我々に利用され道具として生かされ続けるよりは。」

ヴィクトールはふふと笑った。
「それもあの子の宿命さ。
吸血鬼でも人でもない。
それはあの子の咎だよ。
しかしそれは咎であると同時に、彼の能力でもある。
きっと将来、我々の役に立つ。」

ヴィクトールは心底愉しそうに笑った。
「でも今はまだ駄目だ。
経験が足りない。
あれでは幼すぎる。
もう少し成長して貰わなくては。
その頭脳も、能力も…
存分に活かして自らの存在価値を示すがいい。
我々は君を利用する。ただのその為だけに君を生かそう。
どう足掻いたって、君は…
便利な道具なんだから。
もう我々からは逃れられない。」

少女はなんて残酷なことをする人なんだろうと歯を食いしばった。
どう言おうが何を思おうがその意思など関係なしに利用するつもりなのだ。
この人達、は。

利用する為だけに人を生かす。
だなんて。
そこには何の情もない。
そんなもの、彼等が一番嫌う吸血鬼とほぼ同じではないか。

ただの損益でしか物事を考えられないだなんて…

人を物として見るなどと…
なんて情けないんだろう。

幼い子供を利用する為に生かすだなんてそんな、愚かな。

幼い子供にすら情をかけられないほど、私たちは落ちぶれたんだろうか。

少女は深いため息を吐いた。

ごめんなさい。
でも私には逆らえない。

可哀想だとは思うけど、無関係な貴方を救おうと思えるほど私は優しくないし、強くもない。

願わくは、どうか死んで頂戴。
貴方が生きる道は険しすぎる。
もし貴方が私たちに利用され続け、その身体と心の痛みにもがき苦しみ泣いていたら、きっと私の良心が痛む。

救えもしないのに。

それでも心は痛むから。

どうか私たちに利用される前に消えて頂戴。
そのほうが貴方も私も苦しまないから…

どうか、どうか…
身勝手な私の願いを聞いて頂戴。

逃げて、ここから消えて。
 
そうしなければ貴方はきっと…
宿命に摘まれてしまうから。












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