華蝶の舞

弥架祇

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踊るように少女は壊す

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濁った眼窩に映るのは黒い革靴と細い少女の白い足首。

月を覆い隠していた雲が去り、再び辺りは月光に包まれる。
月光に照らされ、浮かび上がった辺りの光景は凄惨なものだった。

折り重なる、死体の山。
それら一つ一つに、大量の金串が刺さり剣山のようになっている。
噎せるほど濃い血の匂いに吐き気をもよおす。

目を見開き、体中に金串が刺さった折り重なる死体の山の横で。

そんな状況で、少女は笑っていた。
まるで楽しくて楽しくて仕方ないと言っているかのように。
笑った。

あろう事か、少女はすぐ傍に転がっていた死体を硬い革靴のヒールでグリグリと踏みにじり始めた。

「うぅ………ぁあ…」
他の者と同様死体だと思っていた金串が大量に刺さった男は、驚いたことにまだ生きているのか微かに呻いた。

「ははは…あはははあはははは!」
壊れたおもちゃのように少女はきゃらきゃらと笑いだした。

笑いながら少女は躊躇いもなく、金串を男の腹に突き刺した。
「あ、あ、あ…あああ!……」
男は首を捩り、叫んだ。
そして、ピクリとも動かなくなった。

少女はピンク色の唇を尖らせた。
「なーんだ。もう壊れちゃったの?つまらないわね」

つまらない、と。
人を殺したというのに。

彼女にとって人を殺す、という事はただの悦楽にしか過ぎずそれ以下でもそれ以上でもない。

否。もはや人としてすら見ていないのかもしれない。

死ぬではなく、壊れると表したのだ。

もはや人、いや生物ですらなかったのかもしれない。

特に彼女が殺した連中のような奴らは。
彼らは、暴力で人を制圧し続けていたマフィアだった。

彼等の死体を見下ろす彼女の瞳は冷たい憎悪に満ちている。
そのくせ、口元だけは愉快だと笑っている。

彼女が彼等に何かされていたわけではない。
ただ、目に付いたから_____
それだけだ。

復讐ですらないこの行為は、只の八つ当たりに等しい。
そう、これはただの八つ当たりであり彼女の自己満足だった。

その為だけに、彼女は幾人の命をたったの一晩で踏みにじり、嘲り、嬲り、奪ったのだ。
                               *

彼等が悪だったから殺したわけではない。
ましてや、彼等の被害を被っていた人々なんて知ったことではない。

自己満足、だ。

私は私の為に、壊しただけだ。
壊せれば、殺せれば、誰だってよかったのだ。

触れ合う親子でも、囁き合う恋人達でも、笑い合う学生でも。
容姿や年齢、性別すべて関係ない。

どうせ壊すんだから。
壊すこと、殺すこと。
こんなにも楽しいことってない。

私を見下すような目で見ていた彼らが。

怯え、赦しを請い、顔を歪め、叫び、憎み、恐れながら。

赤に塗れて冷たい無機物となっていくこの快楽は_____

何物にも代え難い。

どうしようもない快楽を得、私は知ることができる。

"生きている"と。

死んだように生きていた、あの日々を誰かの血で塗り替えて。

私は生きている。
今、此処に生きているんだと。

私は、私が生きていることを知るために誰かを殺す。

「もう、死にながら生き続けるのは嫌だから。」

壊してみせよう。
それが、誰であろうとも____。


                          
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